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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第47話 白き介錯 -ᛏᚺᛖ ᚠᛁᚾᚨᛚ ᛗᛖᚱᚲᛁ-

 (うつ)ろなる十六夜(いざよい)の下──。

 亡き夫ノインの力を借りたシアン・ノイン・ロッソが傷を負わされた飛竜(ワイバーン)(またが)り夜空を自由に舞う。


 対するレイシャ・グエディエルは白い神竜(シグノ)巨躯(きょく)と翼が巻き起こす力を持て余しつつも戦の天秤(シアン)一矢(いっし)(むく)いるべく己の限界を余す処なく引き出す。


 互いに異なる意味合いだが限界を迎えながらも戦士の矜持(きょうじ)を振るう。


 修道騎士(しゅうどうきし)レイシャが黒い二刀を抜刀の構えでシグノの爆発力を全開にしながら決死の覚悟を震わす特攻。


 待ち受けるシアンと手負いの飛竜(ワイバーン)──。此方の数倍は在る敵が飛び込んで来る本来薄ら笑いなぞ出来ない状況。


 されどシアンは笑う。決して余裕の為せる微笑ではなかった。 


 武者震(むしゃぶる)い──好敵手(レイシャ)は自分の力を認めたからこそ全身全霊(ぜんしんぜんれい)を以て飛び込んで来た。実に心地好い戦慄(せんりつ)、自分も全力を以て迎え討たねば申し訳が立たぬのだ。


 月の女神アルテミスの微笑みを引き出せる女戦士は果たしてどちらか?


 ◇◇


 About eight years ago──8年程前の出来事。

 20歳に成った()()()()()()()

 フォルデノ王国の外れに位置する大きな樹木を掘り抜き(こしら)えた童話にでも出て来そうな喫茶店を訪ねた。


「いらっしゃ……。嗚呼、シアンか。そろそろだと思っていた」


 40代の男性が独り、カウンターにて食器を洗いながら店じまいの準備に(いそ)しんでいた。

 紫色の()()()草臥(くたび)れた様子で()らした閉店前に滑り込む本来なら(まね)かれざる客。


 店主()()()挨拶(あいさつ)を程々に済ませ、適当に店の扉へ下げた札を『CLOSED』に返す。けれどもカウンターへ()せてしゃがんだ女性客を何故か帰そうとはしなかった。


「私が云うのもおこがましいが()()に切り上げて本当に良いのか?」


 紫のマントを肩から(かぶ)せた戦士風の女性。

 店主ノインの30分、気の早い店じまいを紫色の目線で追う。マントに()()隠した鎧から(のぞ)かす若さ(あふ)れた肌色が何とも(なま)めかしい。自宅に帰った様な()()ぶり。


 現在暗黒神(ヴァイロ)(やと)われたシアンと姿形は余り変わらぬ。なれど成人に達したばかりの若さをまるで活かし切れてなかった。


「今からこの店に来る客人は皆、私の()れる珈琲(コーヒー)じゃなく()()()()。それはこの私が面白くないのだよ」


 (あき)れた声色を響かせシアンへ返答を寄越(よこ)したノイン。白髪の始まった頭を()いた。


 自らの年齢に過半も届かぬこの娘(シアン)を受け入れるノインは、シアン・ロッソから来る都度(つど)、店を貸し切りにする決め事を(つらぬ)き通す。


 8年後、シアン・ノイン・ロッソに至った()()()が友人ヴァイロへ()()()応対に似ていた。


「私は客寄せに成っても構わない……ごめんなさい(うそ)

「知ってるよ、聞く迄もない」


 カウンターにて(ひじ)を枕に疲労が溜まった仕草のシアン。自分狙いで入店する客人(男共)を想像し、言葉を(にご)らす。


 若さ(あふ)れた頃から低音利かせたシアンの(つや)を感じさせる声。例え疲れていようが相手を揺らす。


 ノインの声音(こわね)はシアンのそれに輪を掛けた人を()き付ける魅力を(にじ)ます。

 御婦人なら誰しも彼の珈琲と心開ける相槌(あいづち)(いや)され()がれた。


 店主ノインは苦笑いだけ返すおおらかさ。

 未だ注文を聞いてない客の珈琲(コーヒー)を勝手に()れ始める。まだ20歳に成ったばかりのシアン。珈琲の(優劣)など知る(よし)もなかった。


 幼き時分(じぶん)、父を失ったシアン。

 父が生きてた人生のIF(もし)があったのなら、こんな気遣(きづか)いを受けられたやも知れない夢を見に来るのが目的。


 後は当時から戦の天秤(てんびん)と呼ばれた()()()を此処に流れる珈琲へ混ぜ込み散らした。シアン──他人の命と引き換えに路銀(ろぎん)を得るには余りに若過ぎたのだ。


