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箱をあけよう  作者: ひろりん
第4章:王城編
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東の庭園にいきます。

「男の子ですか?」


その問いが、何も考え無いうちに、口から飛び出た。


わかってます。

目に見えるのが真実。


だけど、だけど、

そばで見ていて、さらさらな長い髪に、白い肌、細い肩、

唇はピンクで、と、そこまで言いたくなるような、可憐な容姿なのに、

なのに、何故、男の子ですか。


さっき、シオン坊ちゃんに、似合っていたらいいのではと言った口なのに、

やっぱり、この子は、私の中で、

女の子に違いないと、限定されていたのかもしれない。


勝手な言い分だが、落ち込むのを止められない。

がっくりとうなだれて、肩を大きく下げた。

磨き上げられて、つるつるに光っていた石の床に、ため息が吹きかかる。


床は、大変、綺麗でした。

職人の仕事ですかって位に、磨き上げられ、艶があります。

まるで、御影石とか、大理石のようです。


多分、アデルさんが、毎日、磨き上げていたのではないでしょうか。

この部屋は、全てが石造りで、所々にクリーム色のラグが置いてある。

ぱっと見た限り、掃除が行き届いている。


今度から、私が掃除するんだよね。

これって、モップで石を磨くのかしら。


つらつらと、どうでも良いことを考えながら、

現実逃避したい気分を追い払い中です。




なんだが、一人で途轍もなくがっかりしていたのを理解したらしく、

目の前の少年は、ただ、首をかしげただけで、怒りはしなかった。


シオン坊ちゃんは、もの凄く怒ったのにね。

やっぱり、別人でしたよ。

変な疑惑、かけてごめんなさい、シオン坊ちゃん。

心の中で盛大に謝罪した。



「そうだね。僕は、男の子になるかな。」


声は、変声期を終えてない、やや高めの声。

シオン坊ちゃんも同じ様だが、出される声の雰囲気も、音質も、

言葉使いも全然違う。

でも、似てる。



別人だと、わかったら、出てくる疑問は一つだけ。

首をぐっとあげて、少年の顔を見返した。



「貴方は、誰ですか?」


問いかけながら、少年の方に、足を一歩踏み出した。

少年の瞳も表情も人形のようで、全く動かない。


少年は、私の問いに、答えることなく

後ろに一歩、二歩とゆっくりと下がった。


だけど、視線は外してこない。

警戒心を、露にしているのが、ひしひしと感じられる。



「君は、王妃さまが来る前に、しなくちゃいけないことあるよね。」


はっ そうでした。

通常ならば、今頃、王妃様の朝のお支度が終わっているころです。

つまりは、もうじき、王妃様の朝食の時間でもある。


昨日と同じ予定ならば、食事を終えて、すぐにこの塔の教会に来られるはず。

そして、彼が言ったように、私にはしなくてはならないことがあり、

それらは、現在、何一つ成し終えていない。


じわっと手に汗をかいてきたようです。

思い出したら、どんどん気が焦ってくる。

もう、時間がないのです。


「そうでした。 ありがとう。 えーと、名前がわからないので、

 後で、もう一度、自己紹介しよう。

 とりあえず、急がなきゃ。」


軽く少年に向かって頭を下げ、目線をはずした。

きょろきょろと周りを見渡して、何をしなくちゃいけないのか、

考えてみる。


「えーと、掃除と水汲み、それから、なんだっけ?」


額に指をあてて、記憶をひねり出す。

ネイシスさんは、さっきなんていった?


