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<校正中>神竜戦争 儚き愛の狭間に…心優しき暗黒神の青年と愛する少女達の物語  作者: 狼駄
第8章 最終決戦その4 白と黒の決着の果てにあるもの
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第94話 もう小細工はナシだッ!

 エターナが奇跡の盾(スクード)絶対魔法防御アンチマジックシェルを張り、魔法による争いを戦場から一切封じようとした。

 その時、魔法封じを同じ奇跡で封じるという、本来エターナにしか成し得ないと思われていた奇策を最高司祭さいこうしさいグラリトオーレが、見事やってのけた。

 これで魔法や賢士けんし等による奇跡の行使こうしは継続となるが、それはそれで戦いが泥沼化どろぬまかするという事だ。


 そんな果てがあるのかと思われる両陣営の争いを400m級の崖っぷちから冷やかな目で眺めている女が一人。

 ハーフエルフの医者、エルメタである。


「嗚呼……全く酷い有様ありさまだよ。子供達が我先にと死んで、敵味方に至っては………これじゃどっちが白か黒か判ったもんじゃないね」


 そんな事を呆れた様子でつぶやきながら、先程の神之蛇之一撃アスピーデでやられた連中の治癒ちゆを続けている。

 ハイエルフ程ではないが、ハーフエルフの彼女も人間よりははるかに長い寿命を持っている。エルフ族というものは元来、人間達の争いには加担かたんしないものだ。

 だがニイナやレイチのようにまれではあるが、人間に従い戦う者もいる。


 エルメタはどうなのかと言えば、フォルデノ王国の貴族(変わり者)バンデに頼まれ、亜人達の世話をするために此処ここにいる。

 だが肝心のバンデが裏切り、さらに仲間であった心優しく勇敢ゆうかんだったコボルトのカネランすら失い、もう正直どうにでもなれとこの状況を投げている。

 人間達に関わらない本来のエルフの立場に、ほぼ立ち返ってしまっているのだ。


「何が神同士なものか………。どちらもただの人間じゃないか。とにかく早いとこ終わっておくれよ」


 これが人間とエルフの中間という、うつろな立場のエルメタの本音であった。


 ◇


「ど、どうするの()()()? こうなっては魔導士に賢士けんし、司祭、精霊使いすらいる彼方あちらが圧倒的に有利よ………」


 グラリン程度に自分の奇跡を止められて、歯痒はがゆい顔を隠そうとしないエターナ。彼女にして見れば、このエディウスに化けたマーダが勝利してくれないことには、自分が唯一でかつ最大の戦争犯罪人になることはうたがいの余地よちがない。


「大丈夫だよ私の可愛いエターナ、我が負ける筈がなかろう?」


 そんな大言壮語たいげんそうごを吐くエディウス(マーダ)だが、ヴァイロの暗黒の刃(ネッログエラ)によって斬られた左肩の傷は治癒出来る見込みもなく、味方の竜(シグノ)達は全て竜之牙ザナデルドラに変換した。


(その身体でどうやってやり合うって言うのよ………。これじゃ話が違うじゃない。私は本当に女神になれるの?)


 これがエターナの本性サガである。それをエディウスはアギドから受け継いだ先読みの能力で知り得て苦笑する。


「………『真空の刃(アティジルド)』」


 ふとポツリッとつぶやくエディウス。アティジルドは、剣に付与エンチャントした真空の刃を撃ち出す術。

 しかしエディウス当人は、全く剣を振るってはいない。代わりに彼女の手に拘束こうそくされていない7本の竜之牙ザナデルドラが勝手に動いて、ヴァイロ陣営各自へ向かって真空の刃を放ったではないか。


「きゃあッ!」

「ええっ!?」

「し、死ぬっ!」

「こ、これではっ!」


 これには剣を受ける技量を持たない者と、避ける素早さない連中が悲鳴を上げる。ニイナ、レイジ、ルチエノ、グラリトオーレ辺りが特に騒ぎ出す。


新月流しんげつりゅうッ!!」

「雑魚は下がってなッ!!」

人間風情にんげんふぜいが生温いわッ!!」


 そこへ先ず割って入ったのは修道騎士しゅうどうきしレイシャの新月の影が立ち昇る刃。これは形状が真空の刃(アティジルド)酷似こくじしている上、斬れ味も此方がだいなり。

 さらにニイナに炎の精霊を剣2本に付与エンチャントして貰ったレアットが、竜巻も混ぜながら対抗する。

 そして駄目押しにノヴァンの炎の息(ブレス)が押し返す。

 何れも相殺そうさいをするに至り、負傷者を出さずに済んだ。


 ―あ、あの剣(ザナデルドラ)、あの形状で!?

