第79話 魔王さんは癒やされる
前回までのあらすじ!
隙あらばイチャイチャイチャイチャ!
腹立つ!
オアシスから人類領域であるザルトラム王国方面へ向かい、最初に行き着く村は農村オルネだ。
豊かな土地と風土で野菜や小麦の産地として、その加工品は王都ザレスのみならず人類領域全土に出荷されているが、緩衝地帯からほど近いことから、先日の魔王軍大侵攻の際に大きな被害を出した村でもある。
俺も何度か復興の手伝いにはきているものの、正直なところ遅々として進んでいない。魔物から身を守るための防護柵をようやく建て終えたばかりだ。
なぜここまで遅れるかは言わずもがな。オルネからの度重なる要請に応じず、王都が騎士団を派遣してくれないからだ。
農村を軽視している。厳王ガイザスと、王都の貴族どもは。
ルランゼが眉間に皺を寄せた。
「ヒトを守るために国があるのではなく、国を守るためにヒトを配置しているの?」
「ああ。おかしいよなァ、人間は」
人間代表の俺が言うのもなんだけどさ。
魔族領域であるルーグリオン地方は、緩衝地帯の近くに前線都市ガルグを配置している。高く分厚い外壁に囲まれた都市には、それなりの規模の軍が駐屯できるだけの余力を持たせている。要するに防衛拠点だ。
逆にクク村のような農村は、侵攻ルートから外れた森の奥深くに隠していたり、あるいはルーグリオン地方の中央部に固まって配置され、防衛拠点となるいくつかの強固な都市郡によって守られている。
ところが、人類領域はすべてがその反対。
王都を守るために小さな村や町が犠牲となる。王を守るために民が配置されている。
むろん、人員の配備だけはされている。けれどそれは防衛のためではなく、侵略者の勢いを削ぐための捨て駒に過ぎない。
この農村オルネなど、まさにその例だ。
王都に住む中央集権主義の貴族どもがうるさいんだ。王都を守るために地方を切り捨てろってな。そりゃあ、大侵攻の際に王都まで攻め込まれるってもんだ。
本末転倒、阿呆が。王族貴族制の廃止だけは、フレイアを支持したくなるね。
「不思議だね、人間って。愚かだよ。……あ、ごめんね」
「いいさ。俺もそう思う。ヒトがいなきゃ国は成り立たねえのに、国を守るためにヒトを犠牲にしてんだからな。極一部の王族貴族には、民と盾の見分けもつかねえらしい。悪いのは目なのか頭なのか」
そして農村オルネは蹂躙された。
もしも偽魔王であるフレイアがただの悪党だったのであれば、いまここで復興に勤しんでいる民は誰一人として生き残ってはいなかっただろう。
皮肉なもんだ。この国の王であるガイザスなんかより、侵略者だったフレイアの方が遙かにまともなモラルを持ち合わせてやがったんだからな。案外、侵略されたままだった方が幸せになれたんじゃねえかなって思える。
俺とルランゼが魔物用の防壁に近づくと、俺に気づいたガキどもが騒ぎ出した。
「ライリーだ! みんな、変態勇者のライリーがきたぞ!」
「ほんとだ! どすけべのおじさんだ!」
「えっちなこと言うヒト!」
「いやらしいおいた~ん!」
う~ん。
ルランゼの視線が突き刺さるように痛え。
「あんな小さな子供に手とか他のナニかとか出してないよね?」
「出すかっ!! よく見ろ、半分は男の子でしょうよ! それに俺はおまえ一筋だよ!?」
ルランゼが頬を染めて後頭部を掻いた。
「うへへ……」
「そこは照れるんか~い」
ガキどもは五人に増殖すると、一斉にこっちへと向けて走り寄ってきた。
「ライリー!」
「おーう。また手伝いにきてやったぞ。ありがたく思えクソガキども」
「やったぁ! 遊ぼう!」
小さな女の子が俺の手を取って引っ張った。
「俺は復興の手伝いにきたっつってんでしょうが。おままごとはお子ちゃま同士でやるんだな。作業が終わったらちょっとくらいは遊んでやるから」
「あれ? 誰、このおねーちゃん?」
一人のガキがルランゼを指さすと、その他四人が彼女を見上げた。
俺は胸を張って誇らしげに言い放つ。
「聞いて驚け。俺の嫁の~……あ~……ルランだ。ルランだ?」
一般人の、それも子供が魔王の真名を知っているはずもないが、念のためだ。侵略者は偽魔王であることは人類領域でもすでに知れ渡っていることだが、まさか当時の本物の魔王がここにいるだなどと、さすがに知られるわけにはいかない。
俺の心配を余所に、ガキが顎をしゃくってムカつく顔で聞き返してきた。
「は? よめ? ライリーにいるわけねーだろ?」
「またまたぁ、僕らをかつごうとしてるんでしょ? これだからオトナは汚いんだよね」
「そんなこと言っちゃだめだよ。ライリーは疲れて寝ぼけてるだけなんだよ。だって顔が寝ぼけてるもん。いつもだけど」
すげえナチュラルに傷つけてくるな。
幼女が笑いながら俺にとどめを刺す。
「そりゃそうだよ。ライリーみたいなえっちおじさんに、こんな綺麗な女の人がお嫁さんにくるわけないじゃーん」
やめろ! 俺が一番わかってる! でも奇跡的にきてくれたんだ!
