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カニを食べる

 丘の上にそのビルは建っていた。周りは荒野で、私たちはそこからコンクリートの建物を検分した。

「11:12になっていますね」

「それなら十一の二乗対十二の二乗か、いやちがうな三乗比だ」

 ということで私たちは中に入って、階段を上っていった。コンクリートの打ちっぱなしで、内装はなく、ところどころに焦げ跡があった。やはりむき出しのコンクリートの階段が、建物の内周を巡っていて、私たちはそこを登っていった。ひとりは二階の、窓際で立ち止まった。鉄枠は立派に残っていたけれど、ガラスは消失していた。私は、残存している最上階である三階の、壁が崩れたあとの側面に立った。三人目はさらに歩を進めて階の奥の方に向かった。そしてあの時と同じように火事が発生した。

 二階の人物はすぐに逃げることができたようだ。しかし火の手が上がり、階段を下りることはできなさそうだった。私はコンクリートの穴から外に出て、壁伝いに降りていこうと思ったけれど、コンクリートが崩れ去り、鉄筋の枠組みだけが残っていた。私は落ちていたハンガーのようなものを手にして、飛び降りた。鉄は熱く燃えていて、直接触ることはできなかった。少しでも着地の衝撃を緩めるために、鉄筋にハンガーを引っ掛けるようにして降りていったが、引っかかったかと思うと掠めるだけだったりして、あまり役に立たなかった。それでも私はなんとか生還した。三人目はとうとう帰らなかった。

 翌日、私は学校に向かった。古びたビルの外からまっすぐ上がる階段があり、私がそこを登っていくと、二階は左右に教室だった。どちらも二十坪ほどの広さで、ビッシリと机が並べられていた。満員の生徒たちは、小学生のような小さいものたちから、私たちのような大人まで様々だった。中に、ビルの二階から脱出した仲間もいた。

「無事だったんだな」

「そうだな」

 私は手に持っていたぬいぐるみを、ひとりの年少の生徒に手渡した。それがここでのしきたりだった。私は一旦外に出て、夕刻のアーケード街を歩いた。その途中で、かつて憧れた歳上の人物を見つけた。

「ちょうどよかった」

 その人物は笑顔で私に話しかけた。

「この場所も、重要だろう」

 そう言って店に上がる薄暗い急な階段を先導していった。

 かつてよく来た店だった。入ると、奥の席にふたりの年老いた人物が座って中華料理を食べていた。私もそこに座るように促されて、ふたりの対面に並んで座った。

「あした国に帰るんです」

「ここではカニが当たり前なんですけど、残念です」

 大きな丼の中は山海の珍味でいっぱいだった。私の料理も別に頼んでくれたようだけれど、それを待ちきれず、そこに手を出して、カニを食べた。みんなニコニコ笑っていた。

 私は学校に戻って四階に上がった。そこでは若い天才と言われている講師が一人で待っていた。私たちはそこである研究を行うことになっていたのだけれど、もうひとりがなかなかやって来なかった。仕方なく三階に戻ると、パイプ椅子がステージに向かって並べられ、端から順に聴衆が席についていくところだった。その中に、最近作曲家としても有名になったノイズ音楽家がいて、それが目当ての人物だった。

「何してる。上で待ってるよ」

「いや、まだ来てないみたいだから、間に合わないのかと思って」

 二人で再び螺旋階段を上がっていくと、四階でも聴衆が数十人集まっていた。そこで討議が始まった。みんなデータが書かれた紙片を持っていた。

「このなかに突出して改善されている数値があるんですが、わかりますか」

 若い講師の質問に、みんなが知恵を絞っていた。意見が次々と出たけれど、どれも正解から程遠かった。

「ちょっとみんな考えすぎですよ。意外な数値を探すのではなく、当たり前の数値を探してください。例えば打撃成績で言えば、打率・打点、それからホームラン数が普通ですよね。あとはせいぜい出塁率とか長打率とかくらいでしょうか」

 それでも答えを出すことができず、やがて休憩となった。聴衆の中にいたプロデューサが私に近寄ってきて、歩きながら話しかけてきた。

「これは失点率だと思うんだけど」

「惜しいですね」

「あ、わかった。それならEM値だ」

「その通りです」

「やはり天才ですね。あなたも密着の予約を取ったようなもんだ」

「どうなんでしょうか。そうするとそのなかでプロポーズしないといけませんね」

「いいんでしょう、それで」

「それで断られるわけですよね。いいでしょう。私はずっとあの二人についていきますよ」

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