表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱をあけよう  作者: ひろりん
第4章:王城編
87/240

乙女の事情を察してください。

カツコツと音を響かせて、優雅に石段を降りていく、マリア王妃の後を、

とんとんと私の足音が続いた。


マリア王妃の後姿は、無駄話をしていた私を咎めるのではなく、

本当に、何も聞いてなかったかのように無関心に見えた。


マリア王妃様が歩くたびに、黒いベールがふわふわと揺れて、

その下の金の髪がその都度、光と散らす。


それにしても、綺麗な人ですよね。

これで、一児の母だなんて、信じられない。

故郷の母や、市場のおかみさん連中と同じくくりに入れるなんて、

月とすっぽん、ひなげしと薔薇ぐらいに違う。


ああ、お花繋がりで思い出しました。

そうだ、聞いておかなくちゃいけないことがあった。


「あの、王妃様、お聞きしたいことがあるのですか」


足音が、ぴたっと止まった。


「何ですか?」


体の向きも姿勢もそのままの状態で止まってた。

まるでゼンマイ人形のねじが切れたようだ。


「お供えのお花についてです。

 あれでよかったですか? アデルさんは、もっと派手なものがいいと

 東の庭師の方におっしゃっていたようなのです」


「花? ああ、拝殿の両脇の花ですか?

 本日は、いつもより立派な花が挿してあったと思いました。

 私は、あれならば良いと思います。

 貴方と庭師の意向に任せます。いいようになさい」


王妃様の足音が、またカツカツと響き始めた。


うん?

今日の花は、いつもより立派なものなのですか?

庭師のおじいさんの言ってた派手な花は?

