魔王は案外普通です
魔王だって生き物だもの
「見つからん!」
「………精霊さんも駄目みたい」
「うむむ。師匠に手間は掛けさせられん。何としても、見つけねば。」
どうしても、一つの薬草が見つからない。
あの衝撃的なお昼から、探し続けて夕方になっている。
「明日で良いよ~」
「野営地を探しましょう。ムウ、ジン、ラング渡した荷物にテントが有るわ。」
出発時、『師匠に荷物など持たせられません!』と言ったムウは、ジン、ラングにも荷物を持たせた。
ジンもラングも、2人が手ぶらの方が、いざという時に安全なので、文句は言わなかった。
あまり、多くも無かったのも有る。
「そうだな。分かった。」
「………でも木ばかりだよ。…何処にするの?」
「探しに行きますか?」
「〈麗牙〉!この辺更地にして~」
「〈風牙〉は枯れ木を集めて。」
「分かった。」
「了解だ。」
(((神獣をパシりに!?)))
〈麗牙〉が尾で木を凪払い、残った切り株を引っこ抜き、穴を埋める。
〈風牙〉が良い感じに乾燥した枯れ木から、小枝を集める。
良い感じの更地が出来上がった。
さっそくテントを張り、野営地は完成した。
「夕飯どうする?」
「狩りに行こ~」
「やっぱり魔物の肉なんだ…」
「………諦めよ」
「食べれるなら良い。」
あの魔物は肉が固い、あの魔物は臭味が強い、あの魔物は骨が多いなど、いろいろ教えて貰いながら、探す。
ようやく食べられて、臭味が弱い魔物を見つけた時には夜になっていた。
豚みたいなでかい魔物。
角があり、案外すばしっこい。
だが、アヤメには通じなかった。
一撃で仕留めて、野営地で捌き、焼いたり、骨の出汁と食べれる野草でスープを作り、豪華な晩餐会になった。
味は、独特の臭味が強かったとしか言えないが…
「見張りは〈風牙〉に任せて寝ましょう。もちろん男女別です。私達のテントに入ろうとするなジン!」
「死にたいか?」
「ムウ!何故そっちの見方なんだ!」
アヤメとツバサのテントに入ろうとしたジンに、刀を突き付けるムウ。
因みにツバサは既に夢の中。
「師匠に害なす者は許さん。」
「分かった。分かったから刀下げて。」
「分かれば良い。」
ようやく、皆落ち着いてテントの中に入り、眠りにつく。
「我は1人で見張るのか…」
〈風牙〉が独り言を呟いた…
☆☆☆☆☆
「おはよう。着替えたら出て来なさい。朝ご飯出来てるから。」
テントの外からアヤメが声を掛ける。
ジン、ラングは目を覚まし、着替え始めた。
ムウは既に起きていたので、朝ご飯の準備を手伝っている。
「ふあ~う。おはよ。」
「大きな欠伸ねジン。座って。」
昨日のスープが出された。
少し薄味にしてあり、飲みやすい。
「今日はもう少し、奥に行ってみるわ。もしかしたら、珍しい薬草も有るかも知れないし。」
「分かった。」
「奥は魔物も強いから~ちゃんと準備しといてね~」
「………うん。」
「神獣も手伝って貰うから。」
「分かりました。」
食べ終わり、ジンとラングが片付けてから神獣を呼び出す。
五匹の神獣は圧巻である。
「ん~さすがに〈麗牙〉は目立つね~」
「〈麗牙〉には今回は待機して貰えば?」
「そうだね~〈麗牙〉周りに気を配りながら待機してて~」
「承知した。何かあれば姿を表す。」
そう言い残し、〈麗牙〉は姿を消す。
皆、神獣と言葉を交わしてから歩き出した。
☆☆☆☆☆
「なんか変ね。」
「魔物が居ないね~」
歩き続けて30分。
数分前に鳴き声がしただけで、姿は見ていない。
不気味な程静かな森の中。
「我が空から見てみようか?」
「〈スピネル〉危ないから駄目よ。」
「何が出るか分からないの~慎重にいくよ~。」
「ふむ。分かった。」
アヤメとツバサが警戒するのは珍しい。
〈風牙〉も辺りを警戒して見回している。
既にアヤメはレイピアを構え、ツバサは双剣に手を掛けている。
ジン、ラング、ムウも2人の警戒態勢に習い、感覚を研ぎ澄ます。
2人には遠く及ばないが、3人もかなり実力が付いてきている。
気配の察知だけなら、なんとか形になった。
「止まって。」
アヤメが静かに忠告する。
ツバサも険しい顔で前方を見やる。
〈風牙〉も油断無く構える。
〈スピネル〉も何かに気付いたらしく、警戒態勢に入る。
