第十八話 竜騎士ハイドラ・その一
お待たせしました。十八話です。少し短めですが、ハイドラ戦の導入部となります。
誤字や脱字がございましたら報告をお願いします。
ハイドラは現時点では《神世界アマデウス》最強のプレイヤーとして君臨している。
職業熟練度や装備品自体は最前線をひた走っているプレイヤー達とそう変わらない。極端にレベルが高い訳では無いし、ドラゴン系統のレアな素材を使った装備品を身に付けているとは言え、それも常識的な性能で収まっている。
ハイドラが最強たる所以はプレイヤースキルがずば抜けて高い所にある。単純に戦闘技量が他を圧倒しているから、誰もハイドラに追い縋る事すら出来ずに敗北を喫するのだ。
VRMMORPG《神世界アマデウス》。
それは仮想世界を現実の如く味わい、夢のような体験を万人に与える奇跡のゲーム。
しかし、それ故に現実での才能の差がはっきりと顕れてしまう、シビアかつリアリティ溢れるゲーム。
【戦いの才能の頂点】とも言うべき存在であるハイドラが、瞬く間に《神世界アマデウス》の最強の座を手にしたのは必然だったという事だ。普通のゲームでどれ程指先を鍛え上げていたとしても、VRゲームでの武器の切っ先には敗北する定めにあるのだから。
――――逆説的に。
ハイドラと同じく【戦いの才能】を持っているプレイヤーがいた場合、あるいは現実世界でも濃厚な戦いを経験しているプレイヤーが存在した場合。
可能性の話ではあるが――――もしかするとハイドラを最強の座から引きずり降ろす事が出来るかも知れない。もちろん修羅の如し修練が必要ではあるが、確率はゼロでは無いのだ。
《神世界アマデウス》はまだ始まったばかり。可能性は無限に存在し、最強の座を目指す者達も無際限に増殖し続けている。
これから始まる戦いも序章に過ぎない。《神世界アマデウス》における最初の一ページ――――または最初に手に取るべき一冊目。
即ち、最強の開幕戦である。
――――――――――――――――――――
打倒ハイドラという目標を掲げて早三日。
職業熟練度を存分に上げ、装備品を整えて、魔法の訓練も並行して行い――――準備万端と相成った。
『……知り合いからの情報だと、最近ハイドラは第二のダンジョン〈レッドストーン・バレー〉周辺を徘徊しているらしい。あそこには隠しボスが居るから、それが目的だろうな』
ムサシから受け取った情報を元にハイドラを探して回る。
レベルも上げた。装備も新調した。新たな戦法も生み出した。
後は結果を出すだけだ。強くなった証として、ハイドラを打ち倒すという最大の目標を果たす時が来たのだ。
「………………………………」
〈レッドストーン・バレー〉の周囲を探し、いなければ〈レッドストーン・バレー〉の内部を見て回る。ハイドラの姿が無いか目を皿のようにして探索を続ける。
ムサシやマリーも探索を手伝ってくれている。互いに単独行動を取り、ハイドラを見つけたら〈インスタント・メッセンジャー〉を通して知らせる手筈となっている。二人とも俺とハイドラとの戦いを見届けたいと言い、こうして協力してくれているのだ。
「…………ん?」
しばらく〈レッドストーン・バレー〉の内部をモンスターを倒しながら進んでいくと、見覚えのあるプレイヤーの姿確認した。目的の人物たるハイドラでは無いが、つい先日出会ったばかりの知り合いである。
ハイドラを優先して探しているだが、せったく見掛けたのだし声を掛けるぐらいはしておいても良いだろう、と判断した俺はそのプレイヤーへと近付いた。
「よぉ、ミケネコ。〈魔法訓練施設〉ぶりだな」
「えっ? ……あぁ、ナギか。おっひさー☆」
俺が声を掛けるとそのプレイヤー――――ミケネコはこちらに振り向いて挨拶を返してくれた。相変わらず人懐っこい笑みを浮かべていて、無邪気で明るい印象を与える雰囲気を纏っている。
「アンタはダンジョン攻略でもしに来ているのか? ソロで第二のダンジョンに挑んでいるなんて、相当にレベルを上げているのか……それとも命知らずなだけか……」
「アハハ~。そういうアンタだって一人じゃん! 意外と似た者同士だったりしてね、オレ達って!」
「いや、俺は一人で挑んでも問題無いぐらいには職業熟練度を上げて来てるぞ?」
〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉では一人で挑んではボコボコにされていたが、今回はキッチリ職業熟練度を上げているのでデスする心配は殆ど無いだろう。今ならば五体のモンスターに囲まれても斬り抜ける事が出来ると確信を持って言えるぐらいには、自分が強くなったと自負している。
「オレだってレベルは上げてるよ。けど今回は別にダンジョンを攻略しに来ているわけじゃないんだよ? 【アイテム素材】集めやクエストを達成しに来たわけでも無いしね」
「じゃあなんでこんな所に……?」
攻略でも経験値稼ぎやアイテム集めでも無ければ、何を目的としてわざわざダンジョンに入り込んでいるのであろうか?
