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「なあ、祖父さん。あの碧いロスタルムを砕いてしまうわけにはいかないのか?」
尋ねるケイへ、ジョージが考え込むように腕を組んだ。
「ふむ。ロスタルムを全力で碧いロスタルムに当て込めることができれば可能かもしれんが。では『ルー』様をどうする? わしらのロスタルムではどうにもならんものを封じるにははあれを使うか、危険を承知で王の『陽雷』を一度外し、もう一度儀式を行うほかあるまい? その儀式だって他に寄り代が必要じゃ。フルニエスへ養子にでていらっしゃる妹のユミ様に助けを求めることもできなくはないが、下手をすれば暴走する危険性もある。それよりもあの碧いロスタルムを手に入れ、ユカリィ女王の元で解除し、『ルー』様のみを改めて封印した方が安全だと思うがの」
やはり駄目か。祖父の言葉に、ケイは拳を握りしめる。その耳に、もしくは、と意外な言葉が降ってきた。
「碧仮面より先に、その黒幕を捕えるという手もございましょう」
弾かれたように見やる前方に、ロスの下げた頭が見える。ジョージが落ち着いた声音でゆっくりと尋ねた。
「どういう意味じゃな? それは」
「申し訳ございませんが、これ以上は私の口からは申せません」
「なるほど。これはますます急がねばならない理由ができたの。のう、ケイよ」
「急ごう」
ケイは頷いて、イリューよ、と前ボタンを弾いた。それを見たルージェがジョージを見やる。
「私はもう戻ってかまいませんか、譲治」
「かまわんよ」
鷹揚に頷くジョージに一礼して、ルージェが消えた。ケイは入れ替わるようにして現れた、長い髭のずんぐりと太った老人へ向き直る。
「イリュー、俺たちを城まで運んでくれ」
ジョージ様もですか、と問うイリューに頷くと、
「かしこまりました」
イリューは一礼して姿を消した。ケイはロスの身体を抱える。風が身体を包みこみ、宙に浮いた。驚くロスをなだめながら、斜め後ろに浮かんでいたジョージの姿を確認する。腕を上げおったな、と合図を送るジョージに笑んでから、ケイは二人を連れてエトランディス城へと向かった。




