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調和の守護者 リリィ&コピ第五部  作者: マスター


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第138話 東風を細める

第137話では、四風巡りの二息目として、西風を整えました。


台帳には、


「二息目、西。

砂を落とし、風を重くせよ。

西が軽ければ、南の灰は舞う。

西が重すぎれば、砂丘が裂ける」


とありました。


リリィたちは、西砂丘の砂留め布、砂落とし穴、副落としを再調整します。


副落とし側の砂舌を細く長くし、軽すぎる風を落ち着かせました。


一方で、本体側の砂落とし穴に砂が入りすぎたため、砂留め布の右端を少し下げ、砂の流れを分散させます。


その結果、西風は「軽すぎず、重すぎない」状態に近づき、南の黒い灰も舞いにくくなりました。


しかし、南の砂の口では、黒い灰に混じる赤褐色の粒が増え始めます。


台帳には、赤灰が増えれば東を急げ、とありました。


ただし、東を開きすぎれば、北の種が目を覚ます危険があります。


第138話では、三息目として東の冷やし室と中央井戸を整えます。

東へ戻る道で、ナジの紙風車は迷っていた。


くる。


止まる。


また、くる。


東を向いたかと思うと、少し北へ傾く。


ナジは紙風車を両手で持ち、真剣な顔で言った。


「東に行きたいけど、北に引っ張られてる」


オルガが眉を上げる。


「風に行きたいとかあるんだ」


コピが答える。


「表現は感覚的ですが、東風と北風の分岐が不安定になっているという観測として有効です」


ナジは少し胸を張った。


「有効だって」


ラサの通信が入る。


『記録します。東風、北へ引かれる傾向あり』


ガル老人が、後ろから低く言った。


「東を開きすぎるな。北が起きる」


「分かっています」


ラサの声は落ち着いていた。


だが、少し緊張も混じっている。


三息目、東。


井戸を冷やし、風を細めよ。


東が太ければ、北が起きる。

東が細すぎれば、井戸が腐る。

冷やしを欲張るな。

水面を見て、風を半手だけ戻せ。


リリィは、その言葉を頭の中で繰り返した。


「冷やす」ではなく、「冷やしすぎない」。


「開ける」ではなく、「細める」。


水でも風でも、戻すという言葉は簡単に聞こえる。


でも本当は、どこまで戻すかが一番難しい。


中央井戸の前には、村人たちが集まっていた。


桶を持った者。

水温を見守る者。

不安そうに井戸の縁を見る者。


ラサが村人たちに言う。


『井戸水は、まだ大量に汲まないでください。水面を見ることを優先します』


村人の一人が不安そうに言った。


「水があるのに、汲んじゃだめなのか」


リリィは答えた。


「今は、水の量より、水面の動きを見ます。井戸がどう息をしているかを知るためです」


その言葉に、ガルが小さく頷いた。


「風守りは、井戸を喉と言った」


コピが井戸を測る。


「中央井戸水温、やや上昇傾向。ただし危険域ではありません。水面に微細な揺れ。東風流量の低下と一致します」


オルガが井戸を覗き込む。


「水面って、こんなに見るものなんだね」


ナジが紙風車を井戸の縁に近づける。


「こっち、弱い」


「紙風車は落とさない」


「分かってる」


「落としたら取れないからね」


「分かってるって」


リリィは東の冷やし室を見る。


半地下の扉。


半開きの調整板。


破れた冷やし布。


以前は、冷やし室が東風を奪いすぎて、井戸へ冷たい風が届かなくなっていた。


少し調整したことで井戸の水温は下がった。


だが今は、南の赤灰が増えている。


東風を戻して井戸を冷やす必要がある。


しかし開きすぎれば、北の種が起きる。


「冷やし室へ」


リリィが言った。


冷やし室の扉の隙間からは、細い冷気が漏れていた。


以前より弱い。


だが完全には止まっていない。


コピが測定する。


「冷やし室内部、温度安定。調整板は応急位置を維持。ただし、板の内側に残った破れ冷やし布が再び引っかかり、風量が細りすぎています」


オルガが言う。


「また布が悪さしてる?」


ガルがむっとする。


「布が悪いのではない。手入れしない者が悪い」


ナジが小声で言う。


「じいちゃん、布に優しい」


ラサの通信に、小さな笑いが混じった。


リリィは冷やし室の中を直接開けようとはしなかった。


「人は入らない。調整板を少し戻す前に、冷やし布の引っかかりを見る」


コピが観測機を入れる。


内部の棚。


壺。


古い種を保管していた奥の印。


その手前で、破れた冷やし布の端が、調整板の裏へ絡んでいた。


風が通るたびに、その布端が吸われたり戻ったりしている。


それが、東風を細くしすぎている。


「布を外しますか?」


オルガが尋ねる。


コピは首を振るように表示を揺らした。


「完全除去は推奨しません。布は風をやわらげる役割も残しています。絡んだ部分だけを解き、調整板に沿わせるのが適切です」


ガルが頷く。


「冷やし布は、裂けても役に立つ。風に当てる向きが大事だ」


ナジが記録するように呟いた。


「裂けても役に立つ……」


ラサの通信がすぐ入る。


『記録します』


ガルが眉をひそめる。


「今のもか」


『今のもです』


コピの小型アームが、布端をそっと引く。


ぱら、と砂が落ちる。


布はすぐには動かない。


