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忘却伯の勿忘草  作者: ブロンズ
第二章:忘却伯と人生の墓場

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プロローグ:まさに名君(げどう)

新作、思いがけず筆が乗ったので暫し毎日投稿続行。




「ッ……ぅ、……ぅ。どう……、するんですかッ。皆、いなくなった。居なくなってしまった……!」

「このままでは、残った我々も……やがて」

「アイツ等が、来る」

「誰か……。助けて……」



 ………。

 足が折れても、肺が潰れても、進む。

 叫びは慟哭(どうこく)嗚咽(おえつ)の雫は紅く……既に枯れ果てたと思えた涙が悲しみに消えかけた怒りから更なる熱を奪い、絶望に冷やしていく。

 当てもなく、何が敵か、味方かも分からない。

 それでも走るしかない。

 身一つ……彼等には、もうそれしか残されてはいなかったからだ。



「―――やはり……やはり、来るべきではなかった! 全員で戦うべきだった!

「……。そうだ。父様……、母様……も。まだ、生きてるかもしれない。里は無事かもしれない」

「やはり、今からでも戻って共に―――」

「なりません!!」



「それだけは……、決して。決して……。それこそ、私たちを逃がしてくれた皆へ……、母様たちの全てを無駄にすることです。現実を見てください。それはあり得ぬことなのです! 私たちは泥を啜ってでも……恥を受け入れ、生きねばならぬのですッ」

「「―――――」」


「だが、本当にこのままでは皆魔物に殺されるか……」

「考えはあるのですか?」

「……。広大な帝国には、大森林に隣接する辺境の地があった筈です。近隣国家も宗教的側面が強く、異種族にも寛容だと。……そちらへ辿り着く事さえできれば、暫し身を隠す事が出来ます」



 ………。

 彼等は、逃げるしかない。

 

 或いは、この世界に何処にも自分達の居場所などないのではないか。

 全てが己らの敵なのではないのだろうか、と。


 だが。

 例え、それが真実だとしても彼等には生きねばならない理由があった。

 笑う者たちの思い通りになど、決してなってはならないのだと―――彼等は只進み続けた。

 



   ◇




「ふ……っふふ―――ククククッ、はっはっはっはっはッツ!! 笑いが止まらないなァ、これは……!」



 ………。

 ……………。



「ヴァレット様。今日の馬鹿貴族(あるじ)、いつにも増して様子がおかしくありません?」

「いえ、無理もありますまい」



 暖かい季節になって来るにつれ、朗報が次々に届く。

 この一年は文字通り実りあるものと言えただろう。

 

 第一にはやはり新式……他所の領では旧式になりつつあるが、アノール領では遥かに進んだ新式の農具を導入した。

 わざわざ長時間の人手を用いず、効率的に穀類の脱穀や収穫を行えるようにしたのだ。


 また、村人口に割合で共有資産の馬を常備。

 土を耕す馬耕や、開墾した土地の木材を運ぶ馬搬など農業や林業で活用。

 当然人を長距離運搬するというものにも使えるという一石二鳥。

 小規模ながら、ずっと繁殖に力を入れていたのが此処で役立ったわけで。


 他にも今回の実験で成果があったものの一つは、村全体で畑作を行うというもの。

 大人数で一気に、時間の隙を埋めるように交代でかかる事により一つの耕作地へ充てられる時間が大幅短縮。

 当然に励む者と怠ける者―――長期的には不平不満が出ることもあるだろうけど、あくまで試験的に取り入れたものであると周知させたことで今のところ大きな問題はなく。


 同じ耕地面積でも、彼等の時間に余裕が生まれ、他の仕事に宛てられる時間が出来た。



「ここまで上手く行くようになるとは。やはりノウハウ。ノウハウは全てを解決する……。技術というのは人類の至宝だな」 



 全ては奴隷のお陰だ。

 馬の育成と調教に長けていた者、農具の制作や修理を行っていた技術者、そして当然農業従事者。

 ここらの成果は皆、僕が領主になったここ数年に雇い入れた彼等の働きによるもの。


 奴隷さん万歳。

 頑張った分だけ賃金に色も付けている影響か、皆やる気だ。

 彼等が頑張った分だけ僕のへそくりが減るけど、その全てが後になるような大収穫、朗報ばかり。


 ここに来て遂に、耕地面積が永遠の最下層から脱却した(ヴァレット調べ)というのもあり、更には特産品であるグルシュカ、そして秘密兵器の闇貿易も安定してきた。

 堅実な生産者として周辺の都市政府や商人たちからの信用もストップ高になりつつあり……。


 

