はじまり その12
「じゃ。また来いよ」
「ああ」
「明日もやってっぞ」
「四日連チャンになるのか? 遠慮しとくわ。って、へ? この店定休日、何曜だよ?」
クイーンは俺の顎の真下で、近いって…
「ん? 休みは盆暮れ正月だけだな、そー言えば」
…そんなに? ブラック過ぎねえか? まぁ、客もそんな入ってねえから、そんなもんか。
「だから明日もやってっぞ」
少し照れながら、しかも思いっきり視線を下に向けながら… ヤバい。可愛いじゃないか… なので、思わず、
「この店、もっと美味かったらしょっちゅう来るんだけどな。そうだ、美味い深川メシでも食わせてくれりゃ、毎晩来てもいいぞ!」
クイーンは顔を上げ、首を傾げながら
「深川、メシ? って、あのアサリご飯かぁ、美味ぇかそんなに?」
「美味えよ、大好きだよ」
「よぉし。明日にでも忍に作らせっか。だから、明日も……」
またクイーンが下を向いてお地蔵さんになってしまう。
俺もその姿の可愛さにかなり胸がキュンとなってしまい、つい
「お、おお。考えとくわ」
なぞと、前向きな発言をしてしまう。
「じゃ、行くわ。今日は、あんがとな」
「昨日だし」
二人のお地蔵は照れながら下を向く。
「おお、もう明日か。じゃ、じゃあな」
「ああ、そんじゃ、またな」
そう言い合って見つめ合うこと三十秒。
は、早く帰りたい… だけどパッと振り返って歩き出すのが、何だか申し訳ない。クイーンが背中を向けてくれればいいのだが、じっと俺を見上げているもんだから、こっちも背中を向けれない……
仕方ないので、一歩ずつ向き合ったまま後ろに下がっていくことにする。十歩も下がれば、クイーンは背中を向けて店に入って行くだろう。
十歩。下がったが、ずっと手を振ってニコニコしてやがる…… 意外に粘着質なオンナじゃねえか…
もう十歩下がる。それでもまだ手を振ってくれている。恥ずかしい、照れっぱなしである。
さすがにこれ以上下がると、頭の上に輪っかが浮かぶか背中に羽が生えてしまうので、角を曲がって家に向かった。
これから二人。どうなるのだろう。ふと空を見上げると、珍しく星が瞬いていた。