 ―い、未だ魔法の増力器に成り得るというのか!?


 この驚きの感想は、シアンとヴァイロである。その慌てぶりを見て、エディウスが冷笑した。


「フッ……どうだ女神エターナ、これを見ても我が負けると? 大体さっきも言った通り、この竜之牙ザナデルドラが、あの暗黒神に傷一つ負わせれば此方こちらの勝ちなのだ」

「そ、そうよね……。ま、負ける訳がないわ」


 もう説明すら面倒とばかりに、自らの力を鼓舞してみせたエディウス。これには思わず冷や汗を垂らしながら頷くだけのエターナである。


 紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)でまたも赤い霧となって消え失せてから攻撃を始めたヴァイロ。

 それに続く………というより、たまたま同じタイミングで身勝手に炎の竜巻を浴びせかけるレアット。

 点でバラバラな攻撃である。対するエディウスは、自らは不動となって、7本の竜之牙(元シグノ達)に相手をさせる。


 ―ヴァイロ、聞こえているな?

 ―シアンか、どうしたっ?

 ―お前、あとどれ程魔法力(マナ)は残っている?


 シアンの接触コンタクトとニイナの風の精霊術、言の葉によるヴァイロとの会話。ヴァイロは剣で撃ち込みながら、同時に意思相通(マルチタスク)を続けている。


 ―シアン、言いたい事は判っているつもりだ。ニイナの魔法力マナが残り少ないのだな?

 ―………流石に察していたか。

 ―一応これでも魔導士なんでね。恐らくこうして言の葉で話が通じるのも、自由の翼で空を飛ぶのも、今掛かっている魔法の効果が切れたら次がないんだな?


 そういうことなのだ。ずっと影から支えている上に、雷神カドル生物召喚アルボケーレといった超高位ハイクラスの魔法すら使い続けてきたニイナである。

 むし此処ここまで保ってこられた方が脅威きょういだ。流石はハイエルフといった所か。


 ―俺も無駄撃ち(マカ・ハドマ)とか色々とやっちまったからな。デカいのは正直あと2・3発といった感じかな? 要はニイナの代わりをやれって言うんだろ?

 ―判っているなら上等………。では何故そうやって無駄に動くのだ?

 ―…………考えてるのさ。今は無駄撃ちでも暴れた方が頭がえる。そんな気がするだけだよ。


 ヴァイロは魔導士でもあるが、魔法剣士の色が濃いのは先述せんじゅつの通り。頭が真っ白になる位、レッド・ミラージュを叩き込んでいる方が、むしろ余計な詮索せんさくをせずに済む気がするという話らしい。


 ―それよりも気になるのはエディウスの魔法力マナの残りだ。………いや、そもそも残りなんて上限じょうげんすらない気がするな。

 ―…………っ!? 魔法力マナ切れの見込みなしだと言うのか?

 ―考えてもみなさいな。この斬っても斬っても死なない無尽蔵むじんぞうの体力に、馬鹿バッカでかい絶望之淵ディス・アビッソオやらムカつく威力の紅の爆炎(ロッソ・フィアンマ)

 ―むぅ………。

 ―しまいにゃ蜘蛛之糸ラグナテーラすら使いやがった。アレ、暗黒神()的に禁呪きんじゅクラスよ。上限あったら今頃、飛べてすらいないってハ・ナ・シッ!


 早い話が「やってらんねえよ此奴こいつ」って暗黒神をもってして「呆れて話にもならん」と言いたいらしい。


 ―そんなことよりお前さん(シアン)。未だに不死鳥とやらは出し惜しむのか?

 ―………そ、それは………。

 ―………いや、まあ良いってことよ。常に最善手さいぜんしゅくすのがシアン・ノイン・ロッソだ。だから信じてるよっ!


 そこまで言い切ってから、ヴァイロは攻撃の手を止めた。相変わらずレアットは遮二無二しゃにむに駆ける。

 そこへノヴァンやレイシャ、レイチも混ざり始める。要は魔法力マナを使わない連中が指示もないまま先陣に立つ。


 ―………シアン、スマンッ!

 ―な、急にどうした?

「もう小細工はナシだッ! 皆ァァッ! ちょっとそのまま任せるぞォォ!!」


 言の葉でしゃべっていたかと思えば、突如巨大な肉声への変遷へんせん。暗黒神が本気で闇を()()()覚悟を決めた。


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