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<校正中>神竜戦争 儚き愛の狭間に…心優しき暗黒神の青年と愛する少女達の物語  作者: 狼駄
第8章 最終決戦その4 白と黒の決着の果てにあるもの
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第93話 何事も諦めずに挑戦してみるものですね

 リンネ・アルベェリアになってくれた彼女の末期の底抜けな笑顔。あの笑顔にヴァイロはどれだけ心(いや)されたか、救われてきたか、もう思い出せる数だけでもキリがない。


 いや、リンネだけじゃない。


 一番弟子のアギド。常に冷静クールで大人の自分なんかより余程、頭の切れる奴だった。青い目に青い髪も彼を象徴しょうちょうしている出で立ち(いでたち)だった。

 でもその頭の良さでヴァイロを馬鹿にするような無作法ぶさほうは持ち合わせていなかった。ただ………最期が余りにも真っ直ぐで不器用過ぎた。


 最年少のアズール。子供じみてると言われると怒り出す彼だったが、それをい目に感じている様子はなかった。

 とにかく発破の魔法が大好物で、赤い目に赤い髪は、アギドと同様に彼の生きざまそのものだった。

 カノンに黒い竜が欲しいっ! 彼の落書きのお陰でノヴァンを生み出すきっかけを得られた。


 そしてもう一人……。アルベェリア姓を最初に名乗ると言い出したミリア・アルベェリア。

 彼女の片思いから始まった恋は、正直言って初めの内は刺さらなかった。リンネよりもさらに歳下なのに大人びていた彼女。

 実はちょっと無理して背伸びしているところも見て取れた。

 だが、それがまた愛おしい存在だった。皆の背中をあずかろうと最期の最後まで自己犠牲じこぎせいを払った彼女の有りようにもそれが息づいていた。

 リンネと違い、夫婦らしいことはロクにしてやれなかった。もしあの世で再会出来る許しをえるのであれば、あの夜の()()()()()()