「花、必要って言ってたね。」


ああ、そうでした。

そう、東の庭に行って、もらってこないといけないんだった。


「急いでもらってこなきゃ。 行ってきます。 」


バタバタと、きびすを返して、ドアに向かう。

ポケットの中から、重たい鍵を取り出して、ギーガチャって鈍い音を響かせて回した。

ネイシスさんがしていたみたいに、鍵をつけたまま、

重たいドアを引っ張った。


思っていたよりも、ずっしりと重たい。

自分一人が通れる隙間を開けて、鍵を抜いて

体を外に滑り出して、体を押し付けるようにして、重いドアを閉めた。


このドアって、取っ手をつけたら良いのにと誰も思わないんでしょうか。

引くのにも押すのにも、随分と苦労する。

この塔のドアって、必要な備品になるかなあ。


手に持っていた鍵を回し、また、あの耳障りな音が階段に響く。


多分、鍵の奥とドアの蝶番が、

錆びているのでは、ないかしら。

そうしたら、油を差せば、あの音、しなくなるわよね。

忘れないように、しなくては。

もしかして、あの重いドアも、今よりもっと、軽く開けられるようになるかも。



それより、今は、お花でした。

走るには長すぎる裾をからげて、足早に、螺旋階段を駆け下りた。

マーサさんが、見ていたら、目を三角にしそうだが、ここには、

私のほか誰もいないし、今は時間がないので、良いことにしたいと思います。


石段が、つるつるして、滑りそうだったが、所々の壁に片手をつきながら

転倒するのを回避する。


行きと違って、帰りは、息を切らすことも無く、

石段を一段、二段と、跳ねるように降りた。


降りた先で、また、鍵を取り出し、さっきの要領で、重いドアをこじ開ける。


このドア、王妃様、平気な顔で開け閉めしてたよね。

実は、力持ちなのかもしれません。



塔の入り口のドアを間違いなく閉めて、

渡り廊下を早歩きで渡りきり、一番近くの階段で一階へ降り、

北の回廊から、東の回廊に向かう。


東の回廊に入ると、風に乗って、

りんごの花のような、金木犀の花のような、

なんとも芳しい匂いが流れてきた。


匂いに導かれるまま、東の回廊に沿って歩き、

3つめの角を曲がると、見たことのある中庭にでました。


最初にこのお城に来た時に、案内されて一度通った庭です。


外に面した回廊の一箇所が、私の腰くらいの高さの、木枠の簡単な開き戸になっていて、

そこから、外へ続く通路が、煉瓦道で舗装されていた。

回廊もお城の壁も、全体が白い建物のなかで、

赤い煉瓦の道は、とっても目立っていた。


私は、迷わず、煉瓦道に入り、庭に入っていきます。

庭の入り口付近には、全体的に背の低い草木、花が植えてあり、

地面が、彩り綺麗な絨毯に見えるように植えつけられていた。

その草木を囲むように、ほどほどに背の高い、金木犀のような強い匂いの花が咲いた木が

ちらほらと点在していた。


東の回廊をただ歩いている人も、お花を楽しめるように、

いろいろ気を使った配置なんでしょう。

色とりどりの可憐な花たちは、見ているだけで、心を和ませてくれる。



煉瓦道をそのまま突き進んでいくと、段々、花の匂いが消え、

同時に、水の匂いと音がした。


緑に囲まれた道を抜けた先には、可愛らしい噴水がありました。

噴水は、街の広場の噴水よりも小さいけれど、

彫刻や、意匠の見事さ、細工の細かさは、こちらのほうが断然素晴らしい。


白い石に刻まれたレリーフと紋章は、イルバリの花。

所々の装飾も、一見地味だが、よく見ると、かなりの手の込んだ一品だとわかる。

イルバリの花と一緒に彫られている、鷹や馬なんて、まるで生きているかのように、

質感が溢れる造詣だ。


水の流れ出る場所も、大きく一箇所から、吹き出るのではなく、

上から、3段に分けて、順繰りに吹き出るようになっていて、

そのぶつかりあう水の威力で、水が循環していくみたいです。

一番下の水場の底は、小さな渦が常に廻っている。



噴水を囲むようにして、円形に場所が開けていて、噴水の周りに沿って、

円形になるように煉瓦が敷き詰めれられていた。