「そうよ。あんまり言っちゃライリーがかわいそうだから、この話題はもう終わり。こんなおじさんになるまでモテなかったヒトなんだよ。これからもモテるわけないもん。ね、ライリー。あたしはわかってるからね? だいじょーぶだよ~?」
「ハハハ、キミハ優シイネー」
息できなくて死にそう。泣きたいね。俺、オルネのガキどもの中でどういう立ち位置になってるの。
ルランゼがそっと俺の手を握って、にこやかな視線を子供たちに向けた。
「ライリーのお嫁さんになったルランですよー。よろしくね」
「嘘!? ほんとに!? え、えっちなことされてない!?」
最初の質問がそれかぁ~。
「えっへっへ、毎日すっごいされてるよ。朝でも昼でも夜でも、ベッドでも外でも湖の上でも愛してくれるの」
ひぇ……ル、ルランゼ……。
そんなん素直に応えんなよ……。相手は子供だぞ……。
男児がルランゼを見上げて頬を赤らめた。
「ひゃ~。どこでもお尻とか触られるんだ。スカート捲りとかもされてそう」
ま、まあ、言ってもそんな感じだよな。子供だから。うん、それでいい。
俺は変態おじさんでいいんだ。いや、やっぱよかねーわ。
「あはは、もっとすごいことだよ」
ルランゼェェ~~~!?
「よくわかんないけど、こんなののどこがいいの!?」
指さすな! こんなのとか余計なお世話だ! おめえのツラおぼえたからな、クソガキ! おまえもう鬼ごっこのとき集中狙いしてずっと鬼にしてやるからな!
ルランゼがクソガキじゃなく、俺を見上げて目を細める。
「あはは。そんなの全部に決まってるよ。顔も声も肉体も心も、強さも涙もろさも、えっちなところもちゃんと好きだよ」
最高だ。おまえは最高の嫁だ。さっきとは別の意味で泣きそうだ。
いますぐ掻き抱いてキスしたいけど、たぶんガキに見られてると恥ずかしがってぶん殴られるから我慢だ。
しかしガキは食い下がる。
「でも不真面目すぎて勇者をクビにされた、ただの無職のオヤジだよ?」
もうやめて! 正と負の感情が交互にくるからぐちゃぐちゃになっちゃう!
俺の忍耐が限界を迎えてクソガキの頭部を掌でつかもうとした瞬間、大人の男性の声が響いた。
「あっ、ライリーさん!? またきてくださったんですかっ!?」
危うく頭部を掴み上げようとしていた指をゆるめ、俺は慌てて頭を撫でるという行為に移行する。
視線を向けると、青年が額の汗をボロ布で拭いながらこちらに向かってきていた。
「ああ。また手伝いにきたぜ」
「ありがとうございます! お忙しいでしょうに……」
「いやあ、勇者位を剥奪にされてからはさほどでもねえんだ」
「あなたはいまでも勇者ですよ。私たちの間ではかけがえのない勇者だ。ミリアス様もすごい方だったが、結局、王族貴族ではなく民に寄り添ってくださったのはライリーさんだけだった」
そいつにはちょいと異論があるが、いまここでミリアスの弁護をすれば、かえってやつの立場が危うくしてしまう。
青年はルランゼに視線を向けると、頬を染めて軽い会釈をした。
「こちらの方は……ライリーさんの娘さんですか?」
おい! どいつもこいつも!
「俺ァ未婚だよ! あ、違った。このほど結婚したんだ、こいつと。妻のルランだ」
「ルランです。今日はわたしもお手伝いできることがあればと思いまして」
「それは助かります。男も女も人手が足りなくて足りなくて。向こうで村の女衆が炊き出しを作っているんで、そのお手伝いをしていただけると」
ルランゼが袖まくりをして、俺に視線を向けた。
どうやらやる気らしい。だが、俺はちょいと不安だ。
「……大丈夫か?」
「へっ? 何が?」
わかってねえなら、心的外傷のことは平気そうだ。同じ村内で距離が近いからか。
「ほらほら、がんばろ、ライリー」
いや、違うな。いまわかった。ようやくだ。
オアシスで片時も俺から離れなくなってしまったルランゼが、あの戦いの後、一時的にでも俺と離れることができた理由だ。
同じ目的を持って動いていたからだ。
俺はカテドラール領の浮浪児たちを助けたいと願った。ルランゼも同じ事を考えた。だから彼女は、俺のいない二ヶ月間の生活に耐えられた。
距離は関係ない。同じ方向を見ている限り、進み続ければ必ず途は交わる。ルランゼにとっては、それが重要だったんだ。
「どしたの?」
「いや、んじゃルランはそっちだな」
「うん。お料理期待しててね! わたしは力仕事でもよかったんだけどね!」
ルランゼは魔人種だ。そこらの男どころか、単純な腕っ節なら俺よりもあるだろう。だが、魔人であることをわざわざ公言するわけにもいかない。
青年がガキどもに言った。
「おまえたち、ルランさんを炊き出しの場所まで案内してあげてくれるか?」
「わかったー。いこ、ルラン!」
「うん、よろしくねっ」
ルランゼの両手をそれぞれガキどもがつかんで、引っ張っていった。
「ねえねえ、みんなお名前はなんて言うの?」
「僕は――」
俺は楽しげな彼女の表情を見て、胸をなで下ろす。
よかった。笑ってる。
オアシスじゃ俺と二人きりの時間ばかりだが、他の誰かとかかわることで少しずつ心の傷が癒えていけばいい。
そう思った。
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