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<校正中>神竜戦争 儚き愛の狭間に…心優しき暗黒神の青年と愛する少女達の物語  作者: 狼駄
第8章 最終決戦その4 白と黒の決着の果てにあるもの
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第96話 ヴァイロ・カノン・アルベェリア

 エディウスを何処どこかにとどめておいて欲しい。それも誰が押さえつけるやり方じゃ駄目だ。

 そんな我儘わがままにあえて乗っかることを宣言した賢士けんしルオラと、それに同調する形となった賢士レイジとハイエルフのレイチである。

 7本とエディウスの動かせない左手に握られた計8本の意志を持ち得た竜之牙ザナデルドラ達は、魔法力マナを攻撃に必要としない連中が、やり合ってくれるので、この三名はエディウスと隣にいるエターナに集中出来る。

 エターナにも一応注意は必要だ。彼女には終わりなき旅路ストラーダ・インフィニータという相手の細胞分裂を極限きょくげんまで高めた果てに強制的に寿命を迎えさせる秘術がある。

 最高司祭さいこうしさいグラリトオーレが同じ術を行使すれば相殺そうさい出来る可能性が高いが、油断は禁物だ。

 それに一応女神を目指している彼女だ。ヴァイロのような専用術オリジナルスペルがあるかも知れない。

 もっともその彼女に詠唱時間を与えないためにルオラは策をっている………筈だ。ただゼロ詠唱で魔術が使えるようになってしまったエディウスがいては、それでも分が悪いのではなかろうか。


「ハァァァァッ!」


 レイチが早速エディウスにナイフ二刀流で仕掛ける。

 いや………先程ブーツから飛び出した一刀があるので取り合えず三刀流。

 先ずは手に握っていた2本は惜しげなくエディウスの右手を目掛け投げつけて、ブロックを強制させる。

 そこへ新たなナイフを足のさやから取り出して、それで攻撃しそうな前フリを作ってからの足のナイフによる蹴りをり混ぜた攻撃。

 ニイナが付与した攻撃力強化ヴァルキリーの術は、遂に効果切れしているが、グラリトオーレがかけた奇跡(アニマザマ)がたまたま代わりとなっている。

 グラリトオーレの先程の行動がそこまで考えてのことだったのかは正直何とも言い難い。


(思っていたよりこの術は優秀ゆうしゅうだぞ、これならエディウス相手でもいけるっ!)


 自らの動きが決しておとろえていないことに感謝するレイチ。


「デエオ・プルマ、戦の女神(エディウス)の名において命ず、『ラディーオ(落ちよ雷)』ッ!」


 此処でレイチが作った時間を使って電撃の術を仕掛ける賢士レイジ。エディウスの動きを止めようというのか。

 それにしては狙いがそこにさだまっていない気がする………と、思いきやそれは再びレイチが投げた2本のナイフに落雷したのだ。

 ………いや、それすら間違った認識であった。


「う、ウグァ!?」


 レイチが真っ直ぐエディウスに向かって投げた筈のナイフが、まるでブーメランのようなを描き、エディウスが負傷している左肩の傷に後方から当たる。

 ナイフの扱いに誰よりもけた彼だが、真っ直ぐにしか飛ばない物の軌道きどうを変えるなどという芸当げいとうは流石に出来ない。


「こ、これは偽物フェイク操舵ステアの合わせ技か!」


 レイチが投げたナイフをシアンがエドルの力、偽物フェイクを使ってコピーした上でさらに操舵ステアで操り、此処に至ったのだ。

 もう一つ上げておくとレイチが投げたナイフは、あくまで真っ直ぐエディウスが剣を握る右手に向かっていったので、これも無視する訳にはいかなかった。


「だがっ、こんな子供(だま)しと電撃によるしびれによって我の動きを止められると思うてかっ!」


 そうなのだ……。何しろ電撃と言えばミリア渾身こんしん最期の一撃、エディウスを黒焦げにした暗黒の稲妻(ヴァルミネン)

 あれですら耐えきった相手に今さらそんなもので動きを止めようなどというのは、馬鹿にしているとキレられても仕方がない。


「デエオ・ラーマ、戦之女神エディウスが第一の使徒しとルオラの名において……」


 レイジの術による制止なぞ時間にしていいとこ3秒といったところだ。なれどその裏で「ルオラの名において……」などと、今や偽物の女神(エディウス)とはいえ、全く聞き覚えのない詠唱が耳に飛び込んで来る。