「ふっ―――もう、田舎の木っ端貴族とは呼ばせないッ」



 このまま更に土地を広げられれば、本当に帝国有数の農業都市を築き上げる事も出来るかもしれない。

 年月の経過とともに他の領が次々と二次、三次産業へと転換していく中で次代を逆行する一次産業。

 農業王に、僕はなる。



「くくくッ―――……。とは言え、領民か」



「急にスンッってなるじゃないですか」

「平常運転ですな」



 アノール領全体の人口は、同程度の領面積を持つ貴族領に比べてかなり少ない。

 本来であれば今の倍……どころか、十倍はいても全くおかしくないのだ。

 そもそも、農地だけをこのまま無際限に広げても、管理がまるで届かない。


 そこは大きな問題だろう。


 中央の都市ハイブも、いまだ村の延長みたいなもので、地面剥き出し。

 娯楽もそう多くはない。

 何よりお店も少ないとなれば、技術者を呼び込むにしても、まだまだ彼等を繋ぎ止められるような下地が出来ていない。

 と来れば、好き好んで来たがる移民も居ない。

 精々、穴場と理解して定期的に来てくれる常連の商人たちだけだ。

 

 なれば、ここは……。



「―――よし、ヴァレット。手っ取り早く領民を増やしたいんだが、如何にかしてくれ」

「坊ちゃま。私は便利屋ではありませぬ」



 だよね。

 けどヴァレットも悪いよ?

 「逆にコイツ何なら出来ないんだよ」ってくらい万能すぎる、ステータスオールAの化け物執事が悪いんだ、そうに違いない。



「あぁ……そうだな。人口増加は緩やかに、流入は自主的なものであるべきだ。でなければ、いずれ破綻する」



 数年で百店舗を達成するような飲食店がやがて零落するのはよくある話。

 短期間でダイエットしまくった者がリバウンドするのもだ。


 ……何でこんな無駄な事しか覚えてないんだろ、僕。

 本当に昔からこうだったっけ?



「さて。このまま、更に踏み込んで大きな益を望むなら―――新たな種の作物。或いは、品種改良か」

「それって、簡単に出来るものです?」



 当然、難しいだろう。

 僕の所とは違い、安定している貴族家などは既に何十年も昔から品種改良のノウハウを積んでいる筈で。

 これに関してはただ育てれば良い家庭菜園とは違い、今新規参入した所で完全に周回遅れ。

 積み上げた年季の差はあまりに大きすぎる。

 肥料の性質や温度管理、交配の仕方までまるで変わって来るだろう。



「―――しかし、このままでは袋小路だ」

「左様でございますな」



 やがて、住民の数が上限として成長は止まってしまうだろう。 

 そして、そうなれば道は一つ……。



「止む終えんか。……アルベリヒ。人ひとりがすっぽり入るような箱はあったか」

「ハコ?」

「旦那様?」

「DIYだ。都市に入ってきた資材を組み合わせてどうにか作れ。―――最悪、棺桶で良い」

「……はぁ。……は?」

「坊ちゃま? 私を梱包しようとするのはおやめください」



 いや、だってかなりピンチだし。

 今のうちに送り付けて公爵の機嫌伺っておかないと。

 あと四年なんだっけ、大丈夫? マジで? 


