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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第7章 闇を背負いし覚悟 ーᚱᛖᛉᛟᛚᚠ ᛁᚾ ᛞᚨᚱᚲᚾᛖᛊー
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第70話 袖裏に沈む総括者 ᛗᚨᛊᛏᛖᚱᛗᛁᚾᛞヾ

 陽も民草の営みも(とぼ)しき不毛(ふもう)な地元の大地をただ護りたいだけの魔導士ヴァイロ・カノン・アルベェリアに果てなき苦悩が降り積もる。


 白銀の女神(エディウス)白い竜(シグノ)(またが)り、自分の命よりも大切な弟子(子供)達を滅ぼしに来る悪夢にうなされ続けた。

 さらに義勇兵(ぎゆうへい)として力を存分(ふる)ってくれたレアット・アルベェラータの安否(あんぴ)。将来有望に思えた若者を、自分達の争いに巻き込んだ罪の深さに深く沈んだ。


 そしてさらなる悲哀(ひあい)と理不尽の火種がフォルデノ王国の貴族バンデよりもたらされる。


 バンデから(あず)かっていた大切な(兵士)──コボルト族の(おさ)カネランの戦死を主人の元へ伝えにヴァイロ達が彼の屋敷へ出向いた時の話であった。


「(フォルデノ)王国が一切の援助(えんじょ)を断つ?」


 赤い瞳を驚きひん()いたヴァイロの焦燥(しょうそう)。テンガロンハットを脱帽(だつぼう)したバンデに対する礼儀を忘れた態度で身を乗り出す。


「私も王と上級貴族達を説得しましたがディオルの一件以来、『カノンの若造には最早(もはや)任せておけぬ』の一点張りでございまして……」


 (いささ)か震えた声音を(はげ)まし応じるバンデ。

 ヴァイロ達に同行している者共からの、様々な視線(気分)(つる)し上げられた。罪の意識根深き思いが()を締め上げる。


「……」


 ヴァイロに(やと)われている女戦士シアン・ノイン・ロッソの沈黙。紫色の着衣から(のぞ)く腕と脚を組んだ立ち姿で目を閉じ黙り込んだ。 


 ガシャンッ!


「ディオルの解放を(うなが)したのはそちら(フォルデノ王国)側だと云うのに!」


 (いきどお)りを隠す気がないヴァイロがバンデの座る机を拳で激しく叩いた。机上の筆記用具が跳ねて酷い音を立てる。まるでバンデの恐怖を代弁しているかの様子。


「ヴァイロ、実に単純な話だ。フォルデノ王国の喉元(のどもと)まで(せま)っていた敵は撤退(てったい)した。後は自国の安寧(あんねい)さえ約束されれば、()()()()()()()()()()()。──(むし)ろ王国の品位を(そこ)ねる」


 シアンは身じろぎ一つせず冷静というより、()()(おぼ)しき声でヴァイロへ淡々(たんたん)と物語る。

 フォルデノ王国の隣まで肉薄(にくはく)していた戦之女神(エディウス)軍は、自分達の敷居(しきい)まで退(しりぞ)いた。

 平和の上に胡坐(あぐら)()きたい王国の本音──()()()()()を伝えるのに饒舌(じょうぜつ)は不要だった。


「シアン? お、俺達は、()められたと言うのか……」


 黒い神竜ノヴァンの錬成(れんせい)。さらに義勇兵達を(つの)る為の金銭的な援助(えんじょ)──。

 如何(いか)にも礼節(れいせつ)()()()王国のこれ迄続いた応対は、上辺(世間体)に過ぎなかった。


 森の都ラファンの中心街ディオルの平穏(へいおん)は、戦之女神(エディウス神)より無事取り戻せた。

 加えてヴァイロ達の住処(すみか)カノンへ、陸路を以て侵攻(しんこう)するには落とす事が欠かせないフォルデノ王国とラファン、そしてカノンが肩寄せ合うこの山岳地帯を護り抜いた。


 次なる戦之女神(エディウス神)の道筋は単純明快(たんじゅんめいかい)

