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ラヴァーズコンチェルト  作者: 神崎るか
3/11

三曲目

あの後、自主練中は思ってた以上に気持ちが入り、今朝の目覚めもとても良かった。


「みさと!おはよう!」


「おはよ!ゆみ!」


「お?今日は元気やな!」


昨日とは打って変わって笑顔な私を見て、ゆみも満面の笑みを浮かべてくれた。


「うん!今すごくやる気なの!頑張るよ!」


「えーことやん!」


ゆみにも知ってもらいたくて、あのお店の話をしようと口を開きかけたとき....


「あ、今日一緒に帰らへん?聞いてほしい話があんねん」


ほんの少しだけ陰った感じがして気にはなったが、今中途半端に聞くよりは帰りの方がきちんと時間がとれる。

その流れでお店の話もしよう。


「うん!いいよ!」


「よっしゃ!ほんならまた放課後!」


「はーい!」


ゆみとは学科が違うため、廊下ですれ違ったときくらいしか校内で話すことはない。お昼も自主練に使うし、帰りも基本自主練をしてから帰る。

それにしても。ゆみが相談したいことってなんだろう?

いつも励ましてもらう側の私には、ゆみの悩みが検討もつかなかった。




ピアノの旋律に乗せて、いつも以上に私の声が教室内に響いている。

最後に1曲歌っているが、途中止まることなく歌いきれた。

入学してから半年。初めてのことだった。


「じゃあ、今日はここまで」


「ありがとうございました」


「すごく良くなったわ。このまま次回で仕上げて次の曲に移りましょう。気を抜かずに頑張って」


ちなみに、教師からいい評価をもらったのもこの半年で初めてで....


「は、はい!がんばります!ありがとうございます!!」


私はもっと努力をしようと誓った。




いつも憂鬱な次の授業までの道のりも、今日はにやけ顔になる。


(わーわーわー!!!長野先生に初めて褒められたー!!)


テンションの上がった私はこの後の授業も調子よくこなしていった。



そして放課後。



「今日も疲れたー!」


でもこの疲れは気持ちのいいものだった。


「うちも心折れたー!!先生にめっちゃ怒られたし!!」


明るく叫んではいるが、ゆみは相当絞られたようだ。


「私、なんか今日は調子良かったな」


「えーなー、うちなんかもう色々もやもやしてるわ」


「ねぇ、ケーキ食べてストレス発散しない?カフェ入れば朝言ってた話もゆっくり聞けるし」


たまには放課後の寄り道も悪くはないだろう。

一度行ってみたいと2人で話していたカフェにゆみを誘った。


「いーね!いこ...危ない!!!!!!」


ドンっという衝撃音。


奪われた視界。


混乱する脳内。


その時何が起きたのか、私は何も理解が出来ないまま現実から意識を手放していた。







「ん....」


目を開けると、真っ白な天井が見える。


「みさと!?気がついた!?」


「先生!!先生!!!!みさとが目を覚ましました!!!」


周りの騒がしさで、徐々に意識が覚醒してきた。


(なにここ?なにこれ?)


結果として、私の頭は混乱することになる。


「今はまだ鎮痛剤が効いてるはずだから痛みはないと思うけど、痛かったら言ってね」


(え?なに?なんなの?)


「みさとちゃん?先生の声聞こえてるかな?」


(みさ....と?)


「ちょっとマスク外すね。声は出るかな?」


「あ、の....」


「ここは病院だよ。君は交通事故に遭って運ばれてきた。分かるかな?」


「じ、こ....」


この人は何を言っているのだろうか。


「みさと!!もう大丈夫だからね。意識が戻ってよかった...!!」


私の傍で涙ぐむ女性。


「みさと?分かるか?父さんと母さんだぞ?」


「だ、れ...?」


知らない。


「みさと....??」


「みさと.....わたし?」


こんな人達知らない。

みさとって誰。


「せんせっ....」


「記憶を、無くしているようですね。これが一時的なものなのかどうかはまだ判断しかねます。まずは状況を理解して貰って治療をすることに専念しましょう」


「そんな...みさと...」


「母さん、とりあえず先生にお任せしよう。みさとも混乱しているでしょうし今日は帰ります。先生、よろしくお願い致します」


「分かりました。今日1日様子を見ます。また明日、お越しください」


目の前で繰り広げられている会話なのに、遠くから聞こえているような気がする。


「あ、あの....」


親と名乗る2人がいなくなったのを見届け、意を決して白衣の人物に話しかけた。


「まだ混乱しているだろうから、とりあえず少し眠りなさい。起きて落ち着いたら状況を話すよ」


「はい.....」



優しい声で睡眠を促される。私はただ返事をすることしかできなかった。


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