月希姫の秘密。
私は月希姫との会話を交わしていた時。
月希姫が13年間、監禁されていた月希姫の白い部屋にいた。
何故、私はあの白い部屋にいたかというと、
何かが隠されている可能性を疑ったからだ。
13年もの月日の中、必要以上の暴力と暴言を受け続けた月希姫は、
精神にそれほどの問題を抱えることなく自然と社会に溶け込みつつある。
私はそれが「おかしい」と思ったのだ。
誰だってあんな環境下なら、いとも簡単に壊れるだろう。
現にあのたくましく強い心を持ったメイにゃんもその価値観を崩された。
「・・・白い・・・わね、」
白い白い空間に立ち尽くした私は呟く。
部屋の片隅に置かれた茶色のタンス意外には何もない為、
真っ白さは尚更、異常に白い。
嗚呼、目がちょっと痛くなってきた気がする・・・。
私は真っ直ぐ、タンスの方に行く。
というか、調べられる物が、タンス以外何もないんだから仕方ない・・・。
「・・・」
私はタンスの上から2段目を開ける。
普通、一番上から開けるだろう、だが私は一番上よりも
2段目を先に開けたいが為に上から2段目を先に開ける。
そこにはとてつもなく異様な光景が広がっていた・・・。
それを見て私は自然と険しい顔つきになる。
どう異様かと問われると説明に困るが・・・。
2段目のタンスの中は真っ赤だった。
クレヨンでタンスの中を真っ赤に塗りたくっている・・・。
いや、クレヨンだけではないようだ。
赤に塗られたタンスをなぞって、その触れた感触で私は気付いた。
所々、クレヨン独特のあの感触ではないのだ。
「・・・クレヨン以外の赤色は・・・何・・・?」
私はつい、また呟く。
なんでだろう、誰もいない時に限って私はペラペラと独り言・・・。
おっと、話を戻そう。
私はタンスの中に顔を近づけて匂いを嗅いでみる。
私は犬ではないので、匂いを嗅いだ所で何も解らないだろうと思ったが、
私が殺し屋だったおかげで直ぐに分かった・・・。
「・・・!これは・・・血・・・!?」
後ろから殴られたような衝撃を受けた。
この血は恐らく月希姫のものなのだろう。
だが、何故タンスの中を赤く塗りつぶしたのだろう?
自分の血まで使って・・・。
私は殺し屋だから血の匂いに敏感だ。
でも、タンスを開けた時、血の匂いを感じ取る事はなかった。
すなわち、血でこのタンスを赤くした時は随分と前・・・。
「・・・・」
この赤く塗りつぶされたタンスの中には
ただ一冊のノートだけが入っていただけだったので、
私はそのノートを手に取る。
そして、迷わずノートを開いた・・・。
「・・・!?」
私は信じがたい物を目にした・・・。
私はそれを見た事によって月希姫の最大の秘密を知ってしまった。
「そうよねッ・・・!
こんな環境下で生きてきたくせにあんなにおとなしく良識を持った子が
育つ訳がないわよねッ・・・!当然、恨むわよねッ・・・!
最初から気付いてもおかしくない事なのに・・・
何故、私はこの事に目を背けたのかしらッ・・・!?」
私は耐え切れず叫ぶ。
止まらない涙を隠さずに、泣きながら私は嘆く。
そう・・・最初から気付く事が出来たはずなのだ。
特に私が誰よりも早く気付く事が出来たはずなのに・・・。
私は目を背けたのだ・・・!
私は・・・月希姫の秘密を知り、泣き続けた。
私がどんなに嘆き、叫んでも、泣き続けても、無意味だというのに、
私は止める事が出来なかった、私は自らの荒々しい感情を・・・。
・・・
「・・・カルム・・・来て頂戴」
私はあの白い部屋で泣き続けた。
だいぶ落ち着きを取り戻した私は直ぐに自分の屋敷に戻り、
カルムを呼んだ。
「何だ、ラルー?」
私の声を聞きつけたカルムが直ぐに玄関で立ち尽くす私の元に
やってくる。
「・・・今すぐ、ソノカ達を呼んでくれないかしら・・・
いえ、遠距離連絡の準備をして頂戴
ソノカ達と話したいの・・・」
「分かった、大丈夫か?ラルー」
「・・・今、私の心は悲しみに満ち溢れているわ」
「・・・そうか・・・落ち着くのに、レモネードでも作っておくか?」
「・・・いえ、必要ないわ
月希姫の部屋に行ってくるから、準備が終えたら、知らせて頂戴」
私はそれだけ言うと、月希姫の部屋の前に瞬間移動をする。
ドアノブに手をかけ、開く。
ベッドで安らかに眠っている月希姫の姿が見える。
私はベットまで歩み寄ると月希姫の隣に座る。
「・・・」
こんなにも安らかに寝ているのに、
あんな秘密を隠しているだなんてね・・・。
「私と同じ顔の同じ心の少女・・・
まるでドッペルゲンガーね・・・」
また私は呟く。
すると、突然、月希姫が寝返りを打つ。
「・・・・びっくりしたぁ・・・
起きたのかと思ったわ・・・?」
そこで、私は言葉に迷いを生じさせてしまった。
月希姫はこの時に、一言だけの寝言を呟いたのだ。
その寝言に私はまたもや心を掻き立てられる。
憎悪、悲しみ、怒り、絶望、
色んな私の「負の感情」が入り混じる。
でも、まだこの事実は隠さなくてはならない。
もしかしたら月希姫を救う手立てがあるかも知れないのだから・・・。
「ラルー、準備出来たぞ」
カルムの声を聞いた私は直ぐにカルムがいる部屋に瞬間移動する。
「じゃ、早速、繋いで頂戴」
私はそう言って、大きな赤い椅子に座りカルムに命じた。
カルムは白い電話を持ってくると、回線を繋ぎ、受話器を渡してくれる。
「・・・もしもし、ららみ?ソノカ?アイキキ?