 あの時五年じゃなくて十年って言っておけばよかった。

 そうすれば公爵かヴァレットがポックリ逝く可能性にも賭けられたのに。



「考えてみれば、だ。他の領に技術提供を受けて足元を見られるのなら、ヴァレットを差し出して大貴族に便宜を図ってもらうのが最上ではないか?」

「そうかな―――そうかも。流石あるじ」

「……全く、坊ちゃまは」



 勿論、冗談だ。

 ヴァレットが居なくなったら、もれなく僕は自分を棺桶に梱包し始めるだろう。

 水車やら風車がどうのこうのとかまるで知らんし、塩の作り方とかお隣の国が知り尽くしてるし、最高の肥料作りなんてそれこそ秘匿されるような技術だし……。



「……うむ。差し当たっては、現状維持。現在の農業法で無理になり過ぎぬ程度に農地を広げつつ、馬の繁殖に力を入れる。ヴァレット、来期の予算案に目を通してくれないか」



 ………。

 ……………。



 午前の業務が終われば、あわただしく準備をして次は視察。

 都市から一番近い村へ向かうわけだけど……今現在、アノール領では二十あまり存在する村の殆どで様々な実験を行っていて。

 今回向かった村は、中央に近いという事で馬や鳥の飼育などを行わせている。

 これは村の畑を共同で耕してるから時間に余裕ができた影響で……というのもあるけど、ここは元々アノール領でも希少な鶏卵や食肉が多く得られる村。


 希少なそれらは、当然貴族である僕にこそふさわしい食べ物で。 



「旦那様ぁ? 俺も肉くいてーです」

「機会があればな」

「えーー」

「そんなに食べたければ腕でも齧っていろ。そして、黙って立っていろ。このような会話、領民に聞かれたくない」

「一本しかないのに……」



 まあ、実際の所は半月に一回も食べられれば贅沢なんだけどね、お肉。

 偶に思い切った買い物をする分、切り詰められるところは詰めないと―――アルベリヒの腕とか。


 と、そろそろ現状を再確認しよう。



「おじさんが僕たちの家の鶏を盗んだ!」

「い、いえ! 領主様! その子供たちが言っている事こそ出鱈目にございます! この鶏たちは私が卵から孵し育てたモノ……。疑われてしまえばこちらとて商売に―――」

「うそつき!」

「僕は確かに見たんだ、おじさんが僕たちの鶏を……この子たちを盗むのを!」

「い、いいや! この鶏三羽は絶対に私の家のモノだ! 羽の具合や色つやを見れば―――」



 ………。



空鳴鶏(そらなきどり)の所在……か」

「「コ、ココ……コ」」



 ―――忙しいな、日々。

 貧乏暇なしとはよくいったものだ。



 ………。

 取り敢えずは事の経緯を説明しよう。


 

『領主さま! どうかぼくたちを助けて!』

『おねがい、りょーしゅさま!』



 発端となったのは馬車で街道を移動し、そろそろ村へ付くかといった頃合いに聞こえた幼い二人分の声。

 その一声がこの状況へと繋がった。

 裁判だとするのなら裁判官は領主、被告は40代の男。

 村では一定の地位もありそこそこ裕福な部類であり、畑を耕しつつも20羽以上の鶏を飼い、卵などを売って生活をしてるらしい。

 

 で、それを糾弾するのは二人の子供。

 十歳ほどの男児と、そこから更に一、二歳ほど幼い少女。

 二人は兄妹であり、両親は既にいない。

 財産としては粗末な家と、三羽の鶏だけ。


 で、今回その鶏のうちなんと三羽がみな消えたのだと。



「コ……、コッ」

「「ッコココ……」」



 広場の中央……互いの間にいるのは、件の鶏三羽というわけで。

 空鳴鶏……大陸でもメジャーな鶏の一種。

  

 この状況において特徴的なのは、まず男児の足……裸足のソレは血だらけ。

 辺境の悪路など―――辺境でなくとも路上を裸足で走ろうものならズタズタ。

 これは、村にやってきた馬車を見るなり全力で縋りついて来た時の傷だ。

 それだけ必死だったという事だろう。


 まぁ、そりゃ死活問題だからな。


 ………。

 さて、どうしたものかね。

 アルベリヒなんて真面目な顔で立ってるように見えるけど興味なさげだ。

 この程度、冒険者基準では修羅場のうちには入らないのかも。



「鎮まれ」

「「……………」」



 仕事をそっちのけで集まってきた多くの……っていうか多分村人ほぼ全員が見守る中。

 長らく言い合いを見守ってきたが、このままではらちが明かないと双方を制する。


 本来は派遣する役人とか衛士とかの仕事なんだけど、現場に鉢合わせてしまった以上領主としてはどうにかしなければならないだろう。



「順々に結論を聞く」



 だが、速やかにだ。

 聞いている話の中で既に気になった箇所は幾つかある。

 早い話で行こう。

 