「アンタを見掛けた時と同じだよ。気になるプレイヤーが居たから遠目から観察してただけ。有名なプレイヤーなんだけど、ちょっと危ない奴だから近付かずに動向を窺っていたの」
「有名なプレイヤー……それって、もしかして……」
ミケネコが俺が話し掛ける前まで見ていた方向を確認する。
すると――――見覚えのある緑色の鎧を纏った騎士が、遠くの方で巨大なモンスターと戦っているのが見えた。当然の如く、竜騎士ハイドラである。
「超難関クエストの最終ボスである〈魔爪神将アラバ〉と一騎討ちで戦っててさ。あれと一対一で戦おうとするなんて余程の好き者だよね~。〈アラバ〉って第四のダンジョンのボス以上に強いんだよ?」
ミケネコのいう通りハイドラが戦っている巨大なモンスターは、見ただけで相当強いと判断出来る程に強靭かつ剛毅な風貌であった。
ケンタウロスのような人馬一体型のモンスターであり、しかし上半身は悪魔の如きの異形を象っている。特に両腕が尋常じゃなく発達しており、鋭く禍々しい死神の鎌のような爪が片手に五本、両手合わせて計十本も備えているのだ。あんなモンスターが弱い訳が無い。
「……まぁ、もう決着が付くけどね」
だが、そんな強大なモンスターの命運も尽きようとしていた。
〈アラバ〉がその巨体を活かした突撃を仕掛けても、その発達した両腕を振り回しても、大口を開けて圧倒的な熱量を誇る猛炎を吐いても、ハイドラには掠りもしない。
完全に〈アラバ〉の攻撃・行動パターンを見切ったハイドラは嵐のような猛攻をものともせず、むしろ反撃して着実にダメージを与えている。端から見ていると〈アラバ〉が可哀想に思えて来るほどに一方的に攻撃を叩き込んでいるのだ。
時に華麗に舞い、時に獰猛に襲い、時に流麗に踊り、時に堅実に走り――――。
「戦闘開始から約15分! ソロプレイとは思えないスピードでの討伐でした!」
ミケネコの宣言の通り、ハイドラが〈アラバ〉の顔面に一撃を突き刺すと同時に、巨大な身体は光と共に雲散霧消した。ハイドラが見事にボスモンスターを討伐した瞬間であった。
「…………ははっ……」
冷や汗が頬を伝っている気がした。〈神世界アマデウス〉でそこまで再現されているのかは知らないが、少なくとも肝が冷えるぐらいには戦慄を感じたのは時日だ。
最早笑いしか出てこない。それだけの衝撃であった。それだけの強さであった。あれこそが最強に相応しい実力を持つプレイヤーなのかと、改めて認識したのだ。
「凄まじいねぇ。噂には聞いていたけど、噂以上の強さだ。まだサービス開始から二週間と少ししか経ってないのに、もうあのクラスのボスを一人で倒すなんてさ」
ミケネコの言う通り、常軌を逸した存在である。一体どれ程の才覚があれば(ゲームの中とは言え)あの強さを手にする事が出来るのだろうか。少なくとも千人に一人の強者とかいうレベルでは無く――――千年に一人の天才と言うべき逸材なのだろう。
そんな大天才に愚かにもリベンジを果たそうとしているのが、俺という凡才である。リアルでは喧嘩慣れこそしているが、それはあくまで素人が数をこなして得た常識的な強さでしかない。ハイドラのような本物の天才は凡人が数十年掛けて歩む道を僅か数年で踏破する。真っ当な勝負ではハイドラに勝てるはずは無いのだ。
「…………正に最強だな。けど、だからこそ……」
だが――――そのような道理は認めない。
確かにハイドラは強い。凡人では届かない天上の星と称しても過言では無い程に。