 適度な気分を満たしたくノインの元を(たま)に訪れ、特にこれと言った話をする訳でもなく店を後にしていたシアンの気分屋。今の固さとは比べる迄もない。


 然も傭兵稼業(ようへいかぎょう)に明け()色恋沙汰(いろこいざた)がひと欠片(かけら)もなき(まず)しき人生を過ごしていた。


 一方ノイン、決まった相手を作らなかった。店と珈琲が彼の恋人(戦場)

 シアンとノイン──。

 いずれも恋煩(こいわずら)いを嫌う職人気質(かたぎ)な処が恋愛から遠ざけていた。

 それ故、気の合う恋人に交わる未来がやがて訪れるのだが(しばら)くの時間を要した。


 ◇◇


「シアン覚悟ォッ!」

「来るかレイシャァッ!」


 元来夜の闇に紛れる黒い剣を納刀しながらシグノの力を駆使しシアンと飛竜(ワイバーン)に向け突貫(とっかん)(はか)るレイシャの猿叫(えんきょう)(ごと)雄叫(おたけ)び。加えて白い月の輝きへ溶け込み(おぼろ)に化けた。


 ──距離700…600……。ぐぅ…! 未だ十六夜(いざよい)の重みは顕在(けんざい)か!


 レイシャが吐いた気合の叫びに合わせ、此方も叫んだシアンは文字面通りの()()()を始めていた。レイシャが仕掛けた(からだ)の重さは未だ彼女の中にて(くすぶ)り続ける。


 シアン、何故か飛竜(ワイバーン)旋回飛行(せんかいひこう)を止め、レイシャを待ち受ける一見(おろ)かさ(にじ)む。

 飛竜(ワイバーン)の体力が続く限り飛び回り、敵の狙いを(さだ)めさせるべきではない筈だ。ブリキの玩具を鉄球の眼前に置いた愚直(ぐちょく)な態度。


 ──何を狙っているか知らないけどさ! こっちはもぅ殺るしかないんだよッ!


 レイシャが不気味を感じ取ったシアンの待ち伏せ。然し今さら後には退()けぬ。乾坤一擲(けんこんいってき)を叩きこむ以外の道は閉ざされた。


 レイシャが操る白い神竜(シグノ)を地上の山林から見上げた貴族バンデからシアンが借り受けた亜人達。

 シグノが夜空へ描いた白の軌跡──人生に於いて一度切りの出逢いしか与えぬハレー(76年周期の)彗星の美麗(びれい)(はかな)さを彷彿(ほうふつ)させた。


「──シアン殿ォォッ!」


 この()に及んで未だ落ち着き払った()()シアンを見たコボルト族の長、カネランが絶望に満ちた叫びを上げた。

 紫色の(オーラ)を燃やしたシアンだがカネランにはまさしく風前(ふうぜん)灯火(ともしび)に映りゆく。


 ──0(斬る)


 十六夜(いざよい)が成す影を最大限活かしたレイシャの抜刀術。


 黒い二刀を十字に抜刀──伸ばした影でシアンの騎乗する飛竜(ワイバーン)の翼を斬り伏せ、動きを緩慢(かんまん)へ落とした処にトドメ。影ではなき真なる刃を(きざ)む腹積もり。


 ──がっ、手応えが全く以て感じ取れぬ。シアン・ノイン・ロッソと飛竜(ワイバーン)()()のみを(つらぬ)いたレイシャの大誤算。


 ──残像の幻術!?


 シアンを斬り伏せられると思えた夜空にて白き彗星(シグノ)の突貫を止めてしまったレイシャの苛立(いらだ)ち。

 本命(シアン)は幻術を突いた向こう側、手ぐすね引きながら敵が止まる好機(チャンス)を待ち受けていたのだ。


 ──たった一騎相手に『境界(ノイン)の残像』を使わされた。だがッ!


 (本気)を以て燃やした手槍を突き出し動きを止めたレイシャとシグノへ、次はシアンが特攻に全て()ける。例え質量が違い過ぎる相手でも停止したのだ。後は一点突破を狙うのみ。


 レイシャはシアンに依って(さば)きを受ける覚悟──(つい)に腹を(くく)る。

 このまま地元ロッギオネへ帰り汚名(おめい)を着るくらいなら認めた敵の手に掛かる(いさぎよ)討ち死(うちじに)(ほっ)した。

 

 だが──今度はシアンの手槍が夜空を斬る驚異(きょうい)

 レイシャの騎乗するシグノが何かに操られた様に勝手にもシアンの攻撃を()けたのだ。

 

 レイシャを(とら)えきれなかったシアン。避ける気なぞ微塵(みじん)もなかったレイシャ。両者が瞠目(どうもく)させられた。


 ▷▷──レイシャ・グエディエル! 我の赦しなく勝手に命を絶つ(おろ)か! 決してまかりならんッ!


 何処からともなく聞こえた神々(こうごう)しい叱咤(しった)の声。

 レイシャとシアン、両者の鼓膜(こまく)を魂毎揺さぶり掛けた。(まご)う事なき戦之女神(エディウス神)の声音。


 ただの一言──二人の争いそのものに女神が歯止めを掛けたのだ。

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