「まずは、男よ」

「は―――は! 領主様!」

「そなたは、この子供たちに何を望む?」

「私は……。私は、疑いを晴らせればそれで。あくまで私の財産、私のものである鶏たちがそっくりそのまま戻ってくれば、それで問題はありません」


「では、子供らよ。代表し、兄よ。其方は何を望む?」

「鶏を返してもらうんだ! 卵を産んでもらわないと生活できないから―――ぁ。そ、そうだ! じゃあ、おじさんが僕たちの家から盗んだ鶏の分のお金を! お金が欲しい!」

「お金……?」

「そうだよ、メイナ。お金があれば……僕たちだって。―――僕は5万オロを求める!」



 帝国貨幣50000オロ……。



「五万!? 馬一頭買えてしまう! そんな馬鹿な……それこそ酷い!」

「鶏は父さんと母さんの形見だ! そのくらいの価値があった!」

「ふ、ふざけている! そんな無法が―――」

「鎮まれ」



 確かに五万は法外だ。

 一般的な帝国市民の月収だって一万オロ程度。

 そして普通の取引なら、生きた成体の鶏一羽は精々3000……、それに届かないかといった所。

 三羽でも一万には届かない筈。

 だが、やはりそれだけのモノが存在するとなれば―――。


 

「男よ」

「は、はい!」

「そなたは、自分の飼っている鶏一羽に幾ら出せる?」

「え? わ、私の……? ……え、えっと……私は鶏たちに愛情をこめ……食事を切り詰め、森で摘んできた上等な香草の種なども与えていて……」

「いくらだ」

「……。七千、いえ八千! 一羽八千オロです!」



 ………これまた相場より釣り上げやがって……、オークションかな?

