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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第46話 擦れ違う境界線(ᚺᛟᚱᛁᛉᛟᚾ)

 十六夜(いざよい)の月と共に白い神竜(シグノ)を操り、悩めるシアン・ノイン・ロッソの元を単騎で仕掛けた修道騎士レイシャ・グエディエル。

 態々(わざわざ)満月の夜を一晩ずらしたのは理由があった。


 何故か(からだ)が重く感じるシアンの憂鬱(ゆううつ)。理由を気づかせてくれたのは亡き夫ノインの意識だ。紫色の命燃やしたシアン、気高(けだか)き反撃の狼煙(のろし)を挙げた。


 ──一体なんだってんだい!? 彼奴(シアン)さらに動きがよくなりやがった!


 尾を斬られた手負(てお)いの飛竜(ワイバーン)手綱(たづな)を引くシアンから(ただよ)う意識の波風が明らかに変わったのを肌で感じたレイシャに走り抜けた戦慄(せんりつ)


「ビビるんじゃないよ私! こっちの優位は未だ確実!」


 レイシャ、自らに発破(はっぱ)を掛けた。借り物の神竜(シグノ)、加えて未だ効いてるべき己が仕掛けた十六夜(いざよい)(かせ)

 またもや白の月灯りへ自分達を潜ませシグノに火炎を吹かせたレイシャの牽制(けんせい)。然し()()()()の感が如何(どう)にも(ぬぐ)えぬ。


 尻尾を斬られ忘我(ぼうが)しかけたシアンの駆る飛竜(ワイバーン)。斬られる以前の動きの良さを取り戻した不可思議に苛立(いらだ)つレイシャ。

 竜に取って尾は飾りに在らず。特に空を飛ぶ能力を有する種族ならば猶更(なおさら)平衡(バランス)感覚に影響を及ぼすからだ。


 然し(むし)ろ斬られる以前より数段機敏(きびん)な動作。回転半径を(せば)めたかに映るシアンの飛竜(ワイバーン)


 軽量化? 

 飛竜(ワイバーン)は機械じゃなく生き物。そんな馬鹿げた優位などあろう訳がない。

 シアンが背負う紫色の意識(オーラ)が手負いの竜にも通じた様に思えた感覚。


 空舞う飛竜(ワイバーン)を己の手足と成してたシアン。彼女の絶妙(ぜつみょう)な空間認識能力が騎乗している竜と連動。やり方は不明だがそれ以外に説明がつかなかった。


 ──こっちはもう限界(ギリギリ)なんだよッ!


 心の奥底でレイシャが思わず吐き捨てた。

 横からの襲う遠心力(横G)、不快極まる縦揺れが伝えた前後加速度(縦G)。混ざる重さがレイシャ(乗り手)を苦しめる。ましてや神竜シグノは巨大でかつ重量も多大。


 美しい顔を(ゆが)め、存分(きた)えた首が振られるレイシャの無念。未成年のレイシャよりもさらに若くみえる戦之女神(エディウス神)は同じ神竜(シグノ)を軽々扱っていた差に心が揺らいだ。


 比較するシアンの飛竜(ワイバーン)は実に軽快(けいかい)

 重量を有り余る(パワー)で以て(おぎ)(つぶ)すシグノとは相反(あいはん)する感覚。


 レイシャ、実に腹立たしい──空中戦を(いど)んだのは己自身。

 性能差(スペック)で圧倒する予定が音を立て(くず)れゆく。同時にやはり剣士としての技量だけを振るうべきだったと今さら感じる猛省(もうせい)が依り(みじ)めさを加速させた。


十六夜(いざよい)とは心が揺らぐ時合(じあい)! これを以て私の動きを()ぐかレイシャ殿()! 実に見事だ!」


 シアン、続いて雄々(おお)しい声掛けと笑顔を(たた)えた(あお)り文句。

 焦燥(しょうそう)し切ったレイシャ、思わず冷や汗。完璧な正答を凛々(りり)しい声音(こわね)で言い当てられた憂鬱(ゆううつ)


 ──クッソ! 一々(いちいち)(かん)(さわ)る奴!


