プリシラ視点
「君がプリシラか?」
王太子ジュディアンとはじめて会ったのは、プリシラが7才の時、婚約者に決まり王宮で対面した時だった。
輝く金髪に、意思の強そうな青い瞳の美しい少年に「よろしくな」と輝くような笑顔を向けられた時、プリシラは一目で恋に落ちた。
それと同時に、あることを思い出してしまった。
それは、ここが恋愛小説の世界で、『プリシラ』は主人公とジュディアンの恋路を邪魔する悪役令嬢であるということだった。
(私、悪役令嬢なの?ジュディアン様に婚約破棄されるの?そんなの……いや)
唐突に前世の記憶を思い出し混乱している上、ジュディアンに婚約破棄されてしまう未来を知ってしまったことにより、プリシラは泣き出してしまった。
気がつけば「嫌いにならないでください」とジュディアンの手を握りしめて泣きながら訴えていた。ジュディアンにしてみれば、顔合わせで、挨拶した途端に、まだお互いをあまり知らないにも関わらず「嫌わないで」と泣かれるという対応に困る状況だっただろう。気が触れたと思われてもおかしくなかった。しかし、ジュディアンはプリシラの手を握りしめ「大丈夫だよ」と言ってくれたのだ。
ジュディアンの優しさに触れ、プリシラは更に彼を好きになった。
その時の記憶は、ジュディアンにもしっかりと刻まれているようで、折に触れて「あの時のプリシラは、本当に可愛いかったな」とからかわれている。
ジュディアンとの婚約関係は何事もなく順調に築いていった。
独占欲の強いジュディアンの言動は、寂しがり屋なプリシラにとっては甘美な束縛で、愛されていると実感し安心することが出来た。
そして小説の主人公との出会い。
主人公のアイラとは、当初出来るだけ関わらないようにしようと思っていた。
主人公と関わることで、強制力的なもので彼女を虐めてしまうのではないか、そしてジュディアンに嫌われてしまうのではないかという心配があったのだ。
けれど教室に入って、一人でつまらそうに本を読んでいるアイラと、遠巻きで彼女のことをヒソヒソと卑下するクラスメイトと見て、プリシラは思わず声を掛けていた。
席が隣同士ということもあって、アイラとはよく話すようになった。
危惧していた強制力的なものはなく、プリシラはホッとした。
ひとつ気になったのは、小説のアイラとは少し違うことだった。
確か小説のアイラは治癒魔法が得意だったが、今のアイラは攻撃魔法が得意だ。それに、大人しく控えめな性格ではなく、思ったことは臆することなく発言するサバサバした性格だ。
ジュディアンが「俺の婚約者に馴れ馴れしくしすぎだ」と独占欲を垣間見せたときも、「私たちは今、友情を深め合っているところなので、殿下は近づかないで下さい」「殿下とプリシラは婚約者ですし、学園の外でも会えるじゃないですか……私は、ここでしかプリシラを愛で……プリシラとお話出来ないんですよ。少しくらい多目に見てください」と言い返していた。
王太子の婚約者として仲良くなろうとしてくれる令嬢は沢山いた。でもその肩書きなく仲良くなろうとしてくれた者は初めてだった。
プリシラは嬉しかった。
いつの間にか、関わらないでおこうと思っていた主人公の事を好きになっていた。
彼女が転生者で、プリシラも転生者だと確認してきた時は、自分が前世の記憶を思い出した時のように驚いたが、だから小説のアイラと違うのだと納得もした。
ジュディアンとアイラは、よくプリシラの事で言い合いをしている。
「だから、お前はプリシラと仲良くしすぎなんだ。俺とプリシラの時間を削るな」
「うわ、独占欲強すぎませんか?私もプリシラを愛でたいので、お断りです」
そんな言い合い。
ジュディアンは変わらずプリシラに対して独占欲強めだし、アイラはお互い転生者だと話したことで、遠慮がなくなったのか、「プリシラは私の推しだから!」「今日も可愛い。尊いわ~」などと、今まで秘めていたという心の声が駄々漏れになっている。
そんな二人に挟まれ、プリシラは嬉しそうに微笑んでいるのだった。
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