第114話 天使族の天才ルミナラス・フィルラード
サザーランド宮殿の第二皇子の部屋。
宮殿付きの魔導士であるスリーダル老師。
そして魔導協会に派遣されている、モンテリオン王国のルミナラス女史の二人がその魔力を揺蕩らせていた。
魔術と精霊術を展開させ、瞳を光らせる。
――検証。
今回の事件は、あまりにも常軌を逸していた。
二人の顔に、かつてない緊張が走る。
※※※※※
スリーダル・ナナラダは覚醒を果たした賢人の一人でヒューマンだがすでに120歳を超えている。
ナナラダの一族は総じて魔力が強い家系だ。
彼はその中でも異例の天才。
存在値は800を超える魔導の第一人者だ。
長い白髪を後ろで縛り、皴の多い顔にギラリと鋭い茶色の瞳。
人の身で習得できる魔術はほぼ会得し、今は魔力の残滓から状況の再現を試みていた。
一方魔術協会にモンテリオン王国から派遣されている天使族のルミナラス・フィルラード。精霊術を習得し、古代魔術にも精通している天才だ。
天使族では本来到達できない高みに到達、存在値は1,000を超えている。
噂では風の大精霊龍と契約したと、まことしやかにささやかれていた。
天使族には珍しい煌めく黒髪、金色と銀色のオッドアイが目を引く。
溢れる魔力が寿命を凌駕。
100年以上生きている彼女を、みずみずしい妙齢の姿に保っていた。
彼女は精霊に問いかけ、この部屋での顛末を精査していた。
※※※※※
「スリーダル老師、呪いですね」
「うむ。………ルミナよ。長い付き合いじゃ。いつも通り呼ぶがよい。くすぐったいわ」
「…わかりました。ダルじい、これ、やばくないですか?あまりにも後押しが強すぎる。『オーブ』の比じゃない」
ルミナラスは精霊と語りかけながら、痛ましい被害者に視線を向ける。
「ああ、原因がどこかにあるはずじゃ。ここには発生ではなく“持ち込まれた形跡”しかないからのう。――むごい事じゃて。うら若き乙女が……」
展開させていた魔術を解き、ため息をつきながら吐き捨てる。
「……ええ。そこの方、良いかしら。検証はもう済みました。この女性たちを丁寧に弔ってはいただけませんか?あと――先ほどの琥珀石を一つ頂きたいのですが」
部屋に置かれていたあまりにも複雑で『美しい術式が理解出来ないくらい十重二十重に施された琥珀石』を見て思わず問いかけていた。
もちろんこれを魔王が供給してくれたものだと聞いてはいたが。
彼女の研究心に火が付いた。
「っ!?…わしも一つ欲しいのじゃが」
すかさず便乗するスリーダル。
天才の好奇心は尽きないらしい。
「――ははっ、ダルもルミナも久しぶりだ。それは俺がディールにやったものだ。お前たちには俺が新しいのをやるさ。それで我慢しろ」
困っていた衛兵の横から、極帝の魔王様が現れる。
纏う威圧。
しかしそれは優しさに包まれていた。
「ノアーナ様!」
思わず抱き着くルミナラス。
優しく受け止め髪を撫でるノアーナ。
ルミナラスの頬が赤く染まる。
「コホン!!」
「こほん!!」
反射的に咳払いをするネルと茜。
(この女ったらしめ!!)
二人の物言わぬ瞳がノアーナに突き刺さるが。
ノアーナは特に気にもせずにルミナたちに問いかけた。
流石鋼のクズ男。
こういうことをサラッとこなすのだった。
※※※※※
「どうだ?何かわかったか?」
「はい。呪いです。とても強力な。オーブはきっかけだけでした。これは違います。強い誘導を感じます」
ルミナラスは悔しそうに唇をかみしめた。
「再現で見えた光景は吐き気を覚える物でした。意識があるのにそれを無視して強制的に操る。しかも波動だけで。呪物がないのにもかかわらず。……これがばら撒かれれば早晩帝国は滅びましょう」
スリーダルがため息交じりに零す。
「ああ、お前たちは優秀だな。俺の部下に欲しいくらいだ」
「っ!?」
「っ!?いきますっ!!」
立場の違いか想いの違いか。
二人の返事は異なった。
食いつきの激しいルミナラスにはちょっと引いてしまったが……
「すまん冗談だ。お前たちだって立場があるだろうに。まあそれは置いといて、原因の娘のことは解決した。おい、宰相は居るか?」
あわただしく動き回る衛兵の一人に俺は問いかけた。
いつの間にかムクとナハムザートが手伝っている。
うん。
やっぱり優秀だ。
「はっ、すぐにお連れいたします」
きちっとした礼をし、走り出す衛兵。
そして数分後。
宰相のオツルイト・イドリドクが顔を出した。
肩で息をする、皇帝を伴って。
「魔王陛下、お疲れのところ誠にありがとうございます。お呼びと聞いてまいりました」
「魔王陛下、ありがとうございます」
額から汗を流し、薄っすらと上気する顔。
恐らく最優先で駆け付けたその様子に、俺は思わず顔をほころばせた。
(…こういうところが民や臣下から愛されるのだろうな)
「ダリルの件はそういう事だ。俺に任せろ。婚約者、メレルナの部屋はどうなっている」
「はっ、現状封鎖しております。誰も入れておりません」
「警備の者に琥珀石は持たせたか?」
「は、ご指示の通りに」
「分かった……茜」
「はい」
俺は同行していた茜に目を向ける。
つられて皆が目を向け――驚愕に染まり動きを止めた。
「浄化を頼みたい。魔力は平気か?」
「うん。100回は行ける」
まじか?
