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未来の子供たち  作者: Naoko
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19. 吹雪の日(その1)

 ナタリの住民たちは、吹雪になると大きな建物に集まる。

住民は、二階の工房で働き、三階では、子供たちは遊び、読書したりする。


 食事は、工房の一階の厨房で調理されたシチュー、焼かれたパンや芋などを食べる。

他に食べたいものがあれば、自由に倉庫から取って良い。


 ヨルクは(好き勝手して食料は無くならないのか)と思ったが、

住民は、

「無くなれば山を降りて取りに行く」とか「餓死するほど吹雪は続かない」などと呑気だった。


 実際に、

山を降りれば食べ物は見つかる。

それがラーウスの良いところでもあった。



 さてワルトが三階の図書室へ行くので、ヨルクもついて行った。

三階は広く、雪晒しされた布や紙の原料の木の皮などが干されている。

その奥に図書室はあった。


「ここだよ」とワルトがドアを開ける。

その部屋の壁には本棚が並び、窓沿いに読書用の机や椅子もあった。


 ワルトは、読みたい本を見つけるとそれらを読み始める。


 ヨルクは、今が百五十年後の世界だという何かを探そうと思ったのに、そんな本は見つからず、すぐに飽きてしまった。



 ヨルクは図書室を出て、干してある布や木の皮などの下を潜り、反対側へ向かう。

そこにはレンキとユーリスがいて、ティアと子供たちが木太刀で稽古していた。


「あなたもやってみますか?」

 そう誘うレンキに、ヨルクは首を横に振った。

「争うことは苦手です」


 一瞬、レンキは目を大きく開け、それからにこやかな表情になる。

「そうですか」


 ナタリの子供たちは、楽しそうにティアに挑戦していた。


「ティアの動きには無駄がありませんね。あなたが教えたと聞きました」

 と言うレンキに、ヨルクは眉をしかめる。


 ヨルクは、自分が「上手い」と思われたくなかった。

レンキに自分がティアに教えられるほど得意、と思われるのも嫌だ。


 ヨルクは、自分が教わったことを見せただけ。

良い先生に教われば、誰でも上手くなれる。

それを知っているので、自分が褒められるのは気が引ける。

習ったことを伝えるのは簡単でないのでヨルクも上手いのだけれど、それでも気が重かった。



 ヨルクは、戦士になりたいと思ったことはなかった。

もちろん強くなれれば嬉しい。

とはいえそのために努力する気はなかった。


 ヨルクにとって、戦いはゲームの中だけの世界。

敵を殺しても、自分は死なない架空の戦闘。

殺す相手は人ではなく、吹き飛ぶ血も架空のもの。

敵を仕留めるとスッキリこそすれ、罪悪感はない。


 すると、

「自分は戦争が嫌いなのに、なぜ戦争ゲームを好きだったのだろう」と思う。




 カンッと高い音が響いた。

ティアが相手の攻撃を上手く受け止めたのだ。


 ティアは、ヨルクが教えた時より上手くなっていた。


「ティアは、攻撃を美しく交わしたいようです」とユーリスが言う。

「ああ、なるほど」とレンキは目を細める。

「彼女の動きは、まるで舞っているようですね」



 そんな会話を聴きながら、ヨルクは、ここが学校の体育館に似ていると思った。


 壁沿いに、他の子供たちが固まって本を読んでいる。

その中にニケがいた。


 ニケは、壊れたソリが修理され、自分でも修理できる様になりたいと思った。

そこでソリの構造についての本を見せられたのだけれど、いかんせん字が読めない。

それでナタリの子たちに教わっていたのだ。


 その子供たちにヌンが混じっていて、ヨルクは可笑しく思えたが、

ニケの様子に、

「ここは学校なのですか?」と聞き、すぐにワルトが「学校は無い」と言ったのを思い出す。


「学校ではありません」とレンキは答えた。

 すると、ユーリスが首を横に振る。

「いえ、あのニケの様子から学校の様に見えるかもしれませんね。同じ年ごろの子たちが一緒ですし」


「ああ」とレンキ。


「以前はラーウスにも学校もあったのですが、戦いで無くなってしまいました。

騒動が終わって、ナタリに学びたい者が集まり、好きな様に勉強しています。

ここには教えてくれる者もいますし、本もありますからね」


 ヨルクは、

「こんな所で何を学んでいるのだろう」と思った。


 学校が子どもたちに社会が必要としているのを教えるのであれば、

「ここでは何が必要なのか」と考える。



 ナタリの生産性は低い。

惑星ラーウスには、産業がないも同然だった。


 布や紙の質は素晴らしいのに、それを高く売って金儲けしようとする人などいない。


 人々は自分の作るもの使っているものに満足し、丁寧に扱い、丈夫なので、買い換えもない。


 そもそも人口が少ないので売れる量も少ない。

作って売る、という商売の基本が、ここでは成り立たない。



 人々は、ここで満足に暮らしていた。


 ラーウスには富裕層も貧困もなく、人々はお金がなくても幸せだった。


 例えお金があったとしても、それがどこに流れていくかだ。


 お金が人々の為に使われるのであれば、皆が豊かになる。

ところが、

お金が一部の富裕層や支配層に集まるのであれば、それを支える多くの者たちが必要になる。


 奴隷の様に働く人々を増やすのに、

「たくさんのお金や物があれば幸せになれる」と教え、働かせようとする。


 成功した有名人の話を聞かされるなどして、「自分もこうなれる」と信じて働く。

とにかく働く。


 成功できるのはほんの一握りだとは知らされない。

そんなに働かなくても、幸せになれるとは教わらない。



 ヨルクがいた社会では、考えるより反応することが求められていた。

支配する側は、人々が考えないように、考えても気付かないように、知識と情報を操った。


 とはいえ、民が全てを知っても、

それを正しく理解し判断できるかどうかは怪しい。


 正しく判断できなければ、混乱する。

だから何であれ、幸せを約束してくれる方に従おうとする。

支配する側に、民に対する愛や思いやりがなくてもだ。


 それがヨルクが引きこもりになった理由の一つだった。

何かが違うと思いながら、何に迷っているのか分からないでいた。


 両親の仕事も、ヨルクの引きこもりに影響していた。


 ヨルクの両親は科学者だった。

科学者は、研究して得られたデータを元に判断する。

 ところが、

ヨルクの時代、公正な判断をする科学者は必要とされていなかった。


 政府やメディアは、求めていない情報を発信する科学者を快く思わず、

ヨルクもそれに影響された。


 ヨルクは、両親がやっていることに、興味はなかったのだ。


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