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BAKU  作者: 不覚たん
第二章

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謎の武装勢力の夢を見た(一)

 瞑想室とはいうが、その実態はほとんど研究室のようだった。

 まっしろい部屋。

 まっしろいLEDライト。

 白衣の連中が待ち構えていて、カプセルに誘導してくれた。


「中に入ったらリラックスしてお待ちください。異常が見つかった場合、こちらで起こします」

 サポートつきの睡眠というわけだ。

 ただし自然な睡眠ではなく、ガスによる強制的な睡眠。


 *


 いつの間に眠っていたのかは分からない。

 ただ、気づいたときには無名閣にいた。


 青い空。

 静かな気配。

 謎の武装勢力の姿はどこにもない。


「来たか」

 建屋からコマが姿を現した。

 かたわらにはA子もいる。


「もう終わったのか? 敵に襲われてるっていうから、慌てて来たのに」

 俺は周囲を見回しながら、皮肉を吐いた。

 どこからどう見ても平和そのものだ。


 コマはかすかに溜め息。

「いま障壁の外側におる。じゃが、突破されるのも時間の問題じゃろうな」


 外側――。

 どういう構造なのか想像もつかない。

 夢の世界なんだし、考えるだけムダかもしれない。


「どんな連中なんだ? 規模は? 武装は?」

「七人ほどじゃ。武装は分からん。それぞれ趣味があるじゃろうからのぅ」

 呑気なことを言う。


 A子が肩をすくめた。

「武器の見た目は問題じゃない。知ってると思うけど、夢の世界そのものがエネルギーなの。だからそこで大きな力を使いたければ、その本人にも力がないといけない」

 才能のある人間にとっては好き放題できる世界というわけだ。

「もし敵がミサイルを撃ち込んで来たらどうする?」

「派手な爆発になるとは思うけど、たぶんそれだけ。誰も傷つけられないよ」

 見掛け倒しの攻撃になる、というわけか。

「じゃあ、俺たちが来るまでもなかったかもな」

「そうでもないよ。敵はたったの七人だけど、かなり強そうだし。たぶんだけど、機械と薬で強化されてると思う。なんていうか、こう、エネルギーの波長が不安定な感じだし」

 露骨に非人道的だな。

 使い捨ての兵士なのかもしれない。


 コマが視線を空へやった。

「そろそろかのう。Q坊よ、もしわしが死んだらじゃが」

「死なせないために来たんだが」

 いま言うようなことなのか?

 コマは構わず言葉を続けた。

「まあ最後まで聞けい。前に、わしの代わりがいると言ったじゃろ」

「ああ」

 A子のことだと思っていたのだが。

 どうやら人間には代わりが務まらないらしい。

 まだほかに妖怪がいるのか?

「小間森が保護しておる。わしの妹分じゃ。最後に会ったのはずいぶん昔のことじゃから、もうおぼえてないかもしれんがの」

「えっ? おぼえてない?」

「まあとにかく、そやつに術をいくつか授けておる。運がよければ、代わりを引き受けてくれるじゃろ」


 小間森の婆さん、まだ隠し玉を持っていたのか。

 じゃあ俺たちにコマを引き渡したのは、本当にただの保身だったのかもしれない。コマという存在は、関係者に知られつつあったから。


 俺は百鬼夜行の力でマウザーを召喚した。

 さっきの話だと、拳銃だろうがミサイルだろうが威力は変わらないのだろう。だったら使い慣れたもののほうがいい。


「コマちゃんよ、その代理とやらを探す必要はないぜ。謎の武装勢力は俺たちが倒すんだからな」

「もしもの話じゃ」


 障壁を支えているのはコマだ。

 その障壁を破られるということは、敵はコマの能力を凌駕しているということになる。

 つまり、百鬼夜行でコマの力を借りている俺たちも、そいつらにかなわないかもしれない。


 青空が濁りを帯びて、まっくろに変色した。

 太陽は出ているのに。


 かと思うと、遠方に飛行機が見えた。大型の旅客機。あれに乗って攻めてくるつもりか? いや、もしそうだとして、ここに着陸用の滑走路などない。しかもこの軌道は……。

 ぶつけてくるつもりか?