しかし、それで怯む俺では無い。身体の震えを武者震いだと嘯き、頬に伝わる汗を高揚によるものと断じ、勝てる訳が無いという真理を鼻で笑う。そうして無茶苦茶な戦いに身を投じて、根性と気合いを動力として勝ちをもぎ取るのが俺であるのだ。
勝ち目が無いなら作れば良い。格上の存在なら這い上れば良い。例え天上の星であったとしても、凡人では届かない領域に居たとしても、見えている以上は何時かは辿り着ける可能性はある。
「――――ムサシ。ハイドラを見つけた。〈レッドストーン・バレー〉内部の周囲が尖った岩で囲まれている広場だ」
『――――了解。〈アラバ〉の出現ポイントか。そこはクエスト以外ではモンスターがポップしないから、PVPするのに適した場所でもある。思う存分に戦えるぜ』
「あぁ、そうだな。俺はマリーに報告した後にハイドラに挑む」
『OK。オレも直ぐにそこに向かう』
〈インスタント・メッセンジャー〉を使ってムサシに報告。その後に別の〈インスタント・メッセンジャー〉に装備を変更してマリーにも報告する。
「――――マリー。〈レッドストーン・バレー〉内部でハイドラを発見したぞ。尖った岩に囲まれた広場だ」
『――――尖った岩に……あ。目視で確認しました。直ぐに向かいます……』
「そうか。俺はこれよりハイドラと戦う」
『……分かりました。ナギさん……ご武運を……』
通信が終了したら、一度深呼吸をして気分を整える。高揚感を調整し、冷静さを保持し、戦意を維持する。
中学生時代には良くやった行為だ。デカイ喧嘩をする直前にはこうして深呼吸をする事で、自分自身のスイッチを切り替えていたのだ。平常時のテンションから、本気の喧嘩をする為のテンションに。
「…………今のって〈インスタント・メッセンジャー〉? ハイドラと戦うとか言っていたけど……マジで?」
そんな俺にミケネコが興味津々に訊ねてくる。信じられないと驚愕した表情と、これから起こる事に対する期待によって笑みに染まった表情を両立させて、こちらの顔を覗き込んでくる。
「そうだ。俺はハイドラと戦う為に今まで必死に修行染みた事をしていたんだ。その結果をここで出し切るつもりだ」
「本気!? うわっ、マジでハイドラに喧嘩を売るつもりなんだ!? ハイドラから喧嘩を仕掛ける事は多々あれど、あの化け物クラスのプレイヤーに挑もうとする人がいたなんて!」
ミケネコはやんややんやと大騒ぎする。俺を馬鹿にしているわけでは無く、単純に面白いものを見つけたと喝采しているのだ。
「凄い凄い! ねぇねぇ、オレ観戦していい!? アンタがハイドラ相手にどう立ち回るのか――――どう勝つつもりなのか、興味が沸いてきちゃったんだ!」
「俺は別に構わないぜ。ただし面白い戦いになるかどうかは保証出来ねぇな」
いくら努力に努力を重ねて職業熟練度や装備の質を上げたとしても、ハイドラに勝てる可能性はかなり低いだろう。あるいは一切の抵抗も許されずに一方的に反撃されて終わってしまうかも知れない。そうなれば、ミケネコが望む『面白い戦い』なんてものを見せる事は出来ない。
まぁ、もっとも――――――――。
「なんせ――――俺が一方的にボコって終わっちまうかも知れねぇからな!!」
あの死に物狂いの努力を否定させない。ムサシやマリーの協力、応援を無駄にはしない。
この三日間で鍛え上げたステータスと考え抜いた戦法を持ってすれば、俺が圧勝するという結末すら掴み取れる――――いや、掴んでみせよう。それぐらいの余裕を持って戦いに挑み、事実そうなるように立ち回ってみせよう。
