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箱をあけよう  作者: ひろりん
第4章:王城編
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誰でしょうか。

外の様子が気になる。

廊下から、複数の人の声がしていた。

皆、さっきの悲鳴を聞いてたんだろう。

さっきの声、誰かの声に似ている気がした。

誰の声だろう。


侍女服の襟首のボタンを留めながら、

焦ったまま支度を急ぐ。


早く早くと心は急くのに、靴下を逆に、はいていた。


ああ、焦ると、どうしてこうなんでしょうか。

大体、この靴下がいけないのです。


普段からはいていた靴下は、綿の靴下で、結構ごつい。

ちゃんと足の形になっているし、

靴下に刺繍とかして、右を左を間違えないようにすれば、

自分で、確認できるのです。


ですが、この王城に来て、支給された靴下は、

薄手のさらっさらの絹の靴下でした。


絹ですよ、絹。


この靴下、つるつるなんですよ。

その上、右と左、ぱっと見た感じは、

どちらも同じように見えるんです。


はいてみると、どちらが右か左か、つま先の形が変わるのでわかるのですが、

足を入れるまでわからないんですよ、私は。

だから、よく間違えるのですが、

こんな急いでいる時に間違えなくてもいいのに。


口を膨らませて、靴下に向かって、むうっと睨みつけました。


靴下を履き替えて、靴を履き、廊下に出たら、

他の従業員も起きてきているらしく、

部屋のドアが、あちこち開き、

幾人かは、廊下の窓に、顔を寄せ、

外の様子を伺っている。


何があったのか、気になるのは皆同じようだ。

でも、その場所がこの近くではないことに安堵している風も見える。

実際、様子を見に行こうなんて物好きは、私だけだった。

皆のちらちらと伺うような視線を、斜めに感じながらも、

足早に悲鳴の発信元へと急ぐ。



外からの悲鳴だったよね。


(庭だと、思うわ)


どの庭だろうか。

このお城には、お城の周りを囲って、

塔があり、その塔の周りに外庭がある。

そして、お城の中心から、ちょっと外れたところに、

噴水やテラス、東屋などが中庭にある。


(多分、外庭ね。 声は窓の外から聞こえた)


外庭ね。


私がいた部屋の近くの西の庭は、裏門に近く、

朝早くくる業者の人たちが、納品に来るのも、この門からって、

先日、マーサさんに教えてもらったばかりだ。

もう今の時間は、厨房の人たちや、下働きの人達が、動き始めているはず。


そこに、あの悲鳴がしたら、

もっと、大騒ぎになるはずだ。


だから、除外。


南の庭は、王妃様や王様、坊ちゃんがいる部屋に面していて、

警備も厳しく、真夜中や早朝も例外はないので、除外。


東の庭付近は、普段は来客用の部屋や、迎賓館に使われているホール。

普段は、使う人はいないが、噴水やら、中庭のテラスに繋がっている為、

人の出入りは、結構頻繁にある。


それに、庭の手入れで、一番手が掛かるバラや高そうな花があるのは、この庭。

だから、庭師さんが、早朝から、働いているらしい。


実際、昨日、ローラさんを探して、うろうろしたけど、

東の庭には、人がいるのを、ちらほら見かけた。


だから、除外。


そして、北の庭は、塔の教会があるので、基本、人が近づかない。

日当たりがあまりよくなく、木が茂りうっそうとしているので、

好んで、行きたがる人はいないみたいな雰囲気だった。


そこまで考えると、北の庭に違いない。

多分。



推測を立てながら、北の庭に向かって足早に

歩いていった。


塔の近くの一階の北庭に行くと、何人かの警備の男の人と、

真っ青な顔をして、震えて座り込んでいるローラさんがいた。


やっぱり、あの悲鳴。

どこかで聞いたような声だと、思ったんです。


ローラさんだと断定できなかったのは、悲鳴なんて、

ローラさんから発せられたこと無かったから。


人間、悲鳴をあげる時って、基本、裏声になるみたいです。

だって、2時間ドラマの発見者の悲鳴は、とっても高い裏声でしたし。

ローラさんの悲鳴も、普段の声よりも幾分高い声だった。


急いで、ローラさんの側に駆け寄った。


「ローラさん。 今の悲鳴、ローラさんだよね。

 大丈夫なの? 怪我してない?