噴水の淵に立って、周りをぐるりと見渡す。


その噴水から、さっき私が通ってきた道も含めて、四方に

煉瓦の道が伸びていた。


噴水の周りには、誰もいない。

東の庭の庭師が、お花用意してくれるって、ネイシスさんが言ってたけど、

庭師の人達は一体どこにいるんだろう。


花のお世話っていうからには、お花が咲いているところだよね。


噴水から離れ、とりあえず、一番、花の匂いの強い道を選んで、

歩いていくと、小さなピンクの花をつけた、

蔓バラで作られたアーチが見えた。

そのアーチを抜けると、そこには、一面のバラの海。


赤や、ピンクや、黄色に、オレンジ、白に紫。

花の大きさに、大きいもの、小さいものはあれど、

それぞれのバラが放つ、強いバラの香りが、私の鼻の感覚を麻痺させる。


まあ、大きさで基準を設けるならば、海ではなく、池ぐらいかもしれないが、

そのバラの中で、大きな麦わら帽子をかぶった男の人が、3人、

私の視界に見えた。

彼らは、無言で、バラの海で泳ぐように、

黙々と作業をしていた。


もしかしなくても、彼らが、庭師さんですよね。

庭仕事といったら、麦藁帽子。

定番中の定番ですよね。


バラの香りの空気を吸い込みながら、

大き目の声で、声をかけた。


「あの、すいません。

 塔の教会に飾るお花をいただきたいのですが、

 どなたにお尋ねすれば良いのでしょうか。」


バラの海の一番奥で作業をしていた、麦藁帽の男の人が、

ゆっくりと私に近づいてきた。


「アンタは、見ない顔だ。」


麦わら帽子が影になって、はっきりとはわからないけど、

声は、がらがら。 


「はい、私は、先日、お城に入ったばかりです。

 今日から、塔のお掃除をすることになったんです。」


麦藁帽の男の人は、ぐいっとその帽子を上げ、私の顔をじっと見つめた。

そのしぐさで、顔が見えた。


この麦藁帽子の男の人が、声の印象通りに、おじいさんだってわかった。

皺だらけで、真っ白の眉。

何かに怒っているような厳しい目が、細い顔と

出っ張っている頬と顎を強調していた。


身長も、私と余り変わらない。

腰がすでに、曲がりかけているからかもしれません。

だから、視線の位置が、ほぼ同じ。


「そうかい。

 塔に持っていく花は、そこの東屋に用意してある。

 持っていけ。 」


おじいさんは、破れて指が飛び出した軍手に包まれた右手で、

右の方向を指差した。


そこには、バラを一望できる屋根付の東屋があった。

煉瓦の道を真っ直ぐたどっていくと、東屋に行き着くように、

煉瓦が敷かれていた。



「ありがとうございます。」


ぺこっとお辞儀をして、足早に煉瓦道を駆ける。

東屋にたどり着くと、入り口に大きめのバケツが一つ、置いてあった。

バケツの中には、バラではない、

どちらかというと楚々とした、草花を基調とした花が置いてあった。


一番、大きな花は、ゆり。真っ白い綺麗に開いた花弁。

フリージアのような可愛らしい黄色の花や、紫の鈴のような袋を連ねてある花。

赤い鶏頭のようなはっきりとした草花。


清貧な印象を受けるその組み合わせには、

なんだか、親近感を覚える。

バラではないことに、ちょっとほっとする。


うん。

バラより、こっちの方が、私的には嬉しい。

持って行くのに、バラは棘が痛そうですし。


バケツから、ざばっと取り出し、

ポケットから、取り出した手ぬぐいで、くるくるっと花束のように大きく巻く。

花から落ちる水が、あまり服に掛からないように、小脇に抱えた。


東屋を花を抱えたまま、出て行こうとしたら、

おじいさんが、私の方をみて、びっくりした顔をしていた。


「自分で出来るのか。 侍女はお高く待っているだけだと思ったが。」


え?

自分でしちゃいけなかったの?

もしかして、全部持っていくのは、駄目でしたでしょうか。

半分は、他の人が取りにくるのかしら。



「半分、置いていきましょうか?」



そんな疑問を投げかけたら、おじいさんが首を振った。


「いいや、その花は全て、教会用だ。

 だけど、それでいいのか?」


え?



