第2話:厄災の魔女
「よもや君がベルポートへ来ていたとはな、伯爵」
力強く、明らかに太い腕をこちらへ突き出しボトルを傾ける御仁。
トクトクと注がれた酒。
41歳、まだまだ現役どころか全盛期であることを示すほどの覇気に満ち満ちた彼はジルドラード帝国の中でも五指に入る大貴族―――通商統主アルスターム・レヴァンガード侯爵。
身長は180を超え、体格もがっしりと。
熱気とも取れる威圧感、流通のドンとしての視野、相反する静と動の性質を兼ね備えた彼は長い黒髪を後頭部で束ねている紳士……だったのだけど。
以前と異なり髪は結んではおらず、女性のように長く艶やかなそれが目を引く。
これがプライベートでの彼なのか?
「今や誰もが動向を伺う若き貴族が、供も連れずに酒場で食事を、と。ふはははっ、豪儀……! よもや我が館を二軒目などと考えているわけでもあるまい? はははっ」
「無論、お話あっての事です。しかし、本来であれば当然に領へ入るより先に連絡しておくべきこと。お話が遅れてしまい、まことに」
「―――かぁ……!!」
……!
「ふふ。どうした、飲まんのか?」
「いえ、頂きます……むっ」
あの時の祝宴とはまた違う顔だな。
勢いよく杯を干した彼の圧に気圧されて謝罪の口が止まったけど、今にその口は澄んだ透明な酒を流すものへと変わり。
トロリと、そして非常に冷たい酒を喉へ。
瞬間に伝わる灼熱感……アルコールつぇぇえ。
これ30前くらいあるぞ。
道理で粘性がある―――飲み方で言えば焼酎のハナタレに近いのか?
以前のシトリナ酒と言い、相も変わらず度数の強い酒を好んで飲んでいる様子で……ところでなんで子供の頃に死んだはずの僕が向こうの世界の酒の知識を?
本当にどうでもいいことしか覚えてないな。
今に彼は三杯目を豪快に空ける。
「くぅッ―――ふふ。謝罪などいらん。構うものかよ。その破天荒ぶりというべきものは既に有名なもの。今更というものだ。アノール領の伯爵と言えば、常識で語れぬ非才。そして幾度と暗殺の憂き目より生還した剛の者だ、と。事実私自身もその現場の一つに居合わせていたことであるしな、理解しておるさ」
「はは……、その節もまた大変にご迷惑を……っとと」
招かれた祝宴の席で毒盛られて倒れたんだっけ。
いや、実際のところ毒自体は全く効いちゃあいなかったんだけどさ。
ここは謝罪の意味を込め、注がれた二杯目を一息に飲み干す。
………。
が、逆にそれが彼の気を良くしてしまったらしく。
「流石にいい飲みっぷりだ。もっとやれ」
「―――いただきましょう」
また倒れるかもね、これ。
「えぇ、えぇ。政敵に狙われるは貴族の常。私の力が日に日に増しているのだと好意的に受け取らせていただくことにしますよ」
「ふ……。久しく君のような気骨のある若者はみなかったな……。もっと早く見出し、目を掛けていれば……、入れ」
会話の中、客室のドアが控えめに鳴る。
彼はそれを予期していたかのように入室を促して。
現れたのはレヴァンガード候と同じ黒色の髪を丹念に編み込んだ少女―――。
「紹介しよう、娘だ」
「初めまして、伯爵さま。ミリアムと申します……。お噂はかねがね」
まだ成人、15にも届いてない少女だ。
恐らく12、3才だろうか。
第二次性徴も途上、幼さも強い。
だからなのかは分からないけど、海千山たる通商統主の令嬢って割にはとても純粋そうで大人しそうな雰囲気。
「ほう―――、と。これは、赤ら顔で失礼を。レイクアノール・ユスティーアと申します。初めまして、ミリアム様」
「くくく―――赤ら顔? どこがだ」
「ぁ……ふふっ。その、ユスティーア伯爵様? 全くの素面に見えますよ?」
「いや、はや。これでも精一杯なのですよ。御父君のような雲の上の存在と一対一など、お話ししているだけで竦んでしまった。そこへ更に貴女のような美しい女性が現れてしまうなど、赤面もしましょう」
「ふ、え……!? うつくし……?」
「―――ふははははっ」
挨拶が好感触だったかは分からない。
けど、少しの緊張があった様子の彼女も、冗談を交え初対面を済ませるころにはそれが完全に消え。
好意的な反応っていうか、尊敬とかを感じないでもない。
……。
うん。
―――で? 僕にどうしろと?
彼女が現れたのって侯爵が呼んだんだよね?