 どこか、痛い?」


うん? 

何?この匂い。


風に乗って、どこからか、嗅いだことがある匂いが鼻につく。

何だといわれると、言葉に出来ない記憶が、

頭の隅に警告音を鳴らす。


焦って、ローラさんの状況を確認しようと話しかけると、

ローラさんは、歯をがちがちと鳴らしながら、震えていた。

両手で、自身をぎゅっと抱きしめ、小さくなっていた。


今朝は、寒い日ではないはずだ。

実際、私は、侍女服一枚だ。



ローラさんの、うつろな目は、じっと一点を見つめていて、

私の方を見ない。


「ローラさん。 しっかりして。

 私が、わかりますか。」


前から、肩を掴んで、小さく揺さぶった。


ローラさんの目が、私の姿を捉えた。


「あああ、メ、メイ、え、あ、ここ、まで、あ、そこ、い、たや。」


ローラさんの、言葉は途切れ途切れで、

何を示しているのかわからない。


がたがた震えながら、ローラさんが私の後方、

丁度、塔の真下にあたる場所を、震える指で指差した。


その指をたどって、視線を動かした。


そこには、女性と思われる体の一部、腿から下の足と、

ちょっと離れたところに、頭が離れかけた胴体が転がっていた。

首の頚動脈の部分が切られ、大量の出血が噴水のように出たのでしょう。


そして、その周りは、赤赤赤、

真っ赤な、いえ、半分土に染まって、黒く染まった赤い色が、

その周囲をしめていた。


塔の壁には、乾きかけた血のしみが点々を飛び散り、

周りの木々に、同じようにかけられた血が、

朝の空気を変化させ、血なまぐさい匂いを、風で揺らしていた。


あの匂いは、血の匂いだ。

慣れようとしても、慣れない匂い。

女性には毎月の付物なのだが、それとは違う。

気持ち悪さに、思わず鼻をしかめる。


ローラさんの肩をぎゅっと抱きしめて、

その顔を私の肩に当てるようにして、頭を抱え込む。


警備の男の人が、私の側に来てくれて、

すっと、私の前に、見たことの無いブローチのような装飾品を

乗せた手のひらを差し出した。


金の装飾に、黄色のお花をかたどった貝の細工かな。

結構、手の込んだ細工物だ。



その装飾品をみて、ローラさんは、目を見張った。


「ご存知ですか?」


「あ、う、それは、たしか、アデルの、あ、え、うそ。

 そんな、あああ。」


ローラさんは、ブローチを前に、カタカタを震える口を

必死で動かしながら、言葉を繋ぐ。


「アデルさん?

