第96話 誰が何を見ているのか
ちゃんと見る。ちゃんと。
体育の授業中、僕はそれを実践していた。ちなみに今日はダンスの授業である。
「…………ふむ」
やっぱり僕の彼女は最高に可愛いね。
若干自信なさそうに踊ってる、その姿もそれはそれで可愛い。もう、世界一!
「目つきがやらしいわね」
僕の斜め後ろから秋山が言ってきた。
「失敬な! こんなにも愛に満ちた僕の視線がヤラシイだなんて……そんなわけあるかっ」
振り返りながら抗議の声を上げると、秋山の軽蔑の色を含んだ目が見えた。
「神に誓って下心はないと?」
「…………愛、って呼んでほしいな」
僕はスッと斜め上に視線を向けて言う。
「随分と広いわね。博愛も恋愛も性愛も、全部愛よ」
「そうだね。なら、やっぱり愛だよ」
「……がっつり下心あるじゃない!」
それは、ほら。
仕方ないじゃん。僕は冬野の彼氏なんだし? そう言うのはあってもおかしくなくない?
「それで、いつも以上に冬野さんを見てどうしたのかしら?」
「……いやね、周防くんにちゃんと見ろって言われたもんだから」
「絶対そう言う意味ではないと思うのだけど?」
だよね。
「……ちゃんと見るって言われても、どうすれば良いかが中々わからなくてさ」
冬野のことは見てきたつもりだったんだ。それこそ前世の時から。
「私には周防くんがなんでちゃんと見ろって言ったのかがわからないのよ。経緯を説明しなさい」
腕を組んで秋山が言う。
「それがね。例え話で、春木さんが他の人を好きなんじゃないかって思ったことあるか〜……って聞いたらさ」
僕が周防との会話の流れを説明すると秋山が「……なるほどね」と呟いた。今ので大体理解したらしい。
「平坂くん。あなた、ちゃんと見た方がいいわよ」
「…………ちゃんと?」
「そう」
秋山は僕をまっすぐに見つめ。
「誰が何を見てるか、とか」
そう言ってから、秋山はふっと鼻で笑う。
「どうしたの?」
その笑い方は自嘲しているように見える。
「……いや、何でもないわ。気にしないでちょうだい。ただちょっと、自分で言ってておかしいって思っただけよ」
秋山は答えてから「はぁ」と溜息を吐き出した。
「おーい、平坂! ダンス勝負しようぜ!」
少し遠くから周防の呼ぶ声がした。
「ほら、行ってきなさいよ。それと、ちゃんと見るって話だけれど……流石にそれ以上は自分で考えなさいよ?」
「ありがとね、秋山さん。周防くんにちょっと格の違い見せてくる!」
誰が何を見てるか……か。
それは冬野が何を見てるかを、ってことでいいんだろう。それをちゃんと見ろと。
もう少しで、わかりそうだ。




