白い台風がやってくる
私たちの乗っていた列車が急ブレーキをかけて止まった。自動ドアが開くと、ギュウギュウ詰めだった乗客のうち、ドアの近くにいた何人かが放り出された場所は、駅のフォームだった。駅員たちがやってきて、しばらくなにやら作業をやってから、再出発することになった。しかしどうあがいてもさっき載っていた全員が乗ることはできないのだった。私は乗るのをやめて、フォームから見送りした。私の同僚だか同級生だかは数人で一台のタクシーに乗って出発を待っていた。
ブレーキを解除する音がして、車輪がゆっくり回ろうとしたときに、子供が一人、その車輪の合間に座り込んでいるのが見えた。
「おーい」
声をかけたが返事がなく、膝を抱え込んだまま、どうやら気を失っているようだった。
列車が気づいて、出発を取りやめた。
「あれ、佐藤だっけ」
私が言うと、タクシーに乗っていた友人が「いや、高知だよ」と言ったので、確かに「高知」という名前だと思い出せた。私たちは、高知を車両の下から担ぎ出して、タクシーの前部シートに寝かせた。このタクシーはイギリスの馬車のように運転席が最後部にあるのだった。そのすぐ前のシートに友人たちが乗って出発をした。
実は私にはまだすることがったのだ。その任務の詳細は、ここで語るのは憚られるが、半日ほどで用は済んで、私はようやく駅舎から外に出ることになった。私は鉄道会社からもらったスペシャルチケットを持っていた。そのチケットがあればどこの駅でも出入り自由だったのだ。改札横の窓口に駅員がいたので、私は尋ねた。
「これはどうしたらいいですか」
「自動改札に入れてください」
「このまま渡したらダメですか」
「必ず自動改札を通してください。そうしないと使えなくなるので」
私はできれば記録を残したくなかったのだけれど、言われるとおりにした。
帰ってくると、長老と子供たちが、家の周りを布テープで補強をしているところだった。古い木造家屋で、百坪ほどの広さだった。私は中には入り、はしごのような階段を上がって、二階の窓から外を眺めた。
「白い台風がやってくる」
長老が言ったので、目を凝らしていると、遠くの方からゆっくりと雲の塊のようなものが近づいてきた。ふと視線をその脇にやると、大きな竜巻がクの字に曲がって、高速道路の自動車を巻き上げているのが見えた。車の大きさがミニカーくらいに見えたから、だいぶ遠くなのだろう。
「あ、来た」
誰かが叫んだ。確かに白い雲の塊が暴風のびゅおうびょおうという音を引き連れて、私たちの家に近づいていた。その通った跡には人や物はほとんど残らず、全て吹き飛ばしていた。見ているとどんどん近づいてきたが、大きさはそれほどではないことに気づいた。直撃でなければ大丈夫だろう。そう思っているうちにすぐ近くまでやってきた。
「あ、微妙に外れるかな」
白い台風は私たちの家の手前で軽く旋回をして、隣の資材置き場を通り過ぎていった。それはまるで通りやすい通り道を選んだかのようだった。
しかしその勢いで、私の持っていた筒に入った設計図が飛ばされてしまった。私はそれを取りに、隣の空き地に出て行った。するとそこへ、竜巻がやってくるのだった。私は慌てて家の横にある窓のところに飛びついた。窓を固定するガムテープをはがして、窓と窓の間の柱にしがみついた。そこへ風が勢いよく吹き付けてきて、私は立っていられなくなって、旗のようにたなびいた。だが風はやはり私の家に直撃はせずに折れ曲がっていった。しかしその本体からにじみ出るように、お化け小僧のような白い塊が木のサンに近づいてきた。そのアニメのような幽霊は、手にマッチを持っていて、それをシュッと擦って木枠に火をつけたのだった。
私は窓枠から飛び降り、逃げるように走って、家の反対側にある玄関にやってきた。玄関も赤いビニールテープで引き戸が固定されていたけれど、私はそれをめくって、中に入った。三和土は狭くて私一人がいるのがやっとの感じだったし、そこから上がる引き戸も釘で固めてあったので、私はガムテープで入口を貼り直して、そこに閉じこもることにした。
しかし縁側から、私に向かって叱責の声を上げるものがあった。
「あなた、何をやってるつもり。みんなを危険に巻き込むなんて」
最近よくコマーシャルに出ている役者が、私の親のような顔をしてそんなことを言うのだった。手には事務所にあるような電話機を持ち、もう片方の手で受話器を持って誰かと話をしながらなのだ。その足元にいた小さないとこ達は、私のことをかばって、入口の引き戸の釘を抜いて私を座敷に上げてくれた。私の親の役者は、まだグレーの電話機を持ったまま、それでもまだうるさく言い募るので、私はその首に両手を回して締めていった。ギュんギュん締めても苦しそうに灰色の顔をするばかりでなかなか死なない。私はじれて手を緩めてしまう。
私は子供たちと一緒に外に出て、二階建てバスに乗る。台風の来る方向に向かって走っていくと、街路樹が揺れて、看板が飛ばされている。その中をレインコートを着た人間が数人歩いている。
「テレビ放送を見なきゃな」
「テレビ局はどこだろう」
家にもバスにも受信機はなかった。