それぐらいの事はやってみせる力はある。ハイドラが最強であったとしても、俺の努力や皆の力が大きく上回っている事を証明してる。
…………実際の所、圧勝出来る確率なんて小数点以下の奇跡のようなものであるが、こういうのは気分の問題だ。多少は自分の鮮やかな勝利のイメージを持たなければ、身体が萎縮してしまうのだから。
俺は走り出した。目指す場所はハイドラが佇む大広場。彼の騎士と戦う為の舞台に俺は踊り込んだ。
ハイドラはメニューを開いて戦利品を確認しているようだった。何故か詰まらなそうな、あるいは拍子抜けしたかのような沈鬱とした雰囲気を出しながら、淡々と勝利の証を無感情に見つめているだけであった。
そんなハイドラの数メートル後方に立ち、俺は大きく息を吸って彼の騎士の名を叫んだ。
「――――ハイドラァァッッ!!」
「……………………?」
突然大声で名を呼ばれて気付いたのか、ゆっくりと此方に振り返るハイドラ。俺の姿を視界に収めると、マジマジと俺の全身を確認して――――。
「……誰だ? 見た事の無いプレイヤーだが……」
と呟いた。どうやらハイドラは俺がかつて一度戦った事のあるプレイヤーである事が分からないようだ。
しかし、それは仕方の無い事だ。装備品を大幅に改良した俺の姿はハイドラと戦った時より大きく変化している。鎧の形状も武器も総取っ替えしたのだから、ハイドラが気が付かなくても無理の無い話である。
まぁ気付いていなくとも、分からなくても、やる事は変わらないのだ。頭を捻っているハイドラに対して俺は再び大声で宣言する。
「俺はかつててめぇにボロ負けしたプレイヤーでな。リベンジしに来たぜ!!」
「何? リベンジだと……?」
ハイドラはしばしの間、呆けたように佇んで――――俺の言葉を理解したのか愉快そうに笑い声を上げた。
「アハハハハッ! リベンジか! そういったプレイヤーは君が初めてだな! 大抵のプレイヤーは僕に倒されたらそれっきりだったからな!」
ハイドラはハルバートを軽快にぶん回して構えた。楽しそうに、期待しているように切っ先をこちらに向けて、クックックッと笑い続けている。
「面白い。一度敗北した身で再び立ち上がってきたんだ。そのリベンジを受けてやろう」
「相変わらず偉そうだな、てめぇは。アレか? また「僕を楽しませろ~」とか言うつもりかよ?」
「そうだ。僕は今、君に期待している。僕に敗北した事で何を得たのか……どうやって僕に勝つつもりなのか……。君がどう戦うつもりなのか、とても楽しみなんだ」
ハイドラがどんな表情をしているのかはフルフェイスのヘルムに包まれていて分からないが、爛々と輝く瞳だけははっきりと見える。つまり、言葉の通り極限まで期待値を高め、戦意を最大まで上げているのだろう。
「どうやって勝つつもりか、だって? そんなもの決まっている――――」
ハイドラは武器を構えただけでその場から動こうとはしない。俺がどのような動きを見せるのか、どのような戦い方をするのかを楽しむ為に、先手はこちらに譲るつもりなのだろう。
相手が動かないのなら、俺から攻めるのみだ。両足に力を込めて、今だ無手である両手を構えて――――。
「――――徹底的に殴り倒し、鮮やかに勝利をもぎ取るんだよ!!」
ドンッッ!!! と。
両足に溜めた力を一気に解放。
一直線、最短距離を持ってしてハイドラへと急接近する――――!!
