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<校正中>神竜戦争 儚き愛の狭間に…心優しき暗黒神の青年と愛する少女達の物語  作者: 狼駄
第8章 最終決戦その4 白と黒の決着の果てにあるもの
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第95話 たまに色男の言う事も聞いてあげるわ

 ハイエルフ・ニイナによる精霊術によるサポートは、もう受けられないものと知る。代わりになりそうなヴァイロだが、此方も世辞せじにも余裕とは言い難い。

 ならばジリ貧になるよりも、一気にカタをつける短期決戦とヴァイロは決めて、皆に宣言した。


「ハァァァァ………」


 両目を閉じて意識を一挙いっきょに高めてゆくヴァイロ。これは余程時間と集中を必要とすることがうかがえる。

 有視界戦闘ゆうしかいせんとうを自ら捨てるおかすなど本来ならあってはならない。


 ―………ヴァイロ、アイツまさかっ?

 ―それは多分ないよシアン、彼の周囲で慌てている精霊が何故かいないの……。

 ―な、それはどういう事だニイナ?

 ―………そ、それは流石に判らないの。ただシアンの危惧きぐしている術ではないことは判る。ただ………。


 その有り得ないヴァイロの行動にあの勇猛果敢ゆうもうかかんなシアンが震える身体を止められずにいる。

 そんなシアンに安らぎを与えようとしている訳ではなく、ニイナは感じた事実と推察すいさつをただ伝えているに過ぎない。


 ―ただ?

 ―…………ゴメンっ、やっぱり判らない。一つだけ言えるのは、あの暗黒神が初めて使う呪文スペルだってこと位よ。


 ヴァイロが使う魔法は自らを神と定義した言わば神聖術のたぐいだ。とは言えどんな魔法とて火・水・地・風から派生はせいするものだ。

 ニイナが「判らない……」と告げているのはこの魔法の効力だ。いずれの精霊達もさわいでいない……。

 考えられるのは体内から生ずる力を発現はつげんさせるものか、はたまたこの地上には存在しない部類の何れか。

 これらをかんがみるとシアンが恐れている魔法ではないという事が判ったらしい。


 ―誰か、エディウスを()()役割をしてくれないか。……あ、場所は此方が合わせる。


 ヴァイロの突然な御願いの心の声(言の葉)に皆が驚いている。


(考えてみればこの男が戦闘中に依頼とか珍しいな………。何なら初めてかも知れん)


 何てふと思ったのは、リンネ達がいなくなった今、ヴァイロとの付き合いが一番長い存在になってしまったシアンである。

 暗黒神などと大風呂敷おおぶろしきを広げた存在だが、周囲に自分を合わせるか、あるいは勝手に連いて来い的な戦い方をする奴だと認識している。

 もっとも事前打合せをした上での戦いは別だ。そういうのは黒い竜牙の連中と幾度も練習(シミュレーション)していたことであろう。


 ―縛る………。縛るかあ。エディウスの賢士けんしであるなら迷わず魂之束縛アニマカテナ、何だろうけど……。

 ―あらっ、アレは縛るというより魂をひねつぶす術よ、レイジ君。


 同じ賢士というクラスでありながら、最恐名高いルオラと姉レイシャのフォローに徹したレイジとでは、意見が異なる。

 ルオラの「捻り潰す……」という台詞にレイジは自分が殺られるの想像して思わず震え上がる。


 ―縛るって言うか、要はその瞬間まで留めてけッ! ………って言ってんのかァァッ!?

 ―お前(レアット)の場合、そのぶっといの(巨大剣)で抑え込むつもりだろう? それじゃあお前も巻き込むから駄目だ。

 ―んだとぉッ! 我儘わがまま言ってんじゃねえぞっ、神様よォォ!


 エディウスの動きを留めて置くだけなら正解だが巻き込むから不正解。中々難儀(なんぎ)御題おだいを告げる神様である。大声で文句を言うレアットの気分も判る。

 文句をぶつける余力をエターナに叩き込んでやろうと試みるが、エディウス本体にまたも剣同士を結ばれ止められてしまう。


 ―シアン様、僕思うのですが……。

 ―ンッ? なんだいレイチ、言ってご覧。

 ―縛るのならそれこそ蜘蛛之糸ラグナテーラ最適解さいてきかいではないかと。

 ―ん~っ……。残念ながらそれはハズレだ。


 ハイエルフのレイチが言う事は大正解に思えるのだが、シアンから優しく駄目出しを喰らってしまう。

 確かにヴァイロ自身が蜘蛛之糸ラグナテーラでエディウスを縛り上げてからの新術で決められる気もするが、それはヴァイロが解除ソルジオーネを見せる前であれば、シアンとて正解を告げたであろう。