……。
なんで?
「君が来ていると聞いた途端、是非会いたいと聞かぬのでな」
「そ、その―――伯爵様? 以前、父が友人からの贈り物とおっしゃっていたグルシュカを食べたのです。あちらは伯爵さまの領地で栽培しているものだと。とても、とってもおいしくって! ……その、お礼が言いたかったのです!」
「はは、喜んでいただけたのであれば素晴らしき生産者らを抱える者としてこの上ない喜び。そうだ、もう暫しもすれば今期のものが出来上がります。そちらもお贈りすることに致しましょう」
「良いのですか?!」
……素で反応してるな、これは。
果物好き?
「あ、あの、実は私も家の庭で木を育てていて……けれど土がダメなのか、実が大きく実らず―――」
あいや、これは育てるのが好きなタイプだ。
成程、そういう事ね。
黒髪に映える蜂蜜色の目を輝かせて熱く語り始める侯爵令嬢と、ソレを目を細めて見守る侯爵。
……僕も農業領の主として話せることがあるな。
「であれば一度、我が領の農園へ見学にいらしてください。売り出しているもの、そして今現在試作中のものを余さずお見せしますから。以前お贈りしたもののほか、製菓に向く酸味の強いものから、加工用のものまで。その育成について……」
「―――――」
うん、うんと……ミリアム様は僕の話に熱心に聞き入ってくれている様子。
ちゃんと用語も理解してるらしい。
流通の親玉であり農耕や果樹園芸などにも広い知識を持つだろう通商統主、その娘として自身もそういった分野に明るいのかもしれないな。
「私の御庭でも……」
「勿論何かしらの参考になる筈ですよ。例えば……」
いくつか現在実験中のデータについても話した。
本当は極秘も極秘なんだけど、こんな風にせがまれれば些事。
問題なんて、彼女の言う「庭」がおよそ僕の想像する可愛らしいものでは断じてないということくらいだ。
「―――。お塩……? お塩! 敢えて塩を含ませて糖度を高める……、そのような技法が! お父様?」
「うむ、実際に存在する農法だ。技術自体は容易ではないと聞くが、そうか。レイクアノール伯爵の領でも取り入れていたのか」
「生物である以上、理にかなったお話です。ストレスを与える、というのはよくあるお話。人間であっても適度なストレスは脳の活性化を促すとされていますし、海産物であれば海老などは通常より濃い海水で育てることでうまみが爆発的に強くなると」
「―――あっ、そのような話を料理人から聞いたことがあります……!」
………。
侯爵に挨拶に来ただけの筈なんだけど、思いがけず娘さんと話が弾んできたな。
「レイクアノール伯爵。君はまこと見ていて面白い男だな。男同士の話を、と思ったがミリアムとの話がなかなか終わりそうにないか」
「っと。なんと申し上げれば……」
「いや、良い。して、先ほど泊っていくといったな? ミリアム、伯爵のために部屋に―――」
「はいー!」
「―――レヴァンガード候? 私は……」
「先ほど言っていたではないか、泊ると」
言ってない言ってない一言も言ってない。
急用思い出したんで帰ります。
てか帰らせて?
「ふふ。かつて君は言ったな、己はどの派閥に属するものでもないのだと。成程、話を聞いていてやはりその姿勢は変わってはおらんらしい。オクターヴの姫を娶ったことは当然に理解しているが……ミリアムはいい女になると思わんか?」
「……あ、あの。私、伯爵さまのような素敵な御方であれば……」
自分らで何言ってるか分かってるよね?
僕が目指すのは古き良き帝国貴族なんだけど?
先代オクターヴ公は30過ぎで初婚を決めた異端の貴族だった。
けど、派閥のまるで異なる大貴族の娘さんたちを複数人っていうのはそれ以上に異端中の異端だと思うんだ。
勇者とかならまだわかるけど、所詮僕は田舎貴族だよ?
一言で、釣り合ってないよね?
何の策略なのやら。
「そのお話、ありがたく胸に留めておきましょう」
「ぁ……」
「―――娘では不満か?」
じゃなくてね?
