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第92話 おれは「ナハムザート・レイオン」

【ファルスーノルン過去:新星歴4817年8月10日】



四季のあるファルスーノルン星。

この季節はやはり暑い。


どうしても麗しい女性たちが薄着になるため、世の純情で健康な男子は目のやり場に困る季節だ。


あの事件以来、かなりの広がりを見せた『オーブ』による騒動。

回収された後もなお、多くの影響をこの星の住民たちに与えていた。


レイノート大陸の北部に位置する火の神を奉るナグラシア王国も、その影響が露見し始めていた。



※※※※※



ナグラシア王国。

火神教が国教、そして強さが基準となる実力主義国家だ。


現在の王はガランド・ジスターブ。

『火喰い族』と呼ばれる特殊能力を有する種族の猛者で、存在値は4000を超える。


当然強さだけでは政治は回らない。


だが、この国の法整備は画期的かつ合理的。

意外にも国力は非常に高く、住民も幸せに暮らしていた。


当然だが制定したのは天才アースノート。

賭けゲームの対価として立案、未だにその法案は揺るいでいなかった。


そして。

そんな強者が集まる国の食事処で。


一人の男が濁った眼で騒動を巻き起こしていた。



※※※※※



「おいっ!!良いから今夜は俺に付き合えやっ!…へへへっ、たっぷり可愛がってやるからよ~」


見るからに野蛮そうな男。

兎獣人族の女の子の腕をつかみ下卑た笑みを浮かべていた。


「いやっ、放してください。わたしはそんなつもりじゃ………」



※※※※※



絡まれている彼女。

兎獣人のミンはこの店の看板娘だ。


頭から覗くうさ耳、大きめの赤っぽい瞳。

茶色の髪を丁寧に結い、清楚な雰囲気の16歳。


店主に指定されたピチピチの白いTシャツに短いズボン。

スタイルの良い彼女はどうしても男性からの視線を集めてしまう。


今回、それがまさに絡まれる原因となっていた。



※※※※※



「さっきから俺様を熱い瞳で見つめておいて。…それにその格好。――ヘヘッ、俺様はもう我慢できないんだよ」


昼間だというのに酔っているのだろう。

赤い顔をした男の欲望はますます膨らんでいった。


掴んでいる腕を強引に自分に引き寄せる。

そしていやらしい目でミンの胸を舐めまわすかのように顔を近づけた。


「へへへっ、いいもん持ってんじゃねえか」


ミンの背筋に悪寒が走る。

恐怖で硬直し、上手く逃げることができない。


「痛っ!!……いや……離して……」

「はあはあ…口では嫌といいながら…くくっ、なかなかどうして」


加速する男の欲望。

ごつい手が蠢き、そのたびにミンの体が恐怖で震える。


「イヤッ………いやあ……グスッ………ひっく……」


思わず泣きだすミン。


そこへ颯爽と2mはあるドラゴニュートが駆け付けた。

彼は男の手をつかみ、ねじるようにひねり上げる。


「グアッ!イデデデデデ、てっ、てめえ!何しやがる!!!」


堪らず床に転がる男。

その男の腹に、蹴りがめり込んだ。


「ぐはっ!?……おえええ―――」

「お嬢さん、大丈夫かい?まったく昼間から盛りやがって」


ドラゴニュートは優しく手を取りミンを立たせる。

見た目にそぐわぬ紳士的な対応に、思わずミンは顔を染めてしまう。


「あ、ありがとうございました……助けてくれて……ヒック、ぐすっ……」


怖かったのだろう。

安心してまた涙が止まらなくなってしまった。


「おい店主!!少しは衣装考えてやれ!こんな格好じゃコイツみたいな馬鹿がわんさか出るぞ。ただでさえ暑いんだ。何ならお前がパンイチで接客してみろ。気持ちがわかるだろうよ」


思わず店内に笑いが起こる。

嫌な雰囲気が一掃された。


「いやー、俺がパンイチって、店潰れちゃいますよ?」


店主の一言がさらに笑いを誘うのだった。



野蛮な男は、警ら中の自警団に連行されていった。



※※※※※



ドラゴニュートの男は、大盛りのパスタに舌鼓を打っていた。

お礼だからと聞かない店主の奢りだ。


「なあ店主。こんなに旨いんだ。あの子の格好考えてやれよ。うまい飯だけだって十分客は来るだろうに。むしろ清楚なあの子に似合う格好にしてみろ。女性客だって増えるぞ」


この店の男性率は異常だ。

まるでガールズバーのようなウエイトレスの格好に、実は多くの住民が来るのを控えていたくらいだ。


「うっす。ありがとうございます兄貴」

「誰がお前の兄貴だ」


「いやー、さっきは本当格好良かったです。男の俺も惚れちゃいますよ」

「冗談は顔だけにしろ」


そんなやり取りを、ミンは熱のこもった瞳で見つめる。


「兄貴、せめて名前だけでも教えてくださいよ。ミンの親にも知らせないと」

「そんなつもりじゃねえんだ。たまたまだ。気にすんな」


ドラゴニュートの男はそういって席を立つ。

そしてミンに気づき、優しく問いかけた。


「お嬢さん、店主が改善してくれるだろうから、怖いと思うが頑張ってみてくれ。次来た時にお嬢さんがいなかったら少し寂しいからな………もし改善しなかったら俺がまた言ってやるから」