聞こえているかしら?」
受話器を受け取り、耳に当てると、私は言う。
「はい、ららみです」
「ソノカだ」
「アイキキでございます」
順番にソノカ達は答える。
「今回、わざわざ連絡を取ったのには理由が当然あるわ」
「一体、どのような御用件でしょうか?」
アイキキが答える。
「今、私は私と同じ境遇の少女を助けようとしているの」
「同じ境遇って事は・・・随分と大変そうだな」
ソノカが同情の声を漏らす。
「でも、その少女は・・・私と同じような事になってしまっているの、
どうにか・・・救う方法はないかしら・・・?」
「具体的にその少女はどうなっているのでしょうか?
同じような事でも、違うものは違うのでしょう?」
ららみが賢明な質問をする。
「・・・そうね、隠していたら、救う方法は解らないものね・・・
いいわ、説明するわ・・・
その少女は・・・13年間白い部屋の中にずっと閉じ込められていた
言うなれば監禁されていたのよ、毎日のように酷い暴力と暴言を受けて、
そんな環境下ではあっさり“壊れちゃう”よね・・・」
意味深に言葉を紡ぎ始めた私は、月希姫の部屋から持ち帰った
ノートを開いた・・・。
「少女は、白い部屋を“自分の美しい世界”として、愛した
それと同時に、“自分の美しい世界”を穢す色・・・
赤色のクレヨンに惹かれていた、だからそれこそ狂ったように、
ノートに自分の思いを書き、それを収めるタンスの中をクレヨンで
赤く塗りつぶした
でも、赤いクレヨンを使い切った少女は・・・
自分の・・・、赤い血を使ってまで塗りつぶし続けた
少女は、異常なまでに周りのものを赤に染め上げる事に執着している
・・・人の・・・血で・・・
私の言いたい事がわかるかしら・・・・?」
「・・・つまりはその少女は・・・
人の血で周りを赤に染める為に人を殺す・・・
そう言う事ですね?」
ららみは分析した情報を解り易く説明する。
「そう、でもね、まだ誰も殺してないの
ただ、これから殺す危険性があるから、
今のうちにそれを治さなければいけないの・・・!
ららみ、彼女を・・・・救える・・・!?」
「・・・無理です・・・
その執着は・・・ほとんど殺戮衝動に近いものです
だから・・・治す方法は・・・分かりません・・・・
ごめんなさい・・・・」
ららみは申し訳なさそうに言う。
「・・・実を言うと・・・
まだ、話は終わらないの・・・」
「え?」
「・・・その少女が書き残したノートを見る限りでは・・・
白い部屋以外の世界は全て赤い血色に染まればいい、
全て何もかも赤色の血で穢し尽くせばいい、
そう少女は思っていたのは確かなのよ、でもね、
一人の心優しい刑事の手で少女は外の世界に出たの・・・
本来ならば、少女はそこで殺戮を繰り広げ世界を赤に染め上げるはずなの
・・・それでも、少女はそうしなかった・・・!」
「!?」
ららみは絶句をする・・・。
普通ならば、そのような衝動や欲求があれば抑えきれずに従う。
だから・・・そうはしなかったという事実はありえないのだ・・・。
「もしかしたら・・・まだ救いはあるのかもしれないって、
私はそう思うのよ・・・
殺戮中毒者たる私は尚更、衝動は治せないと断言出来るわ
衝動に抗うなんて、とても難しいと知っている・・・!
だから、きっと・・・!まだ月希姫には救いはあるのよ・・・!
救いがあるから、彼女は殺戮を起こさなかった!
そう、信じたいの・・・!!」
「・・・確かに、まだ救いはあるのかもしれない・・・」
ららみはしばらく考え込む。
「ラルーちゃん・・・でも、やっぱり解らない・・・
強いて挙げるなら、ラルーちゃんの力を使ってその月希姫ちゃんの
記憶を消すしか・・・」
「記憶を消すですって!!?
冗談はよして!記憶喪失の辛さを誰よりも知っている貴女が!
記憶の消去を促すなんて!」
「落ち着け!
ラルー、貴様ピリピリし過ぎにも程があるんじゃねーか?」
私が声を荒げるとすぐさまソノカが止めに入る。
「ええ、そうよ、私はここ最近ずっとピリピリしているわ・・・!
あの邪魔男は殺せないし、月希姫は苦しめられるし、
イヲナが執拗に挑んでくるようになってるし、
私の心は未だかつてない狂気に支配されるようになるし・・・!
救いを求めれば求める程、希望は遠のいて行くようだわ・・・!」
「ラルー様が狂気に支配されるのは前からそうでしたし、
博士様がなかなか殺せないのは貴女様にとっての最大の敵だからでしょう?
