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第79話 暗躍するモノ――明かされる愛の力

【地球2023年4月30日】




都内の一等地のタワーマンションの最上階。


西園寺栄人は目を瞑り。

怪しい『黒ずくめの男』から購入した漆黒の石を握りしめ、想いを馳せていた。


(…結局――最後まで分からなかったな…)


理由は不明だ。

しかしこの石のおかげで茜は17歳まで生きることができたのは間違いがなかった。


栄人は改めて、想いを馳せた。



※※※※※



茜が2歳になる前、

一度劇的に症状が緩和されたことがあった。


思いつくきっかけは光喜のお見舞い。

そして導いてくれた亡き妻の言葉。


理由は見当もつかない。

だが。


茜の為ならなりふり構っていられなかった俺は


『ある人物が見舞いに来たら改善した』


その事実を際どいルートを使い情報として流していた。


当然光喜の名は伏せていた。

万が一、光喜が襲われれば目も当てられない。


あの時の俺には敵が多すぎた。



そんな時。

いつでも黒ずくめにし、素顔すら見せないあの男が現れた。


『娘さん、ああ茜ちゃんか…くくっ…あの症状を緩和する、佐山光喜の不思議な力をストックできる鉱石があるが、必要か?』


突然現れ、俺を見下ろすあの男。


『…治ることはないので、あきらめた方があんたの娘は楽かもしれないがな?…ああ、当然だが…お高いぞ』



※※※※※



全てその男が知っている事――俺は驚愕に包まれた。


語った内容、あまりにも荒唐無稽。

だが。

なぜか俺は疑うことすらできずに信じてしまった。


――聞いたその瞬間に。


その後金に困っている光喜に割の良いバイトと偽り。

不思議な力を込めてもらったんだ。


力を使い灰色になった石は、光喜が磨き終わると漆黒に煌めいていた。


すべて怪しい黒ずくめの男の言ったとおりだった。

この石を持ち茜に会うと、治療も必要ないくらいに回復する。


しかし――改善はしない。


だが、時間が稼げることに俺は希望を見たんだ。



※※※※※



改めて俺は石を握りしめる。


今日も茜の楽しそうな声が脳裏に届く。

冒険の旅に行っているようだ。


生き生きとしたその声に、俺は自然に涙を流す。


(…俺は…おかしくなったのかもしれない)


