10 記憶
あれから旦那様は何かと私に相談してくれるようになった。屋敷の人事についても主に私が指揮している。
ライくんとの関係も良好で、順調に進んでいるはずだった。そう、そのはずだった。
1日の仕事を終え、いつも通りベッドで寝たはずだった。
いや、確実にベッドに入って寝たのだ。
今の状況を説明しよう。体のあちこちが痛い。ベッドで寝ていたはずなのに今は床?にいる。薄暗くあたりがよく見えないが、私の部屋ではない。ここはどこ?しかも私なんでこんなボロボロの服を着ているの。まって、目の前には柵のようなものが見える。もしかしてここは…。震えが止まらない。旦那様はどこ?ライくんはどこ?
「あんた、今日はえらくおとなしいじゃねえか。いつもは叫んでうるせぇったらあらしねぇのによ。伯爵家の後妻がねぇ。」
目の前に人がいる。この人を知っている。前も、その前も私を見張っていた。
前?その前?何のこと?私は何を言ってるの?
「今日は本当に静かじゃねえか。ほら、やるよ。」
放り入れられたのはカビの生えたパン。とても人間が食べれるようなものではない。
「ああ、そうだ。教えてやるよ。お前の旦那、再婚するってよ。縁切られるの確定だな。」
そう言って気が済んだのか、笑って見張りの位置に戻っていく。
この見張りはこの後、タバコを吸いに外に出る。そして何食わぬ顔で戻ってきて上司に報告するのだ。異常なしと。
なぜ、この男の先の行動を知っているかというと、ゲームで得たものではない。そんな場面はゲームでは描かれていない。
なら、どうして分かったかというと、私が記憶していたのだ。私は以前にこの男の行動を見たことがある。何度もね。
そう、私は、何度もミーティア・ラーダに転生している。
また、私はダメだったのか。ゲームのストーリーは決して揺るがないのか。私が足掻いたところで結末は変わらないのか。私はもう直ぐ死んでしまう。これも経験で知っている。私はまた、ミーティアとして生を受けるのだろうか。また、この結末を迎えるのだろうか。
涙が頬を伝っていった。