イヲナ様が執拗に挑むのも、彼にとっても貴女様が脅威だからでしょう
月希姫様も苦しめられるのは、人間なのだから当然です
苦しんでいる人間なんて世界には溢れかえる程にいるのだから・・・」
アイキキは冷静に私をなだめようとする・・・。
確かに一理あるわね・・・。
「そうね、私らしくなかったわね・・・弱音だなんて・・・
悪かったわ」
「ううん、どんなに強い人でも、弱音は吐くよ・・・」
ららみは私を励ます。
嗚呼、ららみはいつも優しい・・・。
その優しさが、本来は何よりも憎いはずなのに・・・。
私はいつの間にか、その優しさにすがってしまう・・・!
自分が、情けないわ・・・。
「・・・ねぇ、本当に月希姫を救う手段は忘却しかないの?」
「・・・ラルーちゃん、私が思い当たる手段はそれだけです
でもラルーちゃんなら、もっと他の手段が思いつくはずだよ・・・
私はまだ未熟だから、ろくなアドバイスは出来ないけど・・・
ラルーちゃんが誰よりもこういう時、相手がどうして欲しいか、とか、
どうすればいいか、とか、分かっていたでしょう?
冷静に自分の心に問いかければラルーちゃんは誰だって救えると、
私はそう思うの・・・そう、信じているから・・・!」
ららみはそう言い残すと、遠距離連絡を切った。
無駄な考えがよぎる前に切ったわね・・・。
「自分の心に問いかけて・・・か・・・・」
なんだか心に響く言葉だったので、思わず呟く。
「大丈夫か?ラルー」
後ろでカルムが私に心配の言葉をかける。
「・・・大丈夫よ
そうね、確かにららみの言う通りなのかも・・・
じっくり考えてみるわ」
私はそう言って、瞬間移動で私の部屋に移動する。
そういえば、最近何かと瞬間移動で屋敷内を移動しているわね、
外では使わないクセに・・・。
白い部屋を愛し、赤い血に惹かれる。
白の髪と赤の瞳の少女・・・。
「魂想 月希姫」・・・。
彼女をどうにか救えないだろうか・・・?
彼女は明らかに白い部屋に監禁されていた事に
苦しんでいる素振りはあった、もしかして演技?
彼女の目的がイマイチ解らないわね・・・。
部屋の中央の菱形のベットに横たわり私は思考を巡らす。
彼女は確かに全てを赤に染め上げる事に執着していた。
それでも、外に出た時、何故そうしなかった?
もやもやとした雲が私の心を曇らせるような感覚だ。
「・・・」
私はベットから起き上がると、
部屋をフラフラとグルグル回り歩き始める。
月希姫を救う手段は忘却。
他に手段があるかも知れないが、今のところは不明。
忘却は最終手段に取っておくが、使うつもりはない。
・・・脳内の整理をしているつもりが
尚更ごちゃごちゃしてきたような・・・。
私は扉の横に置かれているクローゼットを開く。
クローゼットの扉の裏に張られた鏡を見る。
顔を隠さないと・・・。
私はそう思い、クローゼットの中にしまってある包帯を手に取り、
目を覆い隠す為、グルグル包帯を巻き始める。
巻き終えた私は髪をフードの中にしまい、フードをかぶる。
普通ならこの状態では、何も見えないが、私は力を使って
空間を把握し、相手の顔を認識する事が出来る。
「・・・今、何時かしら・・・?」
私は携帯を開いて、時間を確認する。
「・・・あれ・・・・嘘でしょう・・・?」
そこで私は驚愕する。
時間は8時42分・・・。
もう朝じゃない・・・!?
あれ?あれ?おかしいなぁ・・・?
だって、ついさっきまでは夜だったのよ・・・?
まさか・・・うっかり、いつの間にか立ち寝してたとか・・・?
そんな馬鹿な・・・!!さすがに気付くでしょう!?私!!
「ら、ラルー・・・収まったか・・・?」
そう言って、カルムが恐る恐る私の部屋に入る。
ん?何よその変な言い方・・・。
「・・・一体、何があったか、懇切丁寧に説明なさいッ!!」
「また暴れたんだよ・・・」
またか・・・と言わんばかりにため息をつくカルム。
まさか、と思いすぐに私は振り向く。
私の部屋がめちゃくちゃ荒らされている。
「・・・なるほど・・・ようやく理解したわ・・・」
つまりはそういうことだ・・・。
また私は無意識に暴れたようだ・・・。
あまりにも曖昧な思考の海に浸り過ぎて、
意識を取り留める事が疎かになった為に、こうなってしまったようだ・・・。
「・・・数時間も私は暴れていたの・・・?」
「ああ、そうだ」
いつ私が暴れたかとか、いつから私は正気になったかとか、
全く記憶にない・・・いよいよ深刻化してきたわね・・・。
綺麗に記憶が飛んでいるわ・・・。
「・・・って、約束の時間まで後、4時間程度か・・・
月希姫達は?」
「まだ寝てる
相当疲れているんだなぁ」
「ふーん・・・
じゃ、今のうちにカルムを蜂の巣にしましょうか」
「待て待て!!銃出すなよ!?