アデルさんが用意していたお花は、ここに飾られるはずのものではなかったのかしら。


王様の側に仕えていたんだから、もしかして、

王様のお部屋用に分けていたのかしら。

なら、私も王様の部屋のお花を用意しなくちゃいけないのかしら。



疑問に首をかしげつつ、

王妃様の後姿が遠くならないうちに、階段を降りていった。


一番下の石段にたどり着き、王妃様が私に先を譲った。

そうでした。

一応侍女ですから、この場合は、鍵を開けるのは私の役目です。


鍵をポケットから取り出し鍵穴にいれ、またまた不愉快な錆びた音を響かせながら鍵を回した。


「貴方は、変わってるわ」


王妃様が、ぼそっと小さな声でつぶやいたが、

扉をふんっと力を入れて引っ張っていた私には聞こえなかった。


扉を開けて、ふうっと一息ついた。

本当に一苦労だわ。


王妃様が、私の脇を通り過ぎた時、香水の良い香りがした。

何の香りだかわからないけど、どこかで嗅いだことのある優しい香りです。


王妃様が出た後もやはり鍵を引き抜いて私も外に出て、

体で扉を押すようにして閉め鍵を閉める。


本当に、冗談でなく、扉が重いのです。

多分、明日あたり肩とか腕とかが筋肉痛になるに違いない。

早々に、ネイシスさんに、油を挿すので差し油をくださいってお願いしよう。


渡り廊下の向うには、ローラさんとごつい護衛の方々が勢ぞろいしておられました。


ローラさんは、心配そうにみていたし、

ステファンさんは、にっこりと笑って出迎えてくれました。

レヴィ船長の瞳によく似た緑色をみて、ほっとしました。

単純ですが、肩の痛みも忘れそうです。


*****



王妃様は4人の護衛を引き連れて、先に行かれましたので、

今、渡り廊下の先の踊り場にいるのは、

私とステファンさん、ローラさんにゾイさんだけです。


何故、こんな風になっているかというと、

私達侍女にも、それぞれに護衛がつくことになったそうです。

アデルさんの事件は、もしかして侍女を狙った犯行かも知れないからだそうです。


これを好機とばかりに、ステファンさんは私に。

ゾイさんはローラさんにと、正式に護衛につくことになったそうです。

あんな酷い事件ですからね。

誰かと一緒に行動できるなら、それも腕の確かな強い人達なら、

私達の心は至極安心できるというものです。



ローラさんにそれらの決定事項の説明を聞き、

私達は、これから厨房に一緒に向かうことになりました。


なんと、ローラさんは、私に付き合って、まだ食事を取ってないそうなのです。

もうこんなに日が高くなっているのに。お腹、ぺこぺこ同盟ですね。

気にしないでと笑う、その笑顔がまぶしいです。

ローラさん、ありがとうございます。


「いきなりの配置変えにびっくりしたよ」


ステファンさんは、軽く腰に手をあてて、にこやかに微笑んだ。

私も、ステファンさんに微笑み返します。


「はい、私もびっくりしました」


レヴィ船長とは違いますが、弟さんというだけで心安くなってくるようです。

こうやって気安く話が出来るのが大変嬉しい。


「メイ、塔の掃除は出来た? 問題はなかった?」


ローラさんは、両手を胸の前に重ね私の方を心配そうに見ていた。


「はい。なんとか。

 お花を取りに行くのに、東の庭園をうろうろしたので、

 かなり走りましたけど、誰にも見られませんでした。

 多分、マーサさんにも怒られないと思います」


ぐっと握りこぶしをする。

時間がなかったのだから仕方なかったのもありますが、

もしマーサさんに見つかったら、廊下は走らない!スカートの裾は持ち上げない!と鬼の形相で注意されること間違いなしでした。


「東の庭園? そんなとこまで花を取りにいくのか?」


ステファンさんは、初めて聞いたように驚いていた。

変なの?他のどこからお花を得るというのだろうか。


「アデルさんは、毎朝、沢山のお花を取りに行ってたようです。

 私は、一抱えのお花だけ抱えていったのですが、

 摘み立てのお花は思っていたよりも重いしかさばるのですね。

 改めて思いましたが、侍女の仕事って力勝負というか、大変ですね」


「沢山のお花? あのアデルが?」


ローラさんが、ちょっと首を傾げました。


「それに、あの塔のお掃除は、結構大変ですよ。

 一通り掃いて拭いただけですが、埃が舞ってしまって。

 ほら、この服を見てください。見事に埃まみれになりました。

 ネイシスさんに言って、エプロンもらおうと思ってます」


ふうっと息を吐きながら、スカートのあちこちの埃を軽くポポンと叩いたら、裾から細かい砂がぱらぱら落ちた。かなり汚れているようです。

なのに、嫌な顔一つしないでローラさんは、私の手が届かないところの埃をはたいてくれました。ありがとうございます。


私の会話の何かに思うところがあったのか、気が付けばステファンさんが、何かを考え込むように手のひらで顎を隠すようなしぐさをしていた。


あ、そのしぐさはレヴィ船長と一緒だ。

小さなことだけど、ちょっとだけ嬉しかった。


「まあ、あの塔は結構古いからね。確かに掃除は大変だと思うわ。

 その様子を見ればエプロンは必須ね」


ローラさんは、後ろに回って私の背中をはたいていたら、

突然目を見開いた。そして、そのままささっと私のすぐ背後に立った。


うん?どうしたんですか?


「ローラさん?」


後ろのローラさんを振り返ろうとしたら、肩をがしっと押さえつけられた。


「ステファンさん、ゾイさん、ちょっとだけ離れて。

 あっちを向いていてください」


ローラさんが、高い声で、私の後ろから2人に言い放った。

ステファンさんやゾイさんは眉を寄せていたが、

ローラさんの言うとおりに反対を向いて、少し離れたところへ移動してくれた。


私の後ろから、耳元に顔を寄せてきたローラさんが

こそっと教えてくれました。


「メイ。 貴方、気がついてた? お尻のところ破けてるわよ」


なっ、なんですって!


あわてて服の後ろに手をやります。

ですが、どこですか? わかりません。

なぜ人間は背中に目が付いてないのかと問いたくなる一瞬でした。


「えええ、どのくらいの大きさですか? 目立ちますか?」


「目立つっていうか、少し動くと下着がみえちゃうわよ」


どうしよう。 

私は今、よく動いたせいで大変お腹が減っている。

正直、食べ物の幻影が見えたら涎が出るかもしれないくらいです。


ですが、ですが、今のままでは厨房に行けないです。

厨房の付近には、良いにおいが常に漂っているせいか、

いつもたくさんの人がうろうろしているのだ。


そんな所に、お尻の破れた服を着ている私。

つまり、下着がぺろっと見えてる私。

ファッションと誤魔化すのは、私のなけなしの乙女心というか、

羞恥心が邪魔をする。


一生涯の恥だ。笑いもの確実だ。生涯の黒歴史になるに違いない。

もはや、部屋に帰って着替えてから食事に行くの一択しかない。


お腹を押さえたら、ポンとなる代わりにグーと応えそうだが、

食事なしって訳ではない。少し時間がずれるだけだ。

だから我慢しなさい!私のお腹!