〈ファング〉はジンを庇うように前に出る。
〈スカイ〉は空色の瞳を何度も瞬きし、羽の形のヒレを広げる。
「何か居る。ものすごく、魔力の濃い何か。あれが居るから魔物が居ない。」
「人の姿だね~人の姿に変われる魔物はかなり強い筈だよね~」
何かが動いた。
真っ直ぐこちらに向かって来る。
皆身構える。
「そんなに警戒しないでよ。」
ようやく姿が見えた。
コウモリの様な羽をもった青年。全身真っ黒で闇に溶けそうな雰囲気だ。
細い体躯だが、まったく隙が無く、威圧感、存在感が有る。
腰には剣が有る。
「警戒するなとは、無理な相談だな。」
「威嚇しながら言っても~説得力無いよ~と言うより、違和感有りすぎ~」
「参ったね。戦う気無いんだよ。」
青年の魔力に気圧されて、ジン、ラング、ムウは動け無い。
「じゃあ何故魔力を仕舞わない?」
「忘れてたよ。人間には刺激が有り過ぎるんだった。悪いね。」
あっさり魔力を仕舞う青年に、アヤメとツバサは警戒を緩める。
「まだ信用して貰えない?」
「要件は何~?そして誰~?」
「要件は気になったから見に来た。そして私は、魔王だよ。」
「そう。」
「やっぱり~」
魔王と聞いて動じない2人。
驚きで固まった3人。
警戒を続ける神獣。
「ただ、気になっただけじゃ無いよね~?何用かな~?魔王様?」
「参ったね。君達2人は子供らしくないね。道理で魔物が騒ぐ筈だよ。要件はね、お願いが有るんだよ。」
「内容によるわ。」
「ここだと話せない。城に来てくれないかな?ここよりは、安全だよ。」
「周りに僕放っておいて良く言うね。逃がす気無いでしょう?」
「バレたか。本当に安全を保証する。」
「分かった。案内して。」
アヤメは簡単に承諾した。
ツバサも特に気にしていない。
ジン、ラング、ムウは2人の判断に任せる事にした。
神獣も警戒態勢を解く。
「付いて来て!」
そう言って、魔王は走り始めた。
皆後を追う。
周りから謎の気配が付いて来て居る。
僕だと魔王は言った。
ひたすら、森の中を邪魔な枝を切りながら進む、魔王とアヤメとツバサ。
ひたすら付いて走り続ける男3人。
それに続く神獣。
全力で走り続けて二時間。
一行は魔王の城の前に居た…
☆☆☆☆☆
魔王に案内された部屋は、魔王の執務室。
あっちこっちに居た、召使いの魔物にじろじろ見られながら歩くのは、とても居心地悪かった。
「お願いはね、この書類を学園の校長に渡して欲しいんだ。」
魔王は机の引き出しから、分厚い書類の束の入った封筒を出し、アヤメに渡した。
「君達、アスティア学園の生徒でしょ?実はこの書類、かなり重要な物でね。人の配達員なんかに任せる訳に行かなかったんだ。だからと言って、魔物は論外だし、私は世間的には危険視されてるし。困ってたら君達が現れたんだ。」
「見ちゃ駄目~?」
「あまり上目使いで見ないで…理性が危ないから…見ないで欲しい。」
「言われると見たくなるわ。」
「駄目だから。報酬も用意してあるから、よろしくお願い出来ないかな?」
「報酬?何です?」
「薬草。探してるでしょ?」
「ええ。〈ピクシーの魔草〉よ。」
「普通見つからないよ。それ、ピクシー達の住処に有るから。と言うより、惚れ薬の材料なんて、何で探してるの?」
初めて知った。惚れ薬の材料なのかよ!
「校長からの夏休みの宿題よ…」
「なる程…ご苦労様…」
魔王に同情された〈レジェンド〉は、苦笑するしかなかった。
「魔草はピクシーに相談して分けて貰うよ。明後日位になる。ピクシーは山の奥に隠れ住んでるから。」
「此処に泊まって良い~?」
「もちろん良いよ。」
今日明日は魔王の城に泊まる事になった。
☆☆☆☆☆
「豪華だね~」
「そうね。」
女子2人に与えられた部屋は、かなり豪華な作りだった。
重要な客人専用のVIPルーム。
「おお!ベッドふかふか~」
「まだ寝ないで。まだお昼だから。」
とりあえず、荷物を部屋に置いて、男子の部屋に向かう。
「案外質素ね。」
ノックして入ると、寮よりは豪華な家具だが、あまり変わりはない。
「そっちはどうだった?」
「ジン、なんか私達VIPルームに通されたわ。」
「何でかな~?」
あなた達が規格外だからです!