なんで昨日からずっと俺を蜂の巣にしようとすんの!?」
「ストレスが溜まってるから、ストレス発散・・・」
「だったら、殺しの仕事でストレス発散してくれよ!!」
「さて、カルムいじりはこのくらいにして・・・」
「え・・・!?あくまでも俺いじり!?やめてくれよ!?」
カルムいじり、やっぱり楽しいなぁ・・・。
「カルム、ご飯の支度をしましょう、月希姫達の為に、」
「そ、そうだな」
そう言って私達はキッチンで料理を始める。
今日のメニューは、ハムとレタスのサンドイッチ。
サンドイッチが完成した頃に、ようやくメイにゃんと月希姫が起きてきた。
月希姫の秘密を知ってとても気まずいが、そこは私の演技力でカバー
「おはよう、月希姫、メイにゃん」
「おはようございます、ラルーさん」
「おはよう」
「サンドイッチを召し上がれ!」
サンドイッチを入れたお皿を
月希姫とメイにゃんが座っている席の前に置く。
「いただきます」
手を合わせて月希姫は言うと、サンドイッチを頬張る。
可愛いなぁ・・・和むなぁ・・・。
「ラルーさん、とっても美味しいです!」
そして満面の笑みで幸せそうに月希姫は言う。
「・・・ラルー、この味を出す方法をいつか教えなさい!」
「・・・いつか・・・ねぇ?」
「はッッ!?ぜ、前言撤回ぃぃ!!今すぐ教えて!!」
「前言撤回は受理しない主義なもので・・・」
「うわぁぁぁ!!!」
「朝から元気だねぇ、メイにゃん」
「うるさい!!」
私のサンドイッチを食べて、納得がいかない
と言わんばかりに震えるメイにゃん。
味を出す方法を聞くが、“いつか”という言葉でからかってみた。
メイにゃん、ナイスボケ!
「そろそろ行きますか・・・?」
「・・・そうね、メイにゃん、留守番してなさいね?」
「何で私が留守番!?」
「メイにゃんしか留守番してくれる人がいないからよ、
別にいいでしょう?」
「分かったわよ・・・!でも、ちゃんと結果報告してよね!
あと、なるべく早く帰ってきてよね・・・!」
メイにゃんはそうしっかり、私を見ながら言う。
「・・・メイにゃん、ツンデレぇ」
「は!?ツンデレじゃないわよ!!」
なんだかツンデレっぽいセリフだったので、
茶化してみる。
「じゃ、行きましょうか」
「分かりました・・・!」
私は月希姫と一緒に屋敷を出て、湖を私の鎖の形を絨毯みたいに
平らな形にして、それに乗って湖を渡る。
月希姫はだいぶこれに慣れたようで、風を受けて、
「涼しい・・・!」
とのんびり言うようになった。
「通行りょ・・・」
「ほい」
「待ってください!」
いつもの通りに門番にコインを投げつけて、
それを追いかけようとする門番。
だが、突然、月希姫が門番を止める。
「何ですか!?
私は今すぐ通行料を回収しないとなんです!!」
「あなたは何者ですか!?
今度という今度こそは教えてもらいますからね!」
「落ち着いて月希姫・・・
コイツは門番、私の屋敷を守ってもらってるのよ・・・」
「へ?門番?」
どうやら月希姫はずっとこの門番の事が気になっていたようで、
その正体を確かめたかったようだ。
「まぁ、勝手に通行料とか取るようになった上、
通行料さえ払えばどんな不審者でも通すようになってるんで、
クビにしようか考え中なんだよね・・・
主人の私からも通行料を取ろうとするし・・・」
「え!?クビにしようか考え中!?
それだけは勘弁してください!!」
「だったら、通行料取るのやめなさい」
「それは出来ません!」
「わけがわからないよ!!」
そこでまた私は門番にコインを投げつける。
それを追いかけて森の中へと駆けてく門番。
一体、何なんだアイツは・・・。
「なんだか面白い人ですね?」
何故か月希姫から好感を持たれている門番・・・。
なんだよ、もっと私に好感を持ってくれ月希姫。
私のほうがあんな不真面目な奴よりキャラが立ってるよね?
「・・・アイツはそれほど面白くないよ」
「えぇ?そうですか?」
「・・・ふん、だ」
「あれ?ラルーさん拗ねてる?」
「ノーコメント」
「そうですか・・・」
そこで、カルムが車を運転して、やってくる。
ナイスタイミング、カルム。
私と月希姫は車に乗り込む。
軽い沈黙が車内を包み込む。
「・・・」
「・・・」
何か話題を考えた方がいいのかしら?
「・・・ねぇ、知っているかしら・・・?
マンドラゴラという地中から掘り出すと断末魔のような叫び声を上げ、
その声を聞くと死んでしまう植物を、
実はね、たまに土に喉を詰まらせ叫び声を上げられない時があるのよ?
え?何で知っているかって?それは・・・
一度、興味本位でマンドラゴラを引っこ抜いて見たら、
そうなってたからよ!
その時は強行手段でマンドラゴラが地面を走って逃げてったけど・・・」
「・・・何が言いたいんですか・・・?」
「・・・ごめん」
月希姫に変な目で見られたので、謝罪。
「ラルー!
めっちゃ和んだよ!
うん、和んだ・・・」
「この前の忠告忘れたのかしら?」
「すみません・・・」
「謝るくらいなら黙れ」
「相変わらず刺がすごいなぁ・・・・」
カルムはそう言いつつ、がっくりとする。
同じ事を繰り返してどうするイケメン吸血鬼!
「それにしても・・・」
突然、月希姫は口を開く。
「マンドラゴラって、本当にいるんですね!!」
「ほえ?」
何かめっちゃキラキラしてる目で月希姫にジッと見られてる・・・。
純粋な目を向けないで・・・良心が色々と痛む・・・!
「月希姫はマンドラゴラとか、そういうのが大好きなの・・・?」
「マンドラゴラはそれほど好きじゃないですけど・・・
カルムさんみたいな吸血鬼なら大好きです!」
「・・・吸血鬼が好き・・・?
