第6話 初めての採集
いつも『終焉を継ぐ者』を読んでいただきありがとうございます。
第6話では、レインとフィアが薬草採集のために森へ向かいます。
大きな戦いや事件はありませんが、ルークス村の日常や二人の関係が少しずつ深まっていくお話です。
レインがこの世界での生活に慣れ始め、少しずつ前を向いて歩き始める姿を楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは、第6話をお楽しみください。
ルークス村での生活が始まってから二週間が過ぎた。
朝日が昇る頃には自然と目が覚める。
最初は慣れなかった生活も、今ではすっかり日常になっていた。
窓を開けると涼しい風が部屋へ流れ込んでくる。
遠くから聞こえる家畜の鳴き声。
畑へ向かう村人たちの話し声。
それらを聞いていると、不思議と心が落ち着いた。
前世では朝が嫌いだった。
仕事へ行かなければならない。
面倒な一日が始まる。
そんな気持ちばかりだった。
だが今は違う。
やるべきことがあり、自分を待っている人がいる。
それだけで朝の見え方は変わるらしい。
レインは身支度を整えると家の外へ出た。
「おはよう!」
元気な声が飛んでくる。
振り返るとフィアだった。
相変わらず朝から元気である。
「おはよう」
「今日は仕事?」
「その予定だけど」
「じゃあ終わったら森に行こう」
レインは思わず苦笑した。
「最近そればっかりだな」
「だって楽しいし」
フィアは悪びれた様子もない。
レインも強くは否定できなかった。
実際、自分も楽しいと思っていたからだ。
「今日は何があるんだ?」
「採集」
「採集?」
「薬草探し」
フィアは得意げに胸を張った。
「村のお手伝い」
「なるほど」
どうやら遊びではなく仕事らしい。
それなら断る理由もなかった。
「分かった」
「やった」
フィアは満足そうに笑った。
そのまま軽い足取りで走っていく。
レインはその背中を見送りながら小さく笑った。
本当に不思議な少女だと思う。
だが、そんなフィアと過ごす時間は嫌いではなかった。
午前中はいつも通り村の仕事を手伝った。
薪運び。
倉庫の整理。
畑の水やり。
決して楽ではない。
それでも以前より身体が動くようになっていることに気付く。
薪も少し軽く感じる。
息が上がることも減った。
「成長してるな」
ガルドが感心したように言う。
「そうですか?」
「最初は風で飛びそうだったぞ」
「そこまでじゃないですよ」
ガルドは豪快に笑う。
レインも苦笑した。
だが確かに身体は変わってきていた。
前世では味わえなかった感覚だった。
仕事が終わった頃には太陽も高く昇っていた。
村の入口へ向かうとフィアが待っている。
「遅い」
「時間通りだろ」
「私が早い」
「そうか」
いつものやり取りだった。
二人は並んで森へ向かう。
木々の間を吹き抜ける風が心地良い。
森の中は静かだった。
鳥の鳴き声が時折聞こえるくらいだ。
「薬草って簡単に見つかるのか?」
「慣れれば」
「俺は慣れてないんだけど」
「だから教えてあげる」
フィアは少し得意そうだった。
森を進みながら、薬草の特徴を教えてくれる。
葉の形。
色。
匂い。
思っていたより奥が深い。
同じように見える草でも全く違うらしい。
「これ」
フィアがしゃがみ込む。
そこには小さな青い花が咲いていた。
「回復薬の材料」
「へぇ」
「こっちは毒草」
少し離れた場所を指差す。
見た目はほとんど変わらない。
「分かるわけないだろ」
「だから教えてる」
その言葉にレインは笑った。
確かにその通りだった。
二人は森の中を歩き回る。
薬草を見つけては袋へ入れる。
気付けば夢中になっていた。
前世では自然の中を歩く機会などほとんどなかった。
だからだろうか。
今の時間が妙に新鮮だった。
やがて休憩のために大きな木の下へ腰を下ろす。
風が気持ち良い。
「レイン」
フィアが空を見上げながら言う。
「ん?」
「前より笑うようになった」
突然の言葉だった。
レインは少し驚く。
「そうか?」
「最初はもっと暗かった」
「失礼だな」
「本当だもん」
フィアは真顔だった。
レインは言い返そうとして、結局やめる。
もしかすると本当にそうだったのかもしれない。
ルークス村へ来たばかりの頃。
自分は常に不安だった。
知らない世界。
知らない身体。
終焉因子。
何も分からなかった。
だが今は違う。
少しずつ慣れてきた。
居場所もできた。
だから自然と笑えるようになったのかもしれない。
「フィアのおかげかもな」
何気なく言う。
するとフィアは目を丸くした。
「私?」
「ああ」
「なんで?」
「よく話しかけてくれるし」
フィアはしばらく黙り込んだ。
やがて少しだけ顔を逸らす。
「そういうのずるい」
「何が?」
「分かんない」
本当に分からないらしい。
レインは首を傾げた。
その様子がおかしくて、今度はフィアが笑い出す。
二人の笑い声が森へ響いた。
その時だった。
ドクン。
胸の奥が脈打つ。
終焉因子だった。
レインの身体が僅かに強張る。
熱が広がる。
だが以前より落ち着いていた。
恐怖はない。
ただ違和感だけが残る。
「また?」
フィアがぽつりと呟く。
「え?」
「その顔」
どうやら表情に出ていたらしい。
「最近時々ある」
レインは正直に答えた。
「病気?」
「多分違う」
本当は終焉因子だと思っている。
だが説明できない。
フィアもそれ以上は聞かなかった。
ただ少し心配そうな顔をしていた。
帰る頃には袋いっぱいの薬草が集まっていた。
「こんなに必要なのか?」
「村の人が使うから」
フィアは答える。
病気や怪我はいつ起こるか分からない。
だから薬草は大切なのだという。
レインは袋を見つめた。
こういう小さな積み重ねで村は成り立っている。
誰かが薬草を集める。
誰かが畑を耕す。
誰かが家畜を育てる。
そうやって皆で支え合っている。
前世ではあまり考えたこともなかった。
だが今は分かる。
当たり前の日常は、誰かの努力でできているのだと。
夕日が空を赤く染め始める。
ルークス村が見えてきた。
煙突から上がる煙。
家々の灯り。
帰る場所がある。
それだけで胸が温かくなった。
「また来ようね」
フィアが言う。
「ああ」
レインは頷いた。
きっとまた来るだろう。
この森にも。
この村にも。
そしてこの日々を、もっと大切にしたいと思った。
まだ終焉因子の謎は分からない。
継承者候補という言葉の意味も知らない。
それでも今は焦る必要はない気がした。
ルークス村で過ごす穏やかな時間。
それは確かにレインの心を少しずつ変えていた。
夕日に照らされながら、二人は並んで村への帰り道を歩いていく。
その足取りは、最初にこの村へ辿り着いた時よりもずっと軽くなっていた。
第6話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は薬草採集を通して、レインとフィアの何気ない日常を描いてみました。
転生して間もない頃は不安ばかりだったレインですが、ルークス村での暮らしや村人たちとの交流を通して、少しずつ居場所を見つけ始めています。
フィアとの距離も以前より近付き、お互いにとって大切な存在になり始めているのかもしれません。
一方で、終焉因子にも少しずつ変化が現れ始めています。
今はまだ穏やかな日々が続いていますが、その裏で物語はゆっくりと動き続けています。
次回もレインたちの日常と成長を見守っていただけると嬉しいです。
それでは、第7話でお会いしましょう。