「え、なにあれ? ぶつけてくる気? ヤバいって!」

 C子がキョロキョロし始めた。

 まあこれが正常な反応だな。


 一方、コマは冷静だ。

「慌てるでない。ただのこけおどしじゃ。とはいえ……まあ直撃は避けたほうがよかろう」


 接近するにつれて、その巨大さに目を奪われた。

 もちろんだが、家よりデカい。

 そんなものが高速でぶっ飛んでくるのだ。どう考えても絶望しかない。


 やがてズドーンと衝突……。

 したように思えた。

 いや、実際、すごい音はしたのだ。直撃して飛行機も大破した。だが、無名閣は無事だった。いくらか傷ついただけで。


 よく見ると、飛行機の残骸は透けていた。瀕死だったバクのようだ。つまりこれは、実際のエネルギーを超えて引き延ばされただけの偽物なのだ。実際、そこらに落ちた残骸は、発泡スチロールみたいに軽い。


 問題はこのあとだった。

 どこから生えてきたのか、宇宙服みたいな格好の連中が、バルコニーに立っていたのだ。情報通り七人。白いプラスチック製の銃を手にしている。

 そいつらは一斉に銃を構え、俺たちを狙ってきた。

 動きに迷いがない。訓練されている。


 俺も銃を構えてトリガーを引いた。

 だが、その瞬間にはもう、ターゲットの姿はなかった。代わりに、肩口に熱を感じた。一条の光が、身体を貫通して後方へ抜けていった。

 やや遅れて激痛が来た。俺は尻もちをつきそうになって、慌てて踏ん張った。


 敵はいつの間にか散開していた。

 そしてまたビームを放ってくる。

 ワープみたいな動き。光速で直進するビーム。対処のしようがない。


「ぎひっ」

 間宮氏が複数のビームに貫かれて、その場に崩れ落ちた。

「大丈夫? んぐっ」

 駆け寄ったC子も四方から串刺しにされた。

 いまは仲間に構っている場合ではない。自分の身を守らなくては。


 俺は急いで建屋に入った。

 夢の世界だからといって、現実世界ではありえない武器を使ってきやがる。しかも敵のレーザーは、建屋の壁さえ貫通してくる。

 敵はかなり研究した上でこの作戦に挑んでいるようだ。いつもみたいにやれば勝てると思っていたのに。見立てがアマかった。


「厄介なことになりましたね」

 青田氏も渋い表情で駆け込んできた。


 厄介どころではない。

 一方的にまくられている。


 外を覗くと、A子が凄まじい動きで七人に応戦していた。慣性を無視したような急停止。手から光の矢を放ち、遠距離からの攻撃。ただし当たっていない。むしろ無名閣の破壊に手を貸しているだけに見える。


 やや遅れてコマが建屋に入ってきた。

 無傷に見える。実際どうだか分からないが。

「すまんのぅ。わしに力があれば、お主らの加護ももう少し強くできるのじゃが」

 悠長なことを言う。

「だったらいまからでも誰かに寄生して、力を吸い出してくれ。このままじゃ全滅するぞ」

「そんなすぐにはムリじゃ」

 まあそうだろう。

 簡単に力を吸い出せるくらいなら、そもそも障壁を破られてはいない。


「なんか手はないのか?」

「そう言われてものぅ。夢の世界での戦いは、想像力の戦いでもあるんじゃ。そしてわしは考えるのが苦手じゃ。ここはおぬしらの想像力に期待するしかない」

 キツネめ。

 人間サマの頭脳にあっさり降伏しやがった。


 だが、これは俺としてもシャクではある。

 いま俺たちは、想像力で負けているということだ。


 外で、パァンとなにかが舞った。

 それがなんなのか確認しようと思ったが、舞い過ぎて見えなかった。濃霧のように白い。

 かと思うと、間宮氏を引きずりながら血まみれのC子が建屋に入ってきた。


「ひどいじゃん。レディーを置き去りにしてさ」

 死んだかと思ったのに。

 血まみれではあるが、出血は止まっているようだった。コマの加護もあるとは思うが、敵の武器の殺傷能力もさほど高くはないのだろう。俺の肩口のダメージも、いつの間にか気にならないレベルになっていた。


「悪いな。自分の身を守るので必死だった」

 戦場に男も女もない。

 レーザーで撃たれたら死ぬ。腕力は関係がない。


 青田氏が外を覗き込んだ。

「射撃がやんだようだ。警戒しろ。中に入ってくるかもしれない」


 外は視界が効かなくなっている。

 同士討ちを恐れて、射撃を中止したのかもしれない。


 俺はC子に尋ねた。

「あの白いのは?」

「ただの水蒸気だよ。知ってる? 百鬼夜行って、武器以外にも使えんの」

 それは知っている。

 ダウジングロッドにはお世話になった。


 ん?