具体的にどこが好きなの?」
「そうですね・・・血を吸う所です!」
「血・・・」
やっぱり、ノートに書かれている事は事実だ・・・。
「私の美しい白い世界以外の世界を全て、
真っ赤な血で染め上げたいな、何もかも穢し尽くしたいな、」
月希姫を救う方法・・・今でも私は自分の心に問いかける。
私は月希姫を救えるのか?月希姫を救う方法は?
その気になれば何でも出来ると、かつて月希姫に言ったけれど・・・。
私に出来ない事も沢山ある・・・。
強い再生力を持っていても、私の再生力は傷つきすぎた私の心は癒さない。
いつも私の心はズタズタに傷ついていて、治る事はない・・・。
だから、月希姫の傷ついた心も私は癒すことは出来ない・・・。
「ラルー、到着したぞ」
「そう、ありがとう」
カルムは車を止め、到着を知らせる。
「では、行きましょう月希姫」
「・・・はい」
私は月希姫と共に車を降り、魂想グループの屋敷跡に向かう。
普通、数多くの死体が転がり、中途半端に焼けている、
その上、それが、かの有名な魂想グループの屋敷だというのなら、
すぐさまニュースなどで報道されるものだ。
「魂想グループの屋敷で一体何が・・・!?」
「百人を越える犠牲者 焼けた魂想グループの屋敷!?」
みたいなテロップで・・・。
だが、まだ、ニュースにはなっていない。
それはやはり、あの邪魔男が知られたくない為に情報を隠蔽しているのだ。
全く、不愉快だ・・・。
門を飛び越え、広い庭を進み、焼け焦げたメインホールに入る。
「来たな、最初の作品よ」
そこでは既にあの不愉快な仮面男、イヲナが立っていた。
「もちろん、来るわよ
人質を取られている以上ね・・・」
「しかし、残念だな
久しぶりにフードを脱いだ姿が見れたのに、またフードを被っている」
「あんまり私はこの顔を晒したくないのよイヲナ
アンタこそ、一度だってその仮面を取らないんだから、
アンタの方が重症なんじゃない?」
「そうだな、否定はしない・・・」
イヲナの背後に刑事さんと家庭教師君が倒れているのが見える。
麻酔でも使っているのやら・・・。
「さぁ・・・決めろ月希姫
こやつを我に渡し、刑事と家庭教師を取り戻すか、
こやつを我には渡さず、目の前で刑事と家庭教師を殺されるか、」
「・・・ラルーさんを・・・貴方に引き渡します・・・」
「賢明だな」
月希姫の答えを聞き、私はゆっくりとイヲナの方に歩み寄る。
そしてイヲナの目前まで来ると、イヲナは手を振り上げようとする。
だが・・・私はそれを制した。
「・・・ぬし、何の真似だ?」
「一つ、拘束される前に聞きたい事があるの
いいでしょう・・・?」
「・・・何だ」
「この間、イヲナ、私に懇切丁寧に説明してくれたよね?
私たちのシリーズと貴方達のシリーズの違いについて・・・
貴方達のシリーズの条件は、
『男であるか、因果が多いか、そして・・・
アルビノであるが、とある実験台にされたために髪は黒く、
瞳はそのままであるか・・・』
それで思ったことがあるのよ・・・驚く程に、
家庭教師君はその条件にピッタリなのよね・・・?」
「・・・」
「ずっと、私は考えてたの、月希姫は明らかに記憶を消されている
その消された理由は私の場合と同じで、
手術中の記憶が残らないようにする事と
自分たちに都合がいいように従わす為・・・
でも、
“何故、家庭教師君までの記憶を消す必要があるんだ”
って・・・気付いた
それでようやく分かったの、家庭教師君もそうなんでしょう?
あなたと同じ、手術を受け、力を手にした、
貴方達のシリーズの一人なんでしょう?
だから、貴方は月希姫に家庭教師君を返すつもりはない
そうでしょう?」
「・・・相変わらず、疑う事を忘れぬな・・・最初の作品
ああ、その通り
私は元より家庭教師を返すつもりなどない
微塵もな、」
「・・・!!?
そんなッ!約束が違ッ!!」
月希姫はその言葉を聞き、動揺する。
大丈夫よ、例え貴女がどんなに・・・私が思っていた通りの子でなくても、
“貴女を救う”その決意は揺らがないわ。
「イヲナ、知っているかしら?
私って、何よりも命令口調が大嫌いなのよ」
「それがどうし・・・。」
イヲナが私に返事を返そうとした、その時、私は、
イヲナの引き締まった腹を右手、左手と交互に全力で殴る。
イヲナは体重が私と同様に普通より軽い為に後ろに倒れそうになる。
そこで私はイヲナの白い仮面をまたも全力で蹴る。
どんなヤツでも、私の強烈キックを喰らえば気絶をするのさッ!
なので、イヲナは意識を失い、倒れる。
「イヲナ、k.o!!」
「ええええええええぇぇぇぇっ!!?
ラルーさぁぁん!!?何やってんですか!!?」
月希姫、驚愕の声を惜しみなく上げる。
うん、誰にも予想出来なかった展開でしょうね。
でもね、私のことをよく理解している人なら、分かるはずだ。
人質をとってからのイヲナは若干、命令口調だった。
だから、私はずっと
腹パン二回、顔面キック一回をカマしたくてカマしたくて仕方がなかった。
「はぁ・・・ようやく腹パン二回と顔面キックをお見舞い出来たから、
スッキリ」
「何、幸せに満ち溢れた表情で胸をなで下ろしているんですか!!?」
「なんとなく、分かってたからね・・・
さ、いい加減、寝たふりは終わりにしたらどうなのかしら?