そう言って豪快に笑い「旨かった」と言って男は店を後にした。



「兄貴かっけー」



店主のつぶやきがミンの耳にいつまでも残っていた。



※※※※※



彼の名はナハムザート・レイオン。

92歳のドラゴニュートだ。


長寿の種族ゆえ、見た目は人間でいうことろの20代後半。


存在値は1200。

オレンジ色の眼光を宿し、世の中の悪意を滅ぼす旅を続けていた。


自分の犯した罪を少しでも償うために。

天命を全うするために。



彼は2か月ほど前――

騎士団の仲間20人以上を、自らの手で殺していた。



※※※※※



【ファルスーノルン過去:新星歴4817年6月8日】



武を貴ぶナグラシア王国。

力比べはどこの組織でも取り入れられていた。


回復魔法がある世界。

結構な大けがを伴う模擬戦もしょっちゅう行われていた。


王であるガランドの通達により、回復士がいない所では禁止されていたが…

慣れているためそこまで徹底されていないのが実情だった。


国防軍第3部隊の小隊長として任命されていたナハムザートは、この日同じ小隊長を務める魔族ハルミット・カムサルから訓練場へ向かう通路で対抗戦の打診を受けていた。


ハルミットの親は王国で副将軍の座に就く実力者で尊敬できる人だ。

しかしこいつは親の威光を笠に、くだらないことをする小物だった。


恵まれた種族にもかかわらず、存在値は400ほどしかない。


ナハムザートには出世欲などみじんもない。

しかし対極に位置するコイツの嫌がらせには、ほとほと嫌気がさしていた。



※※※※※



「なああ、ナハムザート。たまにはガチンコで勝負しないか?お前ら強いくせにいつも手加減するから、なまりまくってるじゃねえか」


「ああ?馬鹿野郎。俺たちは条件つけて訓練してんだ。お前たちみたいにみだらに力を誇示したりはしないんだよ」


いつものことだ。

俺はそう思いつつも何故かイラつく自分に不思議だった。


「はあ、さすがお強い皆さんは言うことが違うねえ。たった7人の小隊のくせにお強いもんなあ……いいさ、怖いなら怖いって素直に言えばいいのによおお!」


聞き捨てならない言葉。

思わず反応してしまった。


(…いつもならこんなたわごと、気にもしないのに)


「ああ?怖いだと?ばかばかしい。そんなはずないだろうが。お前らじゃ相手にならねえって言ってんだよ」


「そんなに言うなら試してみればいいじゃねえか。ほら、いつでも相手になってやんよ」


見慣れた瞳。

しかしやけに――濁って見えるその瞳。


「今頃お前たちの連中も…ひどい目にあってなきゃいいけどなあ!!」


いつも俺の顔色を見ておどおどしているコイツにしては態度がおかしい。


少し冷静になったナハムザートはハルミットの言葉に嫌な予感がし、踵を返して自分の詰め所へと向かった。


そして。

詰め所で起こっていた事態に固まってしまう。


ハルミットの部下3人が、ナハムザートの部下であるエルフ族のミュイムストに乱暴を働いていた。


その周りには武装したハルミットの部下10人。

血だらけで息絶えた5人の部下がころがされていた。


「!?……何を……」


後ろから嘲り笑う声が近づいて来る。

――10人ほど武装した男たちを連れて。


「だからあ、なまりまくってるって言っただろ?奇襲ですぐ死ぬんだからなあ」


そう言って死んでいる部下を蹴り飛ばす。


おもむろに乱暴されているミュイムストの髪の毛をつかみ、無理やり立たせた。


「可哀そうになあア…隊長様が頼りなくてよお「隊長、助けて」ってさんざん泣いていたのによお。へへっ、まあいい味だったぜえ」


そして床にたたきつける。

――まるでゴミのように。


ブチン――


ナハムザートの視界が真っ赤に染まった。



※※※※※



気が付いた時。

ナハムザートの詰め所には地獄が広がっていた。


ハルミットだったものは四肢をもぎ取られ絶命。

原形をとどめているものはほとんどなく、辺りは咽かえるような血の匂いが充満していた。


自分以外に動く者はおらず、傍らには息絶えたミュイムストが倒れていた。


ナハムザートは膝から崩れ落ち――

咆哮を上げる。


途中から感じた、力をふるう快感。

気が狂いそうになる――激しい後悔を乗せて。



憎さが爆発し、歯止めが利かなくなる心におびえながら。



※※※※※



「あー、大丈夫―?見た感じお前は悪くないよー。だからあんまり気にしないで―」


ひとしきり泣いて茫然としていたナハムザートは。

突然声を掛けられ我を取り戻した。


「っ!??」


跪くナハムザート。

そこには火の神アグアニードが佇んでいた。


「まあ、お前のせいではない。真核を見ればわかる……せめて弔ってやれ」

「……はっ」


アグアニードはナハムザートの肩に手を置き、優しく口を開く。


「しばらく休むといい。お前の心の中の悪意は取り除いた。王には俺から言っておく」


そして神は姿を消した。



※※※※※



ナハムザートは駆け付けたほかの小隊の仲間とともに、大切な部下と憎いアイツらをとりあえず弔った。


そして。


王には止められたが、ナハムザートは自ら責任を取り、軍を抜けた。

あの後ひょっこり神が自分に会いに来て驚いたりもしたが。


理由は教えてくれなかったが、制限できずに暴れる人族が増えているらしい。

それから俺には何か因子があるらしく、強い心でいれば呑まれないらしいと言われた。


これは天命だ。


俺はナハムザート・レイオン。

世界を回り、悪意を滅ぼす旅に出る。



この誓いを忘れないために。


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