 シアンから正々堂々笑顔で言い(くる)められたレイシャの無念。仮に言い(のが)れが思いついても語る気さえ失せる。それ程(さわ)やかなシアンの(ほころ)びなのだ。


 娯楽(ごらく)堪能(たんのう)し尽くす痛快さを見せびらかせ、夜空駆ける行為に遊園地のアトラクションを楽しむ様な笑顔にて謳歌(おうか)するシアンの流し目がレイシャの前を横切る。


 レイシャ、如何(いか)にも小回りが利きそうな飛竜(ひりゅう)自分の竜(シグノ)を入れ替えたい気分。無論そんな容易(たやす)い話じゃない。

 シアンがじゃじゃ馬を(たく)みに乗り(こな)しているに過ぎぬのだ。


 一方シアンが白い神竜(シグノ)とレイシャの周囲を均等(きんとう)な円を描きながら重ねる周回。サーキットを走るレーシングカーの(ごと)寸分(すんぶん)(たが)わぬライン取り。


 シアンは紫色を燃やした瞳を用い、レイシャとシグノの体表温度を探っていた。シアンには未だ他人の知らない能力が内包(ないほう)されていた。

 レイシャの中身はシアンの想像通り──(つの)苛立(いらだ)ちが全身を赤に染めていた。シアンが見たい相手はあくまでシグノの中身(秘密)


 戦闘はド素人の貴族バンデがシアンを()()()敵の神竜(シグノ)が秘密。命を持たぬシグノが何故ヴァイロの神竜ノヴァンと()()を張れるのか。


 然も20騎も増やした本来在り得ない(絶望)アレ(シグノ)はあくまで()()()、量産可能な兵器(機械)にしては動きが(なめ)らか過ぎる。


 シグノの体表温度──。

 シアン、これも()()()()の結果なのだが困惑(こんわく)せずにいられない。

 蒼い目を(たた)えたシグノの頭部。思考を(つかさど)る脳の存在(温度)が余りに希薄(低い)


 脳が適切に機能する温度は22度から24度位と云われている。

 シグノの大脳を収めていると(おぼ)しき場所の温度があからさまに冷た過ぎた。


 首を(ひね)るシアンの懐疑(かいぎ)

 これ迄の生物に対する理論を判断材料にする安直(あんちょく)は捨て去るべきだとシアンは思考を()()()。ほんの(わず)かでも答えに近づく確証が欲しかった。


「いつ迄も好き放題させるものかッ!」


 己と騎乗するシグノを()()に見立て、惑星(わくせい)の公転思わす軌跡を描くシアンの飛竜(ワイバーン)。余りにも同じラインをなぞり過ぎたか。

 月灯りの影を使った黒い二刀の()()()──伸びた影の切先をシアンへ届かせようと試みたレイシャの再逆転狙い。


 されどシアンの方が数段上を()くのだ。

 全く以て同じ位置を回転してたかの様に思わせたシアンの狡猾(こうかつ)

 背景の十六夜(いざよい)とレイシャ達の位置は常に同じ距離感を維持(いじ)していた。

 

 だが月は地球の()()──同じ場所を回る道理がないのだ。

 シアンは飛竜(ワイバーン)(あや)りながら、()(こま)やかな算術を以てレイシャを中心に極少量の()()を描いていた。

 依って届くかに思えたレイシャが描いた剣の軌道は、シアンを(とら)え傷を負わせるには至らなかった。


 一見地味だがこれもシアンが均衡(バランス)(たも)てる能力を駆使(くし)した結実なのだ。


小賢(こざか)しいッ! ならばこれを喰らえッ!」


 遂に(ごう)を煮やしたレイシャが白い神竜(シグノ)(はた)き持てる総てを()()()全力疾走(しっそう)


 レイシャに取って今夜、これが最後の機会(チャンス)

 これ以上続ければシグノが吐き出す力に押し負け己の(からだ)が維持出来ずバラバラになる地獄(未来)が見えた。


 同時にまたしても無許可の単独行動。何も成せず手ぶらにて帰れば、己の汚名(おめい)殊更(ことさら)積み重なるのだ。

 最悪、修道騎士の座を剥奪(はくだつ)されるやも知れない。代々続いたグエディエル家にも申し訳が立たぬ。──否。次の呼吸が…心臓の鼓動(こどう)が止まろうとも文句の言えない修羅の道。


 何故こうもこの女傭兵(シアン)自分(レイシャ)(こだわ)るのか?

 考える迄もない──強者だから。然も自身よりもだ。理屈(りくつ)じゃない。当然性別でもない。名を挙げるなど如何(どう)でも良いのだ。──倒したい、レイシャの本能が欲した。


 ──レイシャの脈拍(みゃくはく)、筋肉の疲労度合……。


 されどシアン・ノイン・ロッソは争いを効率化する無慈悲(むじひ)を選ぶ。死中に活を見出(みいだ)そうと追い(すが)るレイシャ相手に、目から入る情報(データ)を元に正確な計測。


 (もっと)もシアンとてこんな出鱈目(でたらめ)なる異能を支えられる時間は残り(わず)か。

 然も夫ノインから継いだ()()()がシアンの身代わりを成し、シアン自身に掛かる負担を極限まで減らしていた。境界線(ノイン)とはよく云ったもの。

 これ以上続ければ夫から貰った()()()()が消え失せる。だから彼女もこれで決めねば後がないのだ。 

挿絵(By みてみん)

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