固まっている。


オルガが警戒する。


「無理しない」


「はい」


もう一度、少しだけ揺らす。


布端が外れる。


ひゅう。


冷やし室の中を通る風の音が変わった。


鋭く細い音から、低く整った音へ。


コピが表示する。


「冷やし布の引っかかり解消。東風流量、増加」


ナジが紙風車を見た。


「井戸の方へ行ってる!」


ラサが中央井戸から通信する。


『井戸水面の揺れ、安定。水温上昇、停止』


オルガが拳を軽く握る。


「よし」


コピが続ける。


「ただし、北風穴方向への冷気流入もわずかに増加」


全員の動きが止まった。


ガルが低く言う。


「開きすぎるな」


リリィは頷く。


「調整板を半手だけ戻す」


ラサが台帳を読み上げる。


『水面を見て、風を半手だけ戻せ』


オルガが尋ねる。


「半手って、また指四本?」


ガルが答える。


「今回は指二本だ」


オルガが一瞬黙る。


「半手、統一してほしい」


ナジが真剣に言う。


「風によって違うんだと思う」


コピが補足する。


「文脈上、調整量を示す慣用表現であり、厳密長ではなく、対象機構ごとの微調整範囲と考えられます」


オルガが肩をすくめる。


「つまり、ガルさんに聞けってことね」


ガルは少し得意げに見えた。


調整板を、ほんの少しだけ戻す。


冷やし室へ流れ込む風を完全には止めず、井戸へ向かう流れを増やす。


同時に、北へ逃げすぎないよう布の角度を保つ。


コピが値を見ている。


「東風、井戸方向へ増加。北方向への分岐は許容範囲内」


ラサの声が少し明るくなる。


『中央井戸水温、微低下開始』


南からも通信が入った。


『灰受け布の赤い粒、増加が止まったように見えます!』


コピが確認する。


「南砂の口、表面温度上昇停止。赤褐色粒子の増加率、低下」


オルガが今度こそ大きく息を吐いた。


「三息目、成功?」


コピは少し間を置いた。


「限定的成功です」


「いつものやつだ。でも、よし」


リリィも頷いた。


三息目、東。


井戸を冷やし、南の熱を抑える。


それはできた。


だが、東を少し戻したことで、北へ流れる冷気も増えた。


北の種が眠っている風穴。


そこが反応しないか、見なければならない。


その時、北祠の見張りから通信が入った。


『北の祠で、石耳が鳴りました』


ラサの声が重なる。


『風穴内部の温湿度に変化。封印壺の表面に、白い霜のようなものが出ています』


ナジが顔を上げた。


「種、起きたの?」


ガルが強く首を振る。


「まだだ。だが、起きかけているかもしれん」


コピが北側データを確認する。


「北風穴の温度が低下。湿度も低下。種壺周辺の乾燥が進んでいます。長時間続けば、封印壺に負荷がかかります」


オルガがリリィを見る。


「次は北?」


リリィは頷いた。


「四息目、北」


ラサが台帳をめくる音が通信に入る。


『四息目、北。

種を起こすな。

種を殺すな。

眠りを整えよ。

北が目を覚ませば、風は種へ吸われる。

北が眠りすぎれば、井戸は温む。』


ナジが困った顔をした。


「起こすな。殺すな。眠らせすぎるな。難しすぎる」


ガルが静かに言った。


「それが、風守りの一番難しい仕事だった」


リリィは北を見た。


南の熱を抜き、西の砂を落とし、東の井戸を冷やした。


最後は北。


種を眠らせる風。


そこを整えなければ、四風巡りは一周しない。


だが、その北は、すでに反応し始めている。


中央井戸の水温は下がった。


南の赤灰も増加が止まった。


でもその代わりに、北の封印壺に白い霜が現れた。


東を整えた結果、北が起きかけている。


一息ずつ巡らせる。


その意味を、全員が少しずつ理解し始めていた。


一つを助ければ、次が動く。


次を見なければ、助けたものまでまた乱れる。


ナジの紙風車は、今度は北を向いていた。


ゆっくり。


静かに。


でも、確実に。


くる。


くる。


四息目は北。


眠る種を、起こさず、殺さず、整えなければならない。

第138話では、四風巡りの三息目として、東風を整えました。


台帳には、


「三息目、東。

井戸を冷やし、風を細めよ。

東が太ければ、北が起きる。

東が細すぎれば、井戸が腐る。

冷やしを欲張るな。

水面を見て、風を半手だけ戻せ」


とありました。


リリィたちは、東の冷やし室を確認します。


調整板の内側で破れた冷やし布が再び絡み、東風を細くしすぎていたため、コピの観測機で絡んだ布だけを解きました。


そのうえで、調整板をほんの少しだけ戻し、中央井戸へ向かう冷たい風を回復させます。


その結果、井戸水温の上昇は止まり、わずかに下がり始めました。


さらに、南の砂の口で増えていた赤褐色の粒も、増加が一時的に止まります。


小さな成功です。


しかし、東風を戻したことで、北の風穴へ流れる冷気も増えました。


北の祠では石耳が鳴り、封印壺の表面に白い霜のようなものが現れます。


台帳によれば、四息目は北。


「種を起こすな。

種を殺すな。

眠りを整えよ。」


次回は、四風巡りの最後の一息として、北の風穴と封印壺を整え、種を守りながら四風を一周させる回になります。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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