「とりあえず、私のショールを貸すわ。それを腰から巻いてなさい。

 厨房で食事した後で部屋で繕いなさい。

 裁縫道具や余り布はリネン室に行けばあるから」


ローラさんは、薄手の落ち着いた色合いのあるピンクの色のショールを

ポケットから取り出して、私の腰に巻いてくれた。

私のお尻をすっぽりと隠している状態だ。


おお、ローラさんが天使に見える。

私のお腹の救世主だ。


それにしても、ローラさんの女子力は高すぎです。

ポケットからスカーフですよ。 それもレース付のピンク。


くっ、次回から、手ぬぐいだけじゃなく、

ショールもポケットに常備しなくてはいけないのかしら。

なんだか、ポケットの必要容量がどんどん大きくなるようです。



大体の状況がわかったのか、振り返ったステファンさんとゾイさんからは、

なんだか生暖かい目で見られた。


恥ずかしくて、顔が赤くなってきた。



「東の庭園は木が多いから、多分引っ掛けたんでしょう。

 アデルも以前に、木に引っ掛けたと、よく服を新調していたの」


うん?


「侍女服って、何着もいただけるんですか?」


「そうね。基本着替えも入れて3着ほどね。

 街中の服飾商館に頼んで自分で受け取ってくるの。

 採寸もそこでしてくれて、サイズのお直しもしてくれるから楽よ」


私の場合は一着しか持ってない。

そして、現状では、私はこのお城を出ることができない。

つまり新しい服は手に入らない。


がくっと項垂れた。


自分で直すしかないか。

お尻部分が、大きく裂けてないと良いのだけど。

後ろが見えないのでわからないし。


気がつけば、ゾイさんとステファンさんは、こそこそと話し込んでいる。


あのね、人の内緒話は、本人のいないところでしてください。

というか、乙女の恥は心の中に収めるだけ、の優しさを希望します。


恥ずかしくって、耳まで真っ赤になってきた。

2人の前に立ち、俯いたままお願いした。


「このことは、黙っててください」


2人はきょとんとした顔をしていたが、私の様子をみて懇願を察したらしい。

ぷっ、と軽く吹き出した。


「乙女の窮地を笑うなんて、失礼千万ですよ」


真っ赤な顔で2人に言い放った。


その言葉で、ゾイさんも、ステファンさんも、もっと笑い出した。

ゾイさんは、どうやら笑い泣き上戸だったみたいで、

涙を流しながらお腹を抱えて笑ってた。


なんですか。男の風上にも置けませんよ。

騎士失格です。レヴィ船長に泣きついてやる。


「すいません。貴方のご要望はもっともです。

 私達は、決して口外いたしませんよ」


いち早く笑いをおさめたステファンさんが、私の機嫌をとろうと、

私の手をとって腕に絡めた。


「さあ、厨房に行きましょう」


ステファンさんは、まだお腹を抱えて転がっていたゾイさんを踏みつけ、ローラさんと私を連れ立って厨房に向かった。

踏みつけられたゾイさんが、ぐえって声を上げていたが知らん顔です。

だって、笑いすぎですからね。




本日の朝食は、ほうれん草とベーコンのキッシュに、

チーズとスモークしたお肉のサンドイッチです。

キッシュの中には、ジャガイモや、ほうれん草、玉ねぎにコーンと

かなりの具沢山でした。

そしてサンドイッチ。

お肉は、鳥でしょうか? もっと味が濃いですが、

スモークしてるので、そう思うのでしょうか。

そのお肉を挟むようにしてチーズが色違いの2色で配置されてます。

そして、しゃきしゃきのレタスと苦味の無い玉ねぎが挟まって、旨いです。

パンには簡単にバターを塗ってあるだけなのに、

どうしてこんなにも旨いのでしょうか。

それに、ぴりりと胡椒のきいた玉ねぎとコーンのスープが

鬼に金棒、トンかちに釘です。

正に、ぴったりです。



ローラさんと2人で同時に食べ始め、その美味しさに感動していたのですが、

ローラさんは、相変わらず食べるの早いです。

仕事が待っているようなので、気がせいているのかもしれません。

ゾイさんを連れて、2人ですぐにいなくなってしまいました。


私が食事をしている間、ステファンさんは厨房の外で待ってくれていました。

