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終極限界のクレアツィオーネ  作者: 立花詩歌
第一章『チェインド・ドラゴン』
20/57

第七理― <訓練>才能は結局環境に左右される

 パァンッ!

 広い地下室に軽快な破裂音が響く。

 音源は当然、ボクの手に握られた銃――ブローニング・ハイパワーという名の自動拳銃だった。重さは一キロ弱と大したことはないのに、持っているだけでかかる精神的な重圧はその音の割に重い。


 パァンッ!

 だけどボクは、テクスに言われるがまま――――拳銃(コレ)をボクの力にするために、射撃実習を続けていた。


――平和ってのは争いが起こらないことじゃなく、争いが起こっても大事な人を守れる連中だけが手に入れられるモンなんだよ――


 あの言葉……何処か変に聞こえるけれど、何処が間違っているのか、何処かが間違っているのかがわからない。

 ただ、的を射ているような気はする。


「……ふむ、経緯は止むを得ずといった感じだったが、君は案外銃が向いているかもしれないな」


 突然、背後からそんな声がかけられる。

 振り返ると、いつのまにか拘束(ガムテープ)から抜け出していた不夜城先生がすぐ後ろに立っていた。

 その目つきは真剣そのもので、二十メートル先の紙製の人型標的《マークスマンシルエット》を思案顔で見つめている。


「不夜城先生。どういう意味ですか?」

「いや、深読みする必要はない。どういう意味もそういう意味だよ。静止立姿勢(ストップ・スタンディング)とは言え、実質的な射撃時間三時間六分で二十メートル先のマンシルエットに当てるなんて大したものだ。才能があるといって間違いない」


 褒められているのにあまり嬉しいと思わないのは、やっぱり実感が伴わないからなんだろう。銃なんて、実物を見るのも触るのもほとんど初めてみたいなものだし。


「あんまり嬉しくない才能(センス)かもしれないけどな。正直、俺も驚いてる」


 ドキッ。

 テクスの台詞が、まるで考えを読まれたかのように的確すぎて心臓が跳ねた。


「普通なら銃の反動(リコイル)に慣れるだけでも倍以上の時間をもろに喰う。個人の適性判断は専門外だから剣か銃かはぶっちゃけ勘だったんだけどな」

「君は感覚が動物的だからね。より本能に近い直感の方が冴えているんだろう」

「喧嘩売ってんのか」


 不夜城先生に詰め寄り、青筋浮かべて静かに叩きつけるテクス。不夜城先生は勢いに押されるようにながらも両手の掌を顔の前にテクスとの間に立てる。

 そしてテクスの怒りを抑えるように口元に笑みを浮かべて見せる。ちょっと引き攣(つ)り気味だけど。


(あれ? じゃあ、テクスの適性は剣ってことなのかな……?)


 見たことのあるテクスの武器は刃渡り百五十センチの長大な刃を持つ剣斧だけ。確かにさっきは銃の扱いにも手慣れてたけど、それなら離れたところから攻撃できる銃の方が有利なんじゃないかと思う。剣はあくまでも近接戦闘にしか使えないからだ。


「テクスの適性は何なの?」


 不夜城先生の襟首を掴んでギリギリと絞め上げていたテクスに声をかけると、テクスは「あ?」と振り返った。

 ちょっと怖い……。


「俺はどっちかっつーと剣寄りだ。銃も使えなくはないけどな。他に近接で剣を使えるヤツがいないから、銃戦闘(ガンアクション)はリリスとミルアに任せてある」

「ミルアって狙撃手の人だったっけ?」

「別にアイツは狙撃向きってワケじゃないけどな。やりたがるから任せただけだ」

「やりたがるから、って……。そんな適当でいいの……?」

「下手くそならやらせてねーよ。誤射(ミスファイア)なんてシャレにならねえからな。まぁ、アイツは捕(・)捉(・)照(・)準(・)だ(・)け(・)は(・)正(・)確(・)だからな。正確すぎて動く相手だと結構外すんだけどな」