「あらゆる暗殺から生還した剛の者……。成程それは、私の事と言えましょう。が、今回も同じとは限りませんので。―――婚約などして、ミリアム様のような可能性にあふれた令嬢の未来へ傷を付けたくはないのです」
「ギルソーンの招集に応じるという話か」
「流石、お耳がお早い。……これは我が家の責務にて」
これから戦争に行くっていうんだ。
フラグ……もとい、下手に婚約なんかしておっ死んだら彼らに迷惑がかかる。
「レヴァンガード、オクターヴ、ブルーバード、ギルソーン―――。帝国の建国に携わった五つの名家。その多くが今日に至るまで大きな名を残し続けている。多くが繁栄を享受し、今日帝国の根幹を支え、屋台骨としての責を担っている」
「―――ユスティーア。どうやら最後の名家が戻ってきたらしい」
「過分なる評価に感謝を。……しかし、ソレを否定はしません。ゆえに私は此処にいるのです、レヴァンガード候。我がユスティーアの責務を果たすために。かつて放棄した責務を、失ったものを取り戻すために」
「わぁ……」
「ふむ。であれば、君が戦より戻った時……」
「えぇ。改めてお話いたしましょう。私たちの未来について、と」
「……………!」
娘さんが凄い浮ついた顔してる。
僕にはわかる、あれは恋に恋しちゃってるタイプの顔だ。
確かに僕の顔が良いのは事実だし話していて堂々としてるってのはあるけど、本気で僕という個を好きになってるわけじゃない。
顔が良いうえに責任と覇気に満ち満ちた若者を自分の白馬の王子様と錯覚してるだけだ。
「では。私は―――」
「あ! せめてお見送りさせてくださいませんか!? ユスティーア伯爵さまっ」
いやー、ソレはちょっと。
僕には愛する奥さんが―――。
「えぇ、喜んで」
っべーな、断れねえ。
何度も言うけど僕は精神構造上このくらいの年頃の女の子に弱いんだ。
目元うるうるされると、ね?
けど頭の中のマリーも断るなって言ってるし。
機会は最大限利用してやれっておっしゃってるし、遠慮なく屋敷の外まで数分かけて送ってもらい。
ようやく最後の挨拶とともに門をくぐるころには酔いと疲労で崩れ落ちそう。
……疲れたな。
高潔な貴公子演じるのはマジで心労が……うん?
「……?」
気のせいか。
「…………?」
いや、やっぱり気のせい―――。
「ちっす、レイクさま」
「……………」
うおおおおォォォォォォ!?
びっくりしたぁ!?
そういえば門の前で待っててくれって言ってた。
それはアルベリヒの得意技っていうか固有魔術。
自身と自身が触れている物を透明化させるというシンプルながら汎用性の高い能力だ。
「脅かす気か? 私に恨みでもあるのか?」
「まさに。夜の寒空の下に何時間も放置されたんでね。しっかし、相変わらず顔に出ませんねー」
「出ないだけだ。―――何かあったのか?」
「何かも何も、何もかも」
話がある様子の騎士アルベリヒは旅装の胸元に手を入れ封筒を取り出す。
「時間つぶしにちょっとギルド行ってたんすがね。ちょうど届いてましたよ」
「……手紙か。読みたくはないが―――、うん? レニカから……?」
差出人はどっかの貴族でも他国の誰かでもなく、レニカだ。
大陸ギルドに付いてる行商経由の普通便だし、そりゃ極秘文書じゃないのは当然だけどさ。
けど……なんか分厚くないか? この封筒。
………。
……………。
………。
……………。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!?」
大嵐。
現れた風が樹木も、岩も、人工物もまとめて巻き上げ、空の上で刻む。
決して自然発生したものではない。
全てを切り裂く20メートル級の嵐の中心には黒い人影があった。
「―――厄災……。これがッ……!!?」
一般に生まれる人間種として複数属性の魔術適性を持つものは少なく、100人に一人だろう。
そもそも一属性とて、実用に足るというなら1000人に一人でも怪しいのだ。
そこから二属性を実戦レベルで行使できるものは希少……、三属性なら大国でも数人、そして四属性となれば世界にも数えるほど。
殺傷能力を持ちうる魔術を軽々と扱えるもの「術師」と呼び。
そのうち、百を蹴散らす上位と呼ばれるものを行使できる傑物を「大魔術師」と呼ぶ。
そして人智を超え、自在に操るものを「天魔」と呼ぶ。
「”神断風” ”渦潮封” ”滅却陣” ”天蓋崩落”」
舞い散る全てが四大属性、その上位魔術たる規模。
相乗効果が齎す、天変地異にも等しき崩壊の数々。
