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男なのにOL扱いされるエンジニアの日常  作者: 江戸川竜也


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第42話 三崎の告白と美咲の答え

 木曜日。


 昼前。


 情報システム部。


 三崎は珍しく、業務連絡ではなさそうな顔をしていた。


「三崎さん、今日は何ですか」


「あの……」


 三崎はしばらく迷った後、言った。


「少し相談があって」


「業務の話ですか」


「……業務、ではないです」


 俺は少し止まった。


 三崎恒一が業務以外の相談をしてくる。


 珍しかった。


「どうぞ」


「神代さんのことが」


 一拍。


「好きです」


 フロアが静かだった。


 空調の音だけが聞こえた。


 俺は少し考えた。


「……ありがとうございます」


「迷惑でしたか」


「迷惑ではないです」


「でも」


「仕事の関係を続けたいので、それだけです」


 三崎はしばらく黙っていた。


 それから、静かに頷いた。


「分かりました」


「三崎さんは真面目な人です。それは変わらないです」


「……ありがとうございます」


 三崎は少し間を置いてから言った。


「神代さん、好きな人はいますか」


 俺は少し止まった。


「……業務の話をしましょう」


「そうですね」


 三崎は静かに頷いた。


 それ以上は何も聞かなかった。


---


 その日の夕方。


 三崎が帰り際に、美咲に声をかけた。


 俺からは少し離れた場所だったが、声は聞こえた。


「結城さん」


「はい?」


「少しいいですか」


 二人が廊下に出た。


 俺は監視画面を見ていた。


 見ているふりをしていた。


 少し経って、美咲が戻ってきた。


 いつもより少し、静かな顔だった。


「美咲」


「はい」


「何かあったか」


「……別に」


「嘘をつくな」


 美咲はしばらく俺を見た。


 それから、椅子に座った。


「三崎さんが」


「うん」


「先輩のことが好きだって、私に相談してきました」


「知ってる」


 美咲が少し止まった。


「知ってたんですか」


「今日聞いた」


「……そうですか」


 美咲はモニターを見た。


 少し間があった。


「先輩」


「ん」


「三崎さんに、好きな人いるか聞かれましたか」


「……聞かれた」


「何て答えましたか」


「業務の話をしましょうと言った」


 美咲は少し黙った。


「……先輩らしいですね」


「まあ」


 また少し間があった。


「三崎さん、私にも聞いてきました」


「何を」


「先輩のことが好きかって」


 俺は少し止まった。


「何て答えたんだ」


 美咲はモニターを見たまま言った。


「好きだって答えました」


「……そうか」


「三崎さん、『そうですか』って言って、すごく大人の顔してました」


「三崎さんは真面目な人だ」


「そうですね」


 美咲はしばらく黙っていた。


 それから、俺を見た。


「先輩」


「何だ」


「私が好きだって言ったこと、先輩に伝えたくて」


「……聞こえてたのか」


「聞こえてなかったです。でも今、言いました」


 俺は何も言えなかった。


「三崎さんへの答えじゃなくて」


 美咲は続けた。


「先輩への答えとして、言いました」


 フロアが静かだった。


 空調の音だけが聞こえた。


 俺は少し考えた。


 何か言わないといけない気がした。


 ただ。


「……」


 言葉が出てこなかった。


 美咲はしばらく俺を見ていた。


 それから、少し笑った。


「先輩」


「何だ」


「私のこと、後輩としか思ってないんですか」


 また、その問いだった。


 30話でも聞かれた問いだった。


 俺は少し止まった。


「……後輩だ」


「それだけですか」


「……」


「先輩」


「何だ」


「ちゃんと考えてください」


「……考えてる」


「考えてる、じゃなくて」


 美咲は少し真剣な顔で言った。


「ちゃんと、答えてほしいです」


 俺は何も言えなかった。


 美咲はため息をついた。


「今日じゃなくていいです」


「……まあ」


「でも」


 美咲は立ち上がった。


「先輩が答えるまで、私は待ちます」


「……」


「三崎さんみたいに大人の顔はできないですけど」


 美咲は少し笑った。


「待つのは得意なんで」


 そう言って、帰り支度を始めた。


---


 美咲が帰った後。


 フロアに一人になった。


 NIAが静かに言った。


「マスター」


「なんだ」


「本日のログを確認しました」


「するな」


「三崎恒一からの告白」


「知ってる」


「結城美咲の発言」


「知ってる」


「好きだと言いました」


「……知ってる」


「先輩への答えとして、と言いました」


「……知ってる」


「マスター」


「なんだ」


「答えは出ていますか」


 俺は少し間を置いた。


「……出てる」


「では」


「言葉にするのに時間がいる」


「どのくらいですか」


「……分からない」


「了解しました」


 一拍。


「結城美咲は待つと言いました」


「……知ってる」


「待たせすぎないでください」


「……お前に言われたくない」


「保存しました」


 監視画面は緑のままだった。


 答えは出ている。


 ただ。


 言葉にするのが、まだ難しかった。


 それだけのことだ。


 ……たぶん。


 いや。


 それだけのことだ。

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