「真正面から武器も無しで突撃だと……?」
俺の行動に困惑気味に声を上げるハイドラ。その動きは感情には支配されておらず、俺の突撃に対して合わせるようにハルバートを横凪ぎで振るっている。
完全なタイミングを持ってして振るわれる刃は、かつてのように俺の頸を刈り取らんと雷光の如く最速で迸る。そのまま何の障害も無く刃が通れば、ハイドラの勝利が確定するだろう。
だが――――もちろん、そんな定石通りには事は進まない。良い方向にも悪い方向にも、だ。
「いや、待て。この動き――――君はあの時の騎士か!」
ハイドラのハルバートが俺の頸に吸い込まれる直前。
俺は左拳を突き上げてハルバートの進行を阻害した。左手に装着されたガントレットに刃がぶち当たり、その動きを止めたのである。
次いで突撃の勢いを保ったままに俺は右手をハイドラへと突き出した。手刀の形をした貫きは雷すら上回る速度を持ってして、ハイドラの胸へと一瞬で伸びていく――――。
――――が、ハイドラも一瞬で後ろに跳んで手刀を回避した。どうやらハルバートを振るい切る前に攻撃を止めて、俺が反撃する前より回避行動を取っていたようだった。
互いに攻撃が失敗して距離を置いた。ファースト・アタックはどちらも取れなかったという事で、一度仕切り直しとなり改めて武器を構えた。
「君は〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉付近で戦った《騎士型》のプレイヤーだな……! ヘッドバッドや徒手空拳を内包した読めない戦い方をする、型破りな男……!」
「思い出してくれたか? まぁ三日、四日前の出来事を忘れるわけもねぇか」
少なくともハイドラにとっては印象の強いプレイヤーだったのだろう。最初の動きを見ただけで判別し、記憶の海から俺の情報を直ぐ様引き出せるぐらいには。
俺の正体を看破したハイドラは、何故か歓喜に満ちた様子でこちらの姿形を再確認してくる。
「装備を一新したのか。その鎧の色と艶からして〈クリスタル・ソードスコーピオン〉の素材を元に作成したのは分かるが……。両刃剣や大楯が見当たらないが、まさか無手に切り替えたのか?」
「さぁてな。どっかに隠し持っているだけかも知れねぇぞ? はたまた単に装備してないだけかも知れないなぁ?」
情報を与えるつもりは無いので適当にはぐらかす。が、俺は内心驚いていた。まさか一目見ただけで鎧の材質を特定されるとは思っても見なかった。
どうやら俺の想像以上にハイドラは《神世界アマデウス》の様々な情報を収集していたようだ。侮っていたつもりは無かったが、ただの戦闘狂なだけのプレイヤーではないと分かり、俺は再度気を引き締め直した。
「……何にせよ、君が再び僕の前に現れてくれた事に感謝しよう。君との戦いが今までで一番心踊ったからな……。また僕を楽しませてくれるのか?」
「ほざいてろハイドラ! 俺は御礼参りしにきただけだ! てめぇを楽しませるつもりは微塵もねぇよ!」
正直、少し引いてしまうぐらいにハイドラは戦いに餓えていると思う。いきなり喧嘩を売られたのに、それを歓喜と共に受け入れて楽しもうとするとは。余程日常がつまらなくて仕方が無いのだろう。
だが、相手に合わせるつもりはない。俺は俺の信念とムサシやマリーの為に戦うのだ。ハイドラがどれ程切磋琢磨した戦闘を望もうとも、俺は一切の温情も躊躇いも無く一気苛々に決着を付けるだけである。
「――――では改めて死合うとしよう。君の全力を僕に見せてくれ。あるいはその牙は僕の喉に届くかも知れないぞ?」
「――――喉に届くかどうかの心配じゃなくて、その頸が吹き飛ばされないかの心配でもしていろ!」
気力は充分。賽は既に投げられている。
俺はハイドラと再会した。そして互いに戦いを認めた。ならば、後は勝つだけの話だ。
腰を落として一気に加速。俺は再びハイドラへと立ち向かっていった――――。
次回はムサシかマリー視点からスタートする予定です。もちろんミケネコも出ますよ。