 なんでわざわざ変な言い回しをしたんだろう――――とわずかに疑問を覚えながら、ボクは再びブローニング・ハイパワーを目の高さに構える。

 そして、前後部の突起と溝を二十五メートル先に移動させた紙製の人型標的《マークスマンシルエット》の右肩のレティクルマークに重ねるように狙いを定めた。

 この突起と溝は、オープンサイトという照準器のひとつらしい。

 銃身フレームの上部に設けられた、前部(銃口直上)の凸型照星(フロントサイト)と後部(銃把(グリップ)の直上)の凹型照門(リアサイト)を重ね、それをさらに射撃目標に合わせることで大まかな狙いをつける単純なものだ。

 ちなみに拳銃(ピストル)の各部の名前は、ついさっきテクスに聞いたものだ。その時は「ノリ気じゃなかった割に案外学習意欲は高いんだな」と驚かれたけど。


「ミルアは元々非接続外部火器(エクスターミナル・アームズ)の扱いには不向きだからね。仕方ないというものさ」

「え? エクスターミナル……アー……ムズ……」


 嫌な予感が駆け抜けた。

 何かの用語なのかはわからないけど、少なくともテクスと不夜城先生の言葉の端々に、普通の会話としては不自然な言い回しが入っているのはわかる。


「えっと、そのミルアさんって、人間じゃないですよね?」


 テクスと不夜城先生が呆気にとられたような表情をボクに向けた。


「……やっぱお前、案外鋭いな、ミズハ。ミルアってのは名前っつーより、本来略称だ。まぁ、制式名称は面倒だから略すけど、Military(ミリタリー) Armed(アームド)でMil-A(ミルア)。立派な機械だよ」

「正確に言えば機界(マシーネ)出身の機械生命体なんだけどね。まぁ、詳しくは私から話すことでもないだろうし、今度会った時に直接訊いてみるといい。彼女なら普通に教えてくれるはずだよ。……………………本当は世(・)界(・)機(・)密(・)レベルの兵器だからあまりべらべら喋って欲しくはないのだがな」


 なんか不夜城先生がボソッと怖いこと言ってる。じゃあなんでボクにそんなこと教えるんですか。


「何も考えてない“バカ”だからな。通信(カム)越しだったけど、お前も声聞いたことあんだろ」


 テクスがにやりと笑って言う。


『え~、銃(モノ)壊されちゃったから何もできないんだけどぉ』


 ……アレのことかな。少し間延びしたような緊張感のない声。確かにあまり賢そうには聞こえないかもしれない。


「実際問題、アイツを見てると戦術大型兵器(タクティカル・ハイアームズ)にまで言論の自由を保障するのも疑問視だよな」

「いや、重要なのは機密保持のための制度だね。言論自体は基本的機(・)権(・)の尊重の面からも守られるべきだよ」


 二人が難しそうな話を始めた。

 ボクには関係ないし、と納得しながら引き金(トリガー)にかかった指を意識し、銃身を支えることに集中する。


 パァンッ!

 引き金(トリガー)を引くと、銃口から飛び出した9mmパラベラム弾がマンシルエットの輪郭の少し外を掠(かす)め、瞬く間にその背景に消える。さっき不夜城先生は『マンシルエットに当てる』と言っていたけど、正確に言えば『マンシルエットに当てられるだけ』だった。

 その表情が顔に出ていたのか、後ろから不夜城先生が


「当てられるだけで十分すごいよ。まっすぐ狙った方向に飛ばすことは君が思っている以上に難しいからね。素人ならマンシルエットに当てられなくても掠るだけで及第だ」

「ま、訓練ならだけどな。実戦では大した役に立てねぇし、誤射考えりゃ後方支援射撃も任せられねぇ」


 まるで心が読めるレベルのタイミングの良さでフォローしてくれる不夜城先生に対して、さらっと辛辣なことを言うテクス。

 ちょっと泣けてきた。


「それでも三時間の成果がこれなら十分だよ、テクス。君などは三ヶ月間、武器(エモノ)を持つ筋力すらなかったのではなかったかね? それはそれとしてホントにミズハ君は誘い受けだよねむぎゅる――」


