月下美人 その5
何でもお母さんは有名な深川芸者で、さる大物政治家に囲われていたそうな。しかしゆうこが五歳の時に収賄事件で政界を追われ母子二人になるも、数ヶ月後には老舗洋菓子屋の御曹司に見染められ、その後母子二人何不自由なく生活して来たという。
彼女の生き様はまんま母上の辿った道なのか、俺は深く納得してしまう。
「よいしょっと。便所行ってくらあ」
自他共に否定し難いおっさんだ。すこーし肌けた浴衣のまま、クイーンがトイレに行く。それにしても二人の思わぬ過去に思わず感嘆してしまい。
「ゆうこちゃん、クイーンの事大好きなんだね…」
「好きとか尊敬とか、そんなレベルでなく、当時の私の全てでしたよ」
「そっか。アイツ、そんなに人望あったんだ…」
「万引きなんてしていない、って泣き叫ぶ私をギュッと抱きしめて、『わかってる。待ってろ、落とし前つけてくるから』って。どうしてこの人、女なのっ? て神様を恨みましたよ」
ゆうこは目を潤ませながらしみじみと呟いた。女の友情。なんかいいな。
「でも、そもそも何で、ゆうこちゃんにそんな疑いがかかったの?」
「私のカバンに精算されてない毛染めが入ってたんですよ」
不意にゆうこが俺に近寄り、俺の目を直視する。
「せんぱいも私が取ったと思います?」
潤んだ何かを訴えかけるような目。男はその庇護欲を最大限に引き出さざるを得ない。
「ま、まさか。だって裕福だったんだろ。その必要性がない…」
「ですよね。じゃあ信じてくれますよね」
更に顔が近づく。互いの息が感じられる程に。そしてその距離がジワジワと近寄る。思考が、魂が吸い寄せられる。魔性だ。わかっている。でも、もうどうでもよい。このまま。もっと…




