ずっと親ガチャしてるのにひどい親しか出てこない(前篇)
天界コメディ・転生(研修)もの。
コメディ・シリアス混在。
主人公は新人の神。
テーマは親ガチャ・人間理解・天界研修。
虐待・不遇描写あり。
天界の新人研修には、どう考えてもおかしい科目がある。
その名も「人間を知る」。
座学ではない。実地研修である。
つまり、本当に人間として生まれ、人生を送り、死んで帰ってくるのだ。
「次、新人七番。転生準備できたぞー」
巨大な受付カウンターの向こうで、先輩の神が気だるそうに手を振った。
新人の神は元気よく駆け寄る。
「よろしくお願いします!」
「元気なのは結構だけど、お前これ五回目だからな」
「え?」
「え、じゃない」
先輩神は分厚い書類をめくる。
「一回目、生後六か月。酒乱の父が酔って階段から落として終了」
「はい……」
「二回目、三歳。育児放棄で栄養失調」
「はい……」
「三回目、九歳。親が詐欺師で逃亡生活、事故死」
「はい……」
「四回目、十一歳。教育虐待で心身壊して終了」
先輩神は書類を閉じた。
「感想」
新人は真顔で答えた。
「親ガチャって本当にあるんですね」
「研修の趣旨そこじゃねえんだよ」
天界では、生まれる家庭は完全に抽選で決まる。
神が恣意的に操作すると人間社会の公平性が崩れるため、完全ランダム。
新人は四連続で、とんでもない親を引いていた。
「ちなみに確率は?」
「かなり低い」
「慰めになってません!」
そこへ、涼しい声が響いた。
「騒がしいですね」
白銀の髪を揺らし、先輩の女神が歩いてくる。
新人研修の評価担当である。
胸には「評価者」と書かれた札が付いていた。
「五回目ですか」
「はい……」
「順調に人間を理解していますか?」
新人は少し考えた。
「親を選べない理不尽さは理解しました」
「半分正解です」
女神は無表情で頷く。
内心では思っていた。
たかだか数回人生を送った程度で、人間なんて分かるわけがない。
百年生きた人間ですら、人間を分かっていないのだから。
「では、行ってきます!」
光が弾けた。
新人は地球へ落ちていく。
◇
五回目の人生。
産声を上げた瞬間、父親が叫んだ。
「女じゃねえのか!」
男児だった。
しかし父は女の子を望んでいたらしい。
「こんなのいらん!」
新人は思った。
(始まった)
神としての記憶は研修中だけ薄く残る。
だから彼は理解していた。
(あ、今回もダメだ)
予感は当たる。
父は暴力的、母は無関心。
十歳になる頃には「お前なんか生まれなきゃよかった」が日課になった。
そして十二歳。
父が飲酒運転をし、親子三人まとめて事故。
目を開けると天界だった。
「おかえり」
先輩神がスタンプを押す。
「死亡確認、研修継続」
「もう嫌です!」
新人は机に突っ伏した。
「親ガチャの排出率おかしいですよ!」
「ガチャ会社に言え」
「会社なんですか!?」
「比喩だ」
女神は評価用紙を書きながら言った。
「今回の学びは?」
「人間は子供に八つ当たりします」
「それも事実ですね」
「合格ですか?」
「いいえ」
「なんで!」
「人間には優しい親もいますから」
新人は立ち上がった。
「じゃあ、その優しい親を引かせてください!」
「できません」
「ですよねー!」
先輩神は六枚目の申請書を差し出した。
「次」
「早い!」
「お前、死ぬの早いから回転率いいんだよ」
「嫌な褒め方!」
こうして六度目の人生が始まった。
◇
六回目。
母は宗教に全財産を注ぎ込み、父は家出。
新人は七歳で施設へ。
施設の先生は優しかった。
初めて「頑張ったね」と頭を撫でられた。
(あれ)
胸が熱くなる。
(これが普通?)
だが幸せは長く続かない。
施設が火災に巻き込まれ、彼は先生を助けようとして命を落とした。
天界。
「おかえり」
「ただいまです……」
先輩神も少し気まずそうだった。
「今回は先生いたじゃん」
「いました」
「どうだった」
新人は笑った。
「すごく嬉しかったです」
女神はその一言だけを評価欄に書いた。
『他者から受けた善意を記憶している』
そして七回目の書類を渡す。
新人は受け取る前に聞いた。
「あと何回くらい続くんですか?」
女神は静かに答えた。
「人間を知った、とあなた自身が言えるまでです」
新人は空を見上げた。
「その前に親ガチャが僕を知りそうです」
先輩神は思わず吹き出した。




