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第二〇話 クァワウィーの過去 その一 龍脈異常

 クァワウィーの国、フトゥーノ王国と言うのは、龍穴(りゅうけつ)という霊力が地中から噴き出している地に建国された。

 穴とは言うが、物理的に穴が空いているわけではなく霊力の吹き出る大地に龍穴と言う名前が付いているのだ。


 噴き出している霊力というのは、生物の魂を強化する。龍穴の上に国があると、その国民たちの魂が強化され、健康でいられる。

 そういう意味で、クァワウィーの先祖はこの龍穴の上に建国をしたのである。



 クァワウィーには、四歳年の離れた妹が居た。

 名前はキャワウィー。クァワウィーと同様に銀髪で可愛らしい見た目をしていた。


 話はクァワウィーが六歳の頃まで遡る。


 フトゥーノ家は自分たちと国民が健康でいられるのは龍穴のお陰として、その龍穴を崇拝しており、龍穴を御神体として王城の庭に祀っている。龍穴は大地の霊力であるため神様とは異なるのだが、実質神社のような状態だ。


 この日、クァワウィーはキャワウィーと二人の護衛と一緒に庭の御神体へ参拝に来ていた。


「キャワウィー! こっちこっち! この泉がわたしたちを守ってくれてるんだよ!」


 六歳のクァワウィーは無邪気に二歳のキャワウィーの手を引き龍穴へ案内をした。


 もちろん、二歳児では六歳児の歩く速度に着いて行くのは難しいため、クァワウィーはキャワウィーに合わせてゆっくりと歩く。


「これ、いずみ?」


 目を輝かせながら御神体を見るキャワウィー。


 龍穴の大きさは王城がすっぽりと収まる程であり、庭の御神体というのは、先祖が人工的に掘った穴に水を溜めたものである。

 なぜ水なのか。それは、霊力が水に吸収されやすいという特性があるからである。

 先祖代々、泉から汲んだ水を龍霊水(りゅうれいすい)と呼び、様々な病に効く万能薬としてきた。

 右郎が飲んだ龍霊薬(りゅうれいやく)の龍霊術が掛かっていないバージョン。罰当たりな言い方だが、下位互換でもある。


 泉には、普段は人が入れないように木製の柵が設置されている。

 そのためキャワウィーが誤って転落する心配はない。


「ね、ねーねー。おねがいごと、していい?」


 日本の神社もだが、本来は神様に感謝をするための場であり、実はお願い事をする場ではない。

 お願い事をしてしまうと、邪気という悪い霊力が発生してしまう。

 フトゥーノ王家はそれを知っており、御神体に向かってお願い事をすることを禁止している。

 そもそも、この龍穴のお陰で王家も国民も健康でいられるのだ。感謝もせず自分のお願い事をするのは強欲であり、失礼である。


 ただ、例外はあった。

 三歳以下の子どもであれば、お願い事をしても良いのだ。

 純粋であれば、そもそも邪気が発生しにくいのである。

 純粋な二歳児であるキャワウィーはお願い事をしても許されるのだ。


「いいよーわたしはもうできないんだけど、キャワウィーはまだちっちゃいからね」

「わーい。じゃあね! じゃあね! うんめいのひとにあいたいなぁ」


 うんめいのひと、それは恋愛的な意味での運命の人のことである。


「キャワウィーさまは二歳にして恋愛に関心があるなんて凄いですね! キャワウィーさまキャワウィーです!」


 護衛の若い女騎士が和みながら、キャワウィーの頭をわしわしと撫でる。


「えへへ」


 頭を撫でられたキャワウィーは嬉しそうに笑う。


「なんだ! なんか御神体の泉に波紋が!」


 唐突だが、もう一人の護衛である若い男騎士が泉の異変に気づく。

 キャワウィーが御神体へ願った直後、泉の中央に大きな波紋が発生したのである。

 風はあるが、泉に大きな波紋が発生するほど強くはなく、間違っても石などが中心に落ちる筈もなかった。


「本当ですね。クァワウィーさま、キャワウィーさま。念のため御神体から離れて下さい!」


 御神体の泉に何か起きるのかも。そんな漠然とした考えだが、念には念をと思い、女騎士は王女二人を離れさせる。


「うん、わかった。キャワウィーはなれよ」

「うー? なんで?」


 クァワウィーは良く分かっていないが、離れるよう言われたのでとりあえず離れる。キャワウィーも良く分かっていないが姉に着いて行った。


 だが、遅かった――。


「うおっ! 何だ! 御神体が光り出したぞ!」

「お二人とも!」


 泉に発生した波紋が真っ赤に発光し、その光は泉全体を覆った。


 騎士二人は王女二人の前に立ち、もしもの時のために持ち歩いていた西洋刀を構える。


「どうして剣を出したの?」

「わああああん!」


 クァワウィーは騎士が西洋刀を構えたことに動揺する。

