峩々吠我 壱 その5
唱僧による念の攻撃が、この女には届かないのかと思った時、再び地面から棘が舜速で伸びた。
「、、、!」
間に合わないと覚悟を決めたか、ユキオンナは地面から伸びる土の棘を見て、納得するように見つめていた。
咀哺っ!!
土から生えた棘が、細いウェストを貫く。
ランチコートは前を開けていたので助かったが、中のニットは赤く染まっていた。
「これでも、ショボいか!?」
離れていても、澄宗はユキオンナの左脇腹を自分の術式が背まで貫通させているのをしっかり感じた。
その眼で、串刺しになった美少女を確認した。
間違いない。
地に付けた手に、波動が教えてくれる。
これぞ、手応え有り。
澄宗、笑う。
「おおぉ!! やった!!」
勘空は横で握り拳を作って、飛び上がるようにガッツポーズ。
飛来する鳴り珠の攻撃は届かなかったのに、ナゼ澄宗の棘はユキオンナを貫くことが出来たのか?
棘は、ユキオンナの1メートル手前でどれも見事に削られ消されたハズ。
が、脇腹を刺した棘は、ユキオンナの半径1メートル以内から新しく生えて伸びていた。
そこが境目。
結界防御、もしくは防御円を用いる術師の理屈として、敵の攻撃に耐えうる“壁”を創る。
敵の攻撃を考え、どれだけ壁を高くするのか、又はドーム型にするのか考えるが、その意識に地面の下は無い。
ユキオンナの場合、鳴り珠を消滅させた彼女の防御円(“円”はこう言った場合、術式を表す総称になるので、実際に“円”とは限らない)とは、己の身体を覆うようにイコライズしたEG波を氷の粒にしてキラキラ纏わせている。
しかも常に流れる水のように流動体でありながら、攻撃の強い場所にオートで氷の粒が集まる。
その距離が、ユキオンナを中心とした半径1メートル。
纏う波動の影響が出始めるのが、半径2メートル。
ちょうど鳴り珠が、氷の粒に削られ始める辺りだ。
全身に防御のEG波を纏うとか、全身に何かの付与をする術式と言っても、どうしても感覚的に纏わない場所がある。
それが地面と接する足の裏と、防御円の内側。
ユキオンナが創ったのは、ドーム型。
移動を考慮した、ドーム型の防御円。
イメージしやすいように言えば、足元までしっかり覆った傘を差してる状態。
上から降る雨は勿論、横からの雨風も凌げる傘。
だが、地面からの雨、、、攻撃は、まったく想定していない。
もちろん意識すれば地面ごと覆う事は可能だし、完全な防御一辺倒の、攻撃を捨てた術式ならば足の裏(もしくは立ち位置)まで纏う事もある。
が、それは戦闘を考慮した状況では、致命的に使えない。
守り一辺倒でやり過ごすってのなら話しは別だが、“戦闘”で動けなくなってしまうのは、考えられる様々な理由から不利にしかならない。
防御円(または壁)を具現化したまま移動するには、物理的に地面との摩擦が必要になるので、防御円内はもちろん、足の裏にも防御円を張れない。
高等技術で身体の形に添った全身スーツ型なんてのがあるが、そんなの使えばそれこそソッチに意識を取られ戦闘どころでは無くなる。
ならば移動を考慮し、カプセル型で地中まで防御円を延ばす、、、なんてのは、浅はかすぎる。
地中に防御壁を構築する技術が、難し過ぎる。
仮に出来たとして、今度は地中に張った防御壁をどうやって移動するのかの問題が残る。
地中に延びた防御円は、どんな理屈で地中を移動するのか?
術の素は、イメージ。
脳がその部分をクリア出来てないと、防御壁は張れない。
それどころかイメージが先行し過ぎて理屈が追い付かず、“Menty B”を起こして具現化さえ出来なくなる。
なので結論を言ってしまえば、足の裏や地面に防御の波動や念を纏うってのは“超”の付く高等術式で、余程の使い手でないと上手く歩くことすら出来ない。
その余程の使い手でも、戦闘中、移動のためだけに多大な神経を使う、なんてことはしたくない。
能力者にとって神経を使うってことは、エネルギーを使うのと同意に等しい。
そんなエネルギーがあれば、攻撃に使いたい。
だから防御円の基本は移動に神経を使わないドーム型や、足元までしっかり覆った傘のイメージがメジャーだ。
その方が実戦では使えるし、現にユキオンナもそうやって澄宗に向かって歩いて来ていた。
つまりユキオンナも、防御円の傘を差している。
故に傘の内側は、何もない状態。
観た。
確かに澄宗の術式、地面から土の棘を出す晷棘は、ユキオンナが創った防御円の内側から伸びてその腹を刺している。
これぞ、土属性の特性。
各属性それぞれ基本となる攻撃の術式があり、それぞれ特徴的な術式となる。
土属性の特性は、攻撃する術式の念を、地面に這わす。
晷棘は投擲系に分類されているが、念を伸ばして展開する術式。
他の三属性と違うその特徴を生かし、地面より下から防御円を潜らせて攻撃をしたのだ。
澄宗、思惑通り。
地上に出したこれ見よがしの棘の効果も、多分に利いていただろう。
ただユキオンナは腹を貫通させられながら悲鳴を一切上げないのには、敵ながら感心する。
刺された瞬間のポーズのまま、泣かず、怯まず、項垂れず。
何なら澄宗に向けて、アイドル級の笑顔を向けて来た。
唇の端から血が流れているが、それさえもカワイイ。
「ふん、、、」
澄宗が、小さく笑い返す。
かなりヤリ手のEG使いってのは、解かった。
根性が入ってるってのも、解かった。
――そんでも、オレには勝てんなぁ!
澄宗の額に、血管が浮かび上がった。
地に着いた両手に、再度念を送り込んでいた。




