二曲目
今日は自主練をする気になれず、授業が終わるとすぐに学校を出た。
ただ、そのまま家に帰ってしまうにはもったいないくらい天気がいい。
何とか気持ちを上向きにさせたくて、この天気に後押しされた私は、いつもと違う道を通ってみることにした。
ふと、目についた路地を曲がってみる。
「わ、可愛いお店!」
まるで絵本から飛び出したかのようなその建物は、ヨーロッパの田舎町を思わせるレトロで暖かな可愛らしい外観だった。
看板には、
【carillon】
と、これまた可愛い字体で書かれている。
「カリ...オン....?かな??」
何のお店かは分からないが、私は中へ入ることにした。
カランカラーン、と、少し低めのベルの音が鳴り響く。
店員さんがいる気配がないが入っても大丈夫なのだろうか。
少し躊躇したが、目の前に広がる異国情緒あふれる雰囲気に触発され、店内を歩いてみることにした。
ここはアンティーク雑貨のお店のようだ。
可愛らしい食器からよく分からない置き物まで、所狭しと、だが、見栄え良く並べられている。
ふと、オルゴールが目についた。
柔らかな印象を与える木目調の箱。
何種類か置かれている中で、私が興味を惹かれたのは1番色の濃い箱だった。
「いらっしゃいませ。オルゴール、お好きですか?」
「え?あ、いえ、あの、可愛いなって思って」
「ありがとうございます。ここで売っているものは全て手作りで同じものは1つもないんですよ」
突然声をかけられた事に驚いだが、どうやらこのお店の方のようだ。
柔らかな笑顔と、ほんのり低めのハスキーボイス、白髪がよく似合う、背の高い男性だ。
「すごいですね!あの、この、オルゴールを聴いてみたいんですけど、鳴らしてみてもいいですか?」
「どうぞ。蓋を開けてこのつまみを回してみてください」
「ありがとうございます」
少し緊張しつつ、ゆっくりと蓋を開ける。
中では、オルゴール特有の針達が輝いていた。
この針達は一体どんなメロディーを奏でてくれるのだろうか。
期待に胸を膨らませながら優しくつまみを回した。
流れてきたのは聴き覚えのある曲だった。
「これ.....」
「ラヴァーズコンチェルトという曲になります。バッハのメヌエットをアレンジした曲で、音楽の教科書に載ったりしてますし、聴き覚えのある曲かと思いますよ」
「あ、はい、どこかで聴いたことあるなと思いました。優しい曲ですよね」
「一説によればこの曲の元となったメヌエットはバッハが妻に捧げた曲とも言われています。きっと愛のこもった曲なんでしょう」
「音楽、詳しいんですね」
「ただの雑学です。好きなんですよ、曲に込められた思いを知るのが」
男性はそっとオルゴールに触れながら言った。
その優しい手つきを見て、なぜか私の心も暖かくなってきた。
「あの!買い物もしないのに失礼かもしれないんですけど、またお話しに来てもいいですか...?」
突然声をかけた私に男性は微笑みかけてくれる。
「いつでもどうぞ。お待ちしています」
「ありがとうございます!」
私は気持ちよくお店を出た。
今度行くときはオルゴールを1つ買ってみようかな?
そのオルゴールが私のお守りになるかもしれない。
「店員さん感じの良い人だったなー。なんか歌いたくなってきちゃった....まだ自習室空いてるよね!よし!」
私はラヴァーズコンチェルトのメロディーを口ずさみながら学校へと引き返した。