 侵攻(しんこう)の陸路を確保する無駄を早々に捨て、恐らく以後も数を増やせるであろう白い神竜(シグノ)に騎乗し、空路から直接カノンへ仕掛ける。


 シアンはこれらの詳細(面倒)な説明を『黒い者を飼う必要がない』の一言で片付けたのだ。

 

「で、ですが私の亜人達(デミヒューマン)は今後もヴァイロ様の御味方です。私は最悪貴族の座を追われようとも、それだけは必ず(つらぬ)き通します」


 四面楚歌(しめんそか)に置かれた中、(ひたい)に流れる汗を(そで)(ぬぐ)いつつ、フォルデノ王国を裏切ってでも自分の意思は曲げない。震えた声でバンデは誓った。


随分(ずいぶん)と都合の良い事を……。()()()()()()()囲える(護れる)のは、今や()()()()()()俺達しかいないじゃないか」


「……!」


 眼鏡越しの冷ややかな視線をバンデに浴びせたアギド少年の指摘。彼の得意な魔法を使わずとも、凍りついたその場の空気。


 耳に入った人ならざる者の代表格──鳥人間(ハーピー)のルチエノが青と赤の瞳(オッドアイズ)を混ぜた哀しみの色合いにて見開いた後、静かに視線を(ゆか)へ伏せる。


 死した盟友(めいゆう)カネランの為にも決して泣くまいと(ゆが)めた(まゆ)。背中に生えた黒い翼から羽がヒラリッと赤絨毯(血の池)落ちた(堕ちた)


 種族こそ違えど性別が同じ吟遊詩人(音の使い手)リンネと、防御呪文の熟練者(エキスパート)ミリアが声にならぬ憐れみ(呼び掛け)をルチエノへ伝えようとした。


「アギド……言い過ぎだ、口を(つつし)め」

「……っ!」


 亜人達(デミヒューマン)の指揮を一手に任されていたシアンが普段以上の低音を響かせ、短くも鋭き口を(はさ)む。彼女は種族を超越した信頼を、人ならざる者達へ抱いていた。

 何よりも悪いのは彼等ではないのだ。それはアギドにも重々(じゅうじゅう)判っている筈。


 アギドは若さに(かま)けた口の滑りを指摘され黙り込むと、蒼い目を()らす苛立(いらだ)ちをみせる。云われずとも知れた大人の事柄(身勝手)に舌を鳴らした。


「皆、済まないがヴァイロと私。そして()()()の三人だけにしてくれまいか」


 シアンは断固(だんこ)として糾弾(きゅうだん)したい者へ敬称(信頼)を捨て去った上、顔を起こして紫色の瞳を向ける。皆に『席を外してくれないか』と選択肢を求める柔らかな態度ではなかった。


「わ、私は残るよっ!」


 リンネは白いショルダーカットの衣装を揺らして、漆黒(しっこく)に身を固めたヴァイロの(かいな)掴む(抱く)

 恋人としての甘えに在らず、腹を(くく)った態度。黒に染まった者共を照らす唯一の(輝き)を散らした。


 ──ふふッ……。


 緑色の頭髪と(そろ)いの瞳を持ったリンネをみやるシアン、声はおろか顔色にすら(にじ)ませぬ微笑みをリンネに送り往く。

 白だけでなく()(めぐ)みを与えるリンネ(竜の音)。シアン……戦場でしか生きられぬ自分には決して昔の友(ヴァイロ)(ほどこ)せない力を前に、少しだけ(うらや)んだ。


「さぁ……真実を語って貰おうかバンデ。お前は我々をこの(世界)に於ける()()()にしたかったのだな」


 リンネの態度に心の奥底だけ(わず)かに緩んだ魂を引き締め、まるで諸悪(しょあく)根源(こんげん)でも(にら)む形でバンデを言及(げんきゅう)し始めたシアン。


 声音も口調さえも全く曲げぬ(変えぬ)純粋な怒りを(はら)んだシアンの仕草。怒気(どき)を荒げて感情を表に出す(おろ)かな態度は取らなかった。


「し、シアン?」

「え……?」


 言及(げんきゅう)されているバンデよりも先に同席したヴァイロとリンネの方から、総毛(そうけ)立つ驚きを引き出した。


 カッカッ……。バンデの机上から勝手に持ち出した紙とペンを握り、簡単な図式を書き始めたシアンの取調べ(種明かし)