 知り合いなの? ローラさん。」


ローラさんは、こくこくと頷き、

肩に置かれた私の手を、ぎゅっと握り返してきた。


「侍女の制服を着た方なので、多分、間違いないでしょう。

 もうじき、侍従長が来られます。

 そうしたら、はっきりするでしょう。」


警備の方は、ローラさんの方をみて、同情するかのように

顔をしかめた。


ローラさんの顔は、蒼白を通り越して、真っ青になっていた。

私の腕を必死で掴むその手は、白く、血の気が全く無い。


私は、ただローラさんの体の震えがおさまるように、

側で背中と肩をずっとなでていた。




それから、多分、そんなには時間は過ぎてないと思いますが、

侍従長と、侍女頭のネイシスさんが、やってきました。


侍従長が、死体を警備の人達と検分するのを

じっと、見ていました。


警備の人達が、首の取れかけた頭と体を担架の上に乗せ、

離れて落ちていた足の部分も拾い上げ、全ての部位がそろったのを確認する。


侍従長が、その顔に掛かった血に染まった薄い金髪を

すいっと持ち上げて顔を確かめた。


「間違いありません。 アデルです」


感情のまったく見えない、淡々とした侍従長の声。

血まみれのばらばらな死体を前に、顔色すら変えない。


だけども、どこからか警備の人が持ってきた白い布を、自ら広げて、

アデルさんと確認された死体の上に、ゆったりと掛ける。


警備の人達に、死体を地下の暗所に運ぶように言いつけ、

白い布に覆われたアデルさんが視界から消えるまで、

その後姿を追っていた。


後に残るのは、真っ赤な視界と

胸焼けのする血の匂い。


担架が視界から消えるなり、ローラさんの体が、ぐらっと揺れて、

途端に体重がぐっと私の方にかかり、ずっと握っていた

冷たいローラさんの手から力が抜けた。


「ローラさん。 ローラさん。

 ネイシスさん、ローラさんが、気を失いました。」


ぐったりとした重たい体を必死で支えながら、

ネイシスさんに助けを求めた。


「今日は、ローラは、休ませましょう。

 救護室に誰か、彼女を運んでください。」


その言葉の後、警備の男の人が一人、

ローラさんの、ぐったりとした体を、ぐっと抱き上げた。


さっさと運ぶその後姿に、深く頭を下げる。



「ありがとうございます。 

 ローラさんを、よろしくお願いします。」


後姿を見送っていた私に、ネイシスさんの言葉が続いた。


「メイさん。 貴方は、まだ見習いですので、

 一人では任せられないことが、多くあります。 

 私達も、朝は忙しく、教えている暇はありません。

 ですから、 午前中は、ローラについていてくださいますか?

 午後からは、マーサについて、仕事を覚えて

 もらうように、私から頼んでおきますので、そのように。 

 よろしいでしょうか。」


ネイシスさんは、グレーの瞳に気遣いの光を乗せて、

ローラさんの行先に目を向ける。


「はい。」


私は、はっきりと返事をして、急いで、ローラさんの後を追って、

救護室に向かった。





 


救護室は東向きの一階にあり、風通しの良い、柔らかな日差しが入る部屋だ。

さらさらと風の動きに呼応するように、薄いカーテンが窓辺で揺れる。


白い壁に薬品棚がびっしりと並んでいた。

そして、いつも医者が座っているだろう机と椅子。

そして、診察の為の台と、患者の為の椅子が2客。


部屋の大きさは、かなり広い。

一部屋をカーテンで仕切られ、診察室とその向うには、ベッドが5つ並んでいた。


突き当たりの壁には、外に続くドア。

先ほど、警備の人と一緒に入ってきたのは、このドアからでした。

反対の壁には、洗面所。


診察室すぐ後ろが、お城内部からの入り口です。

医者は、先ほどの遺体の検分があるとかで、

先ほど、この入り口から出て行った。


眼鏡が顔よりも大きい、トンボのような印象のお爺ちゃん先生でした。


ローラさんは、気を失っているだけなので、

直に起きると言ってました。


お爺ちゃん医師の見立ては確からしく、その診察は

結果と共に、安心できるものだった。






私は、ローラさんの寝顔を側に、濡れたタオルを絞って、

ローラさんの手のひらを拭いていた。


ずっと、震えながら握り締めていた手のひらは、

爪が食い込み、血がにじんでいた。


多分、手のひらの冷や汗も混じって、

ひんやりと、すえた匂いがしていた。


だから、戸棚にあったタオルを勝手に使い、水で濡らして、

手のひらや手首などを、ゆっくり拭いていた。


精神的ショックって、一種のトラウマになる可能性が高い。

ローラさん、大丈夫だろうか。


そう思いながら、薬品棚の一番下の戸棚をごそごそと

探っていると、見慣れた軟膏があった。

セランのいつもくれる軟膏に良く似ていた。

鼻を近づけて、匂いを確かめ、同じだと確信する。


ローラさんの手のひらに軟膏を塗って、

軽く包帯を巻いた。


ローラさんはまだ、寝覚めない。




救護室の部屋のドアがノックされた。


振り向きながら、返事をした。


「はい。」


「私よ、マーサ。 メイさん、無事なのね」


マーサさんですか?