あまりお待たせしてはいけないので、いつも通りハンカチにサンドイッチを半分包んで、早々に席を立つことにしました。


食器を片付けていると、トムさんが、そっとデザートのお皿を持ってきてくれた。いつもは無いのに、と顔を上げたら、これは、サービスですって。


「ローラが世話になったからな。

 それに君には、ちょっとばかり感謝してるんだ。

 俺からの気持ちも込めて、今日の3時のお茶請けは期待していてくれ」


そう言って出されたデザートは、透明な緑の色をしたゼリーでした。

ゼリーの味はミント味。

それに、なにやらレモンのようなオレンジのような味もしました。

口の中がさわやかで、ほどよく甘くて、キシリトール抜群。

本当に甘味デザート万歳です。



こんなに美味しいのに、さらに三時にはもっと美味しいものが。

目の前に天国の門が開いたかのような感じです。

幸せな予感というものですね。


トムさんの感謝は、何についてかわかりませんが、

期待してくれと言われたお茶請けに心が躍ります。

とっても楽しみです。

これは、本日だけでも、三時の休憩をもぎ取らなくては。

ネイシスさんにお願いしてみよう。



るんるんで席を立ち、ステファンさんと一緒に、

ネイシスさんの所に、つまり、王様の侍女部屋に向かいました。


先にリネン室へ行ったほうが良いのではと、ちらっとだけ思いましたが、

この後のアデルさんの仕事はなんだったのか、全然聞いてないのです。


塔で説明してくれたネイシスさんは忙しかったらしく、

すぐに出ていかれたので、後の予定を聞く暇も無かった。


まずは、次のお仕事を聞いて、事情を話して了解を得てから、

リネン室に行くことにしました。

だって、お仕事ですからね。




侍女部屋にノックをして中に入ると、ネイシスさんが丁度王様にお茶をいれた後らしく、紅茶の良い香りが部屋に漂っていた。


王様の侍女部屋は、どうやら侍従部屋も兼ねているらしく、

おじいさんの侍従さんが、たくさんの本や資料を片手に、

なにやら壁際の机で書き物をしておられました。


王様の侍女部屋も、王妃様の侍女部屋とあまり変わりがありません。

部屋の大きさは20畳ほどの割合大きめの一間。

中央に大きめの机と、侍従さんが座ってる壁際の机。

小さいワゴンが3つ。

クローゼットの大きいものが一つと、

背が高い、沢山の本が置いてある壁際の本棚。

そして、本の持ち運びをするであろう、車輪がついた小さい本棚。

椅子が5客に小さな丸テーブルが一つ。


本当に実用品しかない。花瓶一つ無い部屋です。

王妃様の侍女部屋はもうちょっと物が置いてあったので、

拍子抜けするくらいにシンプルです。


窓が、ほんの少しだけ開いていて、

私が扉を開けたとき、すうっと風が私の頬を撫ぜた。


「そこに座って、しばらく待っていなさい」


中央の机に座って、なにやら書き物をしていたネイシスさんに、

目の前の椅子を勧められて素直に座り、ネイシスさんの手が止まるのを待った。


カリカリとペン先が滑る音が、パラパラと書類を捲る音が、

途切れることなく一つの音楽を奏でているように聞こえた。


その音を黙って聞いていたら、思考回路が落ち着いてきたのか、

幾つか頭の中で質問が並んだ。


「塔の掃除は終わりましたか? 何か必要なものはありますか?」


やっと手が止まったネイシスさんの質問に対する答えが、

するりと口から出てきた。


「あの、エプロンが欲しいです。あと作業用の手袋も。

 あそこ、結構埃が舞うんです。

 手ぬぐいの追加がもう一枚あると嬉しいです。

 椅子や家具の埃も酷いので磨き油が多めにあると嬉しいのですが、

 それから、塔の鍵穴に油さしても良いでしょうか。

 鍵を開ける時に、すっごい音がするので改善したいのですが、

 駄目ですか? あと蝶番にも。

 扉がすっごく重いのです。 多分、錆びているせいだと思いますので、

 蝶番にも挿したいのです」


一気に、要求ネイシスさんに伝えた。

うん、もう言い忘れは、なかったと思う。


ネイシスさんは、目をぱちくりとして、なんだか驚いているみたいだった。


そのまま、固まってしまって

反応のないネイシスさんに、首を傾げながら声を再度掛ける。