家庭教師君?」
「え・・・!?」
ずっと気づいていた。
家庭教師君は麻酔で眠らされているが、本当は起きているという事を・・・。
私の声を聞いた家庭教師君は黙って起き上がる。
やっぱり、思った通り・・・。
「気付いていたか・・・だが、予想外だったな
イヲナに拘束される前にイヲナを逆に倒すなんてな・・・」
「これでも命令口調は大嫌いなものでね・・・
ま、家庭教師君の場合はちょっと例外だけど・・・」
「・・・それで、俺の正体を見破ってお前はどうするつもりだ?」
「さぁ?これから考えるわ」
「・・・月希姫の秘密を知っているのか?」
「・・・知っているわ、そう言う貴方こそ知っているの?」
「知っている・・・と言っても、昨日イヲナに教わっただけだが、
お前と同じくらいに知っているんだろうな」
「そう・・・貴方はまだ月希姫と一緒にいられるの?
それは、刑事さんも含めての話よ、」
「もちろん、月希姫を放っておく訳がないだろう?」
「・・・」
この状況は曖昧だわ・・・。
イヲナから説明を受けたというのなら、妙な事を吹き込まれている
可能性が高いわ・・・・!
今、家庭教師君は敵なの?味方?
「ちなみに聞くけれど、月希姫を救う方法は知っているかしら?」
「残念ながら、それは全く知らない
だが、イヲナは言っていた
“月希姫を救える者がいるとすれば、
それは同じ境遇で、途方も無い力を持つラルーのみ”だとな・・・」
・・・!?
私は驚きを顔に出さず、心の中で驚く。
私だけが月希姫を救える・・・!?
一体、どうやって救えるというの・・・・!!?
「え・・・?
私の秘密・・・?
なんのことですか・・・?
まだ・・・何かあるんですか・・・?」
しまった・・・!!
月希姫にはまだ知られるわけにはいかない!
でも、この状況は説明しなければいけない状況・・・!
「・・・もしかして、私の秘密って・・・」
すると、
そこで、
月希姫は突然、首を傾げてトンデモナイ事を言い放った。
「私が、
ノートに書いて、
タンスに隠した、
私だけの素敵な、
感情の事じゃないですよね・・・?」
そう、首を傾げたまま、途切れ途切れに言い、
まるで自分のその狂気の感情を神のごとく崇高な物だと言わんばかりに、
ニ ッ コ リ と 微 笑 ん だ ・ ・ ・ 。
まずい、これは・・・。
私達は今・・・敵対してしまった・・・。
私が必死に月希姫に隠していた最大の理由は・・・。
同じ、狂気の感情を持つ者同士だからこそ分かる。
タンスに隠したという事は、誰にも知られたくはないという事。
自分だけの物にしたいから、そうする。
だから・・・知られたら、その人は敵だと月希姫は認識する。
敵だと認識されれば、救うも何も、私は月希姫を殺すしかない・・・!
殺戮中毒者の私は敵意を向けられれば、殺さずにはいられない・・・!
嗚呼、私はまた無力なんだ・・・あんなに救いたかったはずなのに、
心の底からどんどん溢れてくるわ・・・!
月希姫に対する・・・殺意が・・・!
この私だけの狂気の感情に・・・私は逆らえない・・・。
「・・・ええ!知っているわ・・・!
貴女の感情、貴女だけの物だったはずなのにね!
で、どうするのかしら?月希姫ちゃ~ん?」
「・・・殺します
それ以外の選択肢なんてありえません
論外です、邪道です、イカレています」
「イカれてるヤツが言うの?」
「私はイカレてません、
私は私だけの愛おしい素敵な感情を守っているだけです」
「ふっ、はは、アッハハハハハハ・・・!!
素敵な感情ですって!
周りを赤に染めたい欲求を!
素敵だと!
何よりも愛おしいと!
甘美で素晴らしい物なのだと!
貴女は言う!でもねぇ・・・!言わせてもらうわ!
あのね・・・?
この世で何よりも甘美で素晴らしい物はね・・・
ただ一つ!
首を撥ねる事と、殺す事よ・・・!!」
自然と私の髪は蛇の如くうねり、フードが取れる。
巻いてた包帯もスルスルと落ちて、白日の下、
私の顔は晒される
でも何ら気にしない、今はそんな事、どうでもいい(・・・・・・)。
赤く輝く私の目を見開き、私は邪悪に口を歪ませ笑う。
私は影から大鎌を取り出し、月希姫の目前に迫る。
以前なら、月希姫はこの程度の事で恐怖に支配され、
固まってしまっていただろう・・・。
だが、今は強くなっている。
だからあえて目前に迫るのは無意味かも知れない
でも、これはあくまでも、“確認”だ・・・。
そして、予想した通りの事が起きる。
月希姫の首を撥ねる為、大鎌を横に薙ぎ払う。
が、月希姫と私の間に何者かが現れ、剣で私の大鎌を受け止める。
家庭教師君だ・・・。
家庭教師君が月希姫と共闘するかを確認したかったのだ。
「家庭教師君も!