何度も思った。


あの火事の後、いまだに光喜の遺体は発見されていない。

今では、彼は行方不明状態だ。


光喜の勤め先から何度か連絡がきた。

もちろん俺は知らないし、あてすらない。


だが。


石から聞こえる、とても楽しそうな茜の声の中に。

その光喜の名前が何度も出てくる。


「光喜お兄ちゃん」


嬉しそうに話す茜。


そして。

だんだん回数が減ってきている、寂しそうにつぶやく「パパ」という言葉も。



声は別人だ。

だが自分のすべてをかけて愛した娘。


間違えるわけがない。



「ははっ…どうやら俺は――本格的におかしくなったらしい」


目の前に。

20年以上前に他界した、俺が憧れていた女性。


佐山夏樹が佇んでいた。



※※※※※



黒ずくめの男は意識が朦朧としていた。

もう力が届くことがなくなり、存在が揺らいでいた。


「……く…そ……ちく…しょう……くそ…」


生活感のない、零れたビールはもうとっくに乾き染みになってしまった部屋で。

蹲って恨み言を呟く事しか出来なくなっていた。



※※※※※



中2の夏。

事故に遭い意識不明に陥った時に佐山光喜は転生していた。


数十万年と言う悠久の時間。

絶対的な魔王だった彼は数多のモノを創造。

全ては順調に進んでいるはずだった。


しかし欠片事件が発生。

あの時にばら撒かれた欠片の一部が次元を超え地球にたどり着いていた。


そしてその後。

ノアーナは追いつめられる。


自分由来の悪意、それに敗北した彼は最後の賭けに出る。


『存在を極限まで削り、絶望とともに行う再転生』


余裕のなかったノアーナの術式は不完全だった。

そのため多くの悪意を含んだ欠片までもが巻き込まれていた。


そして因果は産声を上げる――



※※※※※



次元を超え地球にたどり着いていた『欠片』

地球への再転生の時に付いて来た『欠片』

そして再転生し、目を覚ました光喜。


幾つもの運命の悪戯。

全てが絡み合い『黒ずくめの男』は自我を獲得し目を覚ます。


そして。

呪いにより小さい悪意が不幸を呼び寄せ、光喜に襲い掛かっていく。

削られ、絶望していく精神。

吹き上がる絶望の魔力。


それは黒ずくめの男に吸収されていった。


長い年月をかけ、着実に悪意を育んでいった黒ずくめの男は。

目的のため、その行動を始める。



※※※※※



悪意の欠片は次元を超える力を持っていた。

異世界との意識の共有を可能としていた。


事実を知った『黒ずくめの男』

そんな彼の真の目的は、因果を乱すこと。


欠片事件以降、悉く邪魔をしてきた勇者茜。


彼女を過去のノアーナに合わせないために。

そして悪意の最大の結晶である『もう一人のノアーナ』に吸収させるために。


漆黒の魔力の波動を感じられる彼は気づく。

茜の病気が魔力欠乏症であり、放置していれば確実に消えてしまうことを。


そして再転生後の佐山光喜でも。

――漆黒に補給ができることを。


茜の漆黒の状態では、悪意の欠片に吸収される確率が低いのだと。


(…足りないならなら――供給してやればよい)


黒ずくめの男は行動を開始した。


偽の沙紀の声で情報を与えてやり。

西園寺栄人の発した情報に飛びついたふりをし。


自らを一部結晶化させたものを栄人に売り付けた。


確実に引き寄せられるために。

悪意を含む漆黒の割合を高めるために。


今度こそ――ノアーナに合わせないために。


だが。

悪意に特化している黒ずくめの男は見落としていた。


光喜が逃げてきた本当の理由を。

栄人が茜に向ける大きな無償の愛を。


そして。

なぜこの星で生まれた茜が魔力欠乏症に陥ったのかを。



西園寺茜が生まれながらに漆黒を持っていた理由。

――遺伝。


ファルスーノルン星では概念により遺伝はしない。

しかしこの地球ではその摂理が働かなかった。


彼の父である西園寺栄人は、擬似的な儀式により漆黒を保持していた。


あの夏の日。

彼が恋焦がれていた佐山夏樹が死んだ事故。


光喜と長く行動を共にし、深い悲しみを共有した栄人。

魂が揺らいだタイミングで大泣きしながら抱き合った二人の涙を通じて、栄人の心に光喜の色が紛れ込んでいた。


すなわち、白銀を纏う漆黒の魔力の委譲。

期せずして、禁呪は成立していた。


さらに奇跡は続く。


遺伝によりもともと白銀を纏う漆黒の魔力を備えていた茜。


まるで抗生物質のように。

唯一あの色に対応できる『琥珀に緑』が発現。


――弱い色は強い色に塗りつぶされる。

本来は消えてしまうはずだった。


しかし。


光喜から栄人に委譲され、遺伝によって保持していた魔力。

それはかつて茜との深い愛によって育まれたもの。


白銀を纏う漆黒と、琥珀色に緑がまとう色。

本来弾きあう、しかし。


深い愛で真の絆を築いた2色だった。


『黒ずくめの男』が失敗した理由。

その『琥珀に緑』の力の意味を全く理解していなかったこと。


無垢な少女が父親の溢れんばかりの愛情を受け。

精一杯生きた17年間に紡いだ希望。


強い『漆黒』に抵抗するために生まれた、人知を超える力を宿す『緑を纏う琥珀』


次元を超え全てを包み込まんとする大きすぎる悪意。

それを滅ぼす、最大の切り札。


そしてすべてを凌駕する愛という強い想い。



見落としていたのだった。


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