4 支え合えば、きっとやっていけるから
「……二人が仲良く過ごしているみたいで、本当に嬉しいよ」
「ええ。本当に」
お義姉さんたちと一緒に子供たちを見守っていると、二人がそんなことを言い出した。
ジークベルトは今もリーンくんと遊んでいて、ここにはいない。
「あの子は、小さい頃からアイナアイナって……」
「他の人と婚約することになったら、家を飛び出していきそうでハラハラしましたね……」
それは流石にないんじゃ……? と思ったけれど、冗談を言っている雰囲気でもない。
そのまま、私は昔のジークベルトについての話を聞いてしまった。
12歳ぐらいの頃、婚約者の引きたいジークベルトは、たくさん悩んでいたそうだ。
女性のことは女性に聞こうと思ったのか、お姉さんたちに相談もしていたとか。
アイナは頑張り屋さんだから、僕ももっと頑張って、彼女に相応しい人になるんだと嬉しそうに話していた、とも教えてもらった。
大切にされているって、わかっていた。
こうして少年時代の彼の話を聞けば、可愛らしいなと思うし、嬉しくもなる。
けど、それと同時に、当時の自分が彼と向きあっていなかったことも思い出してしまう。
ジークベルトには……ううん、彼だけじゃなく、周囲の人には悪いことをしたと思っている。
でも、後悔したって、過去は変えられない。
大事なのは、今、夫婦として彼と一緒にいることだ。
私に居場所をくれた彼を、私たちを見守ってくれた家族を、自分にできる形で大切にしていけばいい。
今いる人たちを想うのも大事なことだけど、彼と築く家族も、そろそろ欲しいな、なんて。
そこまで含めての婚姻だから、当然、周囲にもそれを望まれている。
けど、そんなことは関係なく、この人と家庭を築きたい、って。そう思えるんだ。
18歳の私は、ジークベルトに「子供は何人欲しいか」と聞いた。
彼の答えは、二人か三人、だったかな。
今思えば、あの時の私は、勢いに任せていただけだったように思う。
人を育てるのは大変なことだし、お義姉さんたちを見ていたから、女性に負担がかかることも、少しはわかっているつもりだ。
それでも、彼……ジークベルトとなら。それぞれの家族や友人のことも大事にしていれば。頼り合い、支え合って、なんとかやっていけるんじゃないかって思える。
日が沈み始めたころ、ジークベルトがリーンくんに解放された。
ナターシャさんに「そろそろアイナさんに返してあげなさい」と言われて渋々……といった雰囲気だった。
仲のいい甥っ子と叔父さんの組み合わせは、とても可愛い。
帰宅途中の馬車の中。ジークベルトはすっかり疲れた様子だった。
「小さい子は元気だね……」
「負けないで、叔父さん」
「……負けられないね。色んな意味で」
勝敗のある遊びとなると、ジークベルトは、まだ幼い甥っ子が相手でも手を抜かない。
わざと負けてあげたりしないのだ。
大人げない叔父だけど、リーンくんにしてみれば、そこがいいのかもしれない。
ただの遊びであっても、手を抜かず、真剣に向き合ってくれる大人も必要だと思う。
乳幼児を抱き上げるのにも慣れていて、子供の相手をするのも上手い。
今日なんて、数時間は甥っ子の相手をし続けていた。
こういう人が夫だから、私も安心できる。
ねえ、ジーク。
そう口にしようとしたタイミングで、彼に名前を呼ばれた。
驚いて「ひゃい」みたいな返事をしたら、おかしそうに笑われてしまう。
「……ジーク?」
「ごめん、おもし……可愛かったから」
ちょっと悔しいけど、可愛いと言い換えてくれたから、ここは許してあげよう。
目線だけで先を促す。なにか言いたいことがあって、私を呼んだのでしょう?
こちらの意図を理解したジークベルトが、私の手に触れる。
「僕らもいい家庭を作れるといいね」
「……うん」
私も、そう思ってた。
それぞれの兄弟とその家族に触れて、ジークベルトも私と似たことを感じていたのかもしれない。
同じことを、同じタイミングで言おうとしていた事実が、なんだか嬉しくて。
隣に座る彼に、えい、とちょっと乱暴に寄り掛かってみた。
これくらいじゃあびくともしないことがちょっと悔しいけれど、安心もした。逞しくなったなあ。




