第二二話 クァワウィーの過去 その三 王国最強とヒダリト最強
念のため報告です。ネトコン11に応募してみました。
小説大賞に応募するのは初めてで、どこまで通用するか未知数ですが、取り合えず、感想いただけることに期待しておきます。
書籍化が夢なので入賞しないかなぁ……とは少し思っています。ポイントはあまり関係ないらしいので。
砂嵐は右郎の目の前で止まったが、風圧でクァワウィーは後ろの方向へ飛ばされてしまう。
「くぁ、くぁぁあああああ!」
飛ばされながら悲鳴を上げる。
因みに「くぁぁあ」はクァワウィーだからできるクァワウィーにだけ許される特権のような鳴き声だ。
――い、嫌……わたし、どうなっちゃうの……。
意味も分からなく唐突に表れた砂嵐によって吹き飛ばされてしまったクァワウィー。
しかもここは、クァワウィーにとってどこなのか見当もつかない土地である。そんな状況で、自分がどこまで飛ばされてしまうのか、何も分からない。
飛ばされ、迷ってしまえば一巻の終わりで、キャワウィーともお別れかもしれない。それどころか、キャワウィーの命すら無事か怪しい。出会ったばかりの「みぎろう」と言う少年もどうなるか分からない。
大量に分泌されたアドレナリンにより、異常に高まった思考速度で、とにかく不安なことを考え続けた。
――しかし、そんなに不安がることもなかった。
「クァワウィーさま!」
名前を呼ばれ、誰かに受け止められるような感覚があった。
「オンヌァイト!」
飛ばされたクァワウィーの体を、護衛の女騎士が受け止めたのだ。
クァワウィーは知り合いに助けて貰い、とにかく嬉しかった。
クァワウィーの護衛である女騎士、オンヌァイト・ライトライトウッドは男騎士と共に、御神体の泉に飛び込みクァワウィーの元へ辿り着いていた。
「遅くなってしまい申し訳ございません」
光が眩しすぎたが故にすぐ追いかけることができなかった。
そのことに責任を感じたオンヌァイトは、クァワウィーを受け止めたまま、深々と頭を下げ、謝る。
シンプルに謝った。眩しすぎて……など、ただの言い訳にしかならず、その程度で動けないなど、護衛としてあってはならないことなのだ。
「オンヌァイト。わたしは大丈夫。でも、キャワウィーと、一緒にいた男の子が……」
六歳とは言え、王族として絶対的な意思を以てして、いざと言う時、冷静であろうと御神体へ誓っていた。
そして、流石。クァワウィーは表面上冷静に見える。
しかし、内心、心配でたまらなかった。今にも泣き出してしまいそうだ。
――ここで泣いてはだめ……わたしが泣いたところで事態を面倒にするだけ、キャワウィーの命を救うには、もっと落ち着かないと……。
「クァワウィーさま。大丈夫。大丈夫ですよ……あなたの王族としての意識はとても素晴らしいです。ですが、まだあなたはこんなにも幼い。私だって今不安です。ですが、キャワウィーさまは、彼に任せておけば大丈夫です……」
クァワウィーが不安に思っていることを察し、オンヌァイトは優しい声を掛ける。
「マンキシも来てくれたの?」
一気に不安が吹き飛び、希望に満ちる。
「はい。マンキシは私よりも遥かに強く、フトゥーノ王国最強の剣士とも言われていますので、必ずキャワウィー様を救い出します」
マンキシ・ライトフィールド。それがもう一人の護衛である男騎士の名前だ。
まだ二〇代と若いが、剣の腕は天才的で、オンヌァイトの言う通り、王国最強であり、クァワウィーも信頼している。
「――何者か知らんが、キャワウィー様から離れろっ!」
謎の砂嵐の影響で、まだ砂が大量に舞っており、視界はかなり悪い。
そんな中、マンキシが声を荒らげた。
「え? キャワウィー……誰かに捕まってるの?」
クァワウィーは不安になる。
「……状況が把握しきれません。ですが、マンキシなら大丈夫です。キャワウィーさまを必ず守ってくれます。私はクァワウィーさま。あなたをお守りすることに専念しますよ!」
オンヌァイトも不安になるが、マンキシを信じ、自分のできることを成し遂げると、改めて強く意思を固める。
「……こちらからすると、西洋刀なんて所持しているそちらの方が、怪しく見えるね。何者か……ということだったね? そちらから自己紹介をすると良い」
筋肉補助スーツという、株式会社ヒダリトのスーツを着た三〇代の女性が、右郎とキャワウィーを両腕に一人ずつ抱きながらマンキシを威圧する。
王国最強であるマンキシだが、本能レベルで恐怖を覚えた。
(何者だ! この女――)
謎の女の得体の知れなさに体が震え、動くことができない。
(くそっ! こんなので動けないなんて……何が王国最強だ!)
