峩々吠我 壱 その4
勢いよく迫る球体が、ユキオンナの2メートル手前で急激に小さくなっていく。
それまで属性の特徴を表す色に光っていた鳴り珠が、外側からキラキラと無色の粒に削られて、散って、小さくなってゆく。
小さくなった鳴り珠は急速に速度を落とすと、彼女の1メートル手前で完全に止まり、消えた。
信じられない光景に、唱僧たちの呪経が一瞬途絶える。
「何が、、、起こったんや?」
誰かが呟く。
皆、同じことを思った。
放たれたのは30発近い鳴り珠、、、。
しかも同時。
それを、、、全て消した?
どうやって??
理屈が解らない。
5色の鳴り珠を、全て、、、。
つまり、5つの属性を同時に消した。
「そんな事が、、、?」
5色の残像を残して消えていく30近い発光体が、まるで美しい自然現象のダイヤモンドダストのように観えた。
キラキラ光る。
その光は幻想的。
光るたびに幽玄的。
見るたびに夢幻的。
そして、尚且つ神秘的。
その中心に居るのは、EG使い、ユキオンナ。
「そんなん全然濡れへんわぁ。オナニーのネタにもなれへんで」
ユキオンナの口から出た下ネタのおかげで、我に返る唱僧たち。
その1人が、声を上げる。
「攻撃を止めんな! 撃て撃て!」
呆然と動きを止めてた男たちが、怒号に似た呪経を再び唱え始める。
音による振動が、ユキオンナの肌をくすぐる。
「わぁ、気合入れ直したん? 今度はせめてチクビまで届くようなん頼むわぁ」
鳴り珠を創り上げた者から、次々とユキオンナに向けて撃つ。
五色の念が襲い掛かるが、どれも先程と同じく届かない。
手前で小さく削られ、急激に速度を落とす。
そして、消される。
現象のリフレイン。
「!」
だが2度目ともなると、気付く者が幾人か居た。
しっかり観えた。
ユキオンナを、キラキラ光るものが守っている。
襲い掛かる五色をキラキラと削って、キラキラと止めて、キラキラにして消す。
止めどなく放たれる唱僧たちの鳴り珠がユキオンナを攻撃するが、その全てが届かない。
キラキラ光って、消される。
「なぁなぁ、それしか能が無いん? 術師ってエラそうな態度と格好しとるけど、どいつもこいつも大した事無いなぁ」
前へと進む、ユキオンナ。
「くっ、、、!」
ゆっくりと近付いて来るユキオンナを、一番前に立つ澄宗は観た。
各属性を削り消しているのは、氷の粒だ。
このEG使いは、自分の周囲を氷の粒で覆っている。
EG波で出来た、青白く光る透明な氷の粒。
それが飛んで来る唱僧たちの念をガードしている。
「コイツ、、、!!」
信じられない。
鳴り珠をひとつ、その氷でガードするのは解かる。
だが今、32人の唱僧が次々と放つ鳴り珠をキラキラ削って、止めて、消している。
属性反抗変換は?
対抗術式は?
個抗式?
いや、歩いて来る女はカワイイだけで、頭は良さそうに見えない。
そんなEG使いが、高等な反転術式を構築できる訳が無い。
いや待て待て、そもそもコレが呪防壁?
いやまさか、、、?
何なんだ?
この人数を相手にして尚、余裕を持てる力なのか?
澄宗が、ユキオンナを見る。
唱僧たちの攻撃を意に返さず、歩いて来る。
その距離、約10メートル。
その位置で、ハッキリ観える。
五色の鳴り珠が、絶えずキラキラ消えていく。
眼を剥き、歯を剥き、本性を剥き出して嗤っていた。
しかも、その下品極まりない姿が、カワイイ。
澄宗は思う。
――EG使いって、何だ?
放つ鳴り珠が、全く効かない。
その現実に、唱僧たちの攻撃が尻つぼみに止んでいく。
コイツらの術式は、理屈もへったくれも無い。
どうすれば、EG使いに届く?
対抗策が、浮かばない、、、。
合図を出した勘空も、ただ呆然とEG使いを見ていた。
「高野山、、、ショボいなぁ」
EG使いが、そう言って笑った。
カチンときた。
その言葉には、アタマにきた。
澄宗、両手を地面に付けた。
「ぬぅうおおぉおお、、、!!」
念をぶち込む。
地面から、小さな土の棘が生えた!
1つではない。
平らな地面からもの凄い早さで次々と土の棘が連なり、まるで生き物のようにユキオンナ目指して棘が疾る。
しかも新しく生える棘は、少しづつ大きく成っている!
瞬きの早さで地面から切っ先を前に生え続ける棘が、ユキオンナを襲う!
澄宗の手元で始まった棘は初め2センチほどだったのに、約10メートル離れたユキオンナの手前で土から生える時には、腰にまで届く大きな棘と成っていた。
鋭く、土の棘がユキオンナを貫く!
、、、そう思えたが、やはり2メートル手前でキラキラと氷の粒に削られ始める。
それまで勢いよく連続して生えていた棘は、その尖った先端を見事にユキオンナの1メートル手前で消滅させられていた。