私と敵対する気ッ・・・!?」
「・・・月希姫を守ると、誓ったんだ
当然、敵対するッ・・・!!」
その姿はかつて、もう一つの世界で
月希姫を守ろうとした、
家庭教師君と同じ容姿の、
守護騎士を連想させられた。
「そう、じゃ、首だけになりなさいッ!!」
私は後ろに飛び、間合いを取る。
地面を蹴り上げ、私は家庭教師君の目前に迫り、また大鎌を振るう。
また、剣で受け止める家庭教師君は歯を食いしばる。
私は受け止まられた大鎌にわざと力を加え、家庭教師君の体力を削る。
しかし、突然、氷の刃が私を貫こうと現れ、私に向かって飛んでくる。
私は一歩後ろに飛び、大鎌で氷の刃を砕く
粉々に砕ける氷の破片が私の視界を邪魔する。
モヤモヤとした視界の向こう
更に、炎の弾が幾つも飛んでくる。
私はまた大鎌で炎の弾を連続で叩きつけるように、切る。
月希姫の攻撃だ。
「貴女は確かに強いです
でも、守る物がある
私達に勝てますか?」
月希姫は私に問いかける。
そうしてる間も、氷と炎の弾を空中に創り出し、
私に向けて撃つ。
「・・・守る物がない・・・
確かに私はその通り守る物がないわ、
でもね、私はそれさえも殺すッ・・・!!
そして、お前たちを、お前たちの守りたい物ごと殺すわッ・・・・!!」
そう叫んで私は次々と放たれる氷と炎の弾を避けながら走る。
長い私の髪にもかすらせもさせないで、私はまた月希姫の首を狙う。
それを再び剣で防ぐ家庭教師君。
私は影から白い剣を取り出すと、剣を握る家庭教師君の手を斬り付ける。
切り落とさない程度に手加減をした。
斬り付けられた痛みから家庭教師君は剣を落とす。
そこで私は家庭教師君の胸を蹴飛ばす。
数メートル向こうまで吹っ飛んで家庭教師君は床に強く身体を打ち付けて、
痛みにうずくまる。
「お兄さんッ・・・!!」
月希姫はそれを見て、声を上げ、
家庭教師君の方に振り向く。
「月希姫、貴女は本当に未熟だわ・・・
いくら仲間が心配でも、敵から目をそらすなんて・・・
自殺行為だわぁ・・・?」
私はそれを指摘すると、月希姫は慌てて私の方に振り返る。
だがもう遅い。
私は振り返った月希姫の頭を掴み、持ち上げる。
重心が頭に集中し、負担を軽減する為に月希姫は私の腕を掴む。
「ま、自らその首を捧げてくれるのは、
とってもありがたいからね~
喜んで、その首、
もらうわ・・・!!」
私は大鎌を月希姫の首に当てる。
嗚呼、私は月希姫を救いたかったはずなのに・・・。
何でこうなってしまったのだろう・・・?
私はやはり、月希姫を殺したいという自分の狂気の感情には・・・。
勝てなかった・・・・。
ご め ん な さ い ・ ・ ・ 。
パンッ・・・・!!
だが、突然銃声が響き渡る。
咄嗟に私は月希姫を離し、遥か後ろに跳ぶ。
そして、私は銃声がした方向を見る。
そこには・・・銃を構えた刑事さんが立っていた・・・。
「あら?今度こそは私を殺す気で撃ったわねぇ・・・!?
刑事さん・・・!?」
私は血が流れ落ち、痛む肩を押さえながら、刑事さんを睨む。
「・・・お前は・・・月希姫を救うつもりじゃなかったのか?
気が変わったとでも言うのか・・・?」
「いえ、今も月希姫を救いたい気持ちは変わらないわ
ただね・・・私は今、月希姫を殺さずにはいられないのよ・・・!!」
目を見開き、私は痛む肩に意識を集中させる。
すると、傷口から弾丸が落ち、傷が綺麗に消える・・・。
「・・・月希姫を救う方法は知っているのか・・・?」
相変わらず銃を私に向けたまま刑事さんは言う。
「・・・月希姫を救う方法・・・それは、
今のところ“忘却”しかないわ!」
「だが、お前は使わなかった
つまりはまだ他の手段があるかも知れない
という事だな・・・!?」
刑事さんは銃を向けたまま動こうともしない。
・・・つまらないなぁ・・・。
ようやく私を殺す気になったと思ったのに・・・・!!
「ええ、その通りよ
まだ、他の手段があるかも知れない・・・・
けれども・・・・月希姫はそれでいいのかしら・・・?」
私は月希姫の方を振り返った。
月希姫は無表情ながらも、とても暗い雰囲気を漂わせていた。
「救動さん・・・私を救う方法って・・・
それが指すの意味って・・・
私からこの素敵な感情を消し去るという事ですかッッ・・・!!?」
「月希姫・・・!?」
刑事さんは月希姫の豹変ぶりを見て、驚愕の表情を浮かべる。
この中で唯一、何も知らなかったようだ。
「刑事さん・・・言っておくわ、
月希姫は貴方が思っていたような、おとなしく良識を持って、
まだ救いがある子ではなかったのよ・・・
月希姫にとって今も昔も、自分の狂気の感情が何よりも大事で、
私と同じように平気で人を殺せる人間
確かにあまりにも哀れで、
それこそ彼女を救ってあげないとならない程に月希姫は決して報われない
けれども・・・
それさえもが、私たちのような人間には・・・
“どうでもいい”
刑事さん、悪い事は言わないわ、手を引きなさい
そして、綺麗サッパリに忘れなさい、この件は・・・
貴方のような人間がどうこうできる問題じゃないのよ・・・!」
刑事さんは私の話を聞くと、目に涙を貯め始める。
初めて見る、刑事さんの“絶望の涙”・・・。
・・・なんで、どうして、こうなった・・・の・・・?
