3 ちっちゃなレディと子供な紳士
ラティウス邸の次は、ナターシャさんが嫁いだ家へ。
せっかくだから姉弟揃って会うことになったとかで、ジークベルトの1番上の姉・ミリーナさんも来ているそうだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
お屋敷に通されると、幼い女の子が駆けてくる。ジークベルトの足にぽすんと抱きついて、花がほころぶような笑顔を向けてくれた。
「久しぶりだね、エーリカ」
「はい!」
エーリカちゃんは、ナターシャさんの娘。今年で5歳になる。
私たち夫婦をお兄ちゃんお姉ちゃんと呼んで、慕ってくれる。
おじさんおばさんと呼ばれたらちょっと悲しくなるだろうから、お姉ちゃん呼びはありがたい。
シュナイフォード家の血が流れているだけあって、とても可愛らしい女の子だ。
2つにくくられた茶色い髪がふわふわと揺れ、愛らしさを倍増させている。
「お兄ちゃん、あの……」
幼いその子はジークベルトの足から離れ、もじもじし始めた。
言いたいことがあるけど、恥ずかしくて言えない。そんな雰囲気だ。
ジークベルトもそれを察し、しゃがんで姪に視線を合わせ、小さな手を取った。
「レディ、エスコートさせていただいても?」
「きょかします!」
ぱあっと表情を明るくし、エーリカちゃんは両手を上にあげる。小さなレディは、抱っこをご所望のようだ。
***
「あらあらエーリカちゃん」
「レディだから、エスコートしてもらってるんです」
案内された部屋では、ナターシャさんとミリーナさんが談笑していた。
ナターシャさんは、娘が抱っこされて登場したことに少し驚いてるみたいだ。
ジークベルトがエスコートなんて言い方をしたものだから、エーリカちゃんは得意げにしている。
甥っ子姪っ子が何人もいるだけあって、私の夫は子供の扱いが上手い。
「エーリカは、本当にジークベルトのことが好きだね。……まあ、リーンも似たようなものだけど」
そう話すのはミリーナさん。リーンくんは、エーリカちゃんのお兄さん。7歳だったはずだ。
おっとりした雰囲気のナターシャさん・エーリカちゃんと違い、リーンくんは活発なタイプ。やんちゃな男の子らしさが可愛かったりする。
名前はあがったものの、本人の姿は見えない。
「あの、リーンくんは……」
「リーンならあちらにいますよ」
ナターシャさんが部屋のすみっこを指し示す。そこには、壁に向かって縮こまるリーンくんの姿があった。
ナターシャさんの許可を得て、リーンくんに近づいてみる。
「リーンくん、そんなところでどうしたの?」
「……ん」
体勢は変えず、リーンくんが、ずい、と手を出してきた。
「花……?」
小さなその手は、一輪の花を握っていた。小ぶりな黄色い花びらがついた、可愛らしいものだ。
「……アイナさんに、あげます」
「……!」
リーンくんが、私に……? 7歳の男の子から、花をプレゼントされてしまった。
目を合わせず、ちょっとぶっきらぼうに渡してくるところが可愛い。とても可愛い。
「ありがとう、リーンくん」
喜んで花を受け取り、頭を撫でる。
男の子だし嫌かなと触れてから気が付いたけど、リーンくんはなにも言わずに受け入れてくれた。
……この花は、押し花にして保存したい。
ミリーナさんのお子さん二人も来ていたため、以降は大人と子供に分かれて過ごした。
けど、リーンくんだけはジークベルトから離れず、トランプやチェスで遊んでいる。二人は仲良しなのだ。
ときおり、リーンくんが「また負けた!」と大きな声を出したりもしていて、なかなかの盛り上がりだ。
こういうとき、私がリーンくんに誘われることはない。やっぱり、叔父さんとその妻だと、過ごしやすさや距離感が違うんだろう。
「ジークとリーンくんは、本当に仲がいいんだね」
「まあ、うん。はは……」
「絶対勝つ……。見ててください、アイナさん」
「うん。頑張って」