「気を使ったんじゃね?」
「………女の子だし」
「師匠ですから。」
魔王の心境に気付いて居るが、怖くて言えない男3人。
良く分かって無い、女子2人。
「そうゆう物かな~?」
「まあ良いじゃない。」
「ねえ~探索に行こ~」
「何で?あまり勝手にうろうろしたら、まずいだろ?」
「………使用人たちが困ると思う。」
「師匠について行きます。」
結局探索に向かう一同。
沢山の使用人の視線を浴びながら、気にせず歩く、ツバサ。
たまに、視線を返し威嚇して使用人を撒く、アヤメ。
小さくなって歩く、男3人。
「お!訓練場発見~」
「あら、活気が有るわね。」
「おお!トールじゃねあれ!」
「………怖いから引き返そう」
「血が騒ぐ。」
訓練場には沢山の魔物の兵士。
リザードマン、ワーウルフ、ケット・シー、珍しい魔物が沢山居る。
「見に行こ~!」
「良いわね。興味有るわ。」
「楽しそうだ!」
「………行くんだ」
「ふむ。楽しみだ。」
訓練場に向かう一同。
はてさて、どうなる事やら…
☆☆☆☆☆
訓練場に着くと、かなり殺気の籠もった目でワーウルフが近づいて来た。
「ガキの遊ぶ場所じゃねー!帰れ!」
「いきなり手荒いご挨拶ね。」
「俺は弱い癖に群作って、でかい顔した人間が嫌いなんだよ!」
「やめなさいなウル。みっともない。」
「うるせーよ!アミダ!」
止めに入ったのはラミア。
長い蛇の尾を引きずりながら、間に割って入る。
「魔王様の客人よ!例え人間でも、そんな態度許されないわ!」
「うるせー!甘いんだよ!〈レッドエリア〉にのこのこ、来やがって!痛い目合わせてやらなきゃ、気がすまねぇ!ガキが粋がるなよ!」
「ウル!頭冷やして!」
そう言って跳び蹴りを放ったのは、小さいワーキャット。
「いてーよ!ネル!何する!」
「良く見て!この2人強いよ!」
「ああ!?……魔王様より魔力が多いだと…本当に人間か?」
いきなり態度が変わる、ワーウルフのウルに呆れた、ラミアのアミダとワーキャットのネル。
「ごめんなさい。私はアミダ。魔物は人間には良い印象が無いの。」
「僕はネル!僕達魔物は、静かに暮らしたいのに、人間は共存が嫌なんだって、侵略するから皆警戒してるの!」
「そう。安心して、私達にその気は無いわ。」
「共存良いよね~何で嫌なのかな~?」
「多分、怖いからじゃね?」
「………ジン此処で言わない」
「馬鹿者が。」
ジンの言葉に、笑い始めた魔物達。
とりあえず、敵視はされなくなったが、威圧感は消えない。
じー
じー
睨み合いを始めた、ツバサとウル。
いきなりツバサが動いた。
「耳!尻尾!本物~?」
「うわ!来るな!」
ウルの耳と尻尾に向かって飛びかかるツバサ、ウルは全力で逃げる。
しかし、ツバサの方が圧倒的に素早い為に、直ぐに捕まった。
「わ~い!本物~」
「止めろ!いでで!尻尾引っ張るな!」
「おお!抜けない~」
「当たり前だ!生まれつき生えてんだ!離せー!」
キャッキャとはしゃぐ、ツバサに体力の限界を迎えるウル。
「あらあら、さすがに逃げきれないわよね。楽しそう。」
クスクス笑う、アヤメ。
「本当に変わった人間ね…」
ビックリして呆然と呟くアミダ。
「こんな人間ばかりなら良いね!」
嬉しそうな、ネル。
「ぜぇぜぇ…お前ら…助けろや…」
「解放されて良かったねウル。」
「初めてウルがくたばった!」
ツバサのおかげで、場に馴染んだ〈レジェンド〉一同。
「おい、そこの男3人!お前ら、恥ずかしくないか?もっと鍛えろや!」
「鍛えてるよ!ウル!」
「………僕魔法専門」
「ふむ。まだ鍛えが足りないな。」
ジン、ムウはウルと、組み手を始めた。
ラングはアミダから、精霊について聞かれ、教えている。
アヤメ、ツバサに挑む魔物達は後を絶たない。
「てや!」
「は!」
次々倒され、伸びていく魔物達。
