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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第7章 闇を背負いし覚悟 ーᚱᛖᛉᛟᛚᚠ ᛁᚾ ᛞᚨᚱᚲᚾᛖᛊー
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第68話 新たな鼓動 "ᚾᛖᛟ ♰ ᚺᛖᚨᚱᛏᛒᛖᚨᛏ"

 現人神(あらひとがみ)を名乗りながら(ろく)に教えを説かない白銀の女神エディウス──。

 無駄に戦火を拡大してアドノス島を脅威(きょうい)に堕とすだけの存在。


 彼女が落とした森の都ラファン──300年前、本物の女神であったファウナ・デル・フォレスタの故郷の中心地。ディオルは、無事にエディウスの手から解放された。


 峻険(しゅんけん)なる谷間に(おお)われた陽光(とぼ)しきカノンを守護する暗黒神ヴァイロ・カノン・アルベェリアが、ディオルの民草を()きつけた結果、林業に従事していた者共が(オノ)を手に決起(けっき)


 結局の処、(ほとん)ど他者の助けを借りずに自力で戦之女神(エディウス)軍を追い払ったのだ。


 なれど対岸の火事(他国の戦争)の結果というのは、何ともいい加減な人の思いで()じ曲がり、勝手に伝わり()()もの。

 白い神竜シグノ20騎を連れた戦之女神(エディウス)軍相手に無駄な血を流さぬよう、無血で明け渡したディオルの民。

 

 上辺(うわべ)だけの平和を打ち払うべくこの地を訪れ、解放を(けしか)けたヴァイロの息がかかった者共。ディオルに混乱をきたした元凶(げんきょう)とされ、アドノス島外へ伝わったのだ。


 見た目だけ()()戦之女神(エディウス神)──。

 元々自分達の()()()()()住処(すみか)を護りたいだけであった暗黒神(ただの魔導士)──。

 深い考察(こうさつ)をせずに善悪を決めるのが世界の(つね)というものだ。


 ヴァイロ達をさらに悪に仕立てたのは、レアット・アルベェラータが故郷の村の(あだ)を討つべく最高司祭グラリトオーレ・ガエリオと争った傷跡であった。

 村毎消失した尋常(じんじょう)ならざる恐怖(結果)だけが独り歩きした事だ。確かに事情を知らぬ者に取っては、畏怖(いふ)の対象となっても仕方がなかった。


 (もっと)もレアットと偽りのエディウスが消えた事実は、その場に居合わせたシアン・ノイン・ロッソやアギド達の目にも理屈の判らぬ状況なのだ。見聞(けんぶん)しただけの連中へ正しく伝達する道理がなかった。


 ◇◇


 戦之女神(エディウス神)の都──ロッギオネの中心地アディスティラ。

 ディオルから命辛々(からがら)撤退(てったい)果たした戦之女神(エディウス)軍以外にも、この地で命の鼓動(こどう)を静かに揺らす者達が居た。


「──ルオラとグラリトオーレの容体(ようだい)はどうだ?」


 最高司祭グラリトオーレ・ガエリオの(からだ)を借り、レアットと最後まで争った戦之女神(エディウス神)

 何故か元の姿形──白銀の長い髪を流した少女の出で立ちを以て、共に死線を潜り抜けた賢士(けんし)ルオラ・ロッギオネ・ルマンドと、グラリトオーレの身を案じていた。


 一時は依り代(よりしろ)にしたグラリトオーレの身体がレアットの()き散らしたオゾンの毒を浴び、(おろ)かしい死さえ覚悟せねばならなかった彼女が、涼やかな顔で生き長らえているのだ。


 意識を取り()かせた身体をレアットに移すべきか悩んだエディウスが元の(からだ)に戻り、身体そのものに戦いの深い傷を背負ったルオラやグラリトオーレの両者は、未だ意識が回復せず病床(びょうしょう)に伏せていた。


「ルオラ様の傷は浅いです。グラリトオーレ様は、オゾンの毒素に(おか)されたので今(しばら)く傷を(いや)猶予(ゆうよ)こそ必要ですが命に別状はございません」


 爆炎の魔導士アズールの爆炎(フィアンマ)や、コボルト族の(おさ)カネランが跳ね返した(くさり)にやられたルオラは、戦之女神(エディウス神)の司祭が回復の奇跡(プリマベラ)(ほどこ)した。


