只今覚醒準備中、しばらくお待ちください。
俺と言うご馳走を賭けたモンスター両者の熱い戦いが始まる事を期待したが両者は同時に俺に襲いかかる。ミノタウロスが俺の右腕を掴み頭へ齧りつこうとした所へオークが俺の左腕を掴んで下半身に齧りつこうとしている。どうやら両者は仲良く半分こにする様だ。しかしお互いの頭がゴッツンコして「ゴッ!!」っと言う物凄い鈍い音がした。
両者共にかなりイラッとした様で
「ゴァ!」
「ピギィ!」
と、怒鳴り合い俺を取り合う、まるで皿に残った最後の手羽先の様な扱いを受ける俺。両者はご馳走を我が物にしようと引っ張る引っ張る。すると
「ビリィ!」 俺の両腕の袖が破れノースリーブになった俺は地面にストンと落ちた。
「ぬん!!」
その機を逃さず渾身のダッシュで5つの別れ道の右端へ逃げ込む。さっきは左端でオークとエンカウントしたから自然に右を選んだのかもしれない。理由や理屈を考える暇もなくとにかく逃げた、生存率ゼロからの脱却、現在生存率がわずかに上昇中!
いつまたゼロになるかも分からないが、危険なダンジョンの奥へと歩を進めるたびに生存率が下がっているのは確かだ。しかし歩を進めないと生存率が下がるのも確かだ。
この命の綱渡はどこまで続くのか、考える間も無くひたすら全力で走る。
「ハァハァ、ゼェゼェ」
もう肺の限界まで全速力を続けた結果少し開けたエリアへ踏み込んだ、澄んだ水が湧き出ていて何処となく清潔感が漂うこの空間を俺は知っている。
そう「セーフティエリア」だ。
出入り口が狭い為モンスターはこの部屋にあまり入ってこない為エンカウント率が極めて低く冒険者達の休息の場として使われる場所、無我夢中で走った末此処へ辿り着けたのは不幸中の幸いだった。
とにかく水を飲み渇きと空腹を少しでも満たす。
「プハァッ! ハァハァ…急死に一生を得たとはこの事よ、やったぞ俺は!よーしよし!」
取り敢えずさっきの絶体絶命をクリア出来た、無様でも何でも生き残れば勝ちだ。セーフティエリアとは言え絶対安全とは言い切れないので、台座の様な物の後ろに隠れて身を休める事にした。少しだけ気が緩んだ瞬間意識がブラックアウトしていくのが分かる。
どうやら疲労の限界を超えた様だ。もうここで襲われたら仕方ない。その時は俺を起こさず寝てる間に食べちゃって下さいお願いします…
3年前の夢を見た。今はもう懐かしい。
〜〜〜ん? 夢か? あぁ、これは俺が異世界に来たばっかの頃か。あの時はテンション上がったなぁ〜w
亜人種、モンスター、魔法、美人エルフ、穴熊隊のメシ、これからの異世界生活に心躍らせてたなぁ〜
あぁ、そうそう。ここで落ち込むんだよな、ギルドの適性検査。無属性、スキル無し、適正なし、フィジカルも12歳以下、まさに「無能」の烙印を押された気分だったよ。
んで地球の知識で一山当てようとしたけどこの世界じゃあ魔法でほとんどの事は出来ちゃうから物理は全く無意味だったんだよな、で、もっかい落ち込むと
そうそう、それからギルドで雑用クエストをこなして食い繋ぐザ・日雇い労働の日々。宿は高いから野宿生活だけど最初の冬で死にかけたんだよな。この時は牛小屋の藁に埋もれてなんとか冬を凌いだんだっけ。アレはマジで辛かったなぁ〜。
だから冬の宿代を稼ぐ為にそれ以外の季節はお金を溜め込む為の期間になったんだよな。3年目になると俺も慣れたもんだなw
で、コイツらに冬の為の貯金を全部奪われると。ボコボコにされて雨に降られてミノタウロスとオークに追っかけられて
「ハッ!!! はぁ〜夢か…まだ喰われて無かった様だな。良かったよかっ…」
…よかったのか? 正直このダンジョンから無事に出るのは至難の業だ。仮に運良く出られても一文無しだからもう冬は越せないだろう。仮に何とか冬を越せたとしてもまた冬を越えるためだけに1年間雑用をこなす毎日を送るのか?この世界で俺は地球の頃より底辺な生活を強いられる。
何故なら俺はここで弱肉強食の弱肉側に立っているからだ。さらに地球で得た不名誉な称号「弱男」でもある。2つ足して弱肉弱男だな。で、この世界の常識や魔法の知識も無いから情弱もひとつまみ と
四面楚歌、八方塞がり、おまけに弱弱弱で流石にジリ貧もここまで来ると諦めモードに入る。冷たい石の台座に背中を預け、体育座りで膝を抱え込み項垂れる。
地球の頃はまだ良かった。人との繋がりが希薄ではあったがまだ交流もあり、雑だけど人としての扱いをされていたがこの異世界で弱い奴は人権なんて無い、いやそもそも人権の概念すら無い。
身体が冷え切り空腹がさらに心を凹ませる。暖を取ろうと松明に火を灯す。こんな小さな火でも無いよりかなりマシだ。
すぐそこで水が流れる音と松明が燃える音。ぼんやり火を眺めていると身体が少しだけ暖まってきたら不思議と思考力も少しだけ回復するのが分かる。
「しっかし誰が作ったんだろうねこんな遺跡、このセーフティエリアなんてかなり意図的に作られてる気がするし」
これだけの建造物を造るのは相当な技術力と高い文明が必要だろう。ここはピラミッドみたいな雰囲気じゃなく、かなり高度な文明を感じる。
背中を預けていた円錐形の台座もかなり滑らかだし、よく見ると俺が座っている地面も何やら魔法陣の様なレリーフがビッシリ彫られている。魔法陣の真ん中に人の足の裏が描かれている。まるでここに立てと指示している様な…
「え?」
よく見ると円錐形の台座もオートロックマンションの入り口のアレみたいな感じだ、非常に似ている。いくつかの文字や数字が並んでいて立ち位置の目線の先にはカメラ的なモノもあった。
レリーフの意図することが何となく分かるのは高度文明、つまり地球に似ているからだ。
少し胸が高鳴る。心臓の鼓動が激しくなると血の巡りも良くなり体温も上がる。そうすると思考が更に冴えてくる。もしかしてダンジョンのモンスターはセキュリティなのか?とか
円錐形の台座のホコリを息で吹き払うと規則正しく並んだ数字が現れる。
1 2 3
4 5 6
7 8 9
しかし1239だけホコリが少ない。多分何度も何度も繰り返し押されているからだろう、それはつまりオートロック解除の暗証番号なのでは無いだろうか?
恐る恐る指で抑えると何も起こらない。しかし足元の立ち位置の印を思い出して正しい立ち位置で1に振れると
ポワッ
押した所がほんの少しだけ光った! 2.3.9と順番に触れると最後の9で全ての光が消えた。マジで完全にオートロックじゃ無いかコレ!?
そう思うと夢中になり番号の順番を入れ替えて押しまくる。幸い押し間違いに回数制限は無く4桁数字の暗証番号クリアは容易く、そしてその時がついにやってきた。




