第二章 おかえりのある部屋 最終話 おかえり
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 最終話 おかえり
夜。
部屋の中には、料理の匂いが少し残っていた。
テーブルの上には、使い終わった皿。
ソファには、無造作に置かれたクッション。
窓の外では、静かな風がカーテンを揺らしている。
何でもない夜。
でも。
玲司にとっては、大切な夜だった。
藤堂は、風呂上がりの少し濡れた髪のままソファへ座っている。
その姿が、もう当たり前みたいに部屋へ馴染んでいた。
玲司はキッチンでコップを片付けながら、小さく笑う。
少し前まで。
この部屋は、ただ静かなだけだった。
仕事を終えて帰って。
一人でご飯を食べて。
寝るだけ。
それでも平気だった。
でも今は違う。
“ただいま”って帰ってくる人がいる。
“おかえり”を言いたい相手がいる。
その変化が。
こんなに温かいなんて知らなかった。
藤堂が、ソファから玲司を見る。
「……玲司さん」
「ん?」
「こっち来てください」
玲司は少し笑いながら、ソファへ戻る。
隣へ座る。
その瞬間。
藤堂が自然に肩へ寄りかかってきた。
重み。
体温。
落ち着く匂い。
もう、その全部が愛しかった。
しばらく、二人とも何も話さない。
でも。
沈黙は、もう寂しくない。
藤堂が、小さく息を吐く。
「……帰ってこれる場所あるの、いいですね」
玲司の胸が、じんわり熱くなる。
最初は。
ただの再配達だった。
インターホン越し。
数分の会話。
それだけだったのに。
今は。
こうして隣にいる。
玲司は、小さく笑った。
それから。
自然に藤堂の髪を撫でる。
「……お疲れさま」
藤堂が、少しだけ目を細めた。
嬉しそうに。
安心したみたいに。
その表情を見ていると。
“好き”が、静かに積み重なっていく。
藤堂が、小さな声で言う。
「……ただいま」
玲司は、ゆっくり息を吐いた。
そして。
優しく返す。
「おかえり」
静かな部屋。
夜の匂い。
好きな人の体温。
大きな出来事なんて、何もない。
でも。
そんな何でもない日々を。
これからも、二人で重ねていく。
そう思えた。