「あの、ネイシスさん? もしかして、どれも駄目ですか?」


その声に、はっと気がついたネイシスさんは答えをすぐに返してくれた。


「ああ、いえ、大丈夫です。そう、そうね。

 エプロンと手袋、手ぬぐい用の布は、掃除の備品として早速手配しましょう。

 それから、ええと、家具用の磨き油の補充ですね。

 私も以前から気になってました。そちらも問題ないです。

 ですが、扉の蝶番と鍵には必要ありませんから差さないでください」


前半の大丈夫で、ほっとしていたのに、最後の言葉にがっくりきた。

これは、私に力をつけよと言うことですね。


ですが、私の予想とは違っていて、ネイシスさんは私の耳元で、

小さな声でその訳を教えてくれました。


「実は、あの扉には仕掛けがあるのですよ。

 教えるのを忘れてました」


しかけ? なんと。


「御免なさい。今朝は急いでいたのもので、言い忘れたようです」


そうですね。かなり急いでおられました。

まあ、王様と王妃様の朝のお支度2人分となると、ローラさんだけじゃ手が廻らないのは当たり前ですから仕方がないですよね。


「あの扉は、鍵穴を差込、回した後、一度奥に押すのです。

 そうすると、扉は軽く開きます。

 これは、侍女と王妃様、他数名しか知りません。

 他言無用にしてください。」


こくこくと頷きながら、頭の中で手順を反復しました。

そうか、最後に押すのね。


だから王妃様や、ネイシスさんは簡単に開けてたんだ。

隠れ力持ちではなかったようです。


「あの扉の対策は、防犯も兼ねているのです。

 ですから、蝶番には油を差してはなりません。 よろしいですね」


そう言ってネイシスさんは席に戻った。


「貴方は、本日これから書庫の手伝いに行ってください。

 アデルは、朝食後は必ず書庫に向かってました。

 この城の司書は、高齢ですので、貸し出された本の返却作業が

 一人では手が廻りません」


「はい」


王室図書館ですね。

たしか、王城の東の塔を抜けた先だったかな。

ちょっと離れてるんだよね。

 

「昼食時間になったら、各自で食堂に行ってください。

 昼食後は、リネン室で王様と王妃様の衣装と幾つかのリネンを受け取ってきて、お部屋に運んで確認して衣装部屋に。

 その後、休憩です。大体3時頃が休憩になると思います」


洗濯物を受け取ってくるのね。

了解です。

それに、3時の休憩、いけますね。

うふふふ。 

トムさんのオヤツ。待っててね。


あっ リネン室って、ああ、思い出した。


「あの、ネイシスさん、私、東の庭で木に引っかけたらしくて、

 服がちょっと破れたんです。

 替えが無いのでリネン室で裁縫道具と余り布をいただきたいんですが、

 それも、いいでしょうか」


「破れた? どこですか?」


ええ? 聞くんですか。

俯いて小さな声で返事した。


「あの、ちょっと、後ろの部分です」


「見せて御覧なさい。 後ろだと自分で繕えないでしょう。

 私が、ここで直せるものならば裁縫道具もありますし、

 問題ないでしょう」


私の俯いてた顔が、だんだん赤くなっているのが解る。


ちらっとおじいさんの侍従さんの方をみたら、

心得たとばかりに王様の執務室のほうに移動してくれました。

随分、心配りができたいい人だ。

乙女の事情を察してくれる大人な対応だ。

廊下で腹を抱えて笑い転げていたどっかの騎士にぜひとも見習っていただきたい。



ネイシスさんは女性だし、ちょっと、いや、かなり恥ずかしいけど、

ネイシスさんの側に行き、ショールを取って後ろを向きました。


「あらまあ。 これは、ちょっと、ここでは。

 リネン室に行かなきゃ無理ね。

 替えの侍女服は、すぐに手配します」


はあ。

やっぱり、そんなに酷いのですね。

自分では見えないのでわからないのですが、

かなり大変なのでしょう。


再度、ショールで腰から下を巻いた後、

なんとなく遠い目をしてしまいました。


でも、替えの服がいつかは届くようなので、

それを楽しみにしましょう。早く届くといいな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