 キャワウィーは突然緊迫した雰囲気となってしまったため、その雰囲気に恐怖し泣き出してしまう。


「ああああああ……キャワウィーさま泣かないでください!」


 女騎士はキャワウィーをあやしたいが、西洋刀を構えているのでできない。


「御神体に剣を向けるのは罰当たりものだが、嫌な予感がする……」


 男騎士はキャワウィーのお願い事が邪気を発生させ、結果何か良くないことが起きるのではないのかと、漠然とした想像だが、そう思えて仕方がなかった。

 もちろん、キャワウィーが傍に居るためそんな考え口が裂けても言えないが。


「キャワウィー……泣き止んでよ……わたしも悲しくなっちゃうでしょ……」


 涙を流すキャワウィーを見たクァワウィーも泣きたくなってきたが、必死に我慢した。

 四歳も上の姉だからというのもあるが、僅か六歳にして王族として強い精神力を身に付けなければと思っているのだ。


「うっわぁあああああああん! ねーねー!」

「キャワウィー……」


 しかし悲しきかな。キャワウィーは更に泣きじゃくり、クァワウィーにしがみつく。クァワウィーはどうすれば良いのか分からず困惑する。

 因みに《ねーねー》とは姉を変化させた呼び方である。


「くっ! 光が強くなってきたぞ! なんなんだこれ!」

『バキッ!』


 男騎士が文句を言っていると、泉を囲っていた木製の柵が大きな音を立てて壊れた。


「え? 壊れた! まさかあの光のせい?」


 それを見た女騎士は有り得ないと動揺、いや、恐怖した。


 光は更に強くなっていき、目を開けていられない程にまで眩しくなる。


「……」


 唐突にキャワウィーが無言になる。


「キャワウィー……どうしたの?」

「キャワウィーさま! 一体どうしたのですか!」

「どうしたんだキャワウィー様!」


 どうしたら良いのか分からない程にまで泣いていたのが唐突に泣き止んだのだ。

 元々泣き止んでほしかったとはいえ、逆に心配になる。


「あの、ひかりのさきに……」


 目を見開き、気分が高揚したような声で言いながらクァワウィーから手を放し、泉に向かって歩き出す。


「キャワウィー! どこ!」


 目を開けていられないクァワウィーは、キャワウィーが自分から離れたのは分かったが、どこに行ったのかが分からない。


「なに! キャワウィー様どっか行ったのか!」

「キャワウィーさまぁあああああ!」


 騎士二人も目を開けていられないため、キャワウィーの居場所が分からない。

 そもそも、自分にキャワウィーがしがみついていたクァワウィーは、キャワウィーが居なくなったことに気がつけるが、それ以外の者はキャワウィーが居なくなったことにすら気づけないのだ。


「うんめいのひと……そっちに、いるんだね」


『ドボンッ』


 キャワウィーのその声をクァワウィーと騎士二人が聞いた直後、泉に何かが落ちる音が聞こえた。


「ま、まさか!」

「キャ、キャワウィーさまぁあああああ!」


 騎士二人はゾッとした。

 今、泉に落ちたのはキャワウィーなのではないか……と。


「キャワウィー!」


 騎士よりも早く、クァワウィーが何とか目を開け、泉に向かって走り出す。


「まずい! さっきのがキャワウィー様か分からないが、このままではクァワウィー様まで落ちる!」

「クァワウィーさま! 止まってください!」


 騎士二人は眩しいからと言って、目を閉じてはいられないと思った。

 しかし、正直かなりの眩しさで、閉じているだけでも眩しい。まるで閉じているのに開いているのでは? と錯覚する程だ。もう一段階目蓋が欲しいと思った。だが、ここで目を開かなければ、一生後悔するとも思った。いや、後悔と言うレベルの話ではない。王女二人の命が掛かっているのだ。


 そして、二人は思う。きっとクァワウィーは、走っているということは妹のために目を開いたのだろう。

 なおさら、護衛騎士が目を開けないなどあってはならない。


 勇気を出して目を開く。


「うおっ! これは、やばい!」

「ヤバイなんて、言っている場合ではありませんよ!」


 二人は目を開いた。ただ、正直かなり辛そうだ。

 しかし、怖気づいて再び目を閉じるわけにはいかない。

 なんとか目を開きながらクァワウィーを追う。



「キャワウィー! わたしが、助けるからね!」


 ギリギリで騎士二人が追い付く前に、クァワウィーは泉に飛び込んでしまった。

 間に合わなかったのは、目を開くのに時間が掛かったからである。


「飛び込むなんて! なにやってんだ! あのクァワウィー様!」

「私たちも飛び込みますよ!」


 二人もクァワウィーに続き、泉に飛び込んでいった。



二〇話まできました。


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