 ルオラは体力さえ回復すれば自ずと目覚める。戦之女神(エディウス神)に伝えた司祭。

 だがグラリトオーレの方は、迂闊(うかつ)に細胞分裂の活性化を(うなが)奇跡(術式)をかける訳にはゆかなかった。オゾンの毒が全身に回った故、先ずは毒消しが先決とされたのだ。


「そうか……面倒をかけるな。──処で()()()の様子はどうだ?」


 司祭の最高位が倒れた故、一時的に代理を仰せつかった司祭相手に感謝の意を()べた後、実は最も気掛かりな存在の安否(あんぴ)を確認したエディウスの複雑な心境が少女の様な顔に(にじ)む。


「そ、それがグラリトオーレ様の『終わり(ストラーダ)なき旅路(・インフィニータ)』とこの者が撒いたオゾン(毒素)を浴びながらも、順調な回復を辿(たど)っております。信じ(がた)い事です」


 知っての通り、戦之女神(エディウス神)の神殿は女神(持ち主)エディウスは元より、その周囲に集まる者共の過半が女性。

 半ば男子禁制といえた場所に安置された16歳の少年。筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な身体を眠らせていたのは、なんと(まぎ)れもなきあのレアット・アルベェラータに相違(そうい)なかった。


 エディウスが代理の最高司祭に(たず)ねた『かの者』の正体。

 代理人が全く以て()に落ちない理由──それは敵であるレアットに対して、何の処置も(ほどこ)していないにも関わらず、死んでない事実。


 冷や汗()く思いでレアットの現状をエディウスへ報告した代理人。ルオラはおろかグラリトオーレの容体より命を欠く狭間(はざま)彷徨(さまよ)うべき理解不能な存在。


 聞いた白銀の女神(エディウス)、何とも苦々(にがにが)しい表情(現実)を白に染めた神殿に混ざる()側の男──寝ているレアットへ向けた。


 ガシャガシャ……。


 戦之女神(エディウス神)と代理の最高司祭が会話している背後に迫る、純白の鎧を着込んだ女性騎士。エディウスの足元へ近寄ると(ひざ)を落とし恭順(きょうじゅん)の意を示した。


 肩辺りで切った茶髪、琥珀色(こはくいろ)に近しい瞳。

 胸に(きざ)んだ紋章が修道騎士総長の座を表す未だ20歳に満たない若さ(あふ)れた女性。何より腰に差した二刀。(さや)納刀(のうとう)した剣も漆黒(しっこく)の刃だ。この得物(えもの)だけで彼女の()が知れた。


 修道騎士()()に昇格したレイシャ・グエディエル。

 レアットの故郷へ穿(うが)った巨大な穴と、頭を下げたエディウス含め、敵であるレアットすら救ったのは彼女の力であったのだ。


「エディウス様。その男、未だ生きているとは……。()(ごの)み出来なかった状況だったとはいえ、とんだ()()を呼び込み誠に申し訳ございません」


 頭を下げたままの姿でエディウスへ弁解(べんかい)したレイシャ。味方であるエディウス達だけを救出したかった本音。レアットを『無駄』と指した(落とした)


「構わぬ……。何度も言うがお前の力に依って我は救われたのだ。(むし)ろ心から感謝している」


 レイシャの(あご)をクィッと持ち上げ、愛らしい(ほお)接吻(キス)寄越(よこ)した女神の()()()

 戦の天秤(てんびん)シアンとの争いに幾度(いくど)も敗れた罪を問われ牢獄(ろうごく)に閉ざされた彼女(レイシャ)を解放したのは、この戦之女神(エディウス神)自身だ。


「え、エディウス……様。何とも勿体(もったい)なきお言葉……!」 


 ハッと息のむレイシャの驚きと(ほま)れ。女神の施し(接吻)に恐れ多くも顔を赤らめ、持ち上げられた(こうべ)を再び()れた。


 ルオラ同様、戦之女神(エディウス神)の秘密を握る(ちぎ)りを交した彼女。

 レイシャが秘めた力の加減具合も戦之女神(エディウス神)は当然知っていた。故にレアットを救わざるを得なかった理由は、この女神にとて(さら)していたのだ。


「それにこの男、我も気になるのだ。敵側へ返すより、此方側で囲って様子を見たい」


 レイシャ的には敬愛(けいあい)する女神を救う為、戦之女神(エディウス)様の命を狙った敵を、断腸(だんちょう)の思いで()()()云わば()()()()に過ぎなかった。


 されどグラリトオーレ(偽りの女神)と互角以上の戦いを展開した上、勝手に回復しているらしい(異能)の可能性を気にせずにはいられなかったのだ。

 挿絵(By みてみん)

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