大地を割る風が振り落とされ、地上を津波が駆け、すべてが一瞬で蒸発。
発生した蒸気全てが質量に変わったかのように爆裂し一帯を高エネルギーにて吹き飛ばす。
「ひぃぃぃぃぃい、あぁぁぁ!!」
「俺たちが一体何をしたって―――、……ぁ」
標的となった者たちいつしか己が過去の行いすら忘却し、ただ被害者としての記憶のみを想起させる。
今に神にすがる気持ちで天を見上げ―――。
「―――……、なんだよ、これ」
「こんなの……」
現代のアトラ大陸において、彼女と同等の魔術行使が可能な術者は手の指で数えるほどしか存在しない。
弱冠16歳、レニカ・アーシュはまぎれもない伝説級の術者、天魔である。
「「”天嵐降魔……大紅焔”」」
太陽。
錯覚ではない。
巨大な、恒星にも見紛う程の熱と質量が天から降り立つ。
「うわぁぁ!!?」
「ゆるして、ゆるして! ごめんなさ―――」
「だめ。許さない」
「絶対に許さない。ここにあるもの、皆を閉じ込めてたもの、全部私の敵―――全部壊す。全部全部全部ッ」
当たり前に咎人の命が消える。
かつてそこにあったはずの広大な地下拠点は芋を掘り出すかのように大地から引き抜かれ。
石、木材、金属……すべての物質が等しくねじれ、崩れる。
彼女が歩き去ったのちには何一つとして残らない、平らげるもの―――否。
唯一、冷たい鉄の格子によって外と隔たれた箱の空間があった。
数多の上位魔術を受けて更地となった大地の上で、唯一その中だけが形を残す。
今に厄災はその箱へと歩み、複数の影と相対する。
「ひぃ!? ―――え? ぁ……。レニカ……、ちゃん……?」
「れにか? まさか、レニカなのか!?」
「うそ、本当に……!」
「ごめん。待たせた」
………。
最上位冒険者レニカ・アーシュが辿った半妖精の捜索任務。
彼女が巡ったのは剣王国、そしてさらに東に位置する魔術国家ヴェリタールの二か国だが。
この数週間で二国の裏社会に名を馳せていた闇組織が4つ壊滅した。
立ちふさがるのならば国ですら飲み込む勢いで歩み、その小さな足でかつて自身を受け入れてくれた異種族の家族たちを次々に助け出した。
「お、おい嬢ちゃん……? その商品はマジで高価な……」
「お金ある。無問題」
やがて、中継地である都市に戻ってきたとき。
少女は助け出した家族たちに籠一杯、山のような果物を振舞った。
「え? この艶……」
「―――ぁ……。この味」
「……ぅ、ぁ……」
「うぅぅぅぅ、あああああぁ!! よかった! よかった……! 俺たちだけじゃなかったのか!」
「そうなの……。皆、無事なのね!? レニカちゃん!」
そして彼らも一口で理解した。
これは、自分たちの家族が作った果物だと。
かつて存在した里の皆が育てた果実なのだと。
「すげーな、あの嬢ちゃん。半妖精の奴隷あんなに連れて―――いったいどこの大貴族令嬢様だ?」
「てか最近エルフよく見るよな」
「―――帝国産の最高級グルシュカをあんな浴びるように……。幾らだよ、あれ。うらやましいぃぃ……」
町ゆく人々が遠巻きに見守る中で、彼女は他の全てがどうでもいいと言わんばかりに家族たちと幸せを分かち合う。
「おいしい?」
「―――ぁぁ……、あぁ!!」
「本当においしいわ……」
「れにちゃんも、おいしい?」
「うん。おいしい。皆で食べると、もっとおいしい。ね?」
「「―――――」」
―――こっちは元気。順調。お手紙に請求書頑張って詰めておいた。支払いよろしく、レイク。
………。
……………。
………。
……………。
「ってな内容ですね。んでこの請求書の束どないすんです? あるじ」
「あんの腹ペコ娘ッ……!!」
意味わかんねー額の請求書がッ!?
しかも大都市の往来でエルフ引き連れての大名行列!? ぜってーそのまま戻ってくんじゃねえぞ!?
いくら何でもいろんなところから目付けられて違和感持たれるわ!
「あーー、―――凄いっすねこっちの請求書。奴隷として買った半妖精らの請求書より高い果物の会計って……。伸ばしても伸ばしてもまだ先がある……」
僕の先はないかもしれないけどね。
一体全体どこの誰だ、たかが果物をこんなバカみたいな金額で売ってるガッデムは!!
「競合として叩き潰してやる……!」
「アンタっす。こーれでちゃんと次の手打ってんだからエセ名君なんだよなァ……」
◇
「ソーマさま……」
「ぇ―――は?」
どういう状況だ!? これ。
おれ、颯真は日本人だ。
あと高校生だ。
偏差値は四十ちょっと。
『では、君に与える力は―――■■■だ』
それはおよそ三か月前―――この世界で言えば一か月半前か?
