53、息をするように
「困ったな……」
アイギスと膠着する時間を共に過ごす。
マリアがいつ来るかは分からないが、いつ来てもおかしくはない現状。
不要な時間の浪費は避けるべきところなのだが、そうもいかない。
このまま双方の意見が食い違った状態で事に当たれば、いずれどこかで亀裂を生み、振り返ってみればそれが致命傷であったなどという事にもなりかねない。
「リン、わがまま」
「うーん……」
言われて気付くこともあるというが、アイギスから見ればそういう風に見えているということの現れか。
「リン」
「ん?」
「リンは言ったよ? まもるって」
「うん」
「また、死ぬの?」
「…………そういうことか」
成程。
それで全てに納得がいった。
アイギスのこれまでの言動は自身に対するいわば戒め。
前回という記憶の中で反省するのであれば、同じことを同じように繰り返したところで待っているのは同じ結末に他ならない。
であればこそ、守るというのであれば、やり方を変えなければだめだということだ。
例えそれがマリアとの約束を一方的に反故にしてしまうものであるとしても――。
「ありがとうアイギス」
「ううん」
「準備はいい?」
「うん」
アイギスは何事も無かったかのように頷く。
そこからは先程まで見せていたような感情の起伏というものが目に見えて見えなくなる。
しかし、だからこそ信用も出来るというものだ。
アイギスには背負わせない。
これは自身の選択であり自分自身が自分自身の足で歩む道。
願わくば今の自分をこれからの自分が否定しなければいいなと、それは都合が良すぎるだろうか。
ただこれだけは言える。
後悔はしない。
そう思えるだけの自信を自分はアイギスに貰った。
決定に絶対はない。
それでも選択に正解はあるはずだ。
アイギスはいつだって正しい――。
潜めていた自身という存在を立ち上がらせてはあえて注目を引くように周囲へと晒す。
「リン」
「ん?」
「イヤ、じゃない?」
「ははっ、大丈夫」
それだけはきっぱりと言い切れる。
「そっ、か」
「うん。ありがとう」
素直に心配してくれていることに対しては感謝しかない。
端的に言えば嬉しくもある。
「ごはん?」
「あぁ。すぐに終わらせよう」
そこからは最早自身を止めるものも無ければ止めようとする者もいない。
放たれた矢の如く、一直線に目的達成のため広場へと飛び出していく。
その過程で、当然ゴブリンたちに気付かれてしまうが特に気に掛けるほどのことでもない。
道端の石を蹴散らすように、ただ漫然と行きがけの駄賃よろしくその命を刈り取って行く。
最初こそ覚悟を決めて尚、若干の躊躇を許してしまったが、一度やってしまえばあとは同じこと。
二度も三度もやっていることには変わりはない。
そして、人は慣れる生き物だ。
「リン、助ける?」
時折アイギスを持ち直しながらも巣窟の前へとたどり着く。
「どうしようかな……」
迷い無く足を踏み入れてはこれまた知っている手前、最短でその場所を目指す。
「気になる?」
アイギスは言う。
それはこちらの気がかりを意識してのことだろう。
だがここまで余り考えずに進んできたが、足を止めてじっくりと話し合わなければいけないことなのかもしれない。
というのも、ここで助けた内の一人に面倒ごとへと引っ張り込まれ、あげくの果てに仲間を攫われた。
本来ならば生かしておけないような人物だが、ここからの脱出には欠かす事の出来ない者であるということをも同時に知ってしまっている。
「まぁ、うん。とりあえず事が済むまでは役に立ってもらおうか」
「うん」
アイギスはこちらの答えを聞いて満足したのかそれ以上は聞いてこない。
つまり、その先。
終わったあとのことだ。
そこでそういえばと思い出しては少しばかり気になって、単調な戦闘の隙間を埋めるように質問を口にした。
「あの時はよく見つからなかったね?」
多少端折り過ぎて何の事だが分からなくもあるが、その言葉が当てはまる状況は多くない。
更には会話の流れに沿ったことでもある以上。
アイギスが意味を理解するのに要した時間はものの数秒とかからなかった。
「ジーナのおかげ」
「やるなぁジーナ」
「うん。たぶん勝てたよ?」
「ん? それはそのまま受け取るとわざと捕まったようにも聞こえるけど」
「うん。マリアのおかげ」
「そっかー。ジーナらしい、かな?」
「ジーナやさしい」
「サラスは?」
「サラスしつこい」
「ははっ。でも?」
「ふとももやわらかい」
「そっちか」
「寝心地いいよ?」
「それはよかった」
なんだかんだで結局サラスは喜びそう。
むしろその絵が簡単に思い浮かぶ当たり、普段からよく喜んでいる気がする。
主にアイギス関連でだが。




