第一章 再配達の夜 第六話 不在票
# 第一章
## 再配達の夜
### 第六話 不在票
雨だった。
朝からずっと、細かい雨が降り続いている。
玲司は会社の窓から外を見ながら、小さく息を吐いた。
こういう日は、なんとなく気分まで重くなる。
電話対応。
修正依頼。
終わらない確認作業。
気づけば、時計は二十一時を回っていた。
玲司は肩を軽く回しながら、パソコンを閉じる。
疲れた。
今日は特に、誰かの声を聞きたい気分だった。
駅へ向かう途中、スマホが震える。
【まだ仕事ですか?】
藤堂からだった。
玲司は少しだけ口元を緩める。
【今終わった】
既読。
すぐ返信。
【お疲れさまです】
そのあと。
【雨、大丈夫でした?】
玲司は歩きながら、小さく笑った。
自分のことみたいに聞いてくる。
その感じが、少し嬉しい。
【そっちは】
送信。
既読。
少し間が空く。
【びしょ濡れです】
玲司は思わず吹き出した。
【風邪ひくよ】
【玲司さんが優しい】
その返事に、胸の奥が少し熱くなる。
駅前へ着く。
傘を差した人たちが足早に通り過ぎていく。
玲司はスマホを見つめたまま、小さく息を吐いた。
会いたい。
ふと、そんな言葉が頭をよぎる。
でも。
さすがに重い気がして、打ち込めなかった。
帰宅。
玄関の前で、玲司はポストを開ける。
そこには、一枚の白い紙。
不在票。
玲司は、一瞬動きを止めた。
差出人を見る。
先日頼んでいた本だった。
そして。
担当者欄。
――藤堂 湊
玲司は、ゆっくり息を止める。
今日、この雨の中。
ここへ来ていた。
自分がいない部屋へ。
ポストの前で、しばらく動けなかった。
スマホが震える。
【今日、届けたかったんですけど】
玲司は画面を見つめる。
【ごめん、仕事長引いた】
既読。
【仕方ないです】
そのあと。
【でも、ちょっと残念でした】
胸の奥が、静かに締め付けられる。
玲司は、不在票を指先でなぞった。
たった一枚の紙。
でも。
そこに残っている名前が、妙に愛しかった。
部屋へ入る。
雨音が窓を叩いている。
玲司はスーツのままソファへ座り込んだ。
スマホを握る。
そして。
気づけば、メッセージを打っていた。
【今からって、もう無理?】
送信した瞬間。
玲司は、ゆっくり目を閉じた。
雨の音だけが、静かな部屋に響いていた。