「先ず王国に(せき)を置く自らが()()に飛び込む事で、国そのものを戦争に巻き込んだ。お前がヴァイロに手を差し伸べなければ、戦之女神(エディウス神)は初めからカノンだけを狙う──島国の小さな内乱だけで事は済んだ」


「……」


 ヴァイロは、戦之女神(エディウス神)がディオルに進軍する以前──戦之女神(エディウス神)が連れて来たシグノに対抗すべく自分の竜を錬成する為、フォルデノ王国へ働きかけた。


 この時、既にバンデはヴァイロに惜しみない資金援助を行う一番手であった。依って以後もヴァイロはこの風変わりな貴族をアテにした。


 然も彼の屋敷は王国の東端──山林を抱えた護るには絶好の位置に屋敷を囲っていた。

 戦之女神(エディウス神)はヴァイロに対し『神同士の戦争を所望する』と(あお)りはしたが、フォルデノ王国まで戦場にするかは怪しいかった。


 されど戦に加担(かたん)した側を勝利へ導く戦の天秤(てんびん)シアンがディオルの隣に()()()()()とあっては、いよいよ後には退()けぬ神々の戦場(舞台)(おおむ)ね整ってしまった。

 ヴァイロへ傭兵として力を貸すと誓いを立てたシアンではあったが、バンデとヴァイロの密約に手を貸すのは最初から負い目を感じた。無駄に戦火を拡大する可能性を恐れていたのだ。


「……そして私とヴァイロは最初の戦端(せんたん)を開き、大勝利を収めてしまった。結果、(おご)(たか)ぶる王国からの圧力(期待)を受け、ディオル解放に向け迂闊(うかつ)に動いた。今にしてみれば自分の愚行(ぐこう)を呪いたい」


 ディオル解放へ此方から向かうのに最後まで反対していたシアン。然しながらレアットとアギド達の若さにも押し切られ、ならばせめて少数で攻め入るやり方に(てっ)した。


 派手に大軍を以て押し寄せれば『暗黒神(ヴァイロ)軍が討って出た』と報じられ、勝敗に関わらず、いよいよ黒が動いたと騒がれるのが必定(ひつじょう)だと思ったのだ。


 然しよもやな戦之女神(エディウス神)が御自ら迎え撃つ()()(ごと)き図式が成立。

 数こそ矮小(わいしょう)なれど()()()()にて派手な戦火を引き起こし、言い逃れが出来なくなった。


 パチパチパチ……。

 先ずバンデは、老いて乾いた両手を叩く称賛(しょうさん)を以てシアンへ応じた。


「流石です()()()()()()()()()()()。王国の圧力を使い貴女様の預けたお子様の所在を調べて()()()()()()()


 これ迄、どんな相手にも省かなかった敬称を除いたフルネームを用いてシアンを(たた)えたバンデの不敵(怖さ)


 つい今しがた迄、置かれた立場を()()()()()バンデが、シアンの名推理を聞き及んだ途端(とたん)に色めきだつ。シアンの云い分、すべからく当たっていた。


 亡き夫(ノイン)との間に生まれた()()()()を引き合いに出されたシアン。母親としての責任に引き()られ流石に(ゆが)んだ。


「仰せの通りです。300年前、この島以外の歴史(文化)が破壊尽くされました。アドノス島(ファウナ神の聖地)は結果的に不可侵(ふかしん)()()()()()。ですが人の世に戦争は()()()。従って()()()()()()()()()()()


 人ならざる者共をこよなく愛するバンデ──彼自身は力なき凡庸(ぼんよう)な人間で在りながら、()()()さえも取り巻く黒幕であった。

挿絵(By みてみん)

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