「・・・・さ、月希姫
さっきの殺し合いの続きをしましょう・・・?」
私は大鎌を構える。
それと一緒に月希姫も手を広げる。
おや?大技を決める気かい?
「待て・・・
待て・・・!!
ラルー!月希姫!」
だが、刑事さんは私たちの間に入って来て、叫ぶ。
「あのね・・・刑事さん・・・!」
「分かっている・・・!お前の言いたい事はッ・・・!!
あまりにもお前のいう事は正論すぎるが・・・!!
まだ月希姫に救いがあるという事実は変わらないッ・・・!!」
「!?
貴方はアホなのかしらッッ・・・!!
月希姫はそれを拒絶するの・・・!!
救いの手を差し伸べても、月希姫にとってそれは、救いでもなんでもない!!
月希姫の意思を無視してまで、救うなんて・・・!
私にはそんな権利はないの・・・・!!誰にもそんな権利はないの!!」
「・・・じゃあ、何でお前は権利もないのに月希姫を
救おうとしたんだッ・・・!!?」
「!?」
刑事さんは涙を流していても、その決意の表情は揺らがなかった。
その立ち姿は私には儚く、この手で握っている大鎌を振り下ろせば、
あっさり壊れてしまうような脆さがあると感じた・・・。
だが、それと裏腹に強かった。
月希姫を救いたいという優しさはとても強かった。
だから、私は思わずその姿を見て、黙ってしまう。
「理由もなく、他人を勝手に救えば、
その人にとっては救済にはならない事を何よりもお前が知っている。
だから、理由もないのに人を救う事はしなかった。
そんなお前が、何故、月希姫を救おうとしているんだ・・・?
理由があるんだろうッ!?
ただ別世界で月希姫を殺したから
その償いで救おうとしてる訳じゃないだろうッ・・・!!?
答えてくれッ!!ラルーッ・・・!!」
何故か必死に刑事さんは“私が月希姫を救う訳”を聞く・・・。
あぁ・・・そう言う事ね・・・・?
刑事さん、貴方は意外と物事の状況を整理し理解するに長けてるようね?
いいわ、乗ってあげる。
私は彼の考えを悟り、素直に従う事にした。
「・・・私は・・・当初は本当に別世界での償いとして、
月希姫を救おうとしたわ、でもこの世界の月希姫の秘密を知り、
私はもうこの件には関わらないでおこうと考えたの・・・
救う方法が解らないからね・・・だから、お別れのつもりで
寝ている月希姫の下に行ったわ、そしたら・・・
寝言で月希姫は言ったの・・・
「どうか、助けてください・・・自由になりたいのです、
救動さんとお兄さんを傷つけたくはないんです・・・・」
私は頼まれたの、月希姫自身に助けを求められた、だから、
私は月希姫を救う気になった・・・」
「え・・・?」
私が月希姫を救う理由を話すと、月希姫本人が驚きの声を漏らす。
「月希姫、貴女は刑事さんと家庭教師君を傷つけたくなかったから、
外に出ても、殺戮を行わなかった・・・」
私は追撃のように言う。
「お前は確か・・・“刑事に「絶対にお前を救ってやる」と、
そう言われたから、救われたくて一緒にいるんだ”って・・・
病院で言ったな・・・?だから・・・殺戮をしなかったのか?」
家庭教師君はフラフラと立ち上がり、言い放つ。
「私は知っている・・・!
月希姫、貴女は恐ろしい狂気の感情を愛している反面
救われたかった、そうでしょう?
今、ようやく分かったわ・・・どうやって、もう一つの世界の
月希姫がこの世界の月希姫に自分の因果や人生を掛け合わせたか・・・
それは、もう一つの世界の月希姫とこの世界の月希姫は、
同じ時に強い同じ感情に染まったからよ・・・!!
月希姫は耐え難い監禁生活の中で思った。
“救われたい・・・”と
もう一つの世界の月希姫は私に殺される時、私の世界の自分が
救われない事を知り、思った。
“救いたい・・・”と
二つの世界の少女の心が、繋がった・・・
それに気付いたもう一つの世界の月希姫はその繋がりを利用し、
この世界の月希姫に自分の因果、人生を掛け合わせ、
救済に必要な奇跡を起こした・・・
“開くはずのない扉を開け放つ奇跡”
“駐車場の時、恐怖に支配された月希姫に紅色の夜と呟かせ、
私にイヲナの精神操作が施されている事を理解させる奇跡”
そのおかげで私は月希姫を殺す事を踏みとどまった
そのおかげで月希姫は外に出れた・・・!」
私は理解出来た、
もう一つの世界の月希姫の心を・・・。
貴女は最後に、確かに言った。
「救いたい」と・・・・。
だから、月希姫を救う為に
色んな事をしてくれたのでしょう・・・?
そして、こんな事をわざわざ言ったのは、
月希姫を正気に戻す為、
こうすれば、話を聞いてくれるでしょう?月希姫・・・?
月希姫は立ち尽くしたまま大きく目を見開く。
その目からは大粒の涙が流れている・・・。
そして・・・。
月希姫は倒れた・・・
「ちゃんと・・・月希姫を救ってね・・・?
もう一つの世界の月希姫・・・」
私は倒れた月希姫に駆け寄る刑事さんと家庭教師君を見つめながら、
名残惜しんで、呟いた。