「いつも取りにくる侍女さんは、やれ地味だとか、

 もっと、大振りで見栄えの良い花を用意しろだの、

 大層偉そうな感じで、いつも、バラやら、他の花も後で

 用意させてもらってたんだが……」


えっと、教会のお花って、派手なのがいいのかしら。

でも、さっき教会に飾ってあったお花は、こんな風な楚々とした花だけだった。

随分としおれていたけどね。



「私は、このお花達、綺麗だと思います。

 楚々としてながら、凛としている感じで、

 教会に飾るには、ぴったりだと思います。」


仏壇には、バラの花は、基本、活けないと思う。


アデルさんや、他のアトス信教の人々にとって、

仏壇と同じくくりにするのは、違うのかもしれないけど、

なんとなく、派手な花は、あの教会には向かない気がした。


「そうかい。 気に入ってくれたら、嬉しいね。

 明日は、西の庭の東屋に用意しているから、そっちに来てくれ。」


おじいさんは、目を細めて、軽く笑いながら、

細い皺だらけの顔で、顎を軽く、西の方向にしゃくった。


花をじっと見つめてから、おじいさんに軽くお辞儀をした。


「はい。 ありがとうございます。 

 このお花、もらっていきますね。」





花がつぶれないように、両手でしっかりと抱えて、

東屋を後にした。


足早に、もと来た道を駆け、二階に上がり、

渡り廊下を渡り、お花を下に置いてから、

鍵で入り口を開けた。


忘れない様に、お花と一緒に中に入ってから、

内から鍵を閉める。


ここまで帰ってくるのに、息がきれかけていたが、

ここで休憩したら、上にあがるのが、億劫になってくる。


何度か深呼吸して、息を大きくはいてから、

一気に、駆け上がった。


教会の部屋の扉を開けて、お花を抱えて戻ると、

この部屋に少年の姿は無かった。


どこにいったんでしょうか。

少年は、鍵を持っていないはず。

ならば、どこかに隠れたんでしょうか。



疑問はわきましたが、それをじっと考えているわけにはいけません。


「さあ、お花を活けて、お掃除しなくちゃ。」


侍女服を腕まくりして、今、活けてあるお花を、外す。

陶磁器の真っ白な花入れの中のお水を、バケツに移す。


花入れをポンプの下の排水溝近くにもって行き、束子で、軽く花入れの中のぬめりを

こそぎ落とす。ぬるぬるとした手触りが、気持ち悪い。


洗い終わったら、新しく持ってきたお花を挿して、定位置に置く。

部屋の隅のポンプから、水桶に水を溜め、

ひしゃくを使って、花入れに、水を注ぐ。


それにしても、お花、こんなに簡単にしおれるものなのかな。

枯れて、くたっとなったお花に目を向けた。


仏壇のお花でも、毎日、お水を替えてたら、

ある程度まで、元気なのに。


アデルさんが、亡くなってから、まだ一日しか経ってない。

それなのに、こんなになるなんて、

もしかして、この塔の中は、今は涼しいけれど、

昼間は、サウナのように熱いのでしょうか。



ゴミをポンプの側の木箱に入れ、

雑巾で、拝殿の机や、大皿を拭き、

聖水を入れるはずの、空のゴブレットを乾いた布で磨いた。


はたきと雑巾を持って、あらかた埃を落とした後、

床を掃き、モップを軽くかける。

時間がないので、目に見える所だけ、まずは綺麗にした。


あとは、夕方までに、なんとかしよう。

額の汗を、手に握っていた雑巾で

拭きそうになって、慌てて手を止める。


部屋は綺麗になるのに、私が真っ黒なんて、

笑い話にもならない。

それにしても、この仕事、結構、汚れます。

エプロン支給してもらえないかな。

侍女服に、水がはねて埃がついて、あちこち汚れていた。

あとで、ネイシスさんに、尋ねてみたいと思います。




そうしていたら、いつの間にか、私の後ろに少年が立っていた。



「君に、聞きたいことがある。」


ひょっ。


後ろから、声を掛けられて、脈が飛び跳ねた。


あれ?

いつの間に、そこに居たのですか?


胸を押さえて、深呼吸。



「はい。なんでしょう。」


首をかしげながら、少年に返事をした。


少年は、表情を変えないまま、

私にも、極力近づかない程度の

距離を保ったままで聞いてきた。


「君は、神を信じているのかい?」



 

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