既に皆半死半生で有る。
「まだまだ!もっと気張れや!」
「このやろ!」
「この!」
ウルは魔王軍の中でも強い部類に入る為、ジン、ムウは一回も攻撃が当たらない。 ウルはまだまだ余裕が有る。
「種族の…壁は…厚い!」
「流石師匠です…飛び抜けてます…」
大の字に伸びた、ジンとムウは改めて師匠達の強さを思い知った。
☆☆☆☆☆
訓練場からでた、〈レジェンド〉一同は、遅めの昼食を魔王から誘われて魔王専用の食堂に集まった。
「親睦は深められたみたいだね。」
「ええ。」
「楽しかった~」
「うう…」
「くっ…」
「………ジン、ムウ大丈夫?」
ジンとムウは、体中の痛みに悩まされている。
流石にきついらしく、ゆったりと食事をしている。
「聞いたよ!皆やられたんだって?ウルが床に突っ伏してたよ。」
「あはは、やりすぎました。」
「手加減したよ~」
あの後、ウルが挑んだが、一瞬で蹴りが着き、ウルは悔しさで沈没していた。
魔物は強い者に敬意を払う生き物らしく、2人には皆敬語になった。
「やっぱり強いね…あれで手加減か…」
魔王が遠い目になった。
「にしても、魔物の肉でも調理によって違うわね。」
「おいしい~」
「臭味ないな。いつつ…」
「………凄い」
「うまい。いたっ…」
「ジン、ムウ手が震えてるわ。大丈夫?治癒魔法使う?」
「「大丈夫です」」
「やせ我慢し過ぎ~」
「ふふふ。君達さえ良ければ、夏休みの間泊まって行くかい?」
「良いの?」
魔王からの意外な提案に食いつく一同。
「もちろん。君達のおかげで退屈しなくて良いしね。」
強くなるには一番良い環境なので、皆泊まって訓練に参加する事にした。
☆☆☆☆☆
「お腹いっぱい~眠い~」
「分かったわ。寝てて。私は皆の訓練を見に行くから。」
ツバサは部屋に戻り、アヤメは先に行ったジン、ラング、ムウの様子を見に行った。
「あら、もうくたばってるの?」
「死ぬ…」
「師匠…流石に辛いです。」
「………ツバサは?」
「寝ちゃったわ。」
「そうか。残念だ一撃くらい食らわせたかった!」
「ウル無理よ。」
バッサリ切り捨てられたウルは涙目になりながら、組み手の申し込みをする。
「頼む!」
「分かったわ。」
ウルはワーウルフの特権で有る、強靭な脚力で迫る。
アヤメ、交わしてカウンターを放つ。
ウル後ろに飛び、威力を殺す。
アヤメ足払いを仕掛ける。 ウル、バランスを崩した。
アヤメ、手刀をウルの首に落とす。
ウル前のめりに倒れたが、カポエラの様に足を回す。
アヤメ、足を掴み投げる。
ウル投げ飛ばされ、壁に激突して立ち上がるが、足元がふらつく。
アヤメ追撃、回し蹴りを食らわす。
ウル飛ばされ倒れた。
「まだまだね。」
結局、夜まで訓練したが誰も適わなかった…
簡単に夕食を済ませてこの日は終わった。
☆☆☆☆☆
2つの影が夜闇を切り抜け、2つの影は舞い歌う。
その言葉人の言葉にあらず。
魔物の言葉にあらず。
精霊の言葉にあらず。
「~~~~~♪」
「~~~~~♪」
2つの影に月光が降り注ぐ
双方、金の髪に金の瞳
片方の瞳は人の物であらず
片方の瞳は人の物である
「~~~~~♪」
「~~~~~♪」
片方の背には、金色の光を放つ羽が一対に純白の羽が一対、計四枚の羽が羽ばたく
片方には、耳の部分に二枚の羽が一対、背に片方三枚の羽が一対、計十枚もの羽が羽ばたく
「~~~~~♪」
「~~~~~♪」
片方の傍らには美しきドラゴンが
片方の傍らには雄々しきグリフォンが
「~~~~~♪」
「~~~~~♪」
誰もが見れば、神の如く美しき光景
誰もが聞けば、神の如く美しき歌声
しかし、此処は魔王城の遥か上空にて誰も見られず、誰も聞けず
2人の娘は密かに舞い歌う
2人の娘は笑い会い地上に密かに降り立った
ご感想お待ちしております。