 だがやはり、重要なのはここの部分か。

 一番早いのは―――そして美味しいのはこれだろう。



「幼子らよ。鳥には普段何を与えている?」

「え? ―――えっと」

「兄の方ではなく、妹の方。そなたが答えよ」

「……!」

「お兄ちゃん? あ、りょうしゅさま……コーツ麦」



 ………。



「日に何度だ」

「二回……あ。です」



 成程、なら話は速くなった。



「アルベリヒ。先の言葉、叶えてやる。―――三羽共に捌け」

「「!」」

「……ふ。仰せのままに」



 そこからは鮮やかな手並み。

 元より冒険者として野営などになれている事もあり、彼が放った斬撃は見事に鶏の肉を開き、血を抜き、やがて必要な器官だけを露出させる。

 ……夕食が豪華になる、という思考も手伝ったろう。



「……。成程」

「……ぁ」

「領主様ぁ!」



 餌をやっているのは、当然エネルギー補給が必要な朝と昼。

 そこから幾らか時間が経過していても、まぁ残ってはいるだろうさ。

 鶏の胃袋の残留物は少なかったが、確かに出てくるは特徴的な草……あとは香草の種などを乾燥させたものか。

 他に、残留物もないらしい。

 時間的にも、三羽とも誰のものであるかは間違いないな。



「占めて24000オロだ。男よ。先の言い値を間違えるなよ」

「は、はい! 有り難うございます!! 有り難うございます、領主さま!」



 思わぬ幸運の臨時収入に、ものすごい勢いで地面に頭を擦りつける男。

 彼から視線を外し、もう一方へ向ける。



「……さて、言い分を聞こう」

「―――――」

「ぁ……ぅ」



 唇を噛む少年と、顔を青ざめさせる少女。


 しかし、今更ながらに舌を巻く。

 まだ幼い妹の方はともかく、この少年、かなり頭の回る子だ。

 惜しむらくは、生まれが悪かったことだろうか。



「鶏は……、皆、食べたのか?」

「……………」

「私が村へ立ち寄る頃合いに丁度騒動が起きたことも、その怪我をした足も。単なる偶然ではなさそうだな」



 むしろ全てが計算ずくであり、周囲の同情をひくための策略。

 あとは大胆なアドリブ……か。



「幼子よ。それ程までに村を出たかったか」

「……悪いんだ」

「―――おにいちゃん?」

「生まれが……」



「生まれが!! 生まれがこんな所じゃなければ、僕たちだって飢えずに済んだ……! 妹にお腹いっぱい食べさせられたんだ! 父さんと母さんの鶏だって死なず……、今も皆元気に……くそォッ!!」

「「―――――」」



「……ふぃーー。旦那様? 如何しましょうか?」



 見た所、実行犯は兄。

 妹は共犯ではあるようだが、大多数の責任は上の者にあるだろう。



「帝国憲章にも定める通り、責任の所在は年長者である兄、そなたにある」

「……うん。……領主様? メイナは……」

「妹は、この村でこれからも生きていく。だが、咎人と共にはいられない。それだけだ。アルベリヒ。その子供を―――」 

「やだ!!」



「おねがい、りょーしゅさま! おねがい! おにいちゃんを連れてかないで!」



 ………。



 ―――お兄さん。


 

 ………。



「ぅ、うぁ……。や、だ。お願い……、お願いします! おにいちゃんもいなくなったら……、あああぁぁぁ!!」

「……………」



「罪は、罪である」



「そなたらがジルドラード帝国の民である限り。我らが皇帝陛下の庇護下である限り。犯した罪は清算されるべきものであり、そうでなくてはならない。そうであらねば国家は衰退し、滅びるからだ」

「「―――――」」

「が―――、幼子が飢え、そして今回凶行に走った。私の領内で……、だ。それは私の怠慢であり、私の罪。私の罪もまた、清算する必要があるだろう」



「なればこそ、私が清算する機会を得る為。そなたら兄妹には私が領の発展、その(いしずえ)になって貰う」



「兄妹ともに四年、私の館で働かせよう」



「……え? ぼく……」

「―――おにいちゃん!」

「無論、給金は通常より遥かに少ない。そして得た給金の五分の一を、今回の被害者である男への慰謝料にする。それで構わんな?」

「ぁ……。……はい。はい! 領主様!」

「はい!」



「男よ、そなたもそれで不服はないな?」

「わ、私は疑いが晴れただけでも―――い、いえ! ど、どうかお願いです! 領主様!」



 ……?

 特しかない内容に何の不満が……。



「私は……己が恥ずかしい! 私と彼等の両親は友人だった! にも(かかわ)らず……私は……私は、子供たちが犯罪に手を染めるまで彼等の飢えを見て見ぬふりをしてきたのです! 彼等の行いが罪だというのなら、それは見過ごし続けた私も同じだ!」

「であるか……。村の者たち、そなたらはどうだ」

「「―――――」」



 「そうだ」、「己らもそうだった」、「私達も同じです」

 最初はポツポツと、やがて絞り出すように……それまでは見ているだけだった村人たちが口々に言う。

 

 結局。

 他ならぬ村民たちの嘆願の末、兄妹の刑期は二年と半月になったわけで。

 


「なれば良し。此度の件はこれにて終いとする。―――行くぞ。アルベリヒ、子供たちを連れてこい」

「は……。あ。あとお肉ぅ……」

「一羽で良い。食卓にあげるにはそれで充分だ」

「―――え? い、いや……出来れば全部欲し……」

「残り二羽は村の者らで過不足なく分け合え。過不足なく、だ。決して、私がすぐさまこの村に戻るような事にはするでないぞ」

「「―――――」」




「伯爵さま……」

「なんと慈悲深く、そして公平な……!!」

「領主さまこそ……」

「あぁ……。今代の伯爵さまこそ、レイクアノールさまこそ、まことの名君だ……!!」




 ………。


 ………。

 ―――ふ。

 好きな給料で好きに働かせられる労働力……、ダブルゲットぉ!!

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