声を確認したので、救護室のドアを開けて、マーサさんを迎え入れた。


「おはようございます。 マーサさん。

 お仕事は、午後からでよかったですよね」


首をかしげて尋ねた。

確か、ネイシスさんがそういったはず。



ネイシスさんと別れてから、一時間ほど経ったが、

お昼は、まだまだ先だ。


「悲鳴が聞こえたでしょ。

 もしかして、貴方に何かって考えちゃったのよ。

 昨日、あんな脅迫文見ちゃったから慌てちゃったわ」


マーサさんは、ほうっと息をはいた。

吐く息は、いつもよりも荒い。


「そうしたらネイシスが、貴方とローラが救護室に行ったって、

 教えてくれたの」


私の顔をみて安堵したようで、肩を大きく下げ、

目じりに沢山の皺を寄せて微笑んだ。


「朝の仕事をなんとか、やりくりして、

 少しだけ時間を作ってきたの」



マーサさんの部屋は、シオン坊ちゃんの南の部屋の側。

ということは、救護室のある一階の東の回廊付近には、

早歩きで、15分くらい掛かるのです。


それに、朝の支度は、王妃様も坊ちゃんもたいして変わらないはずです。

ローラさんと一緒にだったけど、随分、大変だった。


仕事をこなしつつ、時間を捻出するなんて、

無理をしたのではないでしょうか。

それに、その息の荒さは、その距離を走ってきたのでしょう。


マーサさんの優しい笑顔が、心に染みます。

出会ってから、まだ3日ほどなのに。

なんだか、心の中が、じーんと暖かくなって、

こんな時なのに、嬉しくなった。


「ありがとうございます。 マーサさん。」


マーサさんに深々と頭を下げた。





マーサさんにローラさんの状況と状態について話していたら、

いきなり、バンっと大きな音がして、

救護室のドアが乱暴に開かれました。


はあはあと苦しそうに息を吐きながら、

つるつる頭のトムさんが、走りこんできました。


そうして、そのまま、ローラさんのベッドに向かって突進してきました。


「ローラの様子は?

 大丈夫なのか?

 医者はなんと言ったんだ。」


口早に聞いてきます。

そして、側に居た私の肩をがしっと掴み、

がくがくと前後に揺さぶりました。


あう。

頭、シェイク。


話したくても、話せないでしょう。

揺さぶるのをやめましょう。


マーサさんに、トムさんは肩を抑えられ、

揺さぶりが止まりました。


首がかくかくしたような気がします。


「落ち着きなさい、トム。

 ローラは、気を失っているだけよ。」


マーサさんのゆったりとした口調が、

トムさんの、動揺を、ゆっくり宥めているようです。


トムさんの、体から、力がずるっと抜け、

ローラさんの寝ているベッドの側に尻餅をつきました。


「はあ、そうか。

 寝ているだけか。 良かった。」


トムさんは、泣き笑いのような顔で、笑いました。


多分、騒がしさが耳に入ったのでしょう、

ローラさんの目がゆっくりと開きました。


「ローラさん、目が覚めましたか?

 気分は悪くないですか?」


私は、ベッドの側に寄って、ローラさんの顔色を伺う。

その私のすぐ脇で、トムさんが、ローラさんの顔を覗き込んだ。


「気分? 私、えっと、トム? どうして? メイ?

 え? マーサさん? ここは?」


混乱している様子のローラさんに、私はゆっくりと目を見て説明する。


「ここは、救護室です。

 ローラさんは、倒れて運ばれたんです。

 覚えていますか?」


なんだか、まだ夢をみているような、

ぼうっとした様子のローラさん。


「救護室? 倒れた? 

