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不本意ですが、サイコ野郎(公爵)の嫁になります〜いっそのこと飼い慣らしてみようかと〜  作者: パル@悪役令嬢彼に別れを告げる【アンソロ発売中】
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40 セルビッツェ国立学院 5



 午後のホームルームの時間になると夏季休暇中の専攻授業の予定表を配られる。

 アンローズ様が私たちの受ける授業をチェックした後で、最終日の前夜にある魔術の課外授業に皆で参加することを決め、申し込み用紙に名前を記入した。


 書き終えた私をセイリーン様が複雑な表情でじっと見る。彼女の視線に気づき、私が首を傾げると彼女は静かに口を開いた。


「今日のウィステリアは元気がないように見受けられます。何かあったのでしょうか?」


 セイリーン様からそう聞かれると、隣にいるアンローズ様までもが私の顔を気遣わしげに見つめてくる。

 心配してくれる二人に、私は眉尻を下げ息を吐き出した。


「実は、王立学院の星夜祭に婚約者から招待されまして」

「あら、素敵! 私ももう一度、星夜祭に参加したいわ!」


 婚約者も同じ年齢だった為に、3回しか参加出来なかったのだとアンローズが羨ましそうな表情を浮かべる。


「私は気が重くて、行きたくないのですわ。そうだわ! アンローズ様が私の変わりに行って下さいますか。私から、ルーフェルムに伝えておきますので。」

「バ、バードゥイン次期公爵様と? む、む、無理ですわ」

「大丈夫です。入場する際に待ち合わせをして、入場したら離れればいいだけですわ。ほんの二三(にさん)分の我慢です」


 そう言って、にっこり微笑む。

 するとアンローズ様は、今朝方の老執事と同じポーズをとり、涙目で語りだした。


「だって、バードゥイン次期公爵様の半径5メートル以内に立つことすら難しいと言われているのですよ。目を見ただけで、体は硬直し血管を通る血液は全て心臓に戻り冷たくなって倒れてしまうとのことです。ウィステリア様は二三分の我慢と言われましたが、それ以前の問題ですわ。以上のことから二三分の時間を計測する前に死んでるということになりますから」


(……なるほど)


 アンローズ様の素晴らしい見解を聞かせていただいたが、その内容で私が不参加の手紙を書くことは出来ないだろう。

 なぜなら、手まで握っておいて何度もルーフェルムと顔を見合わせているのだから。

 二三分も持ちそうにないから……の不参加じゃ、通用しないわね。



 さすがに、婚約者の()()参加とまで書かれているわけだから、断りたくても今回は断れない。

 冷静にそう分析すると、私は肩を落とし机に顔を伏せた。


「なんだ? ウィステリアも王立学院の星夜祭に行くのか?」


 しょんぼりとした私に、ルンルンと声を弾ませ話しかけてきたのはダーバスカル様だ。


 普通なら、目の前で私が落こんでいる様子を見れば、行きたくないと分かるだろーに。


 ……ダーバスカル様は、絶対に分かっていて、わざとそうしている。なんだかなー……この感じ。嫌がらせをするのが楽しいって……子供じゃないんだから。……毎度のことながら、空気を読んでいての返しに頭が痛くなるわ。


 机に突っ伏したまま、じろりと目だけを動かし声のトーンを下げて返事を返す。


「行かざるを得ないみたいです。だったら何ですか?」

「俺も行くからさ。国立からも何人か参加するぞ」

「そうですか」


 誰が参加するとか、ましてやダーバスカル様が行こうが行くまいがどうでもいいし。そんな情報いらんわ。


 反対側に顔を背けてダーバスカル様を視界から消す。


「……ん? 元気がないな? 嬉しくないのか?」

「嬉しい訳が無いでしょう」

「残念な奴だな」

「全くその通りですから、私のことなど無視して下さい」

「まだまだ子供だな、反抗期か? ハハハ」


 ダーバスカル様はそう言って、笑いながら私の頭をポンッと軽く叩いた。


「な、何するんですか!」


 私は咄嗟に両手で頭を抱えてキッと彼を睨む。が、それと同時に発生した別の問題へと瞬時に意識の対象を移した。


 そして、固まった。頭のなかにビリビリッと稲妻のような白い閃光が走ったと思えば、次にズズンと体全体に警報が巡る。

 意識を集中しなくてもそれが何だか分かり一瞬で血の気が引いた。


 私が机からガバッと起き上がると、驚いたダーバスカル様が足元をよろめかせる。

 あっ……と思ったが、それどころではない。


 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……。思うより先に心臓が跳ね上がり急いで教室の扉を出ると、「裏庭に来て!」と叫ぶ。

 そのまま急ぎ、早歩きで裏庭を目指した。


 最近の私は、マジで凄いと思う。

 どうしてこうなったのかは分からないが、色々と感じることが出来るのだ。

 それというのも、あの日の出来事がきっかけになっているのではないかと思うのだが――。


「ハァ、ハァ……。ハザード……出てきて……」

 大きな木の幹の影から、スッと姿を現したハザードの鬼のような形相に、「ヒィ!」と声が出る。

 彼の美しい金色の瞳がギラギラと輝き、興奮しているのが丸わかりだ。


「ちょっと、あれくらいのことで殺気ダダ漏れにしないでよ。私の寿命が縮んだらハザードせいだからね」

「ですが、ウィステリア様にあんな無礼な振る舞いをされたのですよ。礼儀を欠いた奴には死をもって償わせないと」

「無礼だと思っていないし、そんな償いはいらないから。逆に、ハザードが彼を傷つけたらルーフェルムに罰を与えるから、覚えておきなさい」

「ルーフェルム様は関係ありません」

「大いに関係あるわよ。ハザードに私の護衛をするよう指示を出している人だもの。部下の責任は、上司が取るって決まっているわ」

「……っ……申し訳ありませんでした」

「あっ……ちゅ、注意しただけよ。次から気をつけてくれればいいわ」


 あらあら。しゅんとしちゃって……縮こまった子猫ちゃんみたいで可愛いわ。

 ……あっ! 違ーう! ……騙されちゃ駄目。駄目よ、ウィステリア。

 ルーフェルムといい、ハザードといい……竜人は、どうしてこうも私を翻弄するんだ? というか、わざとなの? 私がこうなるって知っててわざとでしょう! あざとすぎよっ!

 あれだけ強い殺気の後に……ギャップ萌えとかしている場合じゃないのにー。

 瞳をウルルとさせたハザードの表情に、言い過ぎちゃったかなと逆に反省しちゃう私もどうかと思うけど。


 ――あの日、ハザードの傷を治したのをきっかけに、私の感覚が鋭くなったような気がする。

 目に見えない場所に潜んでいるハザードの大体の位置が分かる。そして、感情もなんとなく分かるようになった。

 ファブリエンタ侯爵家では、ハザードには普通の護衛として滞在させてもらっているため、ルーチェとイチャイチャしているのも分かるくらいだ。そんな事まで知りたくないんだけど―――。





 教室に戻ってくると、「さっきは、突然どうした?」と元凶だったダーバスカル様に尋ねられ、内心では『アンタのせいで……』と思いつつ、とりあえず忘れ物をしたことにして誤魔化した。


 その後で、私が教室から出た後にセイリーン様とアンローズ様にしこたま怒られたのだと、何度も頭を下げるダーバスカル様に「無闇に女性に触れては駄目ですよ」と教えてはみたが。


 それだけで死が待っているのだとは言えず、代わりに追加で「命を大切にして下さい」と助言した。

 ダーバスカル様は理由が分からず首を傾げたが、そんな私の優しさに感謝してほしいと思う――。






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