やばい、全くかなう気がしない。
そして――
宮殿全体を包み込み、優しい波動とともに緑を纏う琥珀の魔力が覆いつくす。
悪意がはがれ――
宮殿はその威容を取りもどしていた。
※※※※※
茜の想いを纏う超絶魔力により宮殿の浄化は完了した。
そして予想通り。
メレルナの部屋はかなり弾かれたようだ。
茜は静かに頷き、その魔力をさらに練り上げ始める。
「行くか………あまり気が進まないが」
間違いなくオーブ以上のものがある。
(精神耐性が低い者は…瞬間的に乗っ取られる可能性が高い、か…)
「お前たち、精神耐性は鍛えているか?」
俺は皆に目を向けた。
※※※※※
「おそらく耐性熟練度が低いものは一瞬で取り付かれる。お前たちが許可してくれるのなら俺が今確認できるが。――どうする?」
「っ!?」
「なんと。熟練度の確認?――さすがは極帝の魔王様です…是非」
「おお、まさに祝福…」
――一部なぜかやたらと感激しているが…
コホン。
(確かに…俺くらいしか確認できないからな。さて)
結局俺は、全員を見ることにした。
◆◆
【ディードライル・ドルグ・オズワイヤ】
【種族】ヒューマン・エルフ(ハーフ)
【性別】男性
【年齢】122歳
【職業】皇帝・魔剣士
【保有色】赤
【存在値】411/1,000
【経験値】41,102/41,200
【特殊スキル】
『覇気』
【固有スキル】
『魔法剣5/10』
『宣誓』『任命』
【保持スキル】
『物理耐性3/10』『魔法耐性2/10』
『精神耐性6/10』『基礎魔法4/10』
『格闘術6/10』
【状態】
正常
よし。
精神耐性6に到達している。
因みに熟練度だが。
【1:習得】【2:使用可能】【3:効率化】
【4:熟練】【5:能力強化】【6:複数化】
【7:同時展開】【8:マスター】【9:伝説級】
【10:神級】
となっている。
何しろ俺が設定した。
魔法では熟練度が5以上ないと転移はできない、
習得できているのはおそらく全人口の1%にも満たないだろう。
精神耐性も最低でも5を超えないと今回の案件には対処ができないはずだ。
【オツルイト・イドリドク】
【種族】ヒューマン・天使族
【性別】男性
【年齢】82歳
【職業】宰相・鑑定士
【保有色】茶
【存在値】174/800
【経験値】17,447/17,500
【特殊スキル】
【固有スキル】
『鑑定2/10』
【保持スキル】
『物理耐性1/10』『魔法耐性3/10』
『精神耐性3/10』『基礎魔法3/10』
『格闘術2/10』
【状態】
正常
やはりな。
残念ながらオツルイトは同行しない方がいいだろう。
……意外だ。
鑑定持ちとは。
【ルミナラス・フィルラード】
【種族】覚醒天使族
【性別】女性
【年齢】107歳
【職業】大賢者
【保有色】水色・金
【存在値】1,004/2,000
(大精霊の加護により種族上限突破)
【経験値】100,438/100,500
【特殊スキル】
『精霊召喚』『健康』
『精霊術6/10』
【固有スキル】
『古代魔法5/10』『精霊語』
【保持スキル】
『物理耐性6/10』『魔法耐性7/10』
『精神耐性7/10』『基礎魔法8/10』
『格闘術4/10』
【状態】
正常
【称号】
大精霊龍の友
正直驚いた。
凄いな彼女は。
精神耐性は申し分ない。
………セリレの友達?
【スリーダル・ナナラダ】
【種族】覚醒ヒューマン
【性別】男性
【年齢】122歳
【職業】大魔導師
【保有色】橙・銀
【存在値】832/1,500
(覚醒により種族上限突破)
【経験値】83,260/83,300
【特殊スキル】
『魔導の泉』
【固有スキル】
『魔法合成』
【保持スキル】
『物理耐性2/10』『魔法耐性6/10』
『精神耐性6/10』『基礎魔法9/10』
『格闘術2/10』
【状態】
正常
さすがナナラダに名を連ねるだけのことはある。
精神耐性も問題がない。
◆◆
「よし皆、確認した。詳しく知りたいものは後で教えよう」
そう言うと皆頷いてくれた。
ルミナラスはなぜか興奮した顔をしているが。
取り敢えず目配せだけしておいた。
「あとで」と。
「オツルイト、すまないがお前の耐性値では同行は難しい。ディードを同行させる。立場上思うこともあるだろうが今回は引いてくれ」
「はっ、かしこまりました。陛下、よろしく頼みます」
「うむ。お前は引き続き事態の収拾に勤めよ」
「はっ」
オツルイトは衛兵に指示を飛ばしながら足早にこの場を立ち去った。
「ディード、案内を頼む」
「こちらです」
デイードライルを先頭に歩き出す。
「みな耐性があるとはいえ今回は間違いなくオーブ以上だ。いざという時の為に茜がいるが気を引き締めてくれ」
そして出会う。
――悪夢の再来と。
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