マンキシは動けない事実に悔しがる。
(――キャワウィー様! くっ! 動け俺の体! 動け動け動け! 動けぇええええ!)
「名乗らないのか? 仕方ないな。埒が明かない故、こちらから名乗るとする――」
三〇代の女に呆れられてしまう。
(フトゥーノ王国最強と謳われた俺が、敵に呆れられてしまっただとぉ……国に泥を塗ってしまったも同然……この女が何者か知らんが、皮肉にも名乗り出す雰囲気だが……野郎――女だが、野郎! 意地でも俺から自己紹介してやる!)
「俺はフトゥーノ王国の騎士。マンキシ・ライトフィールドだ。敵に名前を教えるなど間抜けな行為だが、キャワウィー様の誘拐未遂として捕虜にするからな。問題ではない!」
若くして最強などと呼ばれ、マンキシは少しばかり調子に乗ってしまうことがある。
幸い大きな問題になったことはまだないが、オンヌァイトなど他の騎士たちは、少し心配している部分であった。
「王国……か? ふむ。解った。こちらの番だな。私は日本国の主婦。左門右子だ。この子、右郎の親である」
王国に反応を示すも、クールに自己紹介をする。
「では、右野さん」
「うの? 俺はライトフィールドだ!」
なぜそのような間違え方をしたされたのか、マンキシは理解できず、苛立つ。
「戦ってみたいところであるが、子供たちを巻き込んでしまう。あとにしよう」
ミステリアスな雰囲気を醸し出しながら、キャワウィーをマンキシに抱っこさせる。
「護衛である俺の元へ帰してくれるのか? キャワウィー様……ご無事で何よりです。右子とか言ったか? あんたがその少年の母親だってんなら……敵ではない……か? 俺の早とちりだったのか?」
キャワウィーを護衛の元へ帰して来たと言うことは、誘拐をしようとしていたわけではない。
マンキシは、謎の砂嵐がキャワウィーに直撃しそうなところを目撃し、近くに居たクァワウィーのことは仲間であるオンヌァイトに任せ、キャワウィーの元へ駆け付けたのだ。
しかし、砂嵐の中からこの三十代の女性改め、右子が出現し、キャワウィーと一緒に居た右郎を両腕で抱きしめる形で転倒するところを救ったのだ。
しかしマンキシからは、謎の砂嵐から現れた三十代の女など、不審者にしか見えなかった。
クァワウィーとキャワウィーの護衛として、警戒するのは当然であり、正しい。例え勘違いであっても、警戒するのは正しいことなのだ。
「先程の砂嵐は私が発生させたものだ。無論、嫌がらせなどでは断じてなく、転倒しそうだったうちの子と、二歳くらいの女の子を助けるため、全力で走ったのだ。その走った際に生じた風により、砂嵐が発生してしまったのだ。砂嵐がうちの子たちに向かって行くように見えたのは、私がうちの子目掛けて走っていたからだな……」
右子は正直に話した。
マンキシはそれを見て疑うのを止めた。
どういう走り方をすればあんな砂嵐を発生させられるのだとも思ったが、とても真面目そうだと、マンキシには感じられた。
「……気になることはあるが、キャワウィー様を助けてくれたこと、礼を言う。どうもありがとう」
キャワウィーを抱っこしながら右子に頭を下げる。
「……マンキシ――」
「……」
マンキシと右子の会話はオンヌァイトとクァワウィーも聞いており、オンヌァイトだけが会話に入ってくる。
クァワウィーは右子に怯え、オンヌァイトの腕にしがみつき、顔を埋める。
右郎とキャワウィーは右子が来た時点で放心状態となってしまい、今に至っても会話を聞けていない。そのため、二人とも幼いと言えども何が何だか分からなくなっている。
「近くにテントを張っている。着いて来るんだね。そこで色々と、知りたがっているであろうことを説明する」
右子は放心状態の右郎を抱っこしながら歩いてテントへ向かう。
「助かる。俺たちここがどこなのか見当もつかないからな」
マンキシもキャワウィーを抱っこしながら着いて行く。
「……おんぬぁいと……」
「大丈夫ですよ! クァワウィー様。何かあればマンキシを囮にすれば良いですからね!」
「おい! オンヌァイト! 俺今キャワウィー様と一緒に居るんだからな!」
クァワウィーはまだ怯えているものの、歩くことは可能なため、オンヌァイトと手を繋ぎながらマンキシに続く。