ともかく、そんくらい前に俺はこの世界にやってきた。
漫画やアニメで何度も見たから当然知ってる、展開で言えば異世界チートってやつで。
神様に力をもらってってやつだな。
で、気が付けば俺はこの世界アウァロンに放り込まれてた。
幸いなことに言葉が通じないとかはなく。
町中に張り出されてる文字やらは全部日本語だったし、或いはなんちゃって異世界で映画のセットなのかと疑ったほどで。
ただ、俺には確かに力があった。
ギルドに登録してからはその力を使って魔物や悪を成敗し、奴隷狩りってのから一目ぼれしたエルフの女の子を助け出すっていうこれまた物語的な活躍を見せたわけだが。
『よろしくなっ、ステラ!』
『……。……はい』
ハッキリ言ってステラはそっけなかった。
まあ期待してた展開って感じではなかったけど、それでも話は聞いてくれるし、何よりエルフだし美少女だった。
冒険の中で仲を深めていずれは、って感じで。
ともかく更なる力と仲間を求め、次は世界最大の国家であるジルドラードへ向かおう、と。
その筈だったのだが。
「私、もう……」
「ちょっと待ってくれよ! まだ心の準備が……」
宿のベッドでゴロってた俺の上に馬乗りになっているステラ。
風呂上がりの彼女は前に買ってやった服の中に出来心とほーーんのちょっとの期待で紛れ込ませた煽情的な下着姿でのしかかっており。
露骨に嫌そうな顔してたから絶対に着ないと思ってたんだが、一体全体―――。
「有難うございます。助けてくれたこと、感謝してます」
「……!」
「えっと、その……」
ステラ……。
そっけないと思ってたけど、実は……だったのか?
彼女は両手で俺の顔を包み、―――俺は彼女の細指の隙間から見える山々の絶景に夢中になって。
今に彼女が綺麗な金髪を掻き上げる。
「あ、あの、……私のここ、どうなってますか?」
「そりゃあとても素晴らし―――ん、首?」
彼女が示したのは自分の首に嵌った奴隷であることを示す魔道具―――あれ?
元から赤かったか? これ。
いや普通に革の茶と黒だったような。
しかもなんか震え,、て……。
「……!」
彼女が飛び退る。
マジで素早い身のこなしは元々身体能力が高いからか。
「お、おい―――」
「……こ、これで……本当にこれでいいの!? 言われたとおりにしたの! 本当にこれで皆に―――」
誰と話してる?
いや、独り言だ。
やっぱり今の彼女は明らかに何かがおかしい。
「なぁ、おい。ステ―――ぃ!?」
声を掛けようとした瞬間だった。
ドアがノックされる。
「お客様、宿の店主でございます。お客様に面会したいとの方が」
「あ、あぁ―――あ!? ちょっと待ってくれ! ステラ、服を……」
「……………」
「ってもう着てる!?」
はっや。
声かけるまでもなくいつもの服に着替えてるわ。
本当に誘惑する気あったのか? ……いいや。
何かの間違いっていうか夢だろ多分―――扉ドンドンいってるけど。
「はいはい、今開け―――うお!?」
本当に夢なのかと思い始めた。
今に俺とステラのいる部屋に雪崩れ込んでくるのは屈強な男たち。
軽装の鎧……衛兵?
理解が追い付かない中で、奴らは何をするつもりか俺に断りも入れずステラのほうへ押し寄せる。
「隊長! やはり赤色です!」
「そうか。連れていけッ。―――半妖精……。美しさゆえに人を狂わせるか。厄災の魔女だな、まるで」
……?
は!?
「ちょ……、あ!? 待てよ! 何やってんだアンタら! ステラは俺のだぞ!」
まるで意味が分からん。
入ってきたと思ったらいきなりステラを連れて行こうとする男たち。
武器に手を伸ばして詰め寄るまでもなく、タイチョウとか呼ばれた男が俺の前にふさがる。
「冒険者。奴隷の売買の際に説明されているはずだ。通常の商業奴隷へ無理やり行為を迫ることは許されない。もしも奴隷法を破り禁を犯したのであれば罰金刑、或いは奴隷を失うことになる。知らないわけではないだろうに」
「……い、いやぁ」
「君が奴隷へそのような行為を迫っていると、複数の冒険者筋から匿名で通報があったが。どうやら真実だったらしい。奴隷契約法の違反により、奴隷は回収される」
「―――は……?」
「これは大陸議会で制定された国際法だ。逆らってくれるな。期限日までに罰則金が払えぬ場合、この奴隷はオークションに出されることになるだろう」
……。
……………。
あ。
オークションまでに凄い依頼受けて金作って、それでステラを取り返すって展開か?




