1話:1 街道を襲う盗賊
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森の中を通る街道を馬車が行く。
幌がかかったそれなりに使い古された馬車だ。御者は目深にフードを被った怪しげな者が1人。
それら以外には人影もなにもない。
王都と南方領をつなぐ一番大きな街道だと言うのに、前後左右どこにも見える範囲どころか、その馬車が通った後にも前にも人っ子一人見当たらない。これは異常な状況であった。
南方領はサルフェンド王国全体の実に60%を賄う塩の一大産地である。朝から晩までひっきりなしに様々な人間が行き来する最も栄えた道と言って過言ないその街道に人の姿が見当たらないのだ。
木が突き出し、極端に道幅が狭くなった箇所に馬車が差し掛かると不意にすぐそこの藪がガサリと揺れた。
フードの男が音のした方に視線を向けるとそれまで見なかった人の姿がそこにある。
「へっへっへ」
その男はおよそ友好的には見えない。
右手に抜身の剣を持ち、嫌らしい笑みを浮かべながら下卑た視線でフードの男を――否、馬車を見ている。
「ここは通行止めだぜ? 通りたかったら積み荷と荷物と金、あとは命を置いてきな」
命を置いて行ったら通ることはできないだろう。
フードの男は呆れたように馬鹿な男、盗賊の言葉に溜息をこぼした。
これがこの街道が閑散としている理由だ。
馬鹿なことを言う盗賊であるが、街道を行く者にとって脅威であることになんら変わりはない。そして、この馬鹿な盗賊はまかり間違ってもただのバカなチンピラが1人きりで馬鹿なマネをしているわけではないのだ。
ガサリガサリと立て続けに音がしたかと思えば、10を超える盗賊が次々に姿を現した。
「あんたらがこの街道を騒がせてる盗賊か?」
盗賊に襲われ、今まさに命の危機に瀕していると言うのにフードの男はまったく恐れた様子もなくそう口にした。
「あん?」
そんなフードの男の言葉に盗賊は首を傾げる。
普通の商人であれば、盗賊に襲われれば恐怖する。実際に襲った商人や旅人達も、なんとか命だけは見逃してもらおうと命乞いをする人間ばかりだった。
しかし、この男はまったく恐れた様子がない。
まさか、盗賊討伐の依頼を受けた傭兵か何かであろうか?
だとすれば馬鹿な話だ。
盗賊の男らに浮かぶ、人を嫌悪させる嫌らしい笑みがますます下卑たものに染まっていく。
「ああ、そうだ。とは言っても、俺たちはあくまで監視と足止め役の先遣隊でな。今、仲間が本隊を呼びに行ってるよ」
監視役だけで十数人もいるのだ。であるなら、本隊はどれだけの人数になるのか想像に難くない。
事実、彼らは三百を超える大盗賊団の一員なのである。
「リーダーはライツェルか?」
「あん?」
フードの男が発した予想外の言葉に盗賊は目を丸くした。
間違いなく自分たちのリーダー、盗賊団の団長はライツェルと言う男なのだ。
「お前いったい何者だ? なにが目的だ?」
ライツェルの名前を知っていながら恐れることもなく、ここまで平然としているのならば討伐の依頼を受けたわけがない。
なにせ、王国最強と呼ばれまさしくそれにふさわしい実力を有している将軍、エルヴィンですら手も足も出なかったのだ。たかだか傭兵に勝てる道理はない。
その話を信じずにライツェルを討伐しようとした傭兵は存在したが、この一月の間にその馬鹿たちは軒並み首を取られ、傭兵の間にもライツェルの実力は知れ渡っている。いまさら新たな挑戦者が現れるはずもない。
「そう警戒するな。俺はコヒト、ぜひともあんたたちの仲間に入れてほしいんだ。ライツェルに会わせてもらえないか?」
フードの男、コビトはフードを取りながらそう言って盗賊の男に微笑んで見せた。