 皆、皆、大好きだったと心底ヴァイロは思うのである。最後にリンネは「闇の中に道を切り開いてくれた。そんな覚悟がある貴方が皆、大好きだった」と言ってくれた。

 ヴァイロ自身は自分のやりたいように、生きただけのつもりなので、彼等の道を示したなどとは到底とうてい思えない。言えた義理ぎりじゃない。


「ハァァァァッ! 紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)!」


 不意にヴァイロは、愛刀を両手で握り、目一杯の力を込めて、エディウス相手に振り下ろした。

 赤い霧に変わることも、魔法の一つも全く使わずに。これは当然エディウスの竜之牙ザナデルドラに弾かれる。


「フッ、今さら何の真似だ? 暗黒神ヴァイロの成れの果てよ」

「リンネは言ったっ! 最期まで足掻あがいてみせろってなっ! エディウス、身勝手で悪いが前言撤回ぜんげんてっかいさせて貰うっ!」


 紅色の歪な大剣(レッド・ミラージュ)でエディウスを指しながらヴァイロは、泣きらした顔で堂々と宣言した。

 エディウスにして見れば飛んだお笑いぐさだ。つい今しがたまで、自分にその身をささぐと誓った男の転身てんしん。それも愛した女を見殺しにした上でだ。


「ほぅ? 自分の罪を我と共に永遠にあがなうのではなかったのか?」

「それはお前を倒してから考えようっ! エディウス・ディオ・ビアンコ! 俺の最後の悪足掻わるあがきに付き合って貰うっ!」


 此処に至るまで煮え切らなかった男が、ようやく出した答えがこれだ。誰に愚鈍ぐどんののしられても仕方がない。


「フゥ………。ヤレヤレだぜ。ようやくその答えに辿り着いたかヴァイロさんよォォッ!」

「クッ!」


 続いてレアットが大気の力を一切使わない言わばき身の2m二刀流をエディウスへ向けて叩き込む。

 これも当然エディウスに防がれるが、自重と二刀である分を右手1本で防ぐ羽目になったのでヴァイロよりは、いくらかマシな攻撃になった。


 まるで自分のやり方にわざわざ付き合ってくれたように感じるヴァイロ。

 そう言えばこのレアットという大男。口こそは悪いが、リンネ達歳下連中のことを()()()とか()()とか言ってたことをふと思い出す。


「よっしゃあぁっ! じゃあやるかレアットッ!」

「アァッ!? 俺様は手前テメェに言われる前からそのつもりだッ!」

「喰らえ新月流しんげつりゅうぅぅ!!」


 ヴァイロとレアットのやり取りをガン無視して競り上がった影の刃が、200m先辺りから襲い掛かる。


「うぉっ!?」

「れ、レイシャ、貴様ッ!」

危ない(あっぶねえ)な、おぃッ!」


 これにはヴァイロ、エディウス、レアット、三者一様に避けるしか選択肢がない。敵味方関係なく斬り裂こうとする新月の刃だ。


「よくもよくもよくもっ! 私の可愛いエディーちゃんに化けるとかフザけた真似をしてくれたわねっ! マーダだかダーマだか知らんが、絶対ぜぇぇたいっ容赦しないッ!」


 怒髪天どはつてんの表情でレイシャが大声の文句をれる。しかし「マーダ位覚えなよ……」と誰かがつぶやく。


「………重い槍となって同士を撃てっ! 『想鬼槍デモンサチア』!」


 そんなレイシャの胸の前で形成された巨大な槍のシルエットが、エディウスに向けて一目散に飛ぶ。

 これをエディウスは、魔法を斬り裂く竜之牙ザナデルドラで真っ二つに斬り裂いた。


「あらあらレイシャ、神に仕える修道騎士しゅうどうきし様が、随分と大きな想い()を……。って言うか”私の可愛いエディーちゃん”って良くもまあ抜け抜けとっ!」


 宙に浮いているというのに、まるで宮殿の椅子に足を組んだ座って形の賢士けんしルオラ。何処までも優雅ゆうがであろうとする。

 膝まで伸びた長い髪をかき上げる仕草をしながらレイシャに向かって文句を言う。


「ビータ・ポテンザ、戦之女神エディウスよ!  我に応えよ! この命の力、魂の炎の揺らぎをこの者等へ捧げよっ『魂の補翼(アニマザマ)』!」


 生真面目きまじめな最高司祭グラリトオーレが使いし奇跡は、生き残ったヴァイロ陣営へ自らの魂の力を分け与え、攻撃力へと変化し割り振る。

 彼女の程の使い手でないと、「()()()()……」とはならない。「()()()……」と個に対する効力となる。


「炎の精霊達よっ! かの者の剣に宿れっ!」

「させるかっ!」

「やらせはしない………」


 ハイエルフのニイナがレアットの巨大剣に炎の精霊を付与エンチャントすべく詠唱しようとしたところへ、エディウス自ら邪魔しに入る。

 これを冷静な呟きと共に戦乙女ヴァルキリー魂の補翼(アニマザマ)の強化を存分に活かしたレイチがブーツに仕込んだナイフの上段蹴りで防いで見せる。

 手に握ったナイフでは、寸での差で間に合わなかったであろう。


「うぉっ!? お、俺の剣が燃えているっ!」

「これでもう思う存分やっちぇってっ! 大気使いのレアットさんっ!」


 これで濃縮酸素と組み合わせれば爆発的な攻撃を、レアットは再び繰り出せる。

 最初からこうすべきだったのでは? そう思われるかも知れないが、()()()というものを知らないレアットからの巻き込みをニイナは恐れていたのだ。


「もう魔法を使わせはしないッ! 女神エターナの名において………」

「そうはさせませんッ! 戦之女神エディウスよ………」

「………この偉大なる力で悪しき力を全て封じる奇跡の盾(スクード)を!」

「………その偉大なるお力で悪しき力を全て封じる奇跡の盾(スクード)を!」


 最早魔法だろうが、奇跡だろうが百害あって一利なしと考えたエターナが絶対魔法防御マジックアンチシェルの奇跡を使おうとする。

 それに合わせてグラリトオーレも、全く同時に奇跡の盾(スクード)を詠唱する。


 色身の違う光り輝く巨大な矢同士がぶつかり合う。エターナの方は金色の光であり、一方グラリトオーレの方は緑色の輝きだ。


「え………、そ、それは、その色はまさか………」

「何事も諦めずに挑戦トライしてみるものですね」


 驚きの声を上げるエターナに対し、凛々(りり)しい態度で応じるグラリトオーレ。

 この立ち合いは、エターナがヴァイロ側でグラリトオーレの奇跡をことごとく封じたやり方を、完全にやり返した形であった。

 神に仕えし者が、神を名乗ろうとする者に歯向かう神喰い(ゴッドイーター)をやり遂げた。

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