 テクスのアイアンクローが炸裂し、不夜城先生の口を物理的に塞ぐ。


「むぐぐむぐむぐむぐぐ……っ」

「拳銃の撃ち方ってもいくつかある。基本的には止まって撃つか動きながら撃つかだ。素人でもどっちが難しいかはわかるだろ? 止まったまま立ち姿勢で狙いを定めて……なんてのは実戦ではまずやってられないから、基本的には『動きながら』だ。映画みてえに跳びながら撃てとは言わねえけどな。というかあんなもんまずやらねえし――――ん? どうした、ミズハ」


 アクション映画をばっさり切り捨て、ボクの方に顔だけ向けてくるテクス。その手の伸びた先では、不夜城先生の頭がギリギリと悲鳴を上げている。


「いや、不夜城先生が……」

「コイツのことは気にすんな、っと電話だ。こんな中途半端な時間に誰だよ」


 テクスは急に不夜城先生を解放し、ポケットに手を突っ込んでゴソゴソと探り始める。耳を澄ませば、微かにバイブレーション音が聞こえてきた。


「悪(わり)ぃ。ちょっとミズハ頼んだ、不夜城」

「先生と呼びなさい」


 不夜城先生の最後の言葉を無視して流したテクスは震えるPAID(ペイド)――個人用(パーソナル)自律思考自動制御型(オートノミック・インテリジェンス)端末(デバイス)を手にして離れていく。


(テクスのPAID(ペイド)もミコのと同じように喋るのかな……)


 そんなことを考えつつ、その重さにも慣れてきたブローニング・ハイパワーをまた目の高さに両手で構え、両足を前後に開いて射撃の体勢に戻る。


「ミズハ君、片手撃ちでやってみたまえ」

「片手撃ち?」

「片手だけで支えて撃つんだよ。個人差はあるが、FNブローニング・ハイパワーはその方が撃ちやすい。多少重心移動が面倒だが、まぁ君ならできるだろう」


 わかりました、と頷いて右手で構える。


「慣れるまでは身体を横に向けて腕はまっすぐ……こうだ。左足は突っ張るように……そう、理解が早いね」


 不夜城先生に言われるがままのポーズをとる。途中、何だか関係ないところまで触られた気がするけど、教えてもらってるからと何とか我慢する。完全に素人だし、関係ないかどうかは判断できないし。


「撃ってみなさい」

「は、はい」


 再びオープンサイトで狙いを定める。


(ん……確かに、こっちの方がちょっと楽かも……)


 パァンッ!

 銃口から硝煙が上がる。


「あれ……?」

「ミズハ君、今何処を狙ったんだい?」

「み、右肩です」


 思わず声が震える。

 銃弾は、マンシルエット右肩のレティクルマークの中心を撃ち抜いていたのだ。


「どうして……」

「右手は左手よりも心臓から遠いところに位置しているから、心臓の脈動の影響が左手より少ない。その上、人の腕は左右でわずかに長さが違うからね。片手の方がむしろバランスをとりやすくなるというわけなのだ――――が、やはりここまでは異常だな」

「異常……ですか?」

「おそらくただのまぐれだろうけどね。もう一度撃ってみたまえ」


 不夜城先生に促(うなが)されるままに、ボクがもう一度片手で構えた時だった。


「あ゛ぁ!? どういう状況だよ、それッ」


 テクスの怒っているような大声が広い地下室に響いた。思わずそっちを振り向くと、さらにいくつか言葉を交わしたテクスは乱暴に電話を切って戻ってくる。


「来い、ミズハ」

「え?」

「姫さんが来やがった」

「え? ひ、姫さん?」

「お前んトコの人外だよ」

「クレアが!?」

「しかも件(くだん)の“吠える流星(ハウリング・メテオ)”連れてきやがった」

「え゛……」


 クレアってやっぱり、巻き込み型なんじゃないかと思った。

 レティクルマークというのはスコープを覗いた視界のように、○と十字を重ねたマークです(・・*

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