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アイドルグループを追いかける

 昔のホテルにあったような豪華な感じの小さなエレヴェータに乗り込むと、階数ボタンを押した覚えがないのにすうっと自動ドアが閉まって、降下し始めた。ドアの上のところの回数表示を見ると、幻灯機のようなおぼろな光で、切り絵のような数字が1番から3番までだけ揺らめいている。ぼんやりとした明かりなのでよくわからなかったのだけれど、恐らく「1」という表示が灯り、ドアが開いて私は外に歩み出た。

 そこは大きな学園の玄関ホールのようで、グレーのベンチソファに何人もが座っていたし、教科書をバンドで止めて談笑しながら行き来する姿も多かった。壁際にブロンズの彫刻を施した間接照明があり、その手前にドラムセットが置かれていた。太鼓の数はふつうだったけれど、シンバルのたぐいが大量に、千手観音のように大きく広がっていた。それを叩いているのは、アイドルのような衣装をつけた若者で、一人は正面を向いてリズムをたたき出しており、もうひとりはその背後にいてシンバルを乱れ打ちしている。打楽器以外にもギターなどの音が鳴っている。

 ふと、それまで座っていた一人の学生が立ち上がって、曲に合わせて歌い始めた。そしてダンスしながらステージの中央に立つ。またひとり同じようにただの学生に思われたのが、マイクを持って立ち上がり、並んで振り付けの踊りを踊って、歌いだすのだった。突然のショーに、学生たちは観客となって大盛り上がりである。

 私はそれを尻目に奥の方へ向かった。しかしまた戻ってくると、もう演奏は終わっており、マネージャらしき人に連れられて、学生アイドルユニットのメンバーが、ガラス戸から外に出て行くところだった。そこから長い石畳の階段となっており、そこを降りていくのを、私も後を追いかけた。ちょうど外に出られて良かった。こんなこともないと出る機会もない。

「選択教科は音楽を選べって言ったのに」

 マネージャが言うのに、メンバーたちがそれぞれ答えている。

「希望が多くて、抽選でほかに回されたんだ」

「最初から音楽は選択しなかったな」

 階段を下りて、トンネルのようなものをくぐると、すぐ正面に洒落たカフェテラスがあって、彼らは中に入っていくけれど、私は躊躇する。金があまりないのだった。普段貧乏暮らしをしているのが染み付いて、夢の中でまで同じ思考をするようになってしまっている。

 メンバーたちが店の中に消えてしまったので、私はそのまま町を歩いていく。小さな山車のようなものを引きずっていく一団があり、その後ろからハッピ姿でうちわを持った小柄なひとが、踊るような足取りでついていく。そして、道行く人々に山車のありがたさを歌うように説明して、寄付を募る。

「現金ないなら、カードでもいいんだよ」

 商店街の中を上がって行きながら買い物客や商店主たちに煽っていく。私は山車とそのアジテータの間あたりを歩いていて、居心地が悪い。クレジットカードも持っていない。私は彼らをやり過ごして、来た道を戻っていく。お腹がすいているのは確かだった。

 あちこちに飲食店はあるので、ドアの前に立ってメニューを見ていくが、ふつうのランチセットのようなものばかりであまり食べたいものでもなかったし、値段が千円近くして懐具合に合わない。板のテーブルをおいただけの狭い食堂があったので、メニューをみると、やはり高い。その隣にもテントがあって、同じようなテーブルが置いてあって、満席の客だった。私は、食事はほとんど諦めていた。

 ちゃんと荷物を持っているかどうか確かめた。ひとつは元々担いでいたリュックで、もう一つは何やら書類の入った手提げ袋だった。そのトートバッグはあのアイドルグループのものだった気がする。どこかで拾っていたのだろうか。ガードレールに自転車が止めてあったので、その前かごにそれを入れて、サドルにまたがった。そのまま、川べりの道を走っていった。すると、正面から車椅子とゴーカートを足して二で割ったようなモノに乗った年老いたひとが走ってきた。

 さらにその後ろからトラックがやってきて私は道を避けるような格好になった。年寄りも右往左往してトラックに轢かれそうになるが、ブレーキを切って事なきを得た。ネズミのような小動物がトラックに向かって噛み付こうとしている。年寄りの乗り物は、よく見ると猫だった。そこへ、年寄りの子供らしきやってきて、怒っている。

「出かけないでって言ったでしょ。おまけに猫に乗って」

 見ると私の自転車も変質して、大きなシロクマのぬいぐるみとなっている。シロクマなのに縦に細長くスマートなフォルムをしている。私はその首のところを引っ張り上げて、スピードをあげようとしたのだけれど、シロクマが苦しそうに呻いた。気がつくと上下が逆になっていて、首を絞めるような格好になってしまっていたのだった。私は改めてしろくまをひっくり返し、荷物の所在も確かめてから出発した。

 いつのまにか袋小路となっており、コンクリート壁の中にさまよいこんでいた。ようやく正面に窓が見つかったので、しろくまによじ登ってもらったら、外に瓦屋根と、その向こうに塀が見えた。その間の狭い空間には植木が何種類も植わっている。窓のサンのところには枝豆のゆでたのが置いてあったけれど、すえた臭いがしているので食べる気になれない。そのまま外に出ていこうとすると、鰯の頭のようなものが槍のように飛んできた。その下に鎧を固めた見張りがいて、魚の形を模した矢尻を突き出しているのだった。

「こら。そこから降りるんじゃない」

「なんとか外に出させてもらえませんか」

「そちらから見ればこっちが外だが、本当はこちらが中でそちらが外なのだ」

 固い決意が感じられて引き返すしかなかった。

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