 私は、えっと、今朝、あ、え、ああ。」


少しずつ何が起こったのか、思い出してきた

ローラさんの手が、次第に震え始めた。


目の中に、恐怖の感情が溢れてくる。



ローラさんに手を伸ばそうとしたら、トムさんが、

立ちふさがった。


トムさんは、ローラさんの手をギュッと握り、

だんだん大きくなる体の震えを覆い隠すように、

ローラさんの体を、その大きな体で抱きしめた。


「大丈夫だ。 俺がついてる。

 ずっと、側にいる。

 怖くない。 もう、大丈夫だ。」


ローラさんは、トムさんの胸に体を押し付けるようにして、

震えていたが、次第に、震えはおさまり、

そして、ローラさんの嗚咽が続いた。


大丈夫だと繰り返すトムさん。

背中を撫でるそのしぐさは本当に優しい。


マーサさんに促され、そっと救護室を後にした。

ローラさんはトムさんがいれば大丈夫だ。



マーサさんは、用があるので、途中で別れたが、

私の仕事は、午後からなので、時間が空いてしまった。



(昨夜、余り眠れてないでしょう。

 部屋で休んだら?)



照にそういわれたので、部屋に戻るつもりで、

東の回廊から中庭を通り、西の自室に向かうべく歩いていく。


ステファンさんは、今朝の事件から、要警護の重責が強くなり、

只今、王妃様にべったりついているでしょう。


まあ、私には照がいるし、今は昼間だし、

あの事件現場を見たせいでしょうね。

脅迫云々の怖さが、なんとなく薄れた感じがしてます。



(お気楽ね)



そうかな。

でも、あんな現場って人生初だったよ。

だから、びっくりした。



(そうね)



やっぱり、本物はテレビとは違うってことだね。



(テレビ?)


うん。

私の国にある、人生の先達達がつくった

ありとあらゆる波乱万丈な人生が

映像付のお話で見れるものだよ。



(なにそれ。人の人生見て楽しいの)


2時間ほどの、どっさりと詰まったお話だけどね。


(人の人生が2時間ですむなんて

 簡単なものなのね)


ああ、照にも見せてあげたいなあ。

絶対、照もはまるはず。


時代劇とかも、いいよねえ。


(まあ、よくわからないけど、

 いつか、みせてくれればいいわ)


うん。



なんとなく、気分が浮上したが、

はっと気がつくと、

私の足が向かっていたのは、西の私の部屋ではなく、

塔の教会のある北。



一階の現場の庭付近ではなく、渡り廊下がある、2階。

塔の入り口は二階のドアからだ。


最近、王妃様のお供で、日に二回は必ず訪れる場所だ。

塔の教会は、もう、目と鼻の先だ。



どうして、私の足は、勝手にここにくるんでしょうか。

考え事をしてたら、すぐこれだ。


昔から、何かを考えると、

不思議なことをしてしまう癖がある。


夕食は、魚にしようと、秋刀魚を料理したのに、

どうしてか、焼肉のたれをかけていた。


秋刀魚には、おろし大根でしょうって、

大きく自分に突っ込んだこともある。


これも、その癖だろう。



はあっと大きく息を吐いて、塔を見上げた。


真っ白な石で出来た背の高い塔。

お日様の光で、目に眩しいくらいの白だ。


そうしたら、塔の天窓付近、

昨日見た、洗濯物がヒラヒラしていたところ。


そこには、昨日と同じように、ひらひらがあった。

まだ、干しているのかな。

干しっぱなしは臭くなるんですよ。


うん?

ひらひらの間に、何かが見える。


銀の髪の長い、あれは女の子?

強い風が、その長い髪を乱暴に泳がせる。


その、長い髪の動きを鬱陶しそうにかきあげる。

唸る風の音にもひるまず、彼女はずっと、空を見ていた。


あれは、誰?


もっとよく見ようと、身を乗り出した私の体が、

足元の転がっていた、何かを踏んで、音を立てる。


ぱきっ



空を見上げていた彼女は、ばっと視線をおろし、

私を目があった。




呆然とした。


私が見たもの。

それは、意外なものというか、なんというか。


私は、あまりにびっくりしすぎて、

上に向けて、口を大きくかぱーんと開けた。

そして、そのまま固まってしまった。


胸に下げていた玉が、やけどするかと思うくらいに熱を持ち、

あついって、首に手を突っ込むまで、気がつかなかった。




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