 ―アギドの術から盗んだ蜘蛛之糸ラグナテーラを使えるエディウスであれば、解除ソルジオーネすら使える危険性もある。ヴァイロなら勘定かんじょうに入れているに相違そういない。

 ―な、成程。失礼しました……。


 シアンの解答にうなだれてしまったレイチ。「気に病むことじゃない」とシアンはたしなめる。

 ヴァイロがリンネ達と決闘をした際に躊躇ためらわず、蜘蛛之糸ラグナテーラを使った根底こんていにあるのもそれなのかも知れないとふと思う。


(精霊達に働きかけない。抑え込んで欲しいが巻き込む………。上から何かを落すというのか? 地上に存在する地、水ですらない固体………)


 このシアンの考察、実の所、もうほとんど答えと言って良いのだ。


 ―よっし、たまに色男の言う事も聞いてあげるわ。その役目、エディウスが一番弟子賢士ルオラっ! そして同じ賢士のレイジが請け負ったっ!

 ―えっ……。る、ルオラ様っ!?


 いつになく軽快な声でルオラが応じると言い出した。巻き込まれて大変困惑するレイジ。先程「魂之束縛アニマカテナじゃ駄目だ」と自分で言った舌の根も乾かないうちにである。


 ―了解っ! 何か良く知らんがとにかく任せたっ!

 ―オッケーッ! 任されたッ!

(ハッ!? 何それっ、二人共軽い(かっる)!)


 ヴァイロとルオラ、今までにない組合せの二人が、まるで友達の間柄あいだがらのように気楽に約束しあうのを見て、レイジは一人唖然(あぜん)とした。


 ―良いレイジ? ゴニョゴニョ………。


 言の葉というものがありながらレイジに耳打ちをするルオラ。言の葉(この術)はエディウスとエターナにだけ聞こえないように調整がなされているので、この格好は中々に間抜けである。

 ヴァイロの連中と違って扱い慣れてないと言えばそれまでだが、()()という文字が入った二人がこれをするのは、かなり滑稽こっけいであった。


(えぇ………)


 普通の男子であるならば、ルオラ程の女に共闘きょうとうの申し出を受け、あまつさえ耳打ちまでされれば俄然がぜんやる気を出す場面である。

 だが猫に小判、豚に真珠、男子好き(ショタ好き)に美女、早い話が勿体ない組合せだ。


 ―ルオラ……様、レイジ……様。そのたくらみ、僕もお手伝い致します。二人の詠唱時間を僕がかせぎます。


 やはり内緒話は聴こえていた。レイチがルオラとレイジに敬称を付けるのをとても言いづらそうに申し出る。


(れ、レイチ君!? やっぱりこの少年可愛いっ!)


 ()を付けるのを躊躇ためらう辺りからもう可愛いと、正直全く乗り気でなかった所に俄然やる気が湧いてくるショタ好きのレイジである。


 ―良し、判った。では持ち主のない竜之牙ザナデルドラの相手は、残った連中でどうにかしよう。往くぞっ!


 シアンも再び戦闘モードに突入し、エディウスの腕が上がらない左手に握られた竜之牙ザナデルドラに槍による連撃を見舞うことで有言実行を周囲に示す。


「牙だけなった同胞どうほうの出来損ないなぞ我が爪でへし折ってくれるっ!」

「ハッハッハッ、お安い御用だっ!」

「チッ……。ボスじゃねえのか、気乗りしねえなっ!」


 搭乗者リンネを失ったノヴァンが、尋常じんじょうならぬ速度で主不在の竜之牙ザナデルドラへ移動する。

 そのまま宣言通りに翼に生えた爪を振り下ろすかと思いきや、ワザと途中で止めてしまう。竜之牙ザナデルドラは下から応戦しようと上がろうとする。

 そこへ止めていた鋼の爪を再び落とせば、カウンターの完成だ。流石に折れはしなかったが、ヒビを入れることに成功した。


 豪快ごうかいに笑いながら迫り上がる影を幾度も撃ち込むのは修道騎士しゅうどうきしのレイシャである。

 舌打ちしながら他の武器の相手をするのはレアットだ。


 皆で力を合わせ、最後の乾坤一擲けんこんいってきを叩き込む作戦ミッションの幕開けだ。

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