 水蒸気?


 C子は苦しそうに壁にもたれながらも、ニッと笑みを浮かべた。

「レーザーって光でしょ? 水蒸気で拡散させたら、使い物にならないんじゃないかって。ま、考えたのはあたしじゃなくて、間宮さんだけどね」

 なるほど。

 つまり想像力で応戦したというわけか。

 間宮氏も生きているみたいでなにより。生きているというよりは、まだ死んでいないだけにも見えるが。


 謎の武装勢力たちも、レーザーだけで戦うつもりではあるまい。

 プランBを用意している可能性がある。

 お次はグレネードを投げ込んで来るかもしれない。いや、毒ガスでくるか。わざわざ全身防護で乗り込んできたのだ。その程度の用意はあるだろう。


「なあ、コマちゃんよ。この無名閣は変形しないのか?」

「は?」

 俺の質問にきょとんとしている。

 コマだけでなく、他の面々も。

 まあいい。確かに補足説明が必要だろう。

「清水の舞台みたいになってるバルコニー部分があるだろ。あれを落とせば、敵をまとめて葬れるんじゃないか?」

「それはムリじゃな。この建物はわしの言うことなんぞ聞かんぞい」

「どういう意味だ? ここはあんたの住居じゃないのか?」

「前も言った通り、バクの作った空間じゃ。それも、いちばん力があったころのものでな。わしにどうこうできる代物じゃないわい」

 頑丈さだけが取り柄というわけだ。

 それでも存在しないよりはいい。


 ひゅっとなにかが入ってきた。

 グレネード?

 いや、A子だ。あちこち銃で撃たれたらしく、ご自慢の制服がボロボロになっていた。


「あたし一人で戦ってない?」

「残念ながらそうだ」

 一人で七人を相手にしていたのだ。苦情を言う権利くらいあるだろう。

 A子は、しかし怒らなかった。

「なんか作戦でも考えてたんでしょ? あたしにも教えてよ」

「その前に、入口をふさいでくれないか」

「もうやってる」

 透明なシールドのようなものが入口をふさいでいた。

 そこにグレネードが直撃して、バルコニー側に弾かれてから炸裂した。これで敵に被害が出てくれればいいが。


「じつはなんのアイデアもないまま籠城していてな。いや、籠城というよりは立てこもりかも」

「だっさ……」

 事実を指摘されても戦況は好転しないのだ。

 むしろ俺のやる気を削ぐのでやめていただきたい。

「なにか名案を出したいところだが。ここはあまりクリエイティヴな環境とは言えなくてな。もう少し時間が要る」

 するとA子は、露骨に引いた顔になった。

「時間? こっちもあんまり余裕ないんだけど」

「は?」

 なんだ?

 あと二年は生きられるはずでは……?

「こんなに派手に戦ってたら、たぶんまた起こされるから」

「そういうことか」

 まあ病院としても、患者の数値に異常が出たら放置してはおけまい。

 しかしA子が途中で抜けるとしたら大変だ。

 敗北が確定してしまう。


 地べたを転がっていた間宮氏が、苦しそうに声を絞り出した。

「防犯用ネットかなにかで、まずは相手の動きを止めたほうがいいのでは?」

「それだ」

 なぜ思いつかなかったんだ。

 相手のスピードが異常だったから俺たちは追い立てられているのだ。その機動力を無効化すれば、こちらにも反撃のチャンスはある。


 俺は銃を防犯用ネットの射出機に変えた。

 これでいちどに全員を捉える必要はない。各個撃破で十分。敵は七人だけなのだ。七回繰り返せば勝てる。


(続く)

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