「で、ディッセオ……」

「わ、私だってッ!」


 勿論エターナも知らない詠唱である。これを危険視した彼女が、終わりなき旅路ストラーダ・インフィニータの詠唱を始めようとするが、硬質化した黒い羽毛が飛び道具として、数多く襲い掛かり、これを阻止そしした。

 ハーピーであるルチエノによる牽制けんせいであった。


「クッ! あ、あんなのにッ!」

「………かの者にただよう先には立たぬ()()の念よ、果て亡き()()へ奴をいざなえ……」

「い、一体何なのだルオラその術はっ!?」

「アンタみたいな男が化けた偽物のエディーに語る事はないわ、さあ沈めッ! 自らの闇の海溝かいこうへッ! 『後悔の海(リム・ビアッギオ)』ッ!」


 正直な話、エディウスにしてみればルオラの詠唱を止めるすべはいくらでもあった。

 ただほんの少し、様々な形できょを突かれた状態からの、ルオラの専用術オリジナルスペルと聞いて、動き出しが遅れてしまった。

 誰も聞いた事がないルオラの術が完成した。一体何が起きるというのか?


「な、何だこれはッ! わ、我の周囲に何かが広がってゆく……」


 エディウスの周囲、約直径(ちょっけい)30m程に広がったもの……。それは液体のようである。さらに荒々しい白波が立ち始め、エディウスはまるでおぼれたかのように、浮き沈みを始めた。


「こ、()()の海っ!? 対象者の後悔を海へと変えて終わりのない()()へ誘う……な、何ておぞましいことをルオラ様は考えるのか……」


 偽物にせものとはいえ、我等が信じた神が、自らの後悔におぼれているのをの当たりにして、同じ賢士であるレイジが恐れ、冷や汗をらす。


 賢士の起こす奇跡……。それはどんな人の心にもひそむ闇を代価としているものが多い。

 言之刃ことのは……人の言葉は時として剣よりも相手を斬り裂く。

 心之嵐こころのあらし……人の心とは常にうつろで何かが渦を巻き、嵐を起こしている。

 心之剣こころのけん……言之刃をいよいよ本物の剣と成して攻撃する。

 とても恐ろしい言葉遊びの数々だ。


 それを極みと成したルオラが提案した心の闇の形。もうエディウスなのか、トリルなのか、はたまたマーダか知った事ではないが、そのいずれも編み出せなかったその形。

 後悔の念……何故これまでなかったのかが不自然な程、有り得る形でありながら、自分の魂を持たないとされている相手すら、そのとりこになってしまった。


 同じ賢士であるレイジが恐れをなす理由がそこに存在する。彼女ルオラ自身、相当な闇を抱えているのではなかろうかと、思わずにはいられなかった。


「ポルベルテ・ステイル……」

 ―賢士ルオラよ、何と言って良いものか……。実にありがたい方法、まるで俺のこれからの行いを読まれたのでないかと勘繰(かんぐ)りたくなるほどだ。


 そう、これはあくまで()()に過ぎない。暗黒神と呼ばれた心優しき男が、暗闇の空を指差す。


 ―それはそれは身に余る光栄。貴方の言う闇の落し所、精々楽しみにしてるわ。

 ―フッ!


 男嫌いのルオラが、利き手利き足を前に出して、深々と暗黒神に対し頭を下げる。


「さあ、俺の全身全霊をこれより落とすッ! 流石に殺れると信じたいッ! ……だが、駄目だった時は……ゴメン」


 ヴァイロ……この男は決して天才ではないし、自身もそんなこと毛程にも思っていない。努力と探求、これを直向ひたむきにやってきた土台の上に立っている。

 けれどだからこそ初めて使う魔法であってもその結果は重々に把握している。そんな男が吐露とろした「ゴメン」は皆に異様な重さを感じさせた。


 「暗黒神ヴァイロの名において命ずッ! 星屑ほしくずよ、その罪(ペナリタ)を背負いっ堕ちろォッ! 『星